タイトルに欺瞞は無い(…ハズ!

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白仮面氏に捧ぐ(返品不可


第1話

その朝同志シュガシビリとドリフトし、秒速40メートルの地吹雪が唸りをあげるシベリアの大地でチェルノ・アルファを駆り、「嫌いじゃないわ!」と叫びながらムーンウォークで迫ってくる身長88メートルのルナドーパントの顔面にテスラ・フィストを叩き込んだところで夢から覚めた山本山規夫(やまもとやまのりお)が何気なく横を向くと、唇と唇が絆創合体しそうな距離に健やかな寝息を立てる紅い髪の美女がいた。

「まだ夢か」

規夫は目を閉じた。

百数えて目を開ける。

横を向いた。

紅い髪の美女が寝ていた。

「しつこいな」

目を閉じた。

百数えて横を向く。

紅かった。

「………」

ちょっとムカついた規夫は右手を伸ばし美女の鼻を抓んだ。

特に理由は無い。

次の瞬間視界が猛スピードで回転した。

気がつけばうつ伏せに押さえ込まれ、右腕をガッチリと固められている。

恐ろしく速いアームロック、コブラでも見逃してしまうかもしれない。

しかもワザを仕掛けた相手はまだ寝ている。

そのうえ全裸だった。

もう一度言おう、布団の下は素っ裸だった。

生まれたままの姿の美女と布団の上で密着しているという絵面にもかかわらず、規夫に甘い体臭と柔らかな感触を楽しむ余裕は無かった。

折りたたまれた右腕にかけられる荷重がジワジワと増加していく。

このままでは肩を破壊されてしまう。

慌てて左手を後ろに回し、美女の体をタップする規夫。

慌てていたので胸をタップしてしまった。

スベスベでモチモチでたっぷんたっぷんだった。

感動のあまり再度タップしてしまった。

ついでに揉んだ。

美女の腕に力がこもる。

規夫の右肩から破滅の音がした。

 

「本当に御免なさい!」

「それはもういいから」

目覚めたら全裸で見知らぬ男と同じ寝床にいたという謝罪と賠償待った無しという状況にも関わらず、美女は寝ぼけてワザを掛けてしまったことを真っ先に謝罪した。

お前の優しさに全米が泣いた。

ちなみにハダカだと規夫のナニカが色々危ないので、徹夜仕事を終えた直後の謎のテンションにまかせて「起こさないでくれ死ぬほど疲れてる」と油性マジックで書いてしまった予備のパジャマを着せた。

胸のボタンが弾けそうだった。

「あの、肩の調子は?」

「ご覧の通りですよ」

アックスボンバーの構えをとった右腕を激しく上下&前後させる。

そう、眠れる全裸美女に破壊された規夫の右肩は、ハダカの破壊者の「なんかイケそうな気がします」という発言とともに両の手のひらから照射された虹色の光線(「イカゲル星奥義ゲバゲバ光線!」という掛け声は聞かなかったことにした)を浴びて完全に回復したうえ十代の軽さと滑らかさを取り戻していた。

この力、この美貌、このたわわ。

「これはひょっとするとひょっとするのでは?」

規夫は訝しんだ。

とにかく話を聞かないことにはナニも始まらない。

規夫はパジャマ美女(つい胸ボタンを注視してしまう)を卓袱台の前に座らせると自身も対面に座った。

もちろん取り調べの神に捧げる聖なる供物であるカツ丼(コンビニで買ってきた)を卓袱台に供えることも忘れない。

ちなみに自宅の電子レンジが三日前神の国に召されたことを忘れていたのでカツ丼は冷めたままだ。

そして始まる事情聴取モドキ。

「名前は?」

「覚えてないですね」

とぼけているわけではなさそうだ。

「どこから来た?」

「分かりませんね」

というか本人も困惑している。

「好きなアニメ演出家は?」

「高橋良輔!」

即答であった。

埒が明かないので次はパソコンの前に正座させ、某動画投稿サイトや某イラスト投稿サイトを見せながら、記憶に有る限りの知識を掘り起こし東方プロジェクトについての講釈を垂れる。

「うーん、今ひとつティンとくるものがありませんねえ」

原作知識に触れて蘇る記憶なんて無かった。

「でもこのキャラクターは気に入りました」

動画の中では紅い洋館の前で緑の中華服を着た美女が黒い人たちを寝たままボコしている。

「決めました、今日から私は紅美鈴(くれないみすず)です!」

「アッハイ」

いろいろ面倒になった規夫は考えるのをやめた。

 

ここで山本山規夫の家庭の事情について説明することをお許し願いたい。

規夫が25歳のとき結婚30周年記念でヨーロッパ漫遊に出かけた両親はスイスアルプス上空を遊覧飛行中チャーターした旅客機(1940年に製造されたドイツ機だった)のエンジンが三つ同時に火を吹き、アリステマ・マクリーンが脚本を書きリチャード・バートンとクリント・イーストウッドが共演した戦争映画のロケに使われた古城に激突、機体もろとも爆散した。

遺された唯一の肉親である二つ上の姉(両親の遺伝子の優良な部分をほとんど持って行かれていた)は京都大学英文学科を卒業後外務省に入り、赴任先のロンドンで知り合ったアフリカ系オランダ人(後援者の11歳になる息子を男の娘に目覚めさせ業界から永久追放されたキックボクサー)と電撃結婚&寿退職を決め、現在はリバプールで健康器具とビデオの店を経営しており、姉弟の交流はほぼ断絶した状態にある。

そんなわけで戸籍も住民票もない妖怪めいた美女一人を昭和41年新築木造瓦葺二階建の借家に囲うことに特に問題はなかったりする。

もちろん居候に対し主導権を握ることは忘れない。

「最初に言っておく、出かけるときは―」

「目立ちませんよ任せてください」

奥ゆかしさに絶対の自信があります!と胸を張る(揺れた!)美鈴。

そのモーションに魅了された規夫は鼻の下を伸ばして頷くしかない。

「では外出許可も得たことですし公園で軽く演武でも」

「ちょっとやめないか」

 

こうして始まった冴えない独身男と妖怪めいた美女の同棲生活の中でひとつ分かったことがあった。

「ノリさんビール貰いますね」

風呂上がりにバスタオル一枚で冷蔵庫を開ける。

「ノリさんこんな所に脱ぎっぱなしにしちゃダメですよ」

ランニングシャツと短パンでくつろぐ規夫に背中を向け、床に散らばった作業着と靴下を拾う(ミニスカートとホットパンツお好きな方でお楽しみください)。

紅美鈴(自称)は自身の性的魅力についてあまりにも無自覚だった。

規夫でなくとも「私を誘っているのかい?」と言わざるを得ない。

もっとも間違いを起こそうとしたところで今度は股間を破壊されるビジョンしか見えないので起こさないが。

そんなある日―

 

わざとらしく照明が落とされた薄暗い倉庫の中で二人の男が対峙している。

一人はナポリ仕立てのスーツを着込んだ人相の悪い男。

もう一人は中南米の軍事政権でよく見かけるカーキ色の野戦服に身を包んだこれまた人相の悪い男。

スーツの男が木箱を指さす。

軍服の部下がジェラルミンケースを置く。

スーツの男がケースを開け、取り出した札束の一つをパラパラと捲ってニヤリと笑う。

軍服の男は木箱から金属と強化プラスチックで構成された物騒な工業製品を取り出し、キズやガタつきがないか確かめたあと小さく頷く。

一連の儀式が終わり、歩み寄った軍服とスーツはあくどい笑顔で握手を交わす。

「ノリさんノリさん、今度こそビンゴですよ!」

重い引き戸を軽々と開け、紺のスニーカーにデニムのジーンズ、「安次嶺栄純さん(46)」とプリントされたレモン色のTシャツを着た紅美鈴が現れた。

「君ね、仏の顔も三度までだよ?」

続いてドブネズミ色のツナギに巻き付けたハーネスにファンタジー小説の挿絵に出てくる盗賊騎士よろしくドライバーやらモンキーレンチやらをぶら下げた山本山規夫。

説明しよう、山本山規夫は店舗を持たない個人事業主であり、日本における技術職ピラミッドの下層に位置する孫請け業者としておもに大手量販店から仕事を貰い、インターネットの接続やエアコンの取り付け工事などで生計を立てている。

この日請け負った仕事はとある冷凍マグロ保管倉庫のトカマク型熱交換機の修理であった。

規夫は力仕事には自身がありますと片手でタンスを持ち上げて見せた美鈴とともに愛車アルトバンHA36V(5速MT)で指定された倉庫街に向かったのだが、気配は読めるが地図の読めない美鈴とカーナビごときに指図されたくない規夫のコンビは当然のごとく道を間違えた。

そして「必然たり得ない偶然は無い(銀河万丈の声で)」とばかりに間違った倉庫の扉を開け、武器商人とテロリストによる暗黒非合法取引の現場に踏み込んだのだ。

おお、ナムアミダブツ!

ガチャガチャガチャン!

一斉にボルトを引いて薬室に初弾を送り込み侵入者二人を狙うテロリスト。

いや、よく見ると銃口が狙っているのは全てTシャツの胸を挑発的に押し上げる二つのたわわだ。

「なんだぁテメエら?」

息をするように人を殺すテロリストの「答えなかったら殺す答えても殺す」という思考がダダ漏れな誰何。

「ノリさんノリさん聞かれてますよ」

息をするように体重300キロのアムールトラを素手で殺せる美鈴はニコリと笑って規夫に振る。

そして規夫はテンパると反射的に相手を煽る台詞を口走る男だった。

「俺だよ、ジョン・ウェインさ!」

「ザッケンナコラーッ!!!」

一斉に発砲する頭ロアナプラなテロリスト。

現代日本にしては随分と引き金が軽い。

どうやらこの日本は政府が極秘に養成した女子高生アサシンがいたりメイド喫茶がチャカで抗争する日本のようだ。

「おっと危ない」

規夫を担ぎ上げた美鈴は滑るような歩法でジグザグに移動し、リットルスノアリングの射爆練習場から回収され戦車道用に再生されたシャーマンVを遮蔽物にする。

「チクショウなんで俺がこんな目に!」

規夫は泣いた。

「唐揚げ弁当に半額シール貼られるまでパートのオバちゃんをつけ回したのがいけなかったんですかねえ」

跳弾に跳弾を重ねて真上から飛来する5.56mm弾を顔も上げずに指先で弾く。

「ここまでされる謂われはない!」

規夫は絶叫した。

「そんなことよりノリさんノリさんノリさん!」

美鈴の瞳がキラキラと輝く。

「あれ悪者ですよね?やっつけちゃっていいですよね?」

それは町内で昭和35年から営業している個人経営の映画館でブロンソン三本立てを観て以来、美鈴が密かに夢見ていたシチュエーションだった。

「楽しそうだね君ね相手は突撃銃と分隊支援火器で武装してるけどねきっとSVDとRPGも出てくるけどねそりゃSVDは大好物だしマキシムの四連装なんか出てきたら泣いちゃうけどね!(ここまで息継ぎなし)」

「大丈夫、理屈じゃないんです!」

美鈴は光った。

「ヒサツ・ワザ!イィィィィィィィィヤァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

なんたるカラテ!跳び蹴りのポーズをとった美鈴の全身から放たれた虹色の闘気が龍のごとく荒れ狂い、テロリスト達をボウリングのピンのようになぎ倒していくではないか!

「雷神のスネ毛と女神の枝毛にかけて!」

スラブ圏のまじないを唱えながらスーツの懐から取り出したオートマチック(ワルサーPPKである)を美鈴に向ける武器商人。

「ここが貴様のオブツダンだ!」

「ホーチミンッ!」

ブラインドサイドから駆け込んで来た規夫の低空タックル!

もつれ合って床を転がる二人の間で乾いた銃声が響き、ツナギの背中に穴が開く。

密着した状態から発射された9ミリ弾が規夫の胸板を貫通したのだ。

「イヤーッ!」

「グワーッ!」

虹色の閃光を纏った美鈴の掌底が武器商人のアゴを打つ。

打ち上げられた武器商人は垂直リフト射出速度で天井に突き刺さった。

「無茶しますねえ」

心臓を撃ち抜かれては通常のオーラパワーによる治癒ではおっつかない。

このままでは規夫が天国の聖歌隊に入ることは確定的に明らか。。

やはりブッダはゲイのサディスト。

だがそれを認めようとしない女がいた。

「イヤーッ!」

気でも違ったのか?

Tシャツを捲り上げた(揺れた!)美鈴は自らの胸を手刀で貫く。

「グ…はぅっ!」

戦慄きながら乳房の奥をまさぐっていた右手を引き抜くと、その指先には真紅の輝きを放つゼリー状の肉片!?

「私の心臓の半分です」

神秘的に脈打つソレをマグロめいて横たわる規夫の胸板にのせると、紅い光はスポンジに染み込む水のように傷口に浸透していった。

「貴方は死にません、絶対に」

そして美鈴は白目を剥いた。

「おおう、これは予想以上にキツ……」

運命の恋人たちのように寄り添って気絶する規夫と美鈴。

世界はかろうじて平和だった。

 

今はまだ―

 




Q.この紅美鈴は本物?それとも姿が同じなだけのナニカ?
A.まだ決めてない

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