金持ち大学生「どうしたん? 大丈夫? 話きこか?」   作:あばなたらたやた

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三話

バンドリ③

 

 羽丘女子学園中等部。

 豊川グループの施設整備に関する打ち合わせを終えた真我は、校舎脇に置かれたベンチで静かに息をついていた。

 

 昼休みの校庭には、生徒たちの賑やかな声響き渡っている。その喧騒から離れた日陰の壁際で、一人佇み、缶ジュースを口に運ぶ少女の姿が目に留まった。

 

 黒髪を切りそろえた少女……CRYCHICでドラムを叩いていた椎名立希だ。

 真我がわずかに思案してから、歩み寄った。彼女はその気配を察知し、射るような視線を真我に向けた。

 

「……何か?」

 

 隠そうともしない警戒感。

 真我は静かに頭を下げた。

 

「すみません。不快な気持ちにさせてしまいましたね」

 

 唐突かつ丁寧すぎる言葉に、立希は不審そうに眉をひそめる。

 

「僕は豊川真我です。祥子さんの兄です。この前のライブ、とても素敵でした」

「……は?」

「えっ!? 祥子の兄……?」

「はい。映像で拝見しました。皆さん、本当に素敵な演奏していました」

「そう」

「自分としてはボーカルの方の想いの叫び、のようなものが印象に残ってます」

 

 立希は、視線を宙へ泳がせ、気まずそうに鼻を鳴らす。

 

「……別に、私はそんな大したもんじゃない、です」

「そう、ですかね? 私は凄いように感じましたが」

「社交辞令どうもありがとうございます」

「いえいえ、本心ですよ」

 

 立希は毒気を抜かれたような感覚になと。

 普通なら、強い口調で生意気な自分に反発するか気後れする場面だ。しかし目の前の青年は、気分を害することなく対応してくる。

 

「……変な人」

「よく言われます」

「褒めてない」

「うん、分かっています」

 

 立希は握りしめた缶の冷たさを確かめるように力を込める。

 

「……で」

「祥子の兄が私に何の用?」

「少し、お話しできたらと思って」

「は? お断りです」

「そうですか。残念です。自分としては聞きたかったのですが、立希さんの事情もありますから。ここでお暇させてもらいます」

「……」

 

 無理に踏み込もうとしない姿勢が、かえって彼女の興味を惹いた。

 

「……少しだけ」

「え?」

「少しだけなら、良いです」

 

 ぶっきらぼうに漏らされた承諾に、真我は破顔した。

 

「ありがとう。改めて、CRYCHICでは祥子さんがお世話になりました。共に過ごしてくれてありがとう」

「……私は」

 

 立希は少し言葉を探すように口ごもる。

 

「祥子に誘われただけ」

 

 お礼を言われる筋合いはない、という拒絶のニュアンスだ。

真我は落ち着ついた声で言葉を返す。

 

「でも、初めてみて、続けたのは立希さん自身でしょう?」

「……まぁ」

「なら、それは立希さんが望み、選んだことですよ、きっと」

 

 立希は沈黙した。

 真我は言う。

 

「ドラム、好きなんですね」

「……好き……かな。だけど」

「だけど?」

「いや」

 

 首を振って打ち切ろうとする立希に、真我は追及せず、言葉を添える。

 

「演奏を見ていてそう感じただけです」

「……そう」

「月ノ森でも、活躍されるでしょう」

「そっちはいかない。花咲川」

「おお、月ノ森ではなく花咲川を選んだんですね。珍しい。理由を聞いても?」

 

 立希の一瞬の曇りを逃さず、真我は即座に言葉を補う。

 

「無理とは、言いませんが」

「……姉がいるから」

「お姉さん?」

「椎名真希」

 

 短く発せられたその名。

 

「どこへ行っても『真希さんの妹だ』って言われる」

 

 立希は吐き捨てるように小さく息を吐き出した。

 

「そういの面倒だから。そういう風にちやほやされるのも、比べられるのも。だから別の学校にした」

「なるほど」

 

 立希はわずかに身構えた。

 立派な姉さんがいるのにもったいない、姉から逃げたのか、と諭される用意を胸の中で固めていた。だが、青年の口から出た言葉は、立希の予想と大きく外れていた。

 

「個人的にではありますが、そういう理由は、凄い良いものだと思います」

「……は?」

「自分を見てほしかった。お姉さんの妹じゃなくて。椎名立希として。一人の人間として。自分は姉の付属品ではない、と」

 

 立希は思わず目を見開いた。

 

「それって、おかしいことじゃありません。誰かの影ではなく、自分として見られたい。それは、とても自然な願いです」

「……」

「だから、学校を変えたことは適切だったと思いますね。自分で自分の道を選んだ。それは尊いことだ」

 

 立希は息を呑み、何も言えなくなった。誰一人として、自分をそう受け止めてくれた人間はいなかったからだ。しばらくの静寂ののち、ポツリと言葉を落とす。

 

「……真我さんは」

「はい」

「祥子と全然違いますね」

 

 少し首を傾げた真我は、可笑しそうに笑った。

 

「よく言われます。兄妹でも、性格は別ですから」

 

 思わず、立希の口元から小さな吹き出しが漏れた。

 

「なんというか、あー、個性的な二人?」

「そうかもしれません」

 

 柔らかく微笑む真我を見つめながら、立希はいつの間にか肩に入っていた力を、ゆっくりと抜いていた。

 無遠慮な言葉を使わず、ただ自分という人間を真っ直ぐに見つめてくれる。その不思議な心地よさに包まれていた。

 

「……また会ったら」

 

 立希は気恥ずかしさを隠すように、すっと視線を逸らした。

 

「その時は、もう少し話を……する……せんか?」

「ありがとう。次に会えるのを楽しみにしています、立希さん」

サブストーリーとして一番交流してほしいキャラは?(メインは祥子と初音

  • 若葉睦
  • 椎名立希
  • 長崎そよ
  • 高松燈
  • 野良猫
  • 祐天寺にゃむ
  • 八幡海鈴
  • モーティス
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