心が壊れた救済RTA走者のセカンドライフ   作:ササキ=サン

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第12話 上位者(シナリオメーカー)の蠢動

 

[最近さ。ちょっと曇らせが足りないよね?]

 

[うちの主人公(宝希)は、悲劇の中でこそ輝くし、傷つき、泥にまみれてもなお進もうとする姿が美しいんだよ]

 

世界の片隅で。上位者(シナリオメーカー)はにっこりと笑った。

 

[さあ、もっと輝いてよ。宝希]

 

 

 

 

 

王都ペラ。その一角にある小さな公園のベンチで、一人の少年がポツンと座っていた。表情はどこか暗く、何かから逃れるように、少年の視線は手元のゲーム機にくぎ付けになっていた。

 

「くそっ」

 

少年はいらだちと共に、膝をたたく。手元のゲーム機の画面では、死亡したキャラクターが写っていた。

 

カリカリと爪を噛む少年。

 

「こんにちは!」

 

「え?」

 

少年は急に声をかけられ驚いた。顔を上げると、白い髪の少年――宝希が目の前にいた。

 

「楽しそうなゲームをしていますね! なんていうんですか、それ!」

 

あなたは誰ですか? 急に話しかけてこないください。出かけた言葉を飲み込む。ぺかーという擬音が聞こえてきそうな、のほほんとした太陽のような笑みに毒気を抜かれたからだ。

 

「これは――」

 

それから、少年と宝希の交流が始まった。

 

 

 

 

 

数日後。今日も公園のベンチで、宝希――の光と闇の魔法による分身は、となりに座る小さな少年と並んで携帯端末の画面を覗き込んでいた。

 

「へへ、宝希お兄ちゃん下手くそー! ここは右に回避してから攻撃だよ!」

 

「うぉお!? このモンスター、判定が前世のゲームより微妙にシビアですよ!? ちょっと待ってください、僕の演算でもこの画面のドットのブレは……ぎゃああ、死んだ!?」

 

画面の中でキャラクターが倒れ、宝希は頭を抱えた。隣の少年――レオは、楽しそうにコロコロと声をあげて笑う。

 

「でも、お兄ちゃんと遊ぶのすごく楽しい! 僕、いつも一人で留守番だからさ」

 

「ふむふむ、家族はお忙しいのですか?」

 

「うん! 僕のお父さん、警察官なんだよ! すっごく格好よくて、街の平和を守るヒーローなんだ! 忙しくてあんまり会えないけど、僕、お父さんのこと大好きなんだ!」

 

胸を張って父親を誇るレオの瞳は、濁りのない純粋な光に満ちていた。そこへ、「レオ!」と温かい声が響いた。警官の制服の男性が、少し疲れた笑みを浮かべて駆け寄ってくる。

 

「お父さん!」

 

「ごめんな、遅くなって。……おや、君は?」

 

「はじめまして! 僕は通りすがりの王立高等学園の生徒の宝希です! レオ君とゲームで意気投合しちゃいまして!」

 

「そうか、レオの相手をしてくれてありがとうね。さあレオ、家に帰って夕飯にしよう。今日は君の好きなハンバーグだよ」

 

「わーい! お父さん大好き!」

 

父親は愛おしそうにレオの頭を撫で、手をつないで歩き出す。貧しいながらも、そこには確かな愛と温もりに満ちた、守るべき家族の「ささやかな幸せ」の光景があった。

 

「……」

 

かつての自分の家族に思いをはせながら、分身の宝希は太陽のような笑顔で二人を見送った。

 

 

 

だが、その数日後。 街の裏路地を探索していた分身の宝希は、壁に寄りかかりながらフラフラと歩く一人の男性の姿を目撃した。

 

足取りは覚束ず、目に光はなく焦点は合わず、口からは意味をなさない濁った呻き声が漏れている。

 

(……あの歩行パターン、重度の薬物中毒者のそれだ。この世界にも何らかの違法薬物が普及しているのか……?)

 

宝希は驚愕し、すぐさま男性に近づいた。

 

「あの、大丈夫ですか!? 気分が悪いんですか? 僕、光魔法が得意ですから――」

 

声をかけた瞬間、男性がゆっくりと顔を上げた。その顔を見た宝希の息が止まる。

 

そこにいたのは、先日出会ったレオの父親だった。

 

「あ……が……ひへ……金……もっと……強い……奴を……殺して……ふへへ……」

 

会話が成立しない。意識は完全に混濁し、脳の神経系が深刻な機能不全を起こしている。数日前に見た「温かく優しい警察官の父親」の面影は、そこには影も形もなかった。

 

(……。……今ここで彼を無理に拘束・治療しようとしても、根本的な解決にならない。本体のデータベースでこの薬物を特定しつつ、彼を追跡する)

 

本体が学園の図書室や魔導ネットで調べ事をするのと並行し、分身の宝希は影に潜みながら、フラフラと歩くレオの父親を追跡した。

 

追跡の果てに辿り着いたのは、旧市街の地下に広がる打ち捨てられた水路跡だった。重厚な鉄扉の奥。そこには、数十人の男たちがすり鉢状の広場に集い、紫色の煙を燻らせながら狂ったように笑い転げる、地獄のようなアジトが存在していた。

 

本体の調査結果が、分身の脳内に同期される。

 

(……これは……『ソーマ』……)

 

ソーマ。かつて貴種に対抗しようとした凡人の犯罪組織が異界よりもたらされた悪夢のような素材を混ぜ合わせ、開発した最悪の禁忌薬物。服用すれば爆発的な多幸感と共に、体内の気と魔力を強制暴走させ、神血(イコル)の儀を行った貴種に匹敵する圧倒的な身体能力を手に入れる。しかし、その代償は生命力と魂の過剰消費。服用者は例外なく数年以内に寿命を迎えて死に至る。さらに恐ろしいのは脳への非可逆的な破壊だ。快楽に苛まれて苦痛を感じなくなり、理性が完全に崩壊したバーサーカーと化す。そのため王国法では、ソーマの製造・所持・使用者は「人権の剥奪および即時抹殺が正当化される重罪人」と規定されていた。

 

(警察に通報するのは簡単……しかし、レオ君のお父さんが現役の警察官である以上、治安機関の内部までソーマの販路が汚染されている可能性がある。安易な通報はトカゲの尾切りに使われて終わる)

 

宝希は冷徹に観察を続けた。しかし、アジトの奥に広がる牢獄の光景を目にした瞬間、宝希の目の色が変わった。

 

そこには、さらわれてきた無辜の市民たちが、無惨に痛めつけられ、転がされていた。

 

ソーマによって理性を失った男たちは、貴種への劣等感と薬物の全能感から、貴族の家や富裕層を襲って金品を強奪し、拉致してきた人々を自らの歪んだ欲望のままにもてあそび、惨殺していたのだ。

 

そして――その中心で、返り血を浴びながら下品な笑い声をあげている男の中に、レオの父親がいた。

 

「ひははは! 殺せ! 奪え! 俺は強いんだ! 俺は貴種より凄いんだぁあ!」

 

壊れていた。男は、日常では「息子のための優しい父親」を必死に演じながらも、薬に溺れ、人を殺してもてあそぶ残虐な狂人へと完全に変貌していたのだ。

 

(……ああ。ダメだ。これは、もう救えない)

 

宝希の胸に冷たい絶望が落ちる。 彼らが壊した脳は元に戻らない。そして今この瞬間も、無辜の犠牲者が増え続けている。カチリと、スイッチが押された。命を天秤にかける。今救うべきは壊れた薬物中毒者の犯罪者たちではなく、周囲にいるまだ生きている無辜の人々だ。

 

「――そこまでです」

 

宝希は剣を抜き、魔法を構築してその場に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

「ああ? なんだあ、このガキは……ヒヒッ、新しい玩具かあ!?」

 

無言。宝希は答えなかった。彼らとは言葉を交わす必要はない。だって、もう救えないんだから。

 

宝希は右手に(オーラ)を、左手に魔力(マナ)を溜め込み、そして合掌。パン。軽い音と共に、二つのエネルギーが混ざり合う。

 

【神血纏い】

 

瞬間、凄まじい密度の神血が宝希の全身を包み込む。常人なら1秒で気絶する苦痛を気合で完全に無視し、宝希は弾丸のごとき速さで踏み込んだ。

 

闇への変性(テネブラエ・ムターティオ)

 

さらに自身を闇の力で強化し、宝希の闇を纏った鋭い一撃が男の体を深く切り裂いた。

 

「ハハハッ、痛くねえ! 痛くねえぞおお!」

 

ソーマを服用した男たちが、肉体を切り裂かれながらも笑いながら襲いかかってくる。その動きは素早く、それぞれが貴種の速さに匹敵する。

 

「……」

 

宝希はその戦力を冷徹に分析する。痛覚はなく、体を大きく欠損してもかまわずに突撃してくる。そして動きは早く、肉体は頑丈。手加減して、無力化を図るのは現状の実力では困難だった。

 

なら、もっとも手早くこの場を制圧するには。

 

やはり殺すしかない。

 

「あ?」

 

宝希の一閃が男の首を薙いだ。生首が宙を舞う。

 

「――っ、――っ!」

 

肺がないから声は出ない。それでも、首は何かを話そうとしていた。

 

「……っ!?」

 

予想外。首がない肉体が、いまだに宝希に飛び掛かってくる。首を撥ねられてもなお、動く手足で宝希に喰らいつこうとする狂戦士たち。恐怖も、疲労も、怯みすら存在しない。彼らはすでに「人間」ではなく、ただ人を殺すためだけの壊れた肉の塊だった。

 

もはや彼らは人間ではない。人にただ迷惑をかけるだけのモンスターだ。

 

宝希の瞳から光が完全に消える。演技のスキルに回している脳のリソースも演算スキルに回し、最短の屠殺ルートを弾き出した。

 

【シャドウブレイド】

 

影を走る刃が、首を、心臓を、寸分違わず壊していく。

 

【瞬脚】

 

神血(イコル)で強化された(マナ)を用いた武術。宝希の体が音を超えて躍動する。瞬く間に男たちの頭、心臓が弾け、血の雨が地下水路を赤く染める。

 

彼らは確かに力強く、素早い。スペックだけなら貴種に匹敵し、真っ当に戦うことができればいくら神血と闇の魔法による二重の強化をしている宝希といえども、苦戦は免れないだろう。

 

ただ、彼らはすでに正気を失い、戦士としての判断力をもたない狂人だ。スペックの強化に加えて、確かな技を持ち、さらに魔法と武術、そして演算を駆使して合理的に戦う宝希に勝つ術はなかった。

 

宝希は淡々と、機械のように刃を振るい続けた。

 

――数分後。

 

転がる十数の死体。その中央で、最後の一人――レオの父親に向けて、宝希は返り血に濡れた剣をゆっくりと構える。

 

「何か遺言はありますか? 恨み言でもいいですよ」

 

「ああっ……!? あ、がっ?! 死ね! 死ね!?」

 

返答はなかった。まともな意思疎通はできない。返ってきたのは最後に力を振り絞った狂戦士の嚙みつきであった。

 

宝希は剣を振り下ろす。

 

鮮血が飛び散った。

 

「……」

 

レオの父親だった肉塊の前に立ち、宝希は静かに目を閉じる。

 

弔いは自己満足だ。ならば、今にでも溢れそうな謝罪も懺悔も、口に出す必要はない。ただの時間のロスだ。

 

「大丈夫ですかみなさん!? もう大丈夫ですよ! 私が来ました!」

 

辛気臭い顔を切り替えて。宝希はまだ息をしている無辜の人々の救助にいそしむ。まずは光魔法で人々の治療をして、それから警察へ通報する。

 

「ひっ」

 

意識がある人は一部始終を見ていた。だから、血にまみれた宝希の姿は怯えられた。

 

「……大丈夫ですよ。治すだけですから」

 

演技をもっとうまく使えば。最近習得したギャグのスキルを使えば。脳内の過去のデータベースを使い、もっと人の心理に沿って安心させるような行動を取れば。きっと彼らを安心させることができ、このように怯えられることもなかっただろう。

 

でも、その怯えが正解だと宝希は思った。このように血にまみれた男に、警戒を解く方が異常だ。

 

それでいいんだ。僕は人を殺したのだから。

 

その後、宝希から通報を受けた治安維持機関(警察)が現場へ雪崩れ込んだ。大規模なソーマ密売ルートの現場と、そこで使用されていた大量の禁忌薬物が確認されたため、現場を一人で壊滅させた宝希には何のお咎めもなく、むしろ功労者として解放されることとなった。

 

警察署の取調室を出た宝希は、対応してくれた中年警察官――レオの父親の同僚であった男の元へ向かった。

 

「あの、警察官さん」

 

「ん? ああ、君か。今回は本当によくやってくれた。あんな危険な連中を一人で……」

 

「お願いがあるんです」

 

宝希は深く頭を下げた。

 

「レオ君に……あの子にだけは、本当のことを話さないでくれませんか」

 

「え……?」

 

「あの子にとって、お父さんは街の平和を守る最高のヒーローなんです。誇りなんです。……どうか、その憧れを奪わないであげてください。『お父様は、事件の捜査中に市民を庇って堂々と殉職された』と……優しい嘘をついてあげてください。お願いします」

 

頭を下げ続ける十三歳の少年の言葉に、同僚の警察官は目を見開いた。彼もまた、同僚がソーマに手を出していた事実と、その残虐な罪状に頭を抱えていたのだ。言いふらすものでもないが、もしそれが公になれば、残された幼いレオの人生は「狂った殺人鬼の息子」として悲惨なものになっていただろう。

 

警察官の男は、宝希の肩にそっと手を置いた。

 

「……分かった。任せなさい」

 

男は、どこか温かく、力強い笑顔を宝希に向けた。

 

「彼は最後まで、市民を守るために戦った立派な警察官だった。……そういうことにしよう。君の優しさに感謝するよ、少年」

 

「……ありがとうございます!」

 

宝希はぺかーと、いつもの太陽のような笑顔を浮かべてお礼を言った。

 

[うんうん。ここだね!]

 

おぞましい声がどこで響いた。

 

宝希が去った後。同僚の男は、にっこりとした笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王都ペラ。その一角にある小さな公園で、一人の少年がポツンと立っていた。少年はいつもと違って、その手にスポーツで使われる金属の棒を持っていた。

 

「あ、レオ君こんにちは!」

 

宝希は少年の姿を見つけ、笑みを浮かべながら近づいて――。

 

ゴンッ

 

宝希は頭部を金属の棒で強く叩かれた。

 

「お前が、お父さんを殺したなっ!?」

 

ガンッ

 

「ふざけるな、人殺しっ!」

 

ゴンッ、ゴンッ

 

「信じてたのに、友達だって、信じてたのに……っ!」

 

ガッ、ゴンッ

 

「お前なんて死んじゃえっ!!」

 

グシャッ!

 

「あ……」

 

「あ、ちが。だって、これはこいつがお父さんを殺したから……」

 

「ちがう! こいつが悪いんだ! こいつが悪いんだ!!」

 

レオはどこかに走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨が降っていた。

 

「なあ、宝希」

 

「? 何ですか、フランさん」

 

問いかけるフランに対して、宝希はいつものように太陽のような笑顔を浮かべた。

 

「全部見ていた」

 

「……」

 

宝希の笑みは、どこか罰の悪そうな引きつった笑みに変わる。

 

「どうして君は、そこまでして人を助けようとする」

 

ゲホッ。宝希は血を吐き出した。

 

「んー、そうですね……趣味、ですかね?」

 

欠損した肉体を光魔法で直しながら、宝希は微笑んだ。

 

「趣味、か……」

 

フランの鋭い視線が宝希を貫いた。

 

「ここ数週間で、君はあらゆる困っている人を助けてきた。どこにでもある悩みから、貴種のお家騒動に発展するような大きな悩みまで。自分の時間を犠牲にしながら、時にケガもいとわず、格上との戦いになることも恐れず戦ってきた。何度も死にかけることがあったにも関わらず」

 

「……えへへ、心配かけちゃいました?」

 

「ああ、この上なく心配したともっ!」

 

軽い返しに対して、予想していない反応をされた。まずったなぁ。これは良くない流れだ。読み切れなかった宝希は、激情のあまり胸倉をつかんできたフランを静かに見つめる。

 

「服、汚れちゃいますよ?」

 

血だまりの中にいた宝希は、困ったような笑みを浮かべた。

 

「こんなもの、誰が気にするものか!」

 

フランは宝希を強く抱きしめた。宝希の体は冷たく冷え切っていて、小さく震えていた。

 

「そもそも、なぜ抵抗しなかった……っ。あんな子どもの殴打、君ならいくらだって捌くことはできだだろうに……っ」

 

「……ぇと」

 

何か誤魔化すように言葉を発しようとして、宝希は言葉に詰まった。フランの真剣な瞳と温もりが、茶化すのを許さないような気がしたから。

 

「……」

 

「……」

 

「僕は、失敗したんです。フランさんの言う通り、僕は殴られるべきじゃ、なかった」

 

声に出すと、余計失敗を痛感した。

 

「僕が殴られたせいで、レオ君は他人を傷つけたことに苦しむことになってしまった。あんなに優しい子だから、落ち着いたら間違いなくやったことを後悔する。僕のせいで、余計な苦しみを、増やしてしまった」

 

「避けるべきだった。どうしてああなったのかは分からないけど、僕は殴られちゃだめなはずだったのに……」

 

「――鈍器を振りかぶったレオくんを見て、なぜ、と思考が止まってしまった……」

 

宝希は両手で顔を覆った。籠った力のせいで、指の間から血が流れる。

 

「見返りを求めちゃいけなかったのに、僕は、得た友情に、すがってしまっていた……」

 

雨が降る。血が流れ、雫が流れた。顔を覆う両手の指の合間から、止めどなく雫が流れ落ちる。

 

「……」

 

フランは言葉に詰まった。目の前の友にどんな言葉をかければいいのか、分からなかった。今の彼になんて言葉をかければ、その傷を癒すことができるのだろうか。

 

「宝希、君は……」

 

「なんて、センチメンタルになってしまいましたね!」

 

それでも。宝希は太陽のような笑みを浮かべる。

 

「僕は止まりませんよ。フランさん」

 

いつの間にか、傷は癒え、雨は止むのだろう。血にまみれながらも宝希は立ち上がり、友の腕を抜け、空を見る。

 

フランはその姿に硬直していた。

 

「レオくん、メンタルがけっこう弱いですから。心配です。今すぐにでも、様子を見に行かないと」

 

失敗しても、足を止める暇はない。失敗しても、救えなかった命があったとしても、足を止めない限り、まだ誰かを救える。救えなかった痛みは、救うことでしか癒せない。きっとそうすることでしか、彼に救いはないのだろう。

 

前世はそうだった。未来を知る全知の瞳が、足を止めない限り誰かを救えることを示唆し続けていた。だから、宝希は動き続けることができる。心折れることなく走り続けられる。

 

 

 

[じゃあじゃあ、自分のせいで誰かが死ぬことになったら、君はどんな顔を見せてくれるんだい?]

 

[さあ、開園だ。素敵な顔を見せてくれ。愛しき私の主人公(宝希)

 

 

 

紐がギシギシと揺れていた。

 

転がるイス。

 

ブラリ、ブラリと揺れる体。

 

光なき瞳が虚空を見つめる。

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい

 

乱雑に書きなぐられた遺書。

 

「ぁ」

 

「ぁあ」

 

脳が理解を拒んだ。

 

ユニークスキル《忘却刑縛(パラダイス・ロスト)

 

<逃げるな>

 

<せめて、罪と向き合え>

 

宝希は狂うことができない。

 

ああああああああああああああああああああああああああ!!!!

 

宝希の絶叫がこだました。

 

 

 

[鬱展開になるかもしれなかったんだけど?]

 

[からの~]

 

[……は?]

 

世界がぐるりと回った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、ここは……」

 

レオは目を開いた。

 

「えっほえっほ、マスターの持ち株がストップ安になって追証になってるって伝えなきゃ……!」

 

レオの目の前を、くそでかいフクロウがずんずんずんと通り過ぎた。

 

「??」

 

バタッ。

 

レオの目の前で謎の角が生えた赤い肌の人物が倒れた。

 

「よっしゃー! ついに地獄のクーデターに成功したぞー! 野郎ども、これでプリズンブレイクし放題だぜ!!」

 

「「「「うおおおおおお!!!!」」」」

 

「って誰が地獄の行きのクソジジイだ!!」

 

「いってな――ぶべっ!!?」

 

謎の老人が叫んでいた人物をぶん殴った。

 

「ん? お前は……」

 

謎の老人とレオの目が合った。

 

「オヤフコウナ、ガキヲ、ミツケマシタ」

 

老人は急にメカメカしい口調を始めた。

 

「おらっ! 石をつめ、俺が崩すからお前は延々と石を積み続けるんだよ!」

 

「なんで!?」

 

恐怖。レオは謎のボケ老人に石を積むことを強制された。

 

「意義あり! その少年は数日だが、親の後に死んでいるため、賽の河原刑は冤罪である!」

 

「うるせー! 今は俺がルールだー!」

 

「げぽあっ!?」

 

謎の老人はきゅうりで唐突に現れた弁護人をぶん殴った。弁護人の血と、みずみずしいきゅうり汁が飛び散った。

 

「さあ、お前もそこのクソガキと一緒に石を積むのだ」

 

「イシがヒトツ、フタツ……」

 

「宝希お兄ちゃん!?」

 

「お? 宝希と知り合いか? こいつは俺が寂しいから自作した、宝希人形だ」

 

「コンニチワ、ホウキ、ニンギョウです」

 

「え……ええ……??」

 

精巧な宝希そっくりの人形を目の前に、レオは困惑した。

 

「ピピ。マスター、自爆のジカンです」

 

「え。何その時間」

 

チュドーン!!! 宝希人形は唐突に爆散した。なぜ??

 

なお、近くにいた謎の老人は爆発の影響で大きなダメージを受けた。

 

「ぐわあぁぁぁああ!!! 爆発の威力のせいで、俺の集めた地獄の権力が飛び散っていく……!?」

 

「今だ! 無罪の子どもを助けるぞ!」

 

謎の弁護士が謎の老人に飛び掛かった。

 

「くらえ、ロッポウゼンショアタック!!」

 

分厚い本の角で殴り掛かる。ゴッッという鈍い音がした。痛そう。

 

「がはっ……」

 

じじいは死んだ。ギャグ属性にロウ属性は特攻だったのだ。2倍のダメージによって老人の脳細胞がたくさん死んだ。

 

ざわざわ。ざわざわ。地獄のマスメディアがひしめく裁判所の入り口。謎の婦人やスーツの人たちが出てきて、長い紙を掲げた。

 

<勝訴>

 

ついに地獄の住人は横暴な独裁者を倒し、地獄の開放を宣言した。これからは労働者による労働者のための地獄が始まる。

 

デェェェェェェェン!(ソ連)

 

「よし、ではまず弁護士はシベリアで木を数える仕事についてもらおう」

 

復活した謎の老人書記長が弁護士をシベリア送りにした。

 

「????」

 

目の前の事象が理解できず、困惑しているレオに謎の老人が視線を向けた。

 

「君もシベリア送りだ」

 

「え゛……?」

 

「てかうちの可愛い孫を泣かしてんじゃねー!!! さっさと現世に帰れや!」

 

謎の老人は大根でレオをぶん殴った。その一撃により、レオの魂はどこまでもぶっとび、そらへと昇っていく。

 

「たーまやー」

 

ボーンと輝かしい謎の花火と共に、レオの魂は現世に舞い戻ることになった。

 

「さっさと泣き止めよ、宝希。お前が泣いていちゃ、おちおち寝ていられないんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギシッ、と揺れる紐の音の中に、宝希はかすかな心音を聞いた。

 

「っ!!」

 

はじかれたように宝希は動き出す。

 

レオの首にまきついた紐を一瞬で断ち切り、素早く安全を確保する。

 

即座に光魔法を発動。傷ついた組織を修復していく。

 

だが、足りない。今の宝希の魔法の出力では、死にかけたレオを癒しきるには足りない。

 

「……っ! フランさん…!」

 

仮面を被る余裕もない、宝希のすがるような視線。今の宝希にはレオを救えない。だが、宝希より魔力(マナ)が多く、宝希より魔法のスキルに長けた彼女なら。

 

誰よりもこの人物を救いたいから。今、フランは宝希に誰よりも必要とされ、頼られていた。

 

その事実が、フランの背筋にぞくぞくと甘い快感をもたらした。

 

「大丈夫」

 

フランは魔法を解き放つ。

 

「私に任せろ」

 

そしてレオはフランの魔法により、傷一つなく完璧に体を治療された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[……やってくれたな。ラフメイカー]

 

[やはは、すごいだろう? ボクの前作主人公(バービブ)は]

 

[別に。宝希の方が可哀そうで格好いいから]

 

[やはは……。君も中々尖った性癖をしているね]

 

[ところで]

 

ピシッ

 

空間に亀裂が走った。

 

[この落とし前、どうつけてくれるつもりだ?]

 

[やはは]

 

[あまりガチになるなよ。これはあくまで遊びだろう?]

 

[殺す]

 

世界の片隅で、二人の上位者が激突した。その余波により、次元のエネルギーが大きく揺れ、世界に新たな災厄が来訪することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

宝希。

 

いつものように仮面を被りながら、い゛ぎででよ゛がっだです゛と少年に泣きつく宝希の姿を見ながら思う。

 

私はやはり、君のことについてまだ何も知ることができていない。

 

君が必死になって誰かを助ける意味も、あのように黒い心を抱えているわけも、何も知ることができない。聞いたって、自身の救いを望んでいない宝希は答えてくれないだろう。

 

なあ、宝希。私たちは友達だろう。

 

私はもっと君のことが知りたいよ。

 

 

 

<ユニークスキル【夢見の追想】を習得しました>

 

 

 

《夢見の追想》

夢幻の狭間で君を想う。

・対象の過去を追体験する。

・対象の位置を把握する。

 

 

 

フランチェスカ・ローゼンベルク。貴種の中でも綺羅星のような飛びぬけた才能と、強い執着が今、歪な形で覚醒した。

 




この世界には自分好みのシナリオを作って遊ぶ上位者がいます。だからこそ、世界には色んな主人公がいて、各地で色んな超展開が繰り広げられています。
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総合評価:2075/評価:8.07/連載:43話/更新日時:2026年07月21日(火) 20:06 小説情報

うすほそな幼なじみを口説き落とすRTA(作者:アホ面オムライス)(オリジナル現代/恋愛)

五歳の春、黒瀬湊は砂場の隅で膝を抱える少女を見て「放っておいたら死ぬ」と直感した。以来十二年、彼は彼女を幸せにするための「最短ルート」を走り続ける。これは善意100%のRTAが、いつしか彼女を誰よりも重く育てていく物語。▼高評価だけ忘れずにポチッとよろしくお願いします!!▼※カクヨム・なろうでも公開中▼https://kakuyomu.jp/works/29…


総合評価:907/評価:7.89/完結:10話/更新日時:2026年07月16日(木) 22:01 小説情報

魔女を匿う代わりに、ヤらせてもらう事にした。(作者:焚火ゆらゆら)(オリジナルファンタジー/恋愛)

路傍の石の様に何者にもなれず、つまらない人生を送る男は最低な行動を思案する。それは、若くてなるべく可愛い女を攫って、犯す事。だが、実際に行動に移す勇気もある訳もなく、色あせた日々を送る。▼そんな中で突如として俺の元に、都合のいい少女が現れる。▼おれはそいつにこういった「匿ってやるから、代わりにヤらせろ」


総合評価:1695/評価:8.38/連載:13話/更新日時:2026年07月16日(木) 23:00 小説情報


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