ソードアート・オンライン CHOSE the start Over 作:鉄血
「なあ、イオリ。聞きたい事があるんだが今、いいか?」
「聞きたいこと?それってなにかな?」
呼び止めてくるユーリに私は振り返りながら足を止めた。
「ああ。その《トレンブリング・オックス》って言うモンスターはどんなヤツなんだ?牛だって言うのは分かるんだけどよ」
そう言えばユーリは始めてこの層に来るんだった。知らないのも当然である。
そんなユーリに私は言った。
「《トレンブリング・オックス》。ユーリの言った通り牛型のモンスターなんだけど・・・一言で表すならもの凄く大きい牛かな」
肩までの高さが二メートル半に達する、第二層特産の巨大牛型モンスター。
「その外見どおりもの凄くタフで攻撃力も高いの。でも、一番厄介なのはターゲット持続時間や逃げる距離がもの凄く長いことが一番かな」
そう言う私にザッシュは首を傾げる。
「なんでソレが一番厄介なんだよ?」
「えっと・・・例えば、私達が危なくなって撤退するって事になった時、モンスターから逃げるよね?普通のモンスターならターゲットが振り切れたらそのまま安全なんだけど、《トレンブリング・オックス》は普通のモンスターなら大丈夫な距離でもずっと追いかけてくるの。ここからだと・・・主街区の《ウルバス》まで追いかけっこすることになるかな」
「マジ・・・?」
「うん。しかも索敵範囲がもの凄く広いから《モンスタートレイン》になりやすいの」
そう言いながら私は遠い目をした。
今でも忘れられない。ベータテストの時、逃げる私に十数体もの牛が後ろから地鳴らしを鳴らしながら鬼ごっこをする羽目になったことを。
ちょっとしたトラウマを思い出し、私は眉間を押さえる。
そんな私にユーリは口を開く。
「だったらその辺りは気をつけねえとな」
「おう・・・流石に牛の群れとの鬼ごっこはしたくねえ」
そんな話をしながら暫くして、私達はキリトがいるという東の荒野へと辿り着いた。
「いた!アレが《トレンブリング・オックス》だよ。キリトさんは・・・いないかな・・・?」
辺りを見渡してもキリトの姿はない。
「ま、居なかったら居なかっただ。ささっとやっちまおうぜ。イオリ」
そう言うユーリに私は頷いた。
「うん、そうだね。さっそく倒そう!」
「「おう!」」
◇◇◇◇◇
「ブモオオオ・・・」
《トレンブリング・オックス》は弱々しい鳴き声を上げたのち、ピシリと身体が硬直する。
そしてそのまま大量のポリゴン片となって砕け散った。
肩で息をする私とザッシュに対し、ユーリは余裕そうだ。
「おいおい、もうへばったのか?」
「そう言うアンタは・・・余裕そうだな!」
「当然。リアルじゃ体力仕事をやってたんでね」
そう言ってユーリは曲刀をクルクルと回し鞘へと収めると、そのまま周りを見渡す。
「しっかし・・・キリトのヤツは何処にもいないな。もうここにはいないのか?」
トレンブリング・オックスを倒してからもう一度周囲を見渡すが、キリトの姿はどこにもない。
「もしかしたらもう違う場所に行っちゃったのかな」
「かもな」
となると、今度は《タラン》という街に向かうしかない。ここからあそこまではかなりの距離がある。
と、そんな私達に一人のプレイヤーが近付いてきた。
「そこの三人、ちょっといいか?」
「はい?」
接触してきたそのプレイヤーに私達は目線をそちらへと向ける。
そこにはこちらへとと歩いてくる褐色肌でスキンヘッドの見覚えのあるエギルと呼ばれていた男性プレイヤーだった。
「あ、お前!」
「ん?アンタは・・・ボス攻略の時の・・・」
どうやら向こうもユーリの事を覚えているようで、すぐに自分達の事を思い出してくれたようだ。
「ボス戦以来だな。あの攻略戦の時、お前がブラッキーの事を庇っていたのよく覚えてる」
「庇ったつもりはねえよ。ただ、ガキに責任を押し付ける彼奴等が気に食わなかっただけだ。それより・・・なんだ?そのブラッキーって?」
そう聞き返すユーリにエギルさんは言った。
「あのベータテスターのことだよ。全身が黒だからブラッキー」
「・・・それ、俺も当てはまらないか?」
「お前は、グレーや白も入ってるだろ?だからブラッキーとは呼べないな」
「そうかよ」
そう言って気さくに笑うエギルさんにユーリも釣られるようにして笑った。
そんなやり取りをした後、エギルさんは私達を見ながら口を開く。
「しっかし・・・お前達三人はどうしてここに?何かを探していたみたいだったが・・・」
そういうエギルさんに私は頷いた。
「はい。さっき話題に上がっていたキリトさんを探していたんです。とあるクエストについてキリトさんなら知っているんじゃないかって」
「どこにいるか知らないか?」
そんな私達にエギルさんは答えてくれた。
「ブラッキーの奴ならついさっきまでここにいたが・・・目当てのものがここに無かったみたいで、北東にある荒地に向かった。近くに《タラン》っていう街がある。もしかしたらそこにいるかも知れない」
「一足遅かったか・・・サンキューな。イオリ、どうする?ここからその《タラン》ってとこはかなり距離があるみたいだし、一回《ウルバス》に戻るか?」
ウルバスに戻るかと提案するユーリに私は頷く。
「そうだね。アイテムの補充もしたいし・・・一度戻ろう。ザッシュもそれでいい?」
「ああ、俺も構わないぜ」
「エギルさん・・・ありがとうございます!」
お礼をする私にエギルはニカッと笑って私達に言った。
「気にするな。困った時はお互い様だろ?ここがデスゲームになってからは尚更だ。お前達も無事生き残ってくれ」
「はい!」
そんな別れの挨拶をし、私達は一度、《ウルバス》へと戻るのだった。