静寂の弟子が次代の英雄に加わるのは間違っているだろうか 作:ダンまちにヘラファミリアを求める人
「は?」
地上で解毒薬をかき集めたベートにフィンが事情を説明した後、第一声がそれだった。
「信じがたいけど事実だ。彼は一ヶ月でレベル2にランクアップし、パーティーをくみ、ゴライオスを倒した。そしてポイズンウェルズを完全に解毒した。……まさかアイズのレコードを抜く者が現れるなんてねというか僕たちのこれまでの頑張りはなんだったんだろうねアハハ」
規格外すぎて虚しくなるほどの、圧倒的な成長速度。
原因は一つしかない。
あの酒場のベートの言葉だ。
実は喜ばしい気持ちも無くはないが……。
「……」
「って、そうそう。解毒してくれた、レベル4のアルテリアという魔導士が君のことを呼んでいたよ」
「あ?」
「笑顔でね。気をつけた方が良いんじゃないかい?」
「……俺がレベルも下の
「まあね。……ただ、あれほど感情の読めない笑みは、僕も初めて見た。正直すこし恐ろしかったかな。夜は気をつけた方がいいかもね?」
「寝てる最中だろうが、敵意持ってる奴に気づくぐらい楽勝だ」
彼がレベル4どころか、レベル2に負けるまで、あと数時間。そして、レベル4に虐待されるまで、さらに数時間のことであった。
「……あ」
「あ?」
少しでも赤字を減らそうというフィンの命令で解毒薬を売っていたベートは、アイズにリヴィラを案内されていたらしい
「……ハッ。
ベルを庇うような体勢のアイズにモヤモヤが少し。
「……ごめんn」
ベルの顔の前にすっと腕を伸ばし、
謝罪の言葉を遮るアイズ。
「でも、危ない人もいたから……」
責めるのはお門違いだと訴える。
さらにモヤモヤが増す
「」白髪に深蒼の瞳、外見が整ってはいるものの
服装は戦闘向けではない。魔道士か治癒師だ。
身の程を知れクソババア、と心の中で呟く。
おそらく第一級冒険者であるアイズとベートに気配を悟らせなかったのは、何らかの魔法の類いだろう。
アイズはベートとは違い、アルテリアを警戒していた。
(この気配……私と同じ。精霊がいる)
精霊が宿っている時点で、ある程度の身体能力は保証される。その上、先日の
警戒するアイズと、分析を続けるベートの思考を断ち切ったのはベルの声だった。
「あのー、僕さっぱりわからないんですけど、なんで急に戦うことになってるんですか?」
きょとん、とした顔のベル。
「……まず、ベルに酒場で暴言をはいたのはコイツであっているな?」
「……はい」
すっと俯き、顔を暗くするベル。
ずんっとアイズの気持ちも重くなる。
アイズにとって、ベルは穏やかで幸せな夢を運んで来たくれた白い兎。
酒場であの時、自分はどんな顔をしていただろうか。どんな顔をしてあげられただろうか。
ーー私はベルに、何か、償いをしたい……
リヴェリアにもそう言った通り、アイズはベルにあの一件に関して負い目を感じていた。
「ただの事実だろーが。身の程を知れっつってんだよ俺は」
そんなことも意に介さず、
「うるさい黙れ……そう、コイツの顔を見たら殺意が湧いた。現在進行形で」
煩わしそうに手を振り、瞼を閉じて極力ベートを視界に入れないようにしているアルテリア。当然、その機嫌はすこぶる悪い。
ベルがもし居なければ、その場で
『貴様には聞いていない。悪いのはやはり口だけでなく頭か、ふふふ少し躾けてやろう』
とか言いながらフルボッコにしていたところだった。というか後でする。
「だがファミリアの借りを返すのが先だ」
先に借りをかえす、と。
♢♢♢♢♢
ロキファミリア野営地、中心地にて。
(ななな、何をやってるんですか、あの人達はぁー!?)
レフィーヤは心の中で絶叫していた。
正面に距離をとって向かい合うのはベートとベル、左後ろに控えるようにアルテリアがいた。
ベートの目つきがいつにも増して悪いのである。
「ハッ……やられる覚悟はできてんだろうな?」
「ベートさんこれ以上負けフラグ立てちゃダメっす!?」「あ?」「ひっ……」
苦労人のラウルはご愁傷様。
ベートはじっと観察を続けていた。
(あのサポーターと鍛治師、どこに行きやがった……?)
消すのは気配そのもの。
視覚のみならず、聴覚、嗅覚に反応がない。
術者のみならず、仲間全体にかけられるのは十分な脅威だ。
レベル2の奇襲はともかく、いきなりレベル4の全力の超長文魔法を喰らえば、ベートといえども確かなダメージになる。
(まあ良い……詠唱してる間に蹴り飛ばすだけだ)
「始め!」
フィンの声と同時にベートは足に力を込め地を蹴った。
レベル5の全力でクレーターができた地面も意に介さず、たった一蹴りで肉薄する。
片や、直感に従い全力で後ろに跳んだベル。
片や、微動だにしないアルテリア。
「まず一人」
顔に笑みを刻み、先に目障りな女を、殴り飛ばそうとして。
「今の主役は私ではなく、ベルだ」
ーーすっ、と軽く受け止めるようにベートの拳と体の間に手を挟み、受け止められた。
「ーーは!?」
明らかにありえない反射速度に、ベートの目が限界まで見開かれる。
殺しきれない威力で吹き飛ぶ体。
女は吹き飛ばされてなお、顔色一つ変えない。
ーーこの移動手段は便利だ。
正直、距離を置くために動くのが億劫だった。
それだけの話だ。
(フェイクの詠唱をする余裕は……レベル6にはあっても、レベル4にはないな)
何より秘匿すべきは己の元主神の存在。
よって繋がりを悟らせかねない詠唱文を不用意に聞かせたくない。
あと多分、威力を手抜きしきれない。
ーーアレを出してもまあ、問題はないか。
天井に叩きつけられる前に、彼女は手を前に出した。
「
「……あ?」
アルテリアを吹き飛ばす一瞬で何かしたのか、ベルの気配まで感知できなくなったベートは苛立っていた。
(少なくともアイツの魔法じゃねぇ……マジックアイテムか?)
ーー実際は、勝負を始める前からこっそり消音のマジックアイテムを使って溜めたチャージで森の中に跳んだだけなのだが。
ベートは舌打ちをしつつ、周囲におそらく居るであろうベルと、先程吹き飛んだアルテリアを警戒する。
未だ宙高く舞う体。
微笑と共に、突き出される右手。
視線がぴたりと合った。
唇が開く。
「てめーーー」
「ーーエルファリア」
何を、という声は途絶えた。
右手から一瞬で展開する、蒼き光を帯びた
(ーー無詠唱魔法!?)
ベル・クラネルと同じ、全魔導士絶叫案件。
違うのはただ一つ。
純然たる威力である。