恋愛リアリティ番組で知り合った体格差カップルの話 作:ヒロ@一次創作
最終告白日。
番組が始まった日と同じ場所に参加者は集められ、その時を待っている。
波の音と潮風は初日と変わったところは無い。しかし憂鬱な気持ちでやって来たはずの美桜の世界は、自分でも信じられなくらい、あまりにも劇的な変化を遂げていた。
「南美桜さん、告白場所へ向かってください」
最終告白は、男性・女性問わずに相手の指名をしたうえで告白場所で行う。
つまりここで指名されなければ自分が告白されることはなく、自分の行う告白に全てを掛けるしかなくなるということだ。
そして、美桜の名前が呼ばれたということは、少なくとも誰かが指名をしてくれたということ。その相手が豪であることを祈りながら指定された告白場所へ向けて歩き出すと、大きな人影が待っているのが見えた。
黒崎豪。
美桜が恋焦がれて止まない人が、待っていてくれた。
心からの祈りが通じた安心感から、思わず涙が出そうになる。
初めて会った時は怖いと思ったのに、気が付けば世界で一番安心する人になっていた。
告白場所で2人は向かい合うと、暫しの沈黙。今までなら気まずくない沈黙だったが、今日は違う。今日の沈黙には終わりがある、答えがあるから。
「美桜さん。」
「はい。」
声を震わせる美桜を見て、豪は笑う。
優しくて安心感を感じる、美桜が今まで何度も見てきた一番好きな笑顔。
「最初は本当に帰りたかったんだ。」
「恋愛番組なんて向いてないと思ってた。」
「はい。」
「面倒だと思ってた。」
「はい。」
「でも。」
豪がまっすぐ見つめる。
「この番組に参加したから、美桜さんに会えた。」
美桜の瞳に涙が滲む。
「話をして、笑って、一緒に過ごして…気づいたら、毎日美桜さんのことを探してた。」
「朝起きたら会いたかった。」
「ご飯食べる時も隣にいてほしかった。」
「今日は何話そうかと考えた。」
「他の男といると面白くなかった。」
豪は苦笑し、片手で顔を覆いながら自嘲する。
「格好悪いよな、男らしくない。」
胸が一杯になった美桜は言葉にできず、何とか首を横に振る。同時に瞳から溢れた涙が頬を伝い、白い砂浜に黒い染みが幾つか出来ていく。
そんな美桜を優しい目で見ながら、豪は続ける。
「機材が崩れた時、美桜さんが無事でよかったって本気で思った。美桜さんが無事なら、俺自身が怪我しようが構わない、心の底からそう思ったんだ。こんなこと、生まれて初めてだった。」
「それで分かった。」
声が少し震えていることに気がつき、少し情けなく、少し照れくさそうに豪は笑う。
「俺は、もうどうしようもないくらい美桜さんが好きなんだって。」
「番組が終わっても会いたい。毎日話したい。」
「嬉しいことがあったら一番に伝えたい。辛い時は隣にいたい。」
「美桜さんが笑っているところをずっと見ていたい。」
美桜の瞳から涙があふれて止まらず、胸が苦しい。
知らなかった、こんなに真っ直ぐな言葉があるなんて。
「南美桜さん、俺は貴女の事が好きです。」
「どうか…俺と付き合ってください。」
最後まで真っすぐな言葉で豪が告白する。
夕焼けに照らされた美桜は泣いていて、けれど笑っていた。
「最初は自分がここにいる理由が分かりませんでした。」
「みんな綺麗で。みんな眩しくて。」
「私は脇役だって、そう思ってました。」
豪は静かに聞いている。
「でも豪さんは違った。」
「私をちゃんと見てくれました。」
「話を聞いてくれて、色々なことを覚えていてくれました。」
胸が弾けそうなくらい高鳴り、涙が止めどなく溢れる。
「嬉しかったんです。」
「本当に嬉しかったんですよ?こんな私のことを大事にしてくれているんだって、わかったから。」
「豪さんがいると安心します。会えないと寂しいし、他の女の人といると少し嫌で。」
「豪さんの声を聞くと嬉しくなる。」
「だから気が付いたら、ずっと一緒にいたいって思うようになってました。」
美桜は豪を見上げる。
身長差45センチ。
最初の日はとてつもなく遠かったけど、今は誰よりも近い。
「私も、豪さんの事が大好きです。」
涙を拭い、そして。
人生で一番幸せそうに笑った。
「私と付き合って貰えますか?」
一瞬。本当に一瞬だけ、豪は何も言えなかった。
信じられなかったから。
リングの上なら何万人の前でも平気なのに、今だけは言葉が出ない。
そして、豪も笑う。 人生で一番幸せそうに。
「これからよろしくお願いします、美桜さん。」
「豪さん、此方こそよろしくお願いします。」
豪がゆっくり手を差し出すと美桜も手を伸ばし、チョンと指先が触れる。
そして豪が美桜の手を包み込むようにそっと握れば、美桜も握り返す。 この人を絶対に離さない、失くさないようにと願いを込めて。
二人の物語はここから始まる。
黒崎豪と南美桜。
少し不器用なプロレスラーと普通の大学生。
誰より遠かった二人はこの日、誰より近い恋人になった。