酒にて酔いし、恋心   作:残夏

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七話

「お兄ちゃん、郡上先輩行って来ます!!」

 

「行ってきます、皆にお土産買って来ますね!」

 

「私達の事は気にしなくていいから楽しんできなさい」

 

「ありがと、二人共気をつけて行ってらっしゃい〜」

 

『はーい!』

 

ゴールデンウィークも終盤になり何時もの平日を取り戻しつつある朝、ぼたんと寮長が二人だけで温泉旅行に出発するのをかなでと二人で見送る。

 

「なに千秋君?」

 

寮長絡みなのでかなでの顔色を伺うが何時もの様に取り乱す様子がなくひと安心していると、こちらの視線に気がついたのか彼女もこちらに顔を向け目が合う。

 

「好きです、かなで先輩の事が」

 

かなでを好きになってからずっと心で大きく膨れ上がったこの感情を抑えきれず、真っ直ぐ自分の言葉で伝える。

 

「ごめん…」

 

一瞬の静寂の後、その言葉が聞こえた瞬間世界が歪み涙が溢れ出そうになる。

 

「そうですか…アハハすいません…変な事言って…忘れてください…」

 

どんな結果でも受け入れると覚悟を決めていたが、いざ失恋を経験すると想像以上のダメージだ。

 

「あぁ…ごめん違うの!」

 

「え?」

 

「まだいぶきの事…中途半端なままになっちゃってるからちゃんと割り切ってから貴方の気持ちに答えたい…だから少しだけ待っててくれる?」

 

顔を赤く染め、恥ずかしがりながら自分のために言葉を紡いでくれる。

先程まで堪えていた涙が真逆の感情により目から溢れ出す。

 

「待ちます!ずっと…ずっと待ってます!」

 

「もう…そんなに待たせないわよ…」

 

 

 

 

 

「本当に来ちゃった…温泉地…」

 

海風になびく髪を手で抑え、砂浜に押し寄せては引いていく波を見つめる。

 

「寮長〜見てください!!海ですよ!海!!アハハ、眩しい」

 

「見たらわかるよ…本当眩しい…」

 

波打ち際ではしゃぐぼたんに目を移すと、海面から反射された光により照らされている彼女がより輝いてみえる。

 

「貸切温泉の予約時間まで時間があるなぁ」

 

「なら海鮮食べましょう!少し遅めの昼食と言う事で!」

 

「観光列車の中でずっと伊勢海老食べたいって言ってたもんね!」

 

ぼたんの海鮮と伊勢海老欲を満たす為に歩いて数分の衝動に向かったのだが、店内は満席状態で空くまで待つとなると貸切温泉の時間を過ぎてしまう恐れがある。

 

「うわ…凄い混んでる…」

 

「ほ…本当ですね…」

 

「いらっしゃいませ…すいません今大変込み合っていまして…」

 

入店してから数秘後店員が物凄く申し訳なさそうな顔で接客対応しに来てくれたのだが、待つか別の店を探すか迷ってしまう。

 

「すいません…別の…お店に」

 

「あれ?…やっぱりぼたんちゃんじゃん!」

 

ぼたんが断ろうとした時、店の端の席に座る黒髪の女性がこちらに向かい手を大きく振ってくる人物が目に入る。

 

「え?…あッ!!」

 

気づけばぼたんの知り合いの女性と相席する事になり、料理が来るまで会話を楽しむ事になった。

 

「あの…本当に相席しても良かったんですか?」

 

「大丈夫だよ、気にしないで!。えっと…ぼたんちゃんこのお嬢さんは?」

 

「砺波いぶきさん、寮長さんなんですよ!」

 

「砺波いぶき…寮長…あぁ!!何時も弟がお世話になっております」

 

「え?…私の事知ってるんですか?…」

 

自分の名前を呟くなりお礼と共に頭をさげてくるが、全く状況が掴めず彼女とぼたんを交互にみる。

 

「あぁ自己紹介がまだだったね?私は小澤夏紀。小澤千秋の姉だよ」

 

「あ…貴女が千秋…さんが言っていた?…」

 

「おや、弟から聞いてるのかい?」

 

「少しだけですが色々と」

(確かに目とか千秋とそっくり、でもこの人…どっかで見た事あるような…)

 

「アハハ!私も色々と聞いているよ、ん?どうかしたかい、いぶきさん」

 

千秋に似ているとは別に見覚えがある顔をじっと見てしまい、視線に気付いた頬杖をつく夏紀と目があってしまう。

 

「すいません…ジロジロ見てしまって…あ!」

 

頬杖をつく体制を見て夏紀に対する既視感の謎が解けた。

 

「もしかしてフォトグラファーのNatsukiさんですか?」

 

「おぉ!私の事知ってくれてるんだね?」

 

大学一年の頃に初めて彼女の写真を見て心をうたれ、展覧会や写真集を買う程ファンになっていた。

以前雑誌のインタビューのページで笑顔で頬杖をつくポーズの写真が印象的だったのを覚えている。

 

「私、展覧会や写真集も出る度に買っているんです!」

 

「あぁ確かに、いぶきの部屋に写真集ありましたね!」

 

「そうなのかい?アハハ嬉しいね」

 

その後写真や夏紀の旅の話に花を咲かせ海鮮を堪能し、気づけばそろそろ予約の時間が迫っていた。

 

「あ!ぼたんそろそろ予約時間だよ」

 

「本当だ!!」

 

「二人共用事があるようだし、私もそろそろ行こうかな」

 

スっと立ち上がった夏紀は自然な流れで伝票を持ち、レジへと向かって行く。

 

「えぇ!?あの夏紀さん払いますよ!」

 

「そうだよ!お姉ちゃん」

 

「いいの、いいの。二人のお陰で楽しませてもらったからね!お礼だよ、ほら何処かいくんでしょ?遅れちゃうよ」

 

「ありがとうお姉ちゃん!」

 

「ありがとうございました。ご馳走様です!」

 

深く頭を下げ店を後にし、貸切温泉へ急いで向かった。

 

 

 

「うぁ〜!!凄い景色」

 

「本当に目の前が海になっているんですね!…海風寒ッ!?」

 

「だ、だねぇ…早く浸かろっか」

 

海から吹く冷たい風に耐え体を洗い、二人同時に温泉に浸かる。

 

「あぁ〜いい湯だぁ〜」

 

「アハハ、寮長おじさんみたいですよ」

 

「むぅ…おじさんとは失礼な…」

 

自分の体質のせいで今までずっと一人で行動してきたが、今は隣にぼたんが居て気を遣わず安らげる存在になっている。

 

「ねぇぼたん…ありがとう…誘ってくれて」

 

 

 

「どういたしまして…いぶき…」

 

「…所で…例のアレは?…」

 

「もう…雰囲気台無し…ハァ…どうぞ」

 

日本酒の入った徳利を取り出し、お盆に載せ温泉に浮かべる。

 

「ご、ごめんって…ほら、最初の一杯ついであげるから…」

 

「もー、何それ…ん!美味しい!!」

 

「ん!本当だ、地酒かな?後で銘柄聞いてみよ」

 

「もう…お酒の事ばっか…」

 

「ちょ!?拗ねないでよ…ほらこっち」

 

頬を膨らませ拗ねた顔のぼたんを後ろから抱きしめ、肩に顔を置く。

 

「ちゃんと見てるよ、ぼたんの事…」

 

「うん…ありがとう…いぶき」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




小澤夏紀

千秋の姉。サバサバした性格。有名な写真家(フォトグラファー)で世界中を旅している。

(見た目は黒髪になった虎金妃笑虎。イメージCVは朴璐美)
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