スリーさんは透き通るCODEを作りたい 作:頂きに立った
この作品はかなりオリジナル色の強い作品となっております
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「動くな、そこにいるのは分かってる」
建物の屋根の上に、一人の少女がいる。
少女は黒に白いメッシュがかかったような髪をしており、着ている制服(?)もボロボロだ。
その少女は、何もない虚空に銃先を突きつけたいた。
もしこの光景を他の誰かが見ていたら、彼女の頭がおかしくなったと思うだろう。誰もいない空間に向かって、銃を突きつけ威嚇しているのだから。
だが、今回ばかりはそうじゃない。なぜなら──
(あの〜クリアカプセムさん? めっちゃバレてるんですけど!?)
そこに透明化中の俺がいるからだ。
自身の体をもう一度確認するが、姿は完全に消えている。つまり彼女は、己の純粋な「勘」だけで俺の存在を察知したというわけだ。
いや、本編でも富士見さんが透明化したスリーに感づく描写はあったけどさぁ!
にしても早すぎだろ! どうなってんだよ!!?
「出て来る気がないなら、このまま撃つぞ」
どうやらあちらは見逃してはくれないらしい。銃弾一発が致命傷になるこの体で、これ以上隠れるのは愚策だ。
俺はクリアカプセムを取り出し、回転させる。
『クリア』
システムボイスとともに透明化が解除されていき、俺の姿が浮かび上がってくる。少女は俺の姿を見るやいなや、目を見開いた。
「な……大人の、男? っていうか、あんた……!」
少女は驚きの声を上げると同時に、一気に距離を詰めてきた。俺はポケットの中の拳銃へ密かに手をかける。
(ロードインヴォーカーを使ってもいいが、俺が作りたいのはあくまで『極秘防衛機関CODE』だ。目立つのは得策じゃない。くそっ! これなら発砲練習くらいしとけばよかった!!)
俺が焦りを深める間にも、少女は屋根から降りてぐんぐん近づいて来る。そして、勢いよく口を開いた。
「なんでヘイローを持ってない奴が、こんなところで歩いてんだよ!!!」
「……は?」
飛んできたのは、怒りと切迫感の混ざった叱責だった。口調こそ荒々しいが、こちらを本気で心配しているのが分かる。
「あんた、キヴォトスの外の人間だろ? なんでブラックマーケットみたいな無法地帯にいるんだよ」
……ん? 今、聞き捨てならない言葉を聞いた気がするぞ。
えっ何? ここブラックマーケットだったの……!?
やばいじゃん。俺、いつ死んでもおかしくない状態だったじゃん。
まさかの事実に冷や汗が吹き出しそうになるが、表情ひとつ変えずにスリーのロールプレイを継続する。
ロールプレイをやると決めたからには、徹底的にやってやる。
「ここでしかやれない事がある。それだけだ」
「あぁそうかよ」
少女は呆れたように吐き捨てた。当然だ、俺が彼女の立場でも同じような反応をするだろう。
俺は踵を返し、再び歩き始めた。今回の目的は周囲の探索だ。こんなところで時間を費やしている場合ではない。
そうして足を進めていると、後ろから一定の間隔で足音がついてきた。どれだけ歩いても、その音は離れようとしない。
「……なぜついて来る」
「いや、あんたヘイロー無いし、常識も無いし、放置したらすぐに死にそうだなって……」
例の犬耳少女だ。俺の後ろにピッタリとマークするように張り付いている。……うん、今さりげなく酷いことを言われた気がする。
しかしどうしたものか。少女は俺から離れる気が無さそうだし、クリアカプセムで巻くこともできそうにない。
ここは甘んじて、受け入れるしかないのか……。
「勝手にしろl
「じゃ、好きにさせてもらうぞ」
こうして妙な同行者ができた。彼女と話す気は微塵もなかったのだが、長い時間を共に過ごしていれば、自然と会話は生まれるものらしい。
「なぁ、さっきの透明化は、外の世界の技術なのか?」
「あぁ、カプセムと呼ばれる代物だ。君も使ってみるか」
「『君』じゃなくて『宇和島サクナ』な。あんたは?」
「……スリーと呼べ」
「はぁ〜!? 偽名かよ! アタシはちゃんと本名名乗ったぞ!」
「君が勝手に言ったんだろ。それ以上追求するなら、カプセムは渡さない」
(ごめんよ〜! スリーの本名は作中でも不明なんだよ……! 前世の名前を使うわけにもいかないし!)
「くっ……やっぱ大人はずりーな。わかったよ、スリーで勘弁しといてやる。だからカプセム貸してくれ!」
「壊すなよ」
俺はクリアカプセムを取り出し、サクナに渡す。
「これを回せばいいんだな……って、固っ!?」
「その機能は、特殊な訓練を受けた者でなければ使えない仕組みだ」
「はめやがったな〜〜!!」
「なぁ、一応聞いとくけど……あんたお金は持ってるか?」
「……後で稼げばいい」
「やっぱ無一文じゃねぇか! どうやって生きていくつもりだったんだよ!?」
「……人は水さえあれば、三週間は生きていけるらしい」
「思ったより壮絶だった!!」
「まさか俺が、女子高生に奢られる日が来るとはな……」
「アタシも、大人に奢る日が来るとは思わなかったよ……」
俺はサクナに出店のたい焼きを奢ってもらっていた。この周辺では、一番安くて美味い食べ物らしい。
俺たちは適当なベンチを見つけ、一緒に座る。
ん? 大人のプライド? そんなもの生きるのには不要だ。
しかし、サクナとともに過ごすうちに、とある疑問が胸の中で大きくなっていった。
「なぁ……」
「ん? どした」
「君はなぜ、そこまで俺を気にかける? 俺を助けたところで、君には何の利益も無いはずだ」
サクナは少し俯いて、答えた。
「……別に大した理由じゃねぇよ。ただの自己満だ」
「? それはどういう──」
ドドドドドドドドドドッッ!!
突如、銃声が響き渡った。
音の発信源は、ここからそう遠くない。叫び声と悲鳴が波のように押し寄せてくる。
「っ!」
その瞬間、隣にいたサクナが跳ね起きた。食べかけの鯛焼きをベンチに置き、銃声のした方向へ走り出す。
「おい! どこへ行く!」
制止の声も聞かず、彼女の背中は遠ざかっていく。
(あいつ、何をするつもりだ!?)
合理的に考えるなら、俺は絶対に行かない方がいい。彼女達と違って、俺は銃弾一発で命を落とす生身の人間だ。
それでも──
「ちっ、仕方ないな!」
逃げることなんてできなかった。この世界に来て、右も左もわからない俺を助けてくれた彼女を、置いてくことなんてできなかった。
(今度はちゃんと働いてくれよ!)
『クリア』
俺は姿を消し、サクナを追いかけた。
現場に到着すると、そこは凄惨な光景が広がっていた。
一般人の姿はなく、立ち込める火薬の匂い。
焦燥感に駆られながら進んでいると、立ち尽くすサクナと思わしき影を見つけた。
その正面には、十数名のスケバンのような格好をした少女達が群がっている。
俺は咄嗟に物陰に隠れた。
「おぉー、頑張るねー。やっぱ『亡霊』は一流だなー!」
リーダー格らしきスケバンがケラケラと嘲笑う。『亡霊』とはサクナのことだろう。
「以前いた学校を廃校直前にまで追い込んで、最後は合併という名の他校への吸収。当時生徒会長だったお前は、責任を取って自主退学。ここブラックマーケットに流れ着いたわけだ。
いやぁー、泣けるねー!」
ペラペラと紡がれる言葉。その内容は、軽薄な口調とは裏腹に、痛々しいほど酷で、苦いものだった。
「女々しいねぇ。まだ前の学校の制服なんか着ちゃってさ。その学校はもう無いのにさぁ!」
「でもいいんじゃない? もっと惨めに見えてお似合いだよ」
「文字通り負け犬ってか!? ぎゃははは!!」
周囲のスケバンたちも、それに便乗するように悪意を重ねていく。サクナは何も言い返さずに、ただ静かに、その言葉を一身に受けていた。
「なぁ!? どうなんだよ、宇和島生徒会長ぉ!!?」
彼女は──
「……言いてぇことは、それだけか?」
「ちっ、つまんねーの。前はもっと面白い反応してくれたんだけどなー」
双方が銃を構える。だが圧倒的な人数差。サクナが不利なのは、火を見るより明らかだった。
物陰から見守る俺にも、サクナの覚悟は痛いほど伝わってきた。彼女を動かしているのは、苛烈なまでの罪悪感。あのスケバン達は、サクナのトラブルを弄ぶ悪趣味な「玩具」にしているのだ。
──『大人のプライドなんて生きるのに不要だ』
前言撤回だ。
この世界は、やっぱり歪んでいる。そんな世界に、
やるべきことは一つだ
「殊勝な心がけだな」
俺は透明化を解除し、物陰から姿を現した。
「あ? 誰だあんた?」
「コードナンバー『スリー』とでも言っておこうか」
「お前……! どうしてここに!?」
サクナが振り返り、叫ぶ。出会った時と同じ、怒りと心配が入り混じった声。
「これはアタシの──」
「くどい」
俺は彼女の言葉を遮り、その肩を掴んで後ろに下がらせた。
「お前は、愚直でストイックすぎる」
「なんだお前? ウチらの邪魔すんなら、タダじゃ置かねぇぞ」
スケバンたちが一斉に俺を睨みつける。その目は、警戒、好奇、侮蔑──
「あれ……? こいつ、ヘイローなくね?」
ひとりの呟きで、場の空気が一変した。
「えっ、マジじゃん!」
「キヴォトスの外の人間!? 初めて見た!」
「オークションに売ったらヤバい額になるんじゃね!?」
スケバンたちがハンターの目になる。彼女たちにとって俺は格好の獲物だろう。
「やめろ! こいつに手を出すな!!」
サクナが叫び、俺の前に立ちはだかろうとした、その時──
「邪魔だ。やれ」
右手の物陰から、隠れていた別のスケバンが飛び出した。
「危ねぇっ!」
サクナが俺を突き飛ばし、身体を張って庇う。だが、その代償として──
「グァっ……!?」
衝撃を殺しきれず、サクナが地面を転がった。
「取り敢えず一発。死ぬなよー」
リーダー格が嘲笑いながら銃口を向け、容赦なくトリガーを引く。
一発の銃弾が俺に向かっていき──
──キンッ!!
「……は?」
リーダー格の思考が一瞬完全に停止した。
いや、彼女だけではない。この場にいる全ての生徒が、呆然とした表情を浮かべていた。
当然だ。弾丸を弾き返したのは、ヘイローでもなく盾でもなく、俺の手にあるロードインヴォーカーなのだから。
(ゼッツ本編にあった、ベルトによる銃弾ガード……! ぶっつけ本番だったが成功して良かった……!)
「お前、どこからそれ出した」
「貴様らに教える道理はない」
(……ここには俺達以外誰もいない。問題ないな)
俺はそのままロードインヴォーカーを胸に押し当て、装着する。
そして、エクストラカプセムを取り出し、流れるようにはめ込んでポンプを押し込んだ。
オンユアマーク
オンユアマーク
誰も、動けなかった。
リーダーも、サクナも、他のスケバンたちも。
呑み込まれていたのだ。その異質さに、異常さに。
「──擬装」
俺は、カプセムを回した。
インヴォークロードシステム
地面から試験管のような物体が、俺を覆うように出てくる。
その中で、俺の体には銀色のスーツが纏われた。
エクストラ
シルバーのスーツに、パープルとイエローのライン。そして、肩に掛かるマント。
俺は、ロードスリーとなった。
「っ! 何してる早く撃て!!」
いち早く正気を取り戻したリーダーが、周囲のスケバンに指示を出す。
次の瞬間には、俺に大量の銃弾が発砲されていた。
俺はブレイカムブレイカーを取り出し──敢えてその身で銃弾を受けた。
(……よし、この程度ならロード問題ないな)
少し痛いが、我慢できないほどじゃない。やっぱりこのスーツの強度は凄まじい。
「全然効いてねぇ! ヘイローもないのになんで!?」
「ちっ、
あちらは何か策があるのか何か話している。俺は攻撃が緩んだその隙に、物陰に身を隠す。
いくらスーツが硬くても、あっちは銃でこっちは剣。このまま行ったらジリ貧だ。
俺はカプセムを取り出し、胸のカプセムと付け替えた。
『クリア』
「隠れても無駄だぞ──ってあれ?」
スケバンの一味が突撃しに来たが、その時はもう完全に俺の姿は見えなくなっていた。サクナのように気付いてる素振りも見せない。
しかし
「ぎゃっ!!」
「えっ何──ぐぁっ!」
「うわぁ!」
「リッ、リーダー!」
「何が起きてるんだこりゃぁ……」
仲間が次々と倒れていく。何の前触れもなく、突然にだ。
そしてこの勢いのまま、残りの人数は約半数になるまで減っていった。
しかし、リーダーもこの無法地帯を生き抜いてきた身。このままでは終わらない。
「透明化か……なら!」
リーダーは懐から爆弾を取り出し、ピンを引き抜いた。その瞬間、辺り一面は黒煙に包まれた。
(発煙弾か……!)
「そこぉ!!!」
クリアは姿を消すことはできても、その存在自体を消すことはできない。
リーダーは煙の僅かな揺らぎから、俺の居場所を突き止めたのだ。
ダダダダダダダ
そこに銃を乱射する。避けようがない。
「ゔっ……」
何発か銃弾を受け、クリアの効力が切れて姿が露わになる。クリアは一定以上の衝撃やダメージを受けると、強制的に解除される仕組みなのだ。
「よーくも手間取らせてくれたなぁ!?」
リーダーが怒りを露わにしてこちらを睨みつける。
彼女は部下から重厚な兵器を受け取り、こちらは銃口──否、砲口をこちらに向けた。
ロケットランチャーだ。
生身の人間はもちろん、ヘイローを持つ者であっても直撃すればタダでは済まない大火力。
「ぶっ飛べぇぇぇぇぇっ!!」
轟音と共にランチャーが火を噴き、弾頭が猛烈なスピードで迫ってくる。
速い。が、ロードスリーの反応速度なら避けられない程じゃない──
(駄目だ。後ろにはサクナがいる……! 俺が避ければ、彼女に直撃する!)
なら、選択肢はひとつだ。
「ここで叩き斬る」
俺はエクストラカプセムをブレイカムブレイカーにはめ込み、一気に回した。
『ブレイカムディバイド!』
迫る弾頭に向かって、必殺のエネルギーを纏わせた刃を突き出す。
────ドカァァァァァァンッッ!!!!
直後、鼓膜を破るような大爆発が起こった。
凄まじい爆音と立ち込める黒煙。そのあまりの威力に、結末がどうなったのか誰も分からない。
「や、やったか……!」
「おい馬鹿!」
スケバンの1人が死亡フラグとも取れる発言をする。そして、そのフラグを回収するかのように、黒煙を切り裂いて『それ』は現れた。
「──終わりだ」
「ひっ……!?」
煙の中から姿を現すロードスリー。
死角から迫る脅威に、スケバンたちは完全に不意をつかれ、閃光のような一撃をその身に受けた。
「ぎゃあああああああっっっ!!!」
……ふぅ、疲れた。精神的に。
前世含めて、女の子を切る経験なんて一度もなかったからな。まぁ手加減はしたし、斬った感じ的にも大事には至ってなさそうだし良かった。
俺は胸のロードインヴォーカーからカプセムを外し、擬装を解除する。
だが、まだ作業は終わっていない。俺は灰色のカプセムを取り出し、倒れたスケバンたちにかざす。
『イレイス』
鈍い光が放たれ、彼女達の脳から俺に関する記憶が消されていく。
こうしておかなければ、後で「謎の男」として余計なトラブルに巻き込まれるからな。情報統制は徹底しなければならない。
「なぁ……スリー……」
背後から声が聞こえ、振り返る。
傷ついた身体を支えながら、サクナがよろよろと立ち上がっていた。
「何をしてるんだ……?」
「彼女達の俺に関する記憶を消している」
「なんで……」
「俺の目的の邪魔になるからだ」
「そう……か……」
俺の淡々とした返答に、サクナは寂しげに呟いた。
「……怖いか」
「そんなわけねぇだろ! ただ、アタシもお前のことを忘れて……」
そう言って、彼女は俯いてしまった。
無理もない。『未知』に対する恐怖や、これまでの関係をなかったことにされる孤独は、そう簡単に拭えるものじゃない。
多分、スリーならここで容赦なく彼女の記憶を消すだろう。
それが一番合理的だからだ。
ただ──この時の俺は、少しどうかしていた。擬装直後だから、ハイになっていたのかもしれない。
「……俺の目的は、この世界を守る極秘防衛機関を作ることだ」
「……は?」
「そのためには、資金、施設、情報……何より、人材がいる」
「サクナ、お前にはエージェントとしての才能がある」
「……え?」
「どうだ」
「俺と一緒に、世界を守る気はないか?」
呆然と目を見開くサクナ。
これが──俺と、最初の仲間「コードナンバーウーヌス」との出会いだった。
ウーヌス、ラテン語で1を意味する言葉です。
アリウスのみんなをスパイ化する案もあったけど、先駆者がいたので完全オリジナル生徒を登場させました