夏休みというのは全生徒に平等にもたらされる。だが、その中でも努力をしていれば勿論ちゃんとモノに出来るというのは誰しもが分かること。そのためのハードルは勿論高いが……
と言うことで、ドイツに帰って協力者へのあいさつ回りを行っている。趣味であれば苦痛でなく努力をすることが出来る。そのためのおぜん立てだってするものだ。
「まぁ、前回の装甲については問題なく跳弾していましたし。個人的にはちょっと軽量化したいですが……」
「そうなると電圧を下げなければならない。」
「えぇ。軽量化つっても結局フォビドゥンがある以上限界はあります。耐電圧性はこのまま研究していただいて、こちらでもう少しPSの最適化を行います。」
「分かった。幸運を。」
「これからもよろしく。」
フォビドゥンの装甲を委託している鍛造業者へのあいさつ回りに来ている。名前は「マゼラン鍛造所」。社長が親父の知り合いで、その縁でこうして委託している。もっとも、やり取りしているのは技術者のおじさんだが。
「しかし、子どもなのによくやるよ。」
「技術に大人子どもは関係ないですよ。」
「そっちじゃないさ、こうして世渡りをしていることに驚いている。確かに技術だってそうだが、時々そういう子は出てくる。だが世渡りはそうはいかない。どちらかと言うと、私はそっちの才能が欲しかったよ。持っていないから昇進だって出来ない。」
「それを赤裸々に言うから昇進できないのでは?」
「全くだ。おしゃべりが過ぎたな。」
ま、しっかり作ってくれる人たちではあるので問題ない。多少言動に難はあっても、仕事に私情を持ち出す人であれば、今ここで生き残ってはいないだろう。
何せ元々が戦車などの装甲を作っていたメーカーだ。ISという産業にあまり良い印象を持っていなかったと聞くし、それに関わらず俺の仕事を引き受けてくれたのだ。
「では、また。次回は若干間が開くでしょう。私が新規に開発するISの代替機をお願いする予定ですので。」
「そうかい。」
「ちゃんと装甲で弾かせるものを依頼しますよ。」
「頼むぞ。軽量化はそろそろ飽き飽きだ。」
父のお古であるラボ。まだある程度稼働しているものだが、ほぼスタンドアロンのため早々ハッキングは出来ないものだが……まぁ攻撃自体はされるもので。
「結構な新世代機から受けるハッキングだな……物理キーも併用していて正解だったな。」
いくらセキュリティ性の高いIBMだろうが、結局インターネットに接続している以上は不正アクセスの可能性はある。解除は家の鍵とUSBを同時挿しだ。USBがあれば一応ラボへの指示は出せるが、俺のデバイスに全ての動作が通知される仕組み。
「どこからの攻撃かはまぁ分からんよな。ただ……実際に来て人が解除を試みてるな。ご足労ご苦労様ってな。」
物理キーがトリガーとなっている警備用スペクターが既に起動している。指紋スキャンも引っかからん。
「偵察型のデータはあるかな?」
スナイパータレットのデータを見るが、どうやら相手はISだったようだ。ハッキングを断念していることから電子戦機ではなさそうだが、特殊工作員のようなヤツだな。ただ、このISの型は知らん。
「発砲はしていないか、まぁここの戦力を割り出されたらキツイしな。」
リーパー3機が居たとて、ISに敵うかと言われれば難しい。フォビドゥンがあれば無事ではあるが……
「ま、輸送しておいて正解ってことで。」
臨海学校に持って行った4機のリーパーを搬入し、スタンバイさせていたリーパー3機を学園に持っていくことにする。
ラボの内部データは無事、改ざんも特に見つけられない。
「っし、学園に戻るか。」
ここで開発も出来はするが、お目当てのブツは学園から持ち出し厳禁なので仕方ない。再度施錠を行う……前にラボ全域のスキャン。俺が入っている間にドローンが侵入していちゃ困るしな。もっとも、シールドルームなので内外への電波は遮断されるし、ソナーパルス持ちのスペクターが定期的に巡回するため隠れる場所はほぼない。
「よしOK。」
「てなわけでお願いします。」
「滞在時間が本当に短いな。夏休み終わってから4日だぞ。」
「向こうでやると多分2ヵ月は戻らないんで。あ、あとこれお土産です。おすすめのビール。」
「気が利くな、だがお前は日本国内で飲むなよ。」
「その分、向こうで飲んできましたよ。」
「明日から私も外すが……釈迦に説法か?」
「ちゃんと守りますよ。A級の事案なんでね。」
「分かっているならいい。」
そう言われて学園の地下室へと案内される。
いくらかのセキュリティを抜けて、ようやくお目当てのブツとご対面だ。
「……ゴーレムという無人機のISコア。登録がない故にIS学園で監視しており……研究目的として深部を解析しても誰も文句を言わない。」
「悪いが、私が手伝えるのはここまでだぞ。」
「何、こうしてこれを研究できる設備を整えてくれただけでも大きいです。」
「まぁ、頑張れよ。」
織斑先生がルームから退出する。この学園の深部へと入った俺だが……なるほど、確かにこのコアは今使っているラファールとは別物だ。思考制御の汲み取りを行うビッグデータが存在せずに、無人機として最適化されているタイプだ。
「脳波測定関連がまるっきりないが、その分AIが使用できるメモリはデカいな。ISの通常メモリと容量は同じか……あー、素材さえあれば新規コア作成自体はそんな難しくないな。技術自体は大体が10年前から使われているもんだよな、流石に。じゃなきゃあっさり倒せるはずがねぇ。」
勿論博士が発見しっぱなしで実用化していないとは思わない、が得てして精密機械の部品を交換するのは常々バグとの闘い。交換しなきゃならん時はもう年単位でデバッグ作業。博士とて例外ではないだろう。
だが……真なる問題はそこじゃない。データなら作成できる範囲、それこそ半年あれば出来る。エネルギー源も兼ねているメモリの方だ。
「コイツの素材はマジで何だ?実物があるから解析は普通に出来るが、少なくとも地球上で生成できるもんじゃないし、これが元々あるんだったらもっと採掘されてていい。博士が独占出来る代物じゃねぇぞ。」
親父のバッテリーも普通にイレギュラーな代物だが、国の機関が腰据えて研究すればあと2年くらいあれば普通に安定稼働させられるものだ。というかもう作り始めていなければ遅い。
が、コアの素材は一体何だか分からん。何だこれ、解析しても作り方が分からないんじゃどうしようもねぇ。今のフォビドゥンくらいの大きさに収められても機能的に若干難が出そうな程度にはメモリ容量もエネルギー問題も出てくる。
「別世界から降って湧いてきたって結論しか出ねぇぞこんなもん。暴走の危険がない、出力自体も核までとは言わんがそれなりなノーコストエネルギー源。核なんて危ないもん使わなくていいじゃねぇかよ全く。」
と、言うことでエネルギー源はバッテリーで代用することにした。少なくとも自分の技術では敵わんところだし……そもそも、あの博士が自動製作していないのがコアだ。博士自体もそうそう見つけられるものではないか、現在でも切るのを躊躇うほど貴重な素材かの二つ。博士が全て独占しているのなら、あんなコソコソ逃げ回る真似はしなくてもいい。
「……よし。進級前に完成を目指すか。」
今の学年の勉強はほぼ済ませてある、というかそもそも皆より学年が一つ上だ。それなりに良いスクールに通ってたからカレッジにも通えるぞ。
……というか、もうカレッジで研究してくれという声も届きそうなもんだが、そこは先生がブロックしてくれているもんだろうな。
「……もうこんな時間かよ。」
俺の稼働時間はきっちり8時間。学校ある日なら3時間が上限と決めている。だが昼に入ったはずがもう深夜だ。いつもより二時間ほど多くのめり込んでいたようだ。
「やべ、今日動いてねぇ。ちょっと走るか。」
地下から出て、きっちり施錠をしてから音楽を流す。軽く体操をして凝った体をほぐしてから、スタートを切る。
「……いい曲ね。何て曲かしら?」
「Purple Magic、『Times Are Changeing』。新時代に移り行くときの葛藤と混乱を描き、前に進もうとする曲だ。馬鹿のお偉いさんにも聞かせてやりたいだろ?」
「ノーコメントと言わせてもらうわ。」
「アンタ自身が国家代表だからな。更識のお姉さんよ。」
簪の面影がある少女……楯無と言ったか。まぁ俺と年はタメだな。それが、走り出した俺の後ろを着いてきていた。
「で、何か用か?」
「聞いてるわよ、あなたが前の騒ぎを終結させたって。」
「生徒会長さまはやはりお耳が早い。マンガみたいな生徒会が強権を持つとは。」
「世界からうら若き少女たちを集めてる学校の生徒代表ですもの。そういう事は私たちも承知しておかないと。」
「国家代表とはいえ、そんなに背負いまくることはなかろうに。」
「……あれ、気付いてなかったのかしら?」
「何にだ?」
「いえ何でもないわ。」
「……わざわざ隠してるもんを暴く真似はしねぇよ。なんかアンタのとこヤバそうだし。」
「察してることは隠さないのね。」
「想像するだけなら勝手だろ?人のアイデアにまで著作権やら肖像権を適応するってか?」
「やりづらい……よく相手できてるわね……」
「慣れたんだろ。」
しかし、それなりのスピードでランニングしてるのにコイツ息が乱れねぇな。流石は代表ってところか。多分運動能力はラウラとタメ張るくらいか、それ以上か。
「で、君は色々やっているようだけれども。」
「どれだ?備品の武器改造か?この前デュノアから青筋立てられながらそれの設計ライセンスの売却を持ちかけられた話?」
「待ってそれ聞いてない。」
「この前備品の打鉄を改造したこと?」
「それは知ってる。何でISに弓矢を搭載したのかしら?」
「知ってるか?誘導されないと思ってる武装ほどよく刺さる。」
「まぁもう驚かないわ。」
「因みに名前は『打鉄“狐憑”』。狐様をモチーフにした機体だぜ。」
「何でそれをモチーフにしたのかしら、というか何で作った?」
「実弾もフレスベルグみたいに曲げられないかなーって。」
「馬鹿じゃないの?」
馬鹿でも何でも、ISコアの構造を理解するには必要だぞ……とにかく作りまくって、データを集めれれば対応できる武装も増えるからな。
ま、こういうロマンはやはり簪が一番分かるってか。最近簪もなんか自分で作り始めてるし……あ。
「生徒会長サマよ、一つ聞きたいんだが。」
「何かしら?」
「アンタって生徒の人事系にも口出しできるのか?」
「……何する気?」
「パイロット科とエンジニア科に分ける。」
「……出来ないことはないけど、叶えてあげる義理もないわよ。」
「ま、あの時俺の機体諸々運んできてくれたしな。しゃーない……が、どっかでちゃんと提起させてもらうぜ。」
「狐憑」の概要。元ネタありますが名前が連想ゲームの先にあるため、ほぼ変わっている。分かったら凄い。
打鉄“狐憑”
銃火器を使用せずに、和弓(のようなコンパウンドボウ)である“狐火”を使用するテクニカルな機体。防御は並だが、機動力と火力が高い。地味ながらもラストスタンド機能を備えている。
前回フォビドゥンの処理能力に女子たちが悲鳴を上げたため、普通に使える機体の習作。尚遠距離手段。
・金狐
誘導式の3本の矢が発射される。中身は小型AGM-114。何気にBT技術を使っていないので第二世代にも互換性がある。こいつ自体は優秀なのだが……
・銀狐
残された鎧部分の隙間から展開される。ヴォ―テックスシールドのそれだが、操縦難易度を下げるために反射は想定しておらず、単に飛び道具を反らす目的となる。SEを噴射する性質上、これをブースターとしても利用している。
・白狐
薙刀。SEによる斬撃の複製能力があり、追撃や広範囲攻撃など自由自在。
・黒狐
一対の棍。同時に叩きつけると周囲に衝撃波を放つ。手数も火力も中々なので主力武器。
・天狐
大型マニピュレーター。普段は籠手として機能する。展開したら、これで相手を掴む→銀狐によるSE中和→地面叩きつけの大火力コンボを行う。試算だと前述の叩きつけ→白狐の追撃で銀の福音が沈む。絶対防御なしで対地速度マッハ5の叩きつけを耐えられる兵器が他にあったら教えてほしい。