東方Projectの魂魄妖夢のはなしです

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東方Project〜白銀の庭師と迷い桜の道標

冥界に広がる白玉楼の庭園は、今日も静謐な空気に包まれていた。

半人半霊の庭師、魂魄妖夢は、愛用の二振りの刀――背中の長刀『楼観剣』と、腰の短刀『白楼剣』の鯉口を丁寧に確かめると、大きなため息をついた。

彼女のすぐ目の前では、主である西行寺幽々子が、ひらひらとした扇子で口元を隠しながら、いつものようにふんわりとした笑みを浮かべている。

「というわけでお館様、本当にこれだけのために、私は現世の迷いの竹林まで行かなければならないのですか?」

「ええ、そうよ妖夢。春の陽気に誘われて、人間の里の近くにだけ咲くという『八重桜の塩漬け』がどうしても食べたくなってしまって。あれを白玉楼の御団子に添えたら、きっと冥界の幽霊たちも大喜びよ。もちろん、私の胃袋もね」

幽々子はそう言って、お腹のあたりを愛おしそうに撫でた。妖夢としては、主の食欲のためだけに現世へ駆り出されるのは日常茶飯事だったが、今回の目的地は少しばかり厄介だった。

迷いの竹林、あるいはその周辺の魔法の森。あのあたりは、最近になって妙に凶暴化した毛玉や、悪戯好きな妖精たちが群生しているという噂を耳にしていたからだ。

「分かりました。お館様がそこまで仰るなら、この魂魄妖夢、一瞬の遅れもなく任務を全遂してみせます!」

妖夢はキリッと眉を吊り上げ、胸を張って一礼すると、冥界の境界を越えて現世へと飛び立った。

幻想郷の空は、抜けるような青さだった。

妖夢は緑色の衣服の裾を風にたなびかせながら、目的の森の上空を静かに滑空していた。現世の春の空気は、冥界のそれよりも少しだけ重く、生き物たちのエネルギーに満ちている。

地上に降り立つと、そこは竹林の一角に隣接する、鬱蒼とした古い雑木林だった。木々の隙間から差し込む木漏れ日が、妖夢の短い白髪をきらきらと輝かせる。

「確か、このあたりに人間の里の商人が隠し持っている、特別な桜の木があるはずなのですが……」

妖夢は周囲を警戒しながら、一歩一歩、確実な足取りで草むらを踏み分けて進んだ。

その時、彼女の半霊(幽霊側の身体)が、ピクンと奇妙な震えを感知した。半霊は妖夢の感情や感覚とリンクしている。それが怯えるように縮こまったということは、すぐ近くに明確な「敵意」が存在する証拠だった。

ザザザッ!

突如として、周囲の茂みから無数の影が飛び出してきた。

それは、普通の妖精よりも一回り大きく、全身から禍々しい妖気を放っている『はぐれ妖精』の一団だった。その手には、おもちゃのような、しかし十分な殺傷力を持つ弾幕の光球が握られている。

「通りゃんせ、通りゃんせ! ここは迷いの森、命を置いていきゃんせ!」

妖精たちは声を揃えて不気味に囃し立てると、一斉に妖夢に向けて五彩の弾幕を掃射した。

空中を埋め尽くす光の嵐。普通の人間の目であれば、一瞬で視界を奪われて立ち尽くすほどの密度だったが、妖夢の瞳は冷静だった。彼女の戦闘における集中力は、幻想郷でも指折りの域に達している。

「妖術の類いなど、私の剣の錆にもなりません!」

妖夢は背中の『楼観剣』を一瞬で引き抜いた。一握りの長さ、一振りの速度。

彼女が放つ剣気は、瞬時に周囲の空間を凍りつかせるほどの鋭さを持っていた。

「人道剣『無限の妙諦』――っ!」

閃光が走った。

妖夢の姿がその場から消えたかと思うと、次の瞬間には、展開されていた弾幕の真ん中を一直線に突き抜けていた。

キィィィン、という美しい金属音が遅れて響き渡る。妖夢が楼観剣を鞘に収めると同時に、空中を埋め尽くしていたはずの数百の光球が、まるで硝子の細工のように一斉に真っ二つに叩き切られ、光の塵となって霧散した。

「な、何がおきたの!?」

妖精たちは目を見開き、驚愕の声を上げた。彼女たちには、妖夢が剣を抜いた瞬間すら見えていなかったのだ。

「私の楼観剣に斬れぬものなど、あんまり無い! さあ、大人しく道をあけなさい!」

妖夢は格好良く決め台詞を放ち、刀を構え直した。しかし、妖精たちも引き下がらなかった。今度はさらに数を増やし、森の奥から続々と増援が現れる。数に物を言わせて、妖夢の動きを封じ込めようという魂胆らしかった。

「しつこいですね……! ならば、次は手加減しませんよ!」

妖夢は腰の『白楼剣』にも手をかけた。白楼剣は、斬られた者の迷いを断ち切る刀だ。

彼女は二振りの刀を交差させ、大地を強く踏みしめた。半霊の身体が大きく膨らみ、妖夢の周囲に白い魔力の渦を形成していく。

「空観剣『六根清浄』!!」

縦横無尽に奔る、圧倒的な二連撃の剣閃。

それは嵐のように森の中を吹き荒れ、妖精たちの退路を完全に塞ぎながら、彼女たちの持つ妖気だけを綺麗に削ぎ落としていった。白楼剣の力によって精神的な敵意を失った妖精たちは、ぽかんとした表情を浮かべ、そのままふらふらと森の奥へと逃げ去っていった。

「ふぅ……。手応えの無い相手でした」

妖夢は刀の刃をそっと拭い、再び鞘へと戻した。少しだけ息が上がっていたが、心地よい高揚感が身体を包んでいる。主のお使いとはいえ、こうして自分の剣技を極めるための実戦は、彼女にとって最高の修行だった。

騒がしい戦闘が終わり、静寂を取り戻した森の奥へ進むと、開けた場所に一本の美しい桜の木が佇んでいた。

それは、現世の遅咲きの桜。薄桃色の花弁が、春の終わりの風に揺れて、ひらひらと舞い散っている。

「ありました。これですね、幽々子様が仰っていたのは」

妖夢はほっと胸をなでおろし、木に近づくと、丁寧にいくつかの花を摘み取って、用意していた綺麗な竹筒へと収めた。これで任務完了だ。

冥界へと戻る帰り道、妖夢は夕日に染まる幻想郷の空を眺めながら、白玉楼で待っている主の姿を思い浮かべていた。

きっと、自分がこの桜を持ち帰れば、幽々子は子供のように目を輝かせて喜び、すぐに西行寺家の特製団子を作らせるのだろう。そして、「妖夢も一緒に食べましょう」と、いつもの優しい笑顔で誘ってくれるはずだ。

(まったく、人使いが荒いお館様なのですから。でも……あの喜ぶ顔が見られるなら、たまにはこういうお使いも悪くありませんね)

妖夢は胸元のお土産をそっと確かめ、半霊をゆらゆらと揺らしながら、愛する我が家へと向かって飛行速度を上げるのだった。


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