バルコニーに吹き荒れる赤と紫の火花。激しい剣戟の中で、メイス・ウィンドゥは冷徹に戦況を分析していた。
目の前の狂咲する少女――ドラヴェナの『ジュヨー』は、底知れぬフォースに裏打ちされ、付け入る隙がない。このままバルコニーという狭い足場で戦い続ければ、背後の分離主義者達の防衛網を切り崩す前に、こちらの形勢が不利になる。
ウィンドゥは一瞬の隙を突き、紫の光刃を大きく払うと、そのまま後方へと跳躍。バルコニーから遙か下の闘技場へと鮮やかに降り立っていった。
「あら、逃げますの!? 実に無様ですわね、ツルピカおじ様!」
ドラヴェナが勝ち誇った声をあげるのと同時に、闘技場の各ゲートから地響きを立てて、無数のB1、B2バトル・ドロイドの大軍が入場を開始した。
闘技場を埋め尽くす鉄の波。200人のジェダイ達は背中を合わせ、必死に応戦する。が、圧倒的な「数の暴力」を前に次々と光刃を消され、バタバタと砂の上に倒れていく。
その凄惨な乱戦の最中だった。アリーナへ降りたウィンドゥが、生き残っていた猛獣リークの執拗な突進を受け、体勢を崩した拍子にライトセーバーを手放してしまった。光刃を失い、砂にまみれるジェダイの最高幹部。バルコニーからそれを見ていたジャンゴ・フェットの目が、ギラリと光った。
「――仕留めるか」
ジェダイの首を、あるいはその象徴たる武器を手に入れんと、ジャンゴは背中のジェットパックを爆音とともに点火。一気にアリーナへと急降下していった。しかし銀河一の賞金稼ぎの計算を上回る速さで、ウィンドゥはフォースを使い、手放したライトセーバーを瞬時に手元へと呼び戻した。
更に最悪なことに、興奮したリークが横からジャンゴへと激突。その牙がジャンゴの背中を強打し、ジェットパックが火花を散らして完全に故障してしまった。推進力を失い、砂地へと転がるジャンゴ。ライトセーバーを構えたウィンドゥの冷徹な視線が、確実に彼へと定められる。
(しまっ――)
ジャンゴが死を覚悟した、その刹那。
「――私の猟犬を、勝手に殺そうとするんじゃありませんよ!」
バルコニーから放たれた、ドラヴェナの強大なフォースの奔流が、ジャンゴの身体を包み込んだ。彼女は目に見えぬ力でジャンゴの巨体を強引に持ち上げると、ウィンドゥの刃が届くより早く、凄まじい速度で特等席へと引き戻したのだ。
バルコニーの床にドサリと不時着し、危機を脱したジャンゴ。彼は荒い息を吐きながらヘルメットを脱いだ。その顔には冷や汗が浮かんでいる。
「……ふぅ。命拾いした。ありがとよ、お嬢ちゃん。借りができちまったな」
「大したことありませんわ! 貴方にはまだ、デス・ウォッチとの橋渡し役という重大な仕事が残っていますの。こんな場所で犬死されては困りますのよ!」
ドラヴェナがツンと顔を背けた時、これまで父親の背後に隠れて完全に気配を消していた少年ボバ・フェットが、震える声を絞り出すようにして一歩前に踏み出した。
「……ありがとう、お姉ちゃん。父さんを助けてくれて」
人との関わり合いに慣れていない少年なりの、必死の感謝。だがドラヴェナは相変わらず傲慢に、鼻で笑ってみせた。
「フン、だから大したことありませんと言っているでしょう。そんなに私に感謝したいなら、もっと面白い絶叫でも聞かせてちょうだいな」
やがて、闘技場の中央で生き残ったジェダイは、わずか20人足らずにまで数を減らしていた。完全に包囲され、絶体絶命。それを見下ろすドゥークー伯爵は勝利を確信し、ドロイド達に一時武器を下げるよう命令した。そしてアリーナの中心に立つウィンドゥへ向けて、威厳に満ちた声を響かせる。
「マスター・ウィンドゥ! 降伏したまえ! これ以上、無益な血を流す必要はない!」
だが紫の刃を構えたウィンドゥの眼眸に、屈服の二文字はなかった。
「断る! 我々は人質になる気はない、伯爵!」
交渉は決裂した。ドゥークーが処刑の再開を命じようとした、まさにその時――。地鳴りのような重低音が、ジオノーシスの赤茶けた天空から響き渡った。
見上げれば、雲を割って急速に降下してくる5隻の巨大なガンシップ。それらは凄まじい速度でアリーナの上空へ展開すると、搭載されたレーザー砲塔を一斉に掃射。凄まじい光線と爆鳴が走り、包囲していたバトル・ドロイド達を一瞬にして木っ端微塵に破壊していった。
凄まじい砂煙を上げてアリーナへ着陸するガンシップ。そのハッチから飛び出してきたのは、一糸乱れぬ動きでブラスターを構える兵士達だった。彼らが身に纏う白い装甲服――それは、今隣にいるジャンゴ・フェットのマンダロア・アーマーに酷似していた。ドラヴェナは、想定外の事態に琥珀色の瞳を見開いた。
「……な、なんですの、あれは!? 一体どこからあんな軍隊が……!」
「――あれが、俺のクローンさ」
ジャンゴが、感情の読めない声でポツリと呟いた。ドラヴェナの脳内は、未だかつてない混乱に叩き落とされていた。
カミーノでクローンを製造しているという話は聞いていた。だが何故ジャンゴの遺伝子から作られた軍隊が、独立星系連合ではなく、ジェダイを助けるためにカミーノから現れたのか。しかしジャンゴはそれ以上の説明を拒むように、ヘルメットを被り直した。
「じゃあな、ドゥークー。お前との仕事はこれまでだ。……安心しな、秘密は守る。俺は余計な政治の争い事に巻き込まれたくないんでな。ボバ、行くぞ」
「あぁ。今までご苦労だったな、ジャンゴ。息災でな」
ドゥークーは裏切られたとも怒っているとも取れない、静かな声で傭兵の離脱を認めた。
「ちょっと待ちやがれですわ、ジャンゴ!」
混乱するドラヴェナが声を荒らげる。ジャンゴは去り際に彼女の方に向き直り、口を開いた。
「嬢ちゃんとの取引は生きてるぜ。さっき命を救ってもらった恩もある。……デス・ウォッチの件は、また後で連絡する。死ぬんじゃねえぞ」
それだけを言い残し、ジャンゴはボバを連れて、混乱するバルコニーから煙のように去っていった。だが、ドラヴェナはジャンゴを追いかける気にはなれなかった。
今、彼女の天才的な脳細胞を支配していたのは、凄まじい速度でドロイド軍を蹂躙していく、あの白い装甲の兵士達――クローン・トルーパーの脅威だった。
(もし……もしも、あの兵士達が、数十万、数百万規模の大軍であったなら……?)
ジェダイの救出は、単なる前哨戦に過ぎない。彼らはこのジオノーシス全土へ向けて、すでに大規模な攻勢をかけてきているのだ。これが意味するのは、ただ一つ。独立星系連合と、銀河共和国の――本物の『戦争』の始まり。
しかし、共和国側は完全なる奇襲を仕掛けてきた。今やバルコニーの分離主義者達は悲鳴を上げて逃げ惑い、完全に後手に回っている。
加えて、あの空中から現れたガンシップの圧倒的な火力と機動性。ドラヴェナの冷徹な計算が、最悪の答えを弾き出す。あの戦闘艇が数十隻、数百隻と戦場に投入されれば、地上にB1やB2といった鈍重なドロイドを何十万体並べたところで、ただの格好の的に過ぎない。
(このジオノーシスの戦い……負けますわ)
どれほどフォースが強かろうと、この大軍勢の激突という大津波の前では、個人の力など無力に近い。ドラヴェナの顔からいつもの残忍な笑みが消え、冷徹な戦士の表情へと変わる。彼女は隣のドゥークーへ視線を向けた。
「お義父様、ここはもう保ちませんわ。私は一足先に撤退させていただきます」
「あぁ、賢明な判断だ。私もすぐにここを離れるとしよう」
ドゥークーの言葉を最後まで聞くことなく、ドラヴェナはドレスの裾を翻し、弾かれたように走り出した。目指すは、彼女の忠実な猟犬――メイリスが待つ格納庫。銀河中を巻き込む地獄の業火が、今まさにジオノーシスの砂漠で燃え上がろうとしていた。
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