面倒くさくてサボっていた人物の容姿描写とかを入れました。ノリで書いていると、入れなきゃいれないものをサラッと忘れていることが多いので、ヤバいですね。
アレクサンドル王国、王都ペラ。その中心地からやや離れた物静かな地域の片隅にぽつんと小さく立った家。その中に二人の人物がいた。
その内の一人。名前を十字宝希という。彼は焦ったような表情を浮かべ、眼の前の人物にどのように弁明しようか頭を巡らせていた。年齢は今年で13歳になるが、前世から慢性的に栄養が足りていなかったため、体格は同年代の男子に比べてもかなり小さい。しかしながら、この世界に来てからはあまり食べることに苦労していないおかげで、肌艶は悪くない。未来予知を駆使して、体調不良によって致命的なミスを起こさないギリギリで体調管理をしていたころに比べれば、格段に健康的な状態であった。
しかしながら、宝希のもとは黒かった髪は未だに極度のストレスで色素を失っていた。白く、くたびれた老人のようにハリがない。また、その髪は自分で適当に切ったせいか乱雑な長さをしており、お世辞にも整っているとは言い難い。不快感を与えない程度には身だしなみに気を遣っているが、容姿で好感を得る気はない。彼はそんな身なりをしていた。
「び、びっくりしました!いやー僕、お師匠に久しぶりに会えて嬉しいですよ!あの森から出てくるなんて、何か心変わりでもありましたか?」
ぺかーという擬音が聞こえそうな、太陽のような笑みを宝希は浮かべる。あなたに会えた嬉しさ。あなたとともにいることの楽しさ。そんな温かい気持ちを体現したような笑顔。
「ずいぶんと演技が上手くなりましたね……」
淡い空色の髪に、赤い右目と暗い青の左目。無表情で冷たい雰囲気を纏っているため、怜悧で大人びた印象を持つが、整いながらもどこかあどけない顔立ちをした女性。
スズラン。宝希の魔法の師である彼女は無表情でそう言った。
「日々精進していますから!」
「……」
呆れたような視線。
「ずいぶんと脳に負担がかかっています」
「……えへへ」
彼女の静かな瞳は、宝希の脳の奥に蓄積された負荷を見抜いていた。演算、そして、演技。高度なスキルを発揮し続けるために駆動し続けた脳には、常人ならば廃人になりかねない負荷が溜まっていた。
「貴種ほどの強度をもたないあなたの脳では、LV3相当のスキルを使えば大きな負荷がかかり、最悪廃人、マシな方でも人格の変性、手足の痺れといった運動障害を始めとした、何らかの脳障害が起きる可能性があると話をしましたよね?」
この世界のユニークスキルを除いた一般的なスキルにはレベルが存在する。そのレベルに応じて、スキルに由来した行動には大幅な強化が施される。
レベル1。その分野のセミプロのような実力。十分な努力、才覚が世界に認められると与えられ、スキルを持つ者と持たないものでは、その分野で隔絶した力の差が存在する。
レベル2。天才が長く努力を重ねることで到れる領域の者に与えられるレベル。
レベル3。世界の中でもごくわずかな一握りの天才が到れる領域。
レベル4。歴史上でも稀にしか現れない、人類の最上位の領域。
レベル5。人ならざる者、神に匹敵するような存在のみが到れる至上の領域。
この世界における天才とは、貴種の中の大きな才能を持つ人物のことをいうので、凡人である宝希がレベル3相当のスキルを発揮するのは、実は相当無茶なことである。
「の、脳にヒールを使えば実質ノーダメージですよ!」
何を言っているんだこいつ。スズランの冷たい視線が宝希に向けられた。
「脳へのヒールは、何を脳の治療と見なすのかという概念的な定義により、人格を大きく歪める可能性があるので、絶対にやるなと言いましたよね?」
「だ、大丈夫ですよお師匠!僕、狂うことを防ぐユニークスキルがあるから実質ノーリスクです!」
「はあ……そうですか。相変わらずの命知らずなようで。馬鹿につける薬はありませんね」
「うぉ、めっちゃ冷たい目線……!ゾクゾクしますね!これがマゾヒズムの快感というやつですか……!?」
「……」
シーン。部屋の空気が冷え込む。宝希の寒々しいギャグはから回っていた。
「バービブの真似をするなら、せめて人並みの性欲を覚えてからにしなさい。仮面を被るにしても、欠片も共感できないことを口にしては痛々しいだけですよ」
「……そうですね。失敗しました」
虚無。演技の仮面が剥がれ、絶望を敷き詰めたようなどす黒い瞳をした宝希は、反省したように呟いた。向かい合う二人は、鏡合わせのように似た雰囲気を纏っていた。
「じっさまの真似は僕にはまだまだ早かったですね!精進しますよ!」
それでも。宝希は一瞬で切り替え、再び太陽のような笑みを浮かべる。
「……不気味な切り替えの早さです。そこまでして取り繕う意味がありますか?」
顔をしかめながらスズランは問いかけた。
「辛気臭い顔をしているよりはいいでしょう?」
宝希は笑顔で答えた。
「僕は別に、不幸自慢をしたいわけじゃないんですから」
スズランの表情が歪む。だが、宝希にその動揺がバレないよう、スズランは素早くそれを取り繕った。
「……そうですか」
スズランの呟き。そこにはどこか思い悩むような色が含まれていた。
「……」
そんな様子を宝希の瞳は静かに見つめていた。
「それよりもお師匠、見てください!僕、魔法のスキルレベルが2になったんですよ!」
「……スキルの情報は師弟とはいえ、安易に明かして良いものではないと前も言った気がするのですが」
「お師匠への信頼の証ですよ!トラストユー!」
「……はあ、そうですか」
スズランは呆れたような視線を宝希に向ける。それに対して、宝希は太陽のような笑顔を浮かべている。
「ミラージュを操作しながら要所要所でグラビディを使って自身の動きのアシストと相手の動きの妨害、ついでに適宜攻撃魔法をぶっぱしながら近接攻撃をして、演算で傷ついた脳をヒールする。お師匠が提案してくれた光闇魔法を活かした魔法剣士の動きがようやく形になってきました!」
「そうですか。まだ数年はかかると思ったのですが……ずいぶんと無茶な真似を。そこまでするというのなら、もはやあなたの安全を配慮する必要はないですね」
スズランはため息を吐いて、魔力を起こす。
一瞬。気づけば宝希は森の上空に放り出されていた。
「ふぁっ!?」
【グラビディ】
宝希は魔法を使い、自身の急速な落下を防いだ。くるくると回転しながら、ダメージを追わない程度の速度に減速し、地面に無事着地する。
「構えなさい。馬鹿弟子。あなた好みの無茶で無謀な修行をつけてあげましょう。ただし、死んだらあなたがバービブに謝罪してくださいね」
「じっさまなら、おお、勇者よ、死んでしまうとは情けないとかいいながら、大根でぶん殴って蘇生とかしてきそうじゃないですか?」
「……再現度が高いですね」
スズランは顔をしかめながら、いくつかの魔法を発動した。
【メテオ】
【タイダルウェーブ】
【アースクエイク】
「嘘でしょ!?殺意が高すぎる?!」
空から迫りくる隕石に、突如押し寄せる津波。加えて揺れ動く巨大地震が足元を崩し、ひび割れた地面が殺意をもって迫りくる。
「――」
宝希の脳が全開で演算を行う。
地面、水平、空。その全てを制圧するような魔法の群れ。破壊の大地の
一つだけ、
「なんとかなーれ!」
宝希は隕石に向かって飛び込んだ。
【シャドウダイブ】
とぷんっと、宝希の体が隕石の影に潜り込む。影が側面を走り、隕石をすり抜けるようにやり過ごした。
「正解」
スズランは小さな拍手をした。もし失敗したら、今ので宝希の体は間違いなくミンチよりも酷い消し炭になっていただろう。まあ、おそらくそれよりも早くスズランが転移魔法を発動していただろうが。
「さぁ、ドンドン行きますよ。しのいで見せてください」
「お師匠ーー!スパルタ過ぎませんか!?死んじゃいますよ!!?」
「止めて欲しかったら本気で請いなさい。そんなにふざけているようなら、説得力はありませんよ」
【アイシクルレイン】
【ストームバースト】
「ぎゃあぁぁぁ!!死ぬぅぅ!?」
それから数刻、宝希はなんとかスズランの魔法をしのぎ続けていた。
「さて、ウォーミングアップは終わりましたね。ではあなたに今からとっておきの魔法を授けましょう」
【
スズランの空色の髪が真っ黒に染まった。そして溢れ出す、漆黒の
「こ、これは思春期の男の子が一度は考える大きな代償をもとに自分を強化する感じの闇の魔法!?まじ厨ニかっけーっすお師匠!!!」
「うるさいですね」
「げぽぁっ!!!?」
スズランの闇を纏ったパンチが炸裂した。闇の瘴気が宝希を蝕む。闇に呑まれよ。大いなる絶望が宝希を襲った。
「ぐわぁぁぁあああ!思い出したくない黒歴史が蘇ってくる!!?俺は二刀流の黒の剣士、役立たずと見なされて追放されたけど、チートスキルに覚醒して俺TUEEEEEして最強になってから戻ってきてとお願いされてももう遅い!ヤレヤレしながらハーレムを作っちゃいます!?」
「何を言っているんですかあなたは?」
ふざけているんだろうが、こいつは何を面白いと思ってふざけているのだろうか。スズランは白い目で宝希を見つめた。
「いやあ、げほっ、恐ろしい魔法ですね、こいつは……」
「常人なら一瞬で発狂するような効果もこの魔法にはあるのですが、随分余裕そうですね」
「まあ、へへ。どうやらこの魔法、僕とすごい相性が良さそうですよ、お師匠」
「ほう?」
【
宝希は漆黒の
「……っ!?」
流石にそれにはスズランも目を開いて驚いた。あり得ない。この魔法は非常に高度で、複雑な闇の概念を内包する魔法だ。適性があり、才能をもった貴種でも習得には数年かかる超高難易度な彼女が開発したオリジナル魔法なのに。
「あり得ない……」
それを見て、その一端を体感しただけで習得した?いや、完全な発動ではないし、その魔法の真価を1割も発揮できていないが、それでもこの一瞬で習得してみせたのはあまりにも異常だった。
この少年は一体どれだけ闇魔法に適性があるというのだ。
スズランの背筋に冷や汗が流れた。
閑話:宝希とスズランの邂逅
『ようスズラン、俺の拾ってきた隠し子を紹介するぜ』
『十字宝希。いずれ7つの願い玉を見つけ、海賊王になる死神代行の卑劣な忍者で海獣に左手を食われた激しい怒りによって目覚めた鼻毛真拳の後継者だ』
『なんて……?』
『じっさま、意味不明です』
『どうして理解してくれないんだ宝希!この握り飯がシャケだから、ちくしょう!』
『お茶です。喉が乾いていたら飲んでください』
『ありがとうございます』
初めて会った時、その少年にはシンパシーを感じた。感情の一切を感じられない凍りついた表情に、この世の絶望の全てを煮詰めたようなどす黒い瞳。ああ、きっとこの少年は私と同じように失敗して、大切な何かを失ったのだと感じた。
『お。いい茶葉使ってるねー、アイスティしかなかったけどいいかなー』
バービブは相変わらず変なことをしていた。
『コンニチハーコンニチハー』
『あらあらお茶の中にかわいい猫ちゃんがいまちゅねー今からごくごくネコ吸いをしちゃいまーす!』
『フシャーー!!』
『ぎゃああああ猫の爪が目にーー!?』
『危ない危ない、コンタクトをつけていなかったら即死だった』
突如、老眼鏡が凄まじい速度で空から降って来た。
『浮気なんてサイテー!!』
『ごめんなさいマイダーリン!?』
バービブは老眼鏡に殴られてぶっ飛んでいった。私の家を荒らすな。
『では今から被告の裁判を開始する』
お前は誰だよ。
『検察です。浮気は死刑です。以上』
『弁護人です。NTRは死すべきです。死刑です。以上』
弁護しろよ。
『では、以上により被告は人類が生み出したありとあらゆるNTR本の情報を脳内に流し込むNTR無量空処刑とする。とくと死ぬがよい』
『ぐわぁぁぁぁぁああああ!!!!!』
『これ、じっさまを助けた方がいいのですか……?』
『放っておいていいです』
『待てぃ!!!』
『なんだ?』
『この声は……!?』
『
『何者だ貴様は!』
『貴様らに名乗る名前はない!!とぅ!!』
突如現れた謎の男は飛び上がり。
『NTR死すべし!』
『ゲポァアアっっ!!!』
バービブをぶん殴った。その登場の仕方でそっちに加勢するのか……。
「……」
回想を止める。
おかしい。
初対面の宝希の様子を思い出すために過去を振り返ったのに、バービブが強すぎて全く宝希の様子を思い浮かべることができない……。
じっさまはハジケリスト。完全にギャグ漫画の主人公なので、登場すると一瞬で作風が変わる。宝希くんはその光にけっこう脳を焼かれてしまったのです。