俺の朝は早い。日課のウォーキングをこなし、ボンヤーリ公園で手持ちポケモンの体をウォッシュ。それからラシーヌ工務店に顔を見せる。
「おはようございます、タラゴンさん」
「おおユズくん、おはよう。カナリィならまだ寝とるぞ」
「はぁ、相変わらずというか……」
「すまんな、起こしてやってくれ」
カナリィの部屋に入ると、さっそくヤツのだらしない姿が見えた。布団を剥がし、体は思いっきりねじれている。
「おーいカナリィ、起きろー」
「うにゃあ……」
「もう8時だぞー」
「まだはちじ……」
「ベーコンエッグ作ってやるから」
「起きる!!」
「おう、おはよう」
相変わらず食い意地張ってんなこいつは。まあベーコンエッグは確かにしょっぱくてカナリィの好物だけど。
「顔洗ってくる〜」
「髪も整えとけ、ボサボサだぞ」
「わかってる〜」
シビシラス柄のパジャマで、シビシラスのぬいを持ちながら寝起きのカナリィは洗面所に向かっていく。相変わらずシビルドン系列大好きなんだよな。まぁ俺も相棒のラグラージ関連のグッズとかあったらつい買っちゃうから偉そうなことは言えないんだけど。……おっと、ベーコンエッグ作ってやらないと。
「おっは〜、バッチリキメたカナリィさまのお通りだぞ〜」
「おうおはよう、ベーコンエッグできてるぞ」
「やった!いただきま〜す!」
「ぐらぁ!」
「ラグちゃん、お水ありがとね〜」
俺の相棒、ラグラージもミズゴロウの頃からカナリィと付き合っている。カナリィのシビルドンとは親友兼ライバルのような間柄で、お互いいい関係を築いている。
「ん〜、ユズのごはんはやっぱり美味しいね!ぼく専属の料理人になっちゃえよ!」
「断る」
「ちぇっ。まあいいや、ユズがぼくに負け続きな限り結局ぼく専属の召使いみたいなもんだけどねw」
「ハハッ、こいつぅ(#^ω^)」
しかし悲しいかな、事実なので言い返せないのだ。くっそ、俺にもっと手持ちのみんなを活かせる実力があれば……
「それにしても…まだZAロワイヤルってのに参加してるのか?夜中に外に出るなんてタラゴンさんが心配するだろ」
「ぼくは大丈夫だよ、強いし。それにじーちゃんもZAロワイヤル参加してるしね」
「そうなのか……」
「ていうかユズも参加すればいーじゃん。多少は勝ち上がれるかもよ?」
「俺はいいよ、あんな胡散臭いの」
ZAロワイヤル…ミアレで夜な夜な開催されているバトル大会で、最強のAランクになったトレーナーは叶えられる範囲で望みをなんでも叶えてもらえる…とは言うけど、はっきり言って胡散臭すぎる。
「あっそ。まあいいや、それより今日はASMR配信するからクロワッサン買ってきて」
「は?」
「3個ね」
「今日俺予定あるっつったよな?」
「はい5000円。おつりは好きにしていいから」
「承知いたしました」
こうして俺はカフェ・おとこまえにクロワッサンを買いに行ったのでした。いやはや、金には逆らえないね。
「……なんか揉めてる?」
何やら騒ぎが起きている。あの服やらカナリィぬいは……DG4のヤツか。
「おい!そのクロワッサンは俺が買うつもりだったんだ、よこせ!」
「なんですか、実際に買ったのはボクでしょう」
「うるさい、俺がカナリィちゃんと一緒にこのクロワッサンを食べるんだ!!ぶっ飛ばせ、シビビール!」
「うわっ……」
「ラグラージ、マッドショット!!」
「な、なんだ!?」
「おい、お前ら。いくらファンと言ってもやっていいことと悪いことがあるだろ。お前みたいなヤツがいるとカナリィさん自体の評価が下がる」
「ひ、ひぃ……!」
害悪ファンは腰を抜かして情けなく去っていった。全く、カナリィも言ってたけど過激なファンがいるもんだな。
「あの…ありがとうございました。お兄さんもカナリィさんのファンなんですか?」
「まぁ、ファンっていうか……応援はしてる、かな?」
「そうでしたか……確かに、ここのクロワッサンを買いに来るということはそういうことですよね」
「えっ?」
「昨夜のカナリィさんのゲリラ配信で、今日ここのカリカリクロワッサンのASMRをやると宣言してましたから……」
そうだったのかよ。どうりで並んでるのDG4の人ばっかりなわけだ。あいつ混むの分かってて俺に買えっつったな。
「お兄さん“も”、ってことはキミもDG4?」
「いえ、ボクは個人で応援しています。会員番号が一桁でもないのに加入したところでただのモブですから」
「そ、そうなんだ……」
「お客様、ご注文のクロワッサン3つです」
「あ、ありがとうございます」
「!!」
な、なんだ?いきなり男の子が近づいてきたぞ??
「ど、どうかした?」
「カバンにつけているそのカナリィぬい……だいぶ前に発売された、数量限定のセピアカナリィぬいですよね。しかも発売されたのはカナリィさんがまだストリーマーとして有名になる前……あなた、やっぱり相当のカナリィさんファンですね?」
「あぁ、えーっと……」
まいったな。これはカナリィがだいぶ前に、
「ユズ、これあげる」
「カナリィぬい?いらん」
「ありがたくつけろーー!!いい?それはユズがぼくに負けっぱの証!ユズがぼくに勝つ時が来たら外していいから!それまでは絶対、ぜーったい付けててよ!!」
……という流れで無理やり押し付けてきたヤツなんだけど、まさかそんなレアなやつだったとは。
「はは……まぁ詳しいっちゃ詳しいかな」
「そうなんですね……!!ボクもカナリィさんのファンですが、お兄さんのような熱心で優しいカナリィさんファンと出会えて光栄です!!」
「あはは……」
「ボクはピュールです、お兄さんは?」
「ああ、俺はユズって言うんだ」
「えっ?」
「ん?」
「……ユズさんですか、分かりました。また会いましょう」
なんだか変な反応された気がする。そういえばカナリィは配信中に俺のことちゃん付けで呼ぶな。……もしかしてあいつのせい?
ユズ
カナリィファンではないと言い張っている。
ピュール
カナリィさんファン。
カナリィ
しれっとユズに激レア品を付けさせていた。
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