STARWARS――銀河の悪意を纏う薔薇   作:鉅鹿

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本作におけるドゥークー伯爵は、ドラヴェナの才能に大きな期待を寄せ、シディアスへの反抗の意志を明確にしていきます。
史実でも「いつかはシディアスを倒して頂点に立つ」という野心を秘めていた彼ですが。本作ではドラヴェナという存在がトリガーとなり、その野心がより強く、より早く表舞台に現れることになります。
二人の関係が歴史をどう変えていくのか、楽しんでいただければ幸いです!



9話 欺瞞のチェスボード

大気が爆音で震え、赤茶けた砂塵が視界を遮る中。ドラヴェナはフリットノット・スピーダー・バイクのアクセルを限界まで引き絞っていた。ドレスの裾が激しい風に引き裂かれそうになろうとも、そんなことは意に介さない。

 

彼女の冷徹な計算は、一刻も早いジオノーシスからの脱出を命じていた。頭上を不気味な咆哮と共に通り過ぎていく共和国のガンシップを見るたび、胸を焦がすのはこれまでにない焦燥感と、想定外の奇襲に対する激しい苛立ちだった。

 

「どいつもこいつも、私の邪魔ばかりして……!」

 

ドラヴェナが自身のシーシピード級輸送シャトルが格納された、岩山をくり抜いた秘密格納庫へと近づいたその時――彼女の目に異様な光景が飛び込んできた。

 

格納庫の入り口付近の地面に、2隻の共和国ガンシップが無惨に煙を吹き上げながら激突し、大破していたのだ。周囲には装甲がひしゃげた機体の残骸が散らばり、コックピットや兵員輸送スペースの付近には、先ほど闘技場で見かけたあの白い装甲服の兵士――クローン・トルーパー達の死体がいくつも転がっている。

 

その地獄絵図の中央で微動だにせず佇んでいたのは、鈍い銀光を放つ漆黒と真紅の機体。彼女の忠実な猟犬、メイリスであった。

 

メイリスは地面に転がる兵士の死体を冷徹に眺めていた。そしてスピーダー・バイクの接近音を察知すると、即座に頭部のセンサーを明滅させ、ドラヴェナに向けて完璧な一礼を捧げた。スピーダーを急停止させ、ステップから飛び降りたドラヴェナは、息を荒らげながら尋ねた。

 

「メイリス! これは一体何の騒ぎですの!? 誰がここを襲撃し、そして誰がこれらを片付けましたの!?」

 

「お戻りをお待ちしておりました、ドラヴェナ様」

 

メイリスの滑らかな、しかしどこか誇らしげな電子音声が響く。

 

「私が格納庫で待機していたところ、こちらのシャトルを発見した共和国のガンシップ2隻が襲撃を仕掛けてきました。主の玩具を傷つけさせるわけにはいきません。ですので、即座に迎撃行動に移行しました」

 

メイリスの報告によれば、彼女は両肩の巨大なジェットパックを点火して垂直に飛行。激しい対空砲火をベスカー装甲で弾きながら、1機目のガンシップのコックピットの風防へと直接張り付いたという。そして、驚愕するパイロットを四重レーザー砲で至近距離から射殺。操縦士を失ったガンシップは制御を失って岩壁に激突し、墜落した。

 

「2機目も全く同様の戦術で撃墜に成功。墜落の衝撃から生き残ったクローン兵たちが数名、ブラスターで反撃を試みてまいりましたが――全て私が射殺し、機能を停止させました。残骸の処理が間に合わず、お見苦しいところをお見せしました」

 

「――あはっ! あははははは!」

 

話を聞き終えたドラヴェナは、張り詰めていた緊張を一気に吹き飛ばすように、高らかに大爆笑した。その瞳には、かつてないほどの愉悦と愛おしさが満ちていた。

 

「素晴らしいわ、メイリス!誰もがうろたえる奇襲の中で、私の船を守るばかりか、あの忌々しい空飛ぶ戦闘艇を2機も1人で撃墜するなんて! やはり……私の目に狂いはありませんでしたわ!」

 

「勿体ないお言葉です、ドラヴェナ様。すべては貴女様のために」

 

「嬉しいことを言ってくれますわね!さて、お喋りはここまでですわ!あの羽虫共がこれ以上群がってくる前に、ここを脱出しますわよ!」

 

2人は急いで格納庫の奥へと走り、待機していたOOMパイロット・ドロイドが駆るシーシピード級輸送シャトルへと乗り込んだ。ハッチが閉まり、激しいエンジン音が鳴り響くと、シャトルはジオノーシスの重力を振り切るようにして一気に大空へと舞い上がった。

 

上昇していくシャトルの窓から、ドラヴェナは眼下の光景を冷ややかに見下ろした。ジオノーシスの広大な赤茶けた大地では、無数の共和国ガンシップや巨大な歩行兵器(AT-TE)が、蟻のようにひしめく独立星系連合のB1、B2ドロイド軍を文字通り“粉砕”していく様子がリアルタイムで展開されていた。空を支配した共和国の圧倒的な火力の前では、ドゥークーが誇っていたドロイドの大軍も、ただの動く標的でしかない。

 

(やはり……制空権を取られたことが、今回の完全な敗因。そして、あの白い兵士達の連携力……)

 

ドラヴェナは窓硝子を爪でチリリと引っ掻き、冷徹にその光景を脳裏に焼き付けた。

 

(だが、次はこうはいきませんわ。メイリス、お前の量産型を必ず空へ解き放ち、今度は私があの白い羊共を上空から嬲り殺しにして差し上げますわ……!)

 

数日後。激戦のジオノーシスを命からがら脱出し、本拠地である惑星セレノーの壮麗な城へと帰還したドラヴェナは、奥の密室へと呼び出されていた。そこにいたのは、同じく傷を負うことなく撤退に成功した義父、ドゥークー伯爵であった。

 

だがドゥークーの表情は、いつになく暗く、沈痛な影を落としていた。彼はマントを翻し、窓の外の夜景を見つめたまま、静かに口を開いた。

 

「ドラヴェナ……お前に、この戦争の『真実』を話しておかねばなるまい」

 

「真実、ですって? 何を今更。共和国が隠し持っていた軍隊に、私達が無様に奇襲された、それ以外の事実がありますの?」

 

ソファに不遜な態度で深々と腰掛けたドラヴェナに、ドゥークーは静かに首を振った。

 

「違うのだ。あの戦争、あのクローン軍の出現……その全てが、我が師であるダース・シディアスの仕組んだ、壮大なマッチポンプなのだよ」

 

「……は?」

 

ドラヴェナの眉が不快そうに跳ね上がった。ドゥークーの口から語られたのは、銀河の根底を揺るがす恐るべき欺瞞の計画だった。

 

ダース・シディアスは、銀河共和国の最高権力者の座に就きながら、裏では独立星系連合を操っている。今回のジオノーシスの戦いも、両陣営の大規模な軍隊を衝突させ、銀河を戦火に包むための演出に過ぎないというのだ。

 

「シディアス卿にとっては独立星系連合も、この私やお前さえも。共和国を絶対的な独裁国家へと変貌させるための、ただの『使い捨ての捨て駒』に過ぎんのだよ」

 

ドゥークーは振り返り、その鋭い眼光を養女へと向けた。

 

「私は、ただの捨て駒で終わるつもりはない。シディアスを打倒し、真の秩序をこの銀河に打ち立てる。そのために……ドラヴェナ。お前の強大なフォースと、その狂気の才能を、私に完全なる武器として貸してくれ」

 

静まり返る密室。ドラヴェナはしばらくの間、呆然とドゥークーを見つめていた。その天才的な頭脳が、あまりにも巨大で、あまりにも悪趣味なシディアスの計画を理解していく。

 

(私が……この私が、見知らぬハゲタカのジジイの『捨て駒』ですって……?)

 

激しい困惑の後から湧き上がってきたのは、彼女の全魂を焦がすような、狂気的な“怒り”であった。

 

他者から全てを奪い、見下し、踏みにじることこそが至高の愉悦であるドラヴェナ。彼女にとって、自分自身が誰かの手のひらの上で踊らされ、利用され、最後には捨てられる“弱者”の役に配役されているという事実。

 

それは何よりも我慢がならない、最大の屈辱であった。ドラヴェナの唇が怒りと、それを上回る残虐な歓喜で歪んでいく。

 

「――いいでしょう、お義父様。そのお話、乗って差し上げますわ」

 

ドラヴェナはゆっくりと立ち上がり、ドレスを揺らしてドゥークーの前に進み出た。

 

「私をここまで何不自由なく育て、最高級の玩具まで用意してくださったお義父様には、これでも相応の恩義を感じておりますの。……何より」

 

彼女の琥珀色の瞳が、ドス黒いダークサイドの波動で爛々と輝き出す。

 

「私達を捨て駒扱いし、盤外から銀河を弄ぶダース・シディアス……虫唾が走りますわ。奪って良いのは私だけ。他人の命をチェスの駒のように弄んで良いのも、この私だけですわ!」

 

ドラヴェナは腰の2本のライトセーバーの柄を強く握り締め、暗黒の底から響くような声で宣言した。

 

「お義父様!この戦争、絶対に私達が勝利しますわよ!そして、そのシディアスとかいう最高に偉そうなジジイを引きずり下ろし、私がじわじわと肉を削ぎ落として――最後にその首を切り落として差し上げますわ! アハハハハハ!」

 

狂咲する悪魔の令嬢の絶叫が、セレノーの密室に響き渡る。ダース・シディアスという銀河最大の巨悪に対し、大義も正義もなく、ただ『自分の我が儘を邪魔された』という純粋な悪意だけで牙を剥く怪物。それが今、ここに完全なる宣戦布告を果たした。

 

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