静寂の弟子が次代の英雄に加わるのは間違っているだろうか 作:ダンまちにヘラファミリアを求める人
「ーーッ!」
今度はベートが直感に従って跳ぶ番だった。
間髪入れず、つい数秒前いた場所に氷の剣が降り注ぐ。
ざっと二十数本といったところか。
(威力はそれほどでもねぇ。だが無詠唱かつ長射程ーーしかもアイツ、吹き飛ばされてる最中に魔法を撃つだと!?)
その極められた平行詠唱は、
ぎりり、とベートの歯が噛み締められる。
一方数本の氷の剣を使い、ふわりとアルテリアは反動で地面に着地した。半径10mの魔法円が足元に広がる。
「ーー!? てめぇ、その髪……」
アルテリアの髪が、ゆっくりと瞳と同じか少し薄い青に変色していく。
アルテリアは己の蒼色へ染まった毛先を忌まわしそうに見た。
「チッ……やはり」
「このクソババア……!」
「あ?」
ロキファミリアは騒然としていた。
たかがレベル4の後衛魔導士が、余りにも強すぎる。
「フィン、……たぶん、私と同じ。精霊がいる」
「なんだって?」
アイズの一声で、天幕が天地のひっくり返ったような喧騒に包まれる中。
アイズは妙な懐かしさを覚えていた。
視線があの蒼い氷に自然と引き寄せられる。
母なる風が、同じ精霊の血だと訴えていた。
「せ、精霊ぃ〜!?」
レフィーヤは地面に座り込んだまま、呆然としていた。
あまりにも規格外すぎるその威力。
アイズの風と同程度ということはつまり、彼女の実力はレベル5最上位クラスだ。
精霊の恩恵はレベルを一つや二つ、ひっくり返すほどのポテンシャルを持っている故に。
(ベートさんに、勝ってもおかしくない……)
「だが……」
「ああ、おかしいのう」
「一度も噂を聞いたことがない」
ロキファミリアの三首領は視線を交わした。
こんなに実力があるのなら、噂になるのが当然だ。もしそれが、急速に力をつけているから噂が広がっていない、あるいは目撃する人がいない戦場でしか戦わないからだとすると……
(((
「ーー後で鎌をかけてみるかい?」
主語も何もなく、独り言のようにフィンが呟く。三首領は意思疎通ができる程度には、長い間ともに戦っていた。
「……頼む」
潔癖なエルフとして騙すような真似は抵抗があるリヴェリアだが、こればかりは仕方がない。
難しい顔をしながら、二人の戦いを見学した。
♢♢♢♢♢
数分経過後。
地面にはいくつもの剣の残骸と、クレーターが広がっていた。ダンジョンの修復スピードも間に合わない速度だ。
距離をとって向かい合うのは、一組の男女。
「この程度か?」
「チッ……てめぇのマインドはどうなってやがる!?」
荒い息を吐くベート。
優雅な仕草を崩さないアルテリア。
どちらに余裕があるかは明白だった。
「クソッ……」
目つきをより鋭くしながら体勢を整える。
(氷の剣の数が多くて攻め落とせねえ……防御と攻撃を両立させてやがる)
顔を顰めながらも、確かに強いかもしれないと認めざるを得なかった。
すっかりベルのことは意識外である。
涼しい顔のアルテリアはしかし、そこで目と同じ高さあたりまで蒼く染まっている髪を見た。
「こちらももう、限界だな……」
「(そろそろですよベル様)」
リリとベルとヴェルフは森の中で潜伏していた。
完璧に消えた音、気づかれない間のチャージ。
ズルのようで気が進まなくもないが、アルテリア曰く『絡め手を使おうが、並の第一級冒険者なら第二級相手に勝つのは当然だ』
とのことである。
「(あと一撃ぐらいかな?)」
アルテリアは、徐々にベートを森の側へ追い詰めていた。
作戦としては、
ーーアルテリアは森に誘導し、リリが細かい嫌がらせで足止め。その間にベルがヴェルフの作った炎の魔剣にフルチャージをして残光を放つ。ヴェルフは待機。
ざっくりこんな感じである。
ちなみに、ベートの持つ
「(これをぶつけてやります……)」
リリはとある小袋をにぎりしめた。
「ーーーこれで最後か」
閃いた手と共に、これまでと一線を画すレベルの量の氷の剣が解き放たれた。
「チッーー!?」
舌打ちしつつ、相変わらず僅かな隙間もなく降り注ぐ氷の剣に目を眇め後退する。
意地でも背を向けず、地面を後ろに向かって跳ぶこと三度。
(距離を離すのが目的じゃねぇ……?)
木々を薙ぎ倒しながら後退したベートだが、歩み寄るアルテリアに不審な顔をした。
ーー手元に残した数本の氷剣で常に周囲を守りつつ、莫大な量の残りの氷剣で圧倒する。
その戦い方は速度重視のベートと相性が悪く、苦戦していたのだが……。
「何考えてやがる、てめぇ?」
アルテリアは確かに依然として数本の剣を手元に残している。だがその数本だけでは明らかに守りが薄すぎる。
(あの氷剣……やけに狙いが粗いと思ったが、当てるのが目的じゃねぇ。誘導か?)
とはいえ、ものは試しだ。
強く地面を踏み込み、女に飛び掛かる
「……は!?」
その、間際。
何かに足を引っ掛けて、姿勢を崩した。
♢♢♢♢♢
即座に姿勢を立て直しながら驚きを一つ。
(ーー罠!?)
天井の光で照らされ、白い糸がキラリと光る。
(だが……さっきまでは、なかった)
視線が糸をたどる。
ーー糸は、木に刺さった矢に結ばれていた。
ヒュッ、と風切り音が背後でした瞬間、条件反射でベートはしゃがんだ。僅差で頭上を矢が走り抜ける。
新たな糸が倒木に刺さるのを横目に見つつ、すぐさま姿勢を立て直し、警戒を新たにした。
「そこか!」
枝を拳で叩き折り、隠れた射手を問答無用で蹴り飛ばす。鈍い衝撃が伝わってきた。
「〜〜っ!?」
「あ……?」
ベートは苛立っていた。
今日何度目かも知らない苛立ちだった。
一向に出てこないベル・クラネル。
本気を出さないアルテリア。
何より、無様に誘導された自分。
八つ当たりでもするように、ベートは普段の自分なら絶対にしない行為をした。
ーーー即ち、抵抗も出来ない哀れな非力な少女にさらに加虐を加える。苛烈に、靴底で蹴りを叩き込む。
何発も、何発も。
離れた地で見守る観客達の同情と憐憫しか。
「ーーーーぅっ」
顔を下にして、どさりとリリは地に伏した。
顔を歪め冷静になったベートが舌を弾き、雑魚は寝てろと言い捨てて背を向ける。
彼が心の中で自己嫌悪を感じていることなど露ほども悟らせない。
足元に注意を払いつつ、森から抜けてアルテリアのいる平地に戻ろうと足を進めた。
ベートの背が遠ざかる。
リリは、顔を上げないまま嗤った。
演技だと割り切ることなんて、できる訳ない。
慣れた泥と血の味が口の中に広がる。
リリの脳裏に過去の情景が走馬灯のように浮かんでは消えていく。
サポーター。無能な荷物持ち。いざという時の囮役。報酬なんてもらえなくて当然で、約束なんて綺麗事は守られた試しがなくて、少し金を得てもすぐ奪われる。
弱肉強食の残酷な世界がリリにとって全てだった。だから誰も信用できなくなった。
この小さな体に降り注ぐ嘲笑と、比例して心に降り積もっていく怨恨。
そしてーー
灰を被り浅ましく金を掠め取る路地裏の少女に、差し伸べられた白い少年の手。
少女はーーリリは、うつ伏せのまま勢いよく手を振り上げた。
きつく握りしめ、拳の間に隠し持っていた
放物線をえがきつつ、勢いよく飛ぶ小袋。
それは、アルテリアの氷剣の大規模攻撃の気配を察知して避けたベートの死角に。
ーーまあ、恨みがこもるのは当然ですよねぇ!
心の中で仁王立ちするリリルカ・アーデ14歳。
……彼女はアルテリアと会ってから、別
それはともかく。
「ーーーぐあっっっっっ!?」
凄まじい悪臭が第一級冒険者の誇る鋭敏な嗅覚を直撃した。
(何だこのっ、臭ーーッッ!?)
嗅覚が激痛に支配され目の奥で光がまたたく。
全ての感覚を突き刺し、真っ白に塗り潰す。
一瞬で本能が戦闘も何もかもを放り投げて緊急信号を発する中、ベートは全力で逃げた。
勢いよくとびすさり、視界を遮れる森の中にうずくまると生理的反応で自然と目から涙がこぼれ、すっかり麻痺した鼻の奥が鈍い痛みを放つ。
一気に呼吸が乱れ、鼻をつまみながら口で息をする。
少し傷ついたベートだった。
少しでも匂いを拭おうと鼻を腕に擦り付け、地面を転げ回りたくなる衝動を何とか堪えながら、心の中で苦悶の呻き声を発する。
「っは……はぁ、はぁ、はぁ……」
荒い息を整えようにもうまくいかない。
そして、なんとか起き上がった瞬間にそれは来た。
消音のマジックアイテムを外し、高らかな鐘の音を響かせながら。
ーー歯を食いしばり、視線は鋭く。
渾身の力をもって神速で振り下ろされる聖火を帯びた大剣。
「っっーーーー
目を見開き、咄嗟に魔法吸収する己の靴を前に出そうとするも間に合わない。
「ーーっ」
林の中、炎の直線を引きながら目前まで迫る火炎流を前に、ベートの時の流れが緩慢になる。
ーーアイツ、姿が見えねぇと思ったら……
ーー体勢からしてこれは魔法ではなく斬撃ーー?
ーーこの斬撃は一度だけどこかで見たことが……
避けられない致命傷を前に思考が加速する。
かすかな既視感を覚えた刹那、火炎流がベートの体を飲み込んだ。
肌の灼ける音。骨をおる音。
斬撃が一直線に体を両断したこと。
そこで意識が途絶えた。
この後の夜さらにアルテリアさんにリンチされるらしい。
プライドめちゃ高いベートさんにとって、アルテリアいるとはいえベル達に衆目の前でボコされたのって十分な罰になってると思うけど。
ボールス「ヒャッハー! いつも強さを盾に見下してくるアイツが負けてるぅ!」
それはさておき、カタツムリより進歩するのが遅くて相変わらず小学生並みの文章力です。読んでくださる方本当にありがとうございます。