霧が濃く立ち込める
桃地再不斬とはたけカカシが激突していた。
「水遁・水牢の術!」
再不斬の片腕が水球へと沈み込み、カカシの全身は巨大な水球の中へ閉じ込められる。
「先生!!」
ナルト、サスケ、サクラの叫びが橋に響く。
再不斬は口元を歪めた。
「終わりだ。俺の水牢からは誰も逃げられねぇ。」
水球の中でカカシは冷静だった。
(さて……困ったな。)
普通なら水牢は内側から破れない。術者が手を離さない限り脱出不能。だからこそ再不斬は分身を使って第七班を始末しようとしていた。
しかし。
カカシは再不斬をじっと見つめると、目を細めた。
(……水だな。)
再不斬は妙な違和感を覚えた。
「何を笑ってやがる。」
カカシは答えない。
代わりに、水球の中でゆっくりと息を吐き――。
「ゴクッ。」
再不斬の眉が動く。
「……あ?」
カカシは水を一口飲んだ。
「ゴク……ゴク……。」
「お、おい。」
さらに飲む。
「ゴクゴクゴクゴク。」
再不斬の額から汗が流れ始める。
カカシは止まらない。
まるで喉が砂漠だったかのように、猛烈な勢いで水を飲み始めた。
水球が、ほんのわずかに小さくなる。
「んな馬鹿な!」
再不斬が目を見開く。
「水牢を……飲んでるだと!?」
橋の向こうではナルトが口をあんぐり開けていた。
「えぇぇぇぇぇ!?」
サクラも思わず叫ぶ。
「そんな脱出方法あるの!?」
サスケだけが冷静を装っていたが、頬が引きつっている。
(いや、あるわけないだろ……。)
しかし現実は残酷だった。
カカシは飲む。
飲む。
ひたすら飲む。
「ゴクゴクゴクゴクゴクゴク!」
水球は見る見る縮んでいく。
「何なんだお前は!!」
再不斬が絶叫した。
再不斬は焦る。
術は維持しているのに、水が減っていく。
しかも減った水は全部カカシの胃袋に収まっている。
ついに水球は人の頭ほどの大きさになる。
カカシは最後の一滴まで見逃さなかった。
「……ゴクン。」
静寂。
橋の上から水牢が完全に消えた。
カカシはゆっくり口元をぬぐう。
「ごちそうさまでした。」
その一言に、全員が固まった。
再不斬の右手は空をつかんだまま震えている。
「俺の……水牢が……。」
「……化け物か。」
再不斬は息を切らす。
「もう意味が分からない……。」
一方、遠くで様子を見ていた白も静かにつぶやいた。
「再不斬さん……相手が悪すぎましたね。」
再不斬は刀を構え直しながら苦々しく笑う。
「忍の世界には、理解できねぇ奴がいるとは聞いていたが……。」
目の前に立つ銀髪の上忍は、腹を軽くさすっていた。
「少し飲みすぎたかな。」
その瞬間、カカシの腹から「ちゃぽん」と水の音が鳴る。
再不斬は天を仰いだ。
「もう帰りてぇ……。」
霧の忍刀七人衆と恐れられた男が、その日初めて心から戦意を失ったという。