超リアルかぐや姫! 作:超作者
あれから月日は流れ……という程あの面接の日から時間は経っていない。精々一週間程度だ。
なおこの間に起きたことに関しては黙秘させてもらう。風呂上がりにラキスケイベが起こったことも、俺が早々にかぐやに胃袋を掴まれかけたことも、常時距離間がバグっている彼女との生活が如何に俺の男としてのメンタルを削ったかも、何もかも話す気はない。
……わりぃ、やっぱつれぇわ。何が辛いって性的な本能に従ってかぐやに対して邪な感情を抱いてしまいそうになるのが辛い。だってあっちは親愛ダダ漏れでそういう感情は一ミリもない状態で振る舞ってるのだ。俺だけが邪念を抱いている現状が嫌になるってもんだろ?ただでさえこっちは隠し事抱えてるってのにさ。
まあそれはいい。大事なのは今日この日に新人双子系VTuber「竹見あ
正直緊張しすぎでやばい。今日はあくまで自己紹介メインな軽めの肩慣らしとのことだが、用意された台本の中にこのような文言が記載されていたのだ。
お二人の初期設定説明後は軽く質問コメントを拾ってその場で返してください(by一色社長)
……いや無理じゃね?そのアドリブは初心者にやらせるには荷が重くね?かぐやならともかく俺にできるとでも?
これを受け取った時にこう思ったが、これができることが前提みたいな顔を崩さないマネージャー兼所属事務所の社長、要するに最上級の上司な彼女には逆らえない。涙も弱音も飲み込んで、当たって砕けに行くしかないのである。
「あ゛ー……死ぬ……」
「どうしたの?彩斗。今にも死にそうな顔して」
台本を早くも暗記し、確認まで済ませた上に俺お気に入りのラノベを笑って読んでいたかぐやが俺の弱音に反応してこちらを向く。その顔に緊張の色はない。彼女の辞書にその二文字は存在しないのだろう。
「文字通り緊張で死にそうなんだよ……なんで最低三桁の人間に俺の下手な女声を晒さなきゃなんねえんだよ……」
「えー?かぐやは可愛いと思うけどなぁ、彩斗のあの声」
駄目だ。今の状態だとネガティブな想像だけが捗ってしょうがない。俺が笑いものにされるだけならまだいい。百歩譲れば許せる。受け入れられる。でもそのヘイトがかぐやにまで向いてしまったら?その時、俺は平気でいられる自信がない。
「もういっそのことかぐやだけで配信回してくれよ……その方が確実だろ……」
そんな言葉が口からこぼれた。そうだよ。それでいいじゃん。俺は推しの配信を目の前で見られてハッピー。かぐやはその持ち前のカリスマ性で登録者数を稼ぎ天羽衣とコラボができてハッピー。そこに俺なんかの居場所がなくたって、どうにでもな……
「それは駄目」
そんな思考を、凛とした声が打ち切った。
「かぐやは彩斗と一緒に配信をやりたいの。彩斗と一緒のハッピーエンドがいいの。だから……私一人じゃ意味がないの」
我が儘で、強引で、それでいてこちらを引っ張ってくれるような言葉。それすらも素直に受け入れられない程、今の俺は緊張やらなんやらで捻くれていた。
「……別にそれは俺とじゃなくてもいいだろ。むしろ俺じゃない大事なやつと一緒の方がいいはずだ」
かぐやには彩葉がいる。それは彼女が記憶を失っても変わらない事実だ。彼女の隣にいるのは相思相愛のその人であるべきで、俺なんかが立ち入っていい領域じゃない。ここ最近の同居生活の中で勘違いしていたが、所詮俺はかぐやにとって何でもない存在だ。俺はただ偶々彼女を拾っただけで、彼女は他に行くところもないから一緒に住んでいるだけ。それは記憶を取り戻すまでの仮初の関係性でしかなく、そこに名前を付けることすら烏滸がましい。俺が内に秘めるこの醜い感情すら、童貞野郎のカスみたいな勘違い以外のなにものでもなくて……
俺自身が拗ねるように口にした言の葉をきっかけに、考えないようにしていた負の考えがぐるぐる頭の周りを回り、脳内を満たす。そんな風に自己嫌悪で胸がいっぱいになりそうな俺を見て、かぐやはただこちらに近付き、
「ん!」
その唇を重ねてきた。
「……っ!?」
ドタドタドタッ!
そんな擬音で表現できるような慌てぶりで、俺は即座に彼女から距離を取る。それでもその感触は俺のそこに残ったままで……
え?は?なに?なんでこのタイミングでキス?俺なんかした?いや悪い意味で何かはしてるけども。いやでもじゃあなんで?
「ふっふっふ……!これが『うるせー口は塞いでやるぜ……!』ってやつよ……。どう?少しは頭スッキリした?」
ああなるほど俺の恋愛漫画とかから変な知識を得てこうなったわけね。いやだからってやたらめったら男の口をそうやって塞ぐのは駄目でしょ。早く訂正してあげないと……
「あっ、かっ、かぐ、かぐや?そそそ、そういうの、はっ、だ……」
あれ?舌が上手く動かない。頬が熱い。胸がドキドキする。かぐやの顔を直視できない。なん、で、こんなことに……
「んー?彩斗、顔赤いよ?ほんとに大丈夫?緊張で熱出ちゃった?」
かぐやの白魚のような手が俺の真っ赤な額に触れる。そのひんやりとした体温が伝わった瞬間、ビクンと体が反応したのがわかった。
「だだだ、だいじょうぶ、だから」
「そう?」
その言葉を聞いたかぐやがそっと手をどける。よかった。これ以上接触していたら俺の心臓が保たなかった。
「なっ、なあかぐや。なんでさっきあ、あんなこと、を……」
「だって彩斗が変なこと言うんだもん。何回も言ってるでしょ?私は彩斗が好きだし彩斗とがいいの」
好き。恐らくは、というか十割親愛の意味で使われたその言葉に、俺の鼓動は否応なく高まる。そうじゃないってわかってるのに。彼女の本当の好きはあの少女だけのものだって。
「す、好き、なんてそう軽々しく使うな。お前が本当に好きなのはここにはいない誰かだろ?」
「そうかもね。でもさ、好きな人が一人じゃなきゃ駄目なんて誰が決めたの?」
何を当たり前のことを、とでも言いたげにかぐやは続ける。
「ほら、彩斗の持ってた本にもあったじゃん。ハーレム?だっけ。全員同じくらい好きなら、みんなを好きでいていいんでしょ?」
なんというか、深刻なサブカル文化による汚染を感じる。ラノベ読ませたのは間違いだったか?
……それでも、彼女の言いたいことは伝わった。つまりかぐやはこう言いたいのだ。彼女は彩葉も彩斗も両方「好き」なのだと。そこに優劣を付ける気はないし、そもそも彼女の中ではきっと俺と彩葉が同じ位置にいるのだろう。
あの酒寄彩葉と同じ立ち位置にいるとか、圧倒的に解釈違いだ。原作崩壊もいいところだ。本当に意味がわからない。……でもそれ以上に、その考え方はかぐやらしいと思える。
ハーレムなんて概念を知らなくても、きっと彼女はこの着地点に行き着いただろう。好きな人に好きだと言えない物語なんて、バッドエンドもいいところだ。ならばそんなくだらない常識を破壊してハッピーエンドに塗り替えてみせるのがかぐやという少女であり、そんな彼女を好きになったのが俺である。
ああそうだ。俺はかぐやが好きだ。推しとして、一人の少女として、共に過ごす同居仲間として、
先の言動は全て嫉妬で構成されていて、俺はただ彼女の最愛になれない事実に拗ねていただけ。全く持ってくだらない。彼女は既に俺に好きを示してくれていたというのに。
「あー……つまりあれだな?かぐやは俺のことが好きで?」
「うん、そうだよ?」
「俺はそんなことにも気付かないまま好きな人に好きだと言ってもらえないことにいじけてたバカだと」
「うん……うん?彩斗って私のこと好きだったの?」
きょとんと首を傾げるかぐや。こいつも俺とは別ベクトルで鈍感というか……いや、こいつの場合は相手が好きを素直に口にしないタイプだっただけか。
「好きだぜ、かぐや。
ならくだらん意地なんて張ってないで、この思いを伝えるべきだろう。その方がきっと彼かぐやは喜ぶだろうから。……まあ後は、この思いをある意味最後まで口にしなかった
「……彩斗も私のこと好きなの?」
「ああ」
「もう、そうなら早く言ってくれればよかったのに。私も好きだよ!
「そう……ん?」
あれ?気の所為かな?なんか今変な単語が聞こえたような気がしたんだが。
「お兄、ちゃん?」
「そうそう!私って兄弟とかいないからさ?もしお兄ちゃんがいたらこんな感じなのかなあって思ってたんだよねー」
……恥かいたあ!俺が本物の馬鹿みたいじゃん!?今までの回想シーンはなんだったんだよ!?結局全部親愛じゃねえか!そりゃそうだよな俺が彩葉に勝てるわけねえもん逆に安心したわ!
結論、俺が一人で勝手に百面相してただけの勘違い野郎でした。めでたしめでたし。
「ねえねえ彩斗、今度から彩斗お兄ちゃんって呼んでもいい?」
「……いいよ。かぐやの好きに呼んでくれ」
「じゃあお兄ちゃん、緊張は解けた?」
緊張?ああいたなそんなやつ。色々ありすぎて忘れてたわ。もうそれどころじゃない失態晒したからもうどうでもいいわ。かかってこいよアンチ共。今の俺は実質無敵の人だぜ?
「解けた解けた。そんなアホみたいな悩み事なんてどうでもよくなったよ」
「ならよかったー。じゃあじゃあ、一緒に初配信がんばろうね!」
そんなことを言って笑顔で手を差し伸べるかぐやを見るだけで、胸の奥から「好き」が湧き出てくる。その笑顔の前じゃ全てがどうとでもなる気がする。これが惚れた弱みってやつかね。
可愛い妹のためだ。初配信、バッチリ決めてやろうじゃねえか。
そんでもって待ってろよ、かぐや。もうこの際原作がどうだとか知ったことか。この「好き」を絶対伝えてやる。お前を「好き」にさせてみせる。それが俺の目指すハッピーエンドだ。誰に言われるわけでもなく、俺は俺の手でそれを掴み取ってやるよ。
ふんふふ〜ん♪いやー、彩斗が私のことを好きだって言ってくれたのは嬉しかったなぁ。好きな人から好きって言われるのっていいね。胸があったかくなるもん。いつかは■■にも言ってもらいたいなぁ。……あれ?誰に好きって言ってもらいたかったんだっけ?
……まあいっか!その内記憶が戻ったらわかるでしょ!今はお兄ちゃんと一緒に配信を楽しまなきゃね!