三度目の正直   作:八田里

6 / 6
12時の鐘がなるまで

 「あの者はよいのですか。」

 

 自邸に戻った真夜は一人の老執事を除いて人払いをした。

 先程まで病院にいたとは思えないような様子でお茶を嗜む彼女に葉山が尋ねる。

 

 「何のことかしら。視察中は誰にも会っていない、そうよね。」

 「そうでした。歳のせいか勘違いしていたようです。」

 「そう。」

 

 文加は真夜の護衛は離れたところにいると考えていたが、本当は彼女たちのすぐそばに葉山は控えていた。それこそ、話もはっきりと聞き取れるほどすぐそばに。

 空になったカップに葉山が紅茶を注ぐとき、真夜は外を見ながらつぶやいた。

 

 「そろそろ、雪が降ってもおかしくないわね。」

 「そうですな。」

 「雪はあまり好きではないの。」

 「そうですか。」

 「冷たさだけを残して消えていくなんて、腹立たしいわ。」

 

 薔薇の棘のように触れたものに傷でも残していけばいいのに、口に出せないな乙女のような言葉に真夜は薄ら笑いを浮かべた。

 

 「残す方法はいくらでもございますよ。」

 「そうね。でも、冷凍庫に入れたり魔法に頼ったりするなんて無粋よ。」

 「風流ですな。」

 手元のカップから顔をあげない真夜を、葉山は寂しそうな顔で眺めていた。彼もまた、誰かの面影を思い出しているようだった。

 

 「もう貴方も休みなさい。」

 「かしこまりました。」 

 葉山は食器やポットを手早くまとめると他の使用人を呼びに部屋の扉に下がった。

 

 「私は奥様が手元に留めたいと思う気持ちになったら喜んで協力いたします。」

 「考えておくわ。」

 

 独りの寝室で床に入った真夜はぼんやりと天井を見上げていた。

 去り際の文加の必死な表情、あの顔を見て咄嗟に自分よりも小さい彼女の身体を抱き寄せたくなった。葉山がいなかったらしていたかもしれない。

 

 「これでいいのよ。」

 

 また、この手に納めたら二度と手放すことなんてできないだろう。それこそ飼い殺しのような扱いになるかもしれない。従者が主君の為を思うならその逆もまたしかりなのだ。

 

 「達也さん達にはよく言っておかないとね。」

 

 あの兄弟は横浜のことが起こるよりも前から、少々彼女に近づきすぎていた。くれぐれも四葉の傘下に囲い込もうなんてしないようにそれとなく諫めなくては。

 

 そして、今夜のことは忘れてしまおう。

 

 「深夜、貴女にも見せたいくらい素敵な夢を見たわ。寝たら続きを見られるかしら。」

 

 魔法は一日の終わりまで続くと相場が決まっているのだから。夢見る少女の時代は遠い過去に終わったけれど、たまには思い出してもいいでしょう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

洗脳闇堕ち妹を差し置いて、クソデカ感情を別な奴に向ける姉(作者:片桐きな粉)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

「くくく...ついに完成したぞ!絶対服従の強化個体だ!!」▼↑洗脳出来てません。でも逆らったらヤバそうなので従います。▼「なんで...あなたがそっち側にいるの!?」▼「私の妹を攫った、そっち側に.......っ」▼「ふざけないで!...友達だと、思ってたのに」▼主人公そっちのけで始まる重い感情のぶつかり合い。すれ違い。etc...▼これも全部敵が悪いんだ!!…


総合評価:623/評価:8.38/連載:8話/更新日時:2026年08月21日(金) 21:34 小説情報

弟に代わってクリプタるのはいいんだけど(作者:インフルかかったので投稿は来週)(原作:Fate/Grand Order)

 Q.どうしてカドックじゃなくて、運命を奪った私が皇女様にこんなに好かれてるんですか?▼ A.自業自得でしょう。カドぐだ成立の可能性ありますよ、良かったですね、推しカプじゃないですか。


総合評価:1826/評価:8.45/連載:5話/更新日時:2026年09月12日(土) 11:16 小説情報

初代B小町にアイ超えスペック持ちTS転生者が入ってから始まる話(作者:るつまと)(原作:推しの子)

もしもアイを超える原石が芸能界に存在したら…。


総合評価:1213/評価:7.16/連載:8話/更新日時:2026年08月11日(火) 13:49 小説情報

闇の魔術大好き少女が認められるまで(作者:闇の魔術連盟名誉会員)(原作:ハリー・ポッター)

例のあの人(ヴォルデモート)の影響なのか、不当に貶められている闇の魔術。▼名前を聞くだけで忌み嫌われるその魔術も、本来は魔法族がもっと便利に、もっと幸せに暮らすために使われるべきもの。▼今はまだ、魔法省の目を避け、地下でこっそり研究を続ける日々。▼けれど、いつか闇の魔術が正当に評価され、誰もがその便利さを認める日を夢見て……▼少女は今日も、無遠慮に魂を弄繰り…


総合評価:2688/評価:8.19/連載:31話/更新日時:2026年09月26日(土) 18:28 小説情報

境界の錬金術師 ー 私、どうやら『人造人間』らしいー(作者:女にだって二言はないぜ?)(原作:鋼の錬金術師)

エドの双子の妹でアルの姉である主人公。▼幼い頃父、ヴァン・ホーエンハイムに連れられ兄弟と別れた少女が、約十年ぶりにエドとアルと再会する話。▼※旧アニメではなく原作をベースにして書いております。▼ オリジナル解釈、原作改変等多々ありますのでなんでも許せる方のみどうぞ。


総合評価:1855/評価:8.31/連載:13話/更新日時:2026年09月27日(日) 19:41 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>