高嶺累くんは種付けおじさんに狙われています。なお護衛も種付けおじさんです。 作:T-1000
とあるラブホテルの店長は、その日の夜をこう語る。
「いやぁ、凄まじいの一言に尽きますね。いきなり怒鳴り声みたいなのが響いたかと思うと、艶めかしい甲高い声が聞こえてきて……」
店長が手持ち無沙汰のように、両手でろくろを回すかの動きを繰り出す。
「あれを聞いて勃たなかった人、いないんじゃないかなって思うんです」
そう話す店長の下半身は、いつの間にか膨張していた。
その日の出来事を思い出してしまったのだろう。
「私にそっちの趣味はなかったんですが、ふふ。チェックアウトの時に見た彼の羞恥に歪む表情が忘れられなくてですね……」
◇◇◇
パンッ、パンッ、パンッ、と強めに手を叩くような音。
「ふっ、ふっ、ふぅぅん!」
「あんっ、あんっ、あぁぁん♡」
累とT-0721が泊っている一室で音が重なり合い、三重奏が奏でられる。
それらが次第に激しくなっていく。
「ふんっ、ふんっ、ふんっっ!!」
「お゛ッ♡ お゛ッ♡ ん゛お゛ッ♡」
外から漏れ出る二人の息づかいも、徐々に荒くなっていった。
「おじさんッ♡ おじさんッ♡ きてぇ……♡」
「累くんッ、ぬおおおおおおおおお……!」
T-0721が、うなり声をあげ、「うっ……」と小さく呟く。
その瞬間――
「ひぐッ、あうッあ、だめッなにごれ、僕もでちゃっ――ん゛あ゛あ゛あ゛っああ゛ッああああッーーーーーー!」
絶頂を知らせる叫びが、壁越しに伝っていく。
やがて、静かな間を置いて、ぴちゃぴちゃと子猫が水を飲むかのような音が流れてきた。
それらは、一定のリズムを保っており、時折「んっ、ふぅん、あむぅ」と悩ましげな声まで聞こえてくる。
「でるっ」
「んむぅぅぅうッ……!!」
それは、短い呻きと抗議の悲鳴だった。
ほとばしる水音が落ち着いたかと思うと、また、二人の息づかいも荒くなっていく。
そして、一拍置いて、また、パンッパンッと渇いた音が鳴り始める。
そんなことが四回か五回くらい、続くのだ。
周りの部屋に客がいないことも相まって、その一室の音だけが、やけに鮮明だった。
こうして、高嶺累は男でありながら、T-0721の女になった。
チェックアウト後の二人はよそよそしく、それでも抱き合いながら、ラブホテルを後にする。
種付けおじさんからは逃げられない。
存在チートにはいかなる存在も抗うことができない。
より、上位の存在であるなら、話は別だが。
◇◇◇
「……と言った感じで、君の男としての人生は幕を閉じる」
特大の妄想をひけらかしているのは、高嶺累のクラスメイト、
年頃の女子にあるまじき、歪んだ想いを累に抱いており、先ほどの話もその一環に過ぎない。
「華皺さん、あんまりそういう話は公の場でしない方がいいよ……」
累は周りの目を気にしながら、めぐるにやんわりと提言する。
机で突っ伏している男子たちは、居心地が悪そうに足をモジモジとさせている。
(俺の高嶺が……! 種付けおじさんなんかにッ……!)
(めぐるさん、続きはよ)
(累くんいいよね)
(いい……)
(T-0721かっけえ…………)
(T-1919はどうなったんだよ……!)
(エロエロコミック7月号)
(今日も累くんはかわいいなぁ)
(なんか今日の高嶺エロくね?)
(高嶺はいつもエロいだろ……)
(T-0721エロくね?)
(ホモ乙)
(高嶺好きのお前らは、ホモじゃねぇーって言いたいのかよ!)
(累くんは女の子だから……)
(は? 高嶺くんは男の娘だろ)
(じゃあホモじゃん)
(なんだァ? てめェ……)
「引き留めて悪かったね高嶺くん。是非とも、気を付けて帰ってね」
「うん……華皺さんもね」
一体何だったんだろうと思いながら、累は腕時計に目を向ける。
一方、めぐるがいなくなったのを見計らって、一人の男子が累に近寄ろうとしていた。
「あっ、もうこんな時間。はやく帰らなきゃ……!」
しかし、累はさっさと教室を出ていってしまった。
あわよくば、そんな想いを抱いた男子の勇気は無残にも打ち砕かれた。
「ドンマイ」
「あそこは声をかける場面だったろ……」
「というか、抜け駆けは許さねぇからな」
「今度、カラオケにでも誘ってみようぜ」
複数の男子が歩み寄り、彼に慰めの言葉をかけていた。
「そういえば、高嶺累の生写真あるけど、欲しい人いる?」
「全部クレ!」
「しねアホ!」
男子だけの教室は、まだまだ活気に溢れているようだった。
夕暮れの町をひとりで歩く累は、妙な既視感を覚えた。
(華皺さんの妄想じゃないんだから……)
めぐるの話の冒頭は、町中で種付けおじさんに襲われるというもの。
しかし、それはあくまで妄言に過ぎない。
変な考えを振り払いつつも、どこか不安になって、累は歩くスピードを速めていった。
「……えっ!?」
信号待ちをしている累の目に飛び込んできたのは、ハゲ・デブ・チビの三拍子が揃った中年の男。
背広姿であるものの、めぐるが語った人物像にそっくりだった。
話の顛末を聞いていた累は、自身と重ね合わせてしまう。
(ダメ……あんな話聞いたから、おちんちん勃っちゃう……!)
禁忌の妄想は、甘美な予感をもたらし、累の股間に刺激を与えてしまう。
しかし、元々が粗末なモノなので、隆起しても常人にはほとんど見分けがつかない。
やがて、信号が赤から青へと変わっていく。
累は一歩も動けず、その場で立ちすくんでしまう。
中年の男が累の元へと迫ってくる。
(はやく……お願い、通り過ぎて……!)
累の祈りを無視するかのように、中年の男が累の前に立ちはだかった。
(――犯られるっ……!)
だが、男から返ってきた言葉は、意外なものだった。
「先の災厄から君を守りに来た。私に君のボディーガードをさせてくれないか?」
めぐるの妄言は、現実のものとなった。
これから世界は、無数の種付けおじさんに埋め尽くされてしまうのか。
それとも未曾有の災害に見舞われてしまうのか。
誰も答えを知らない。
この、中年のおじさんを除いて。
見切り発車で書き進めて限界を感じたので、これで終わります。