スリーさんは透き通るCODEを作りたい 作:頂きに立った
Q.偽スリーはどこまで本編を見てるの?
A.偽スリーは映画公開直前に転生したのでCase44 (ねむちゃんが皆のこと忘れる回)まで視聴済みです
Q.なんで映画を見させなかったの?
A.この作品自体が映画公開前に投稿されたものだからです。我慢ができなかったんです
それがいつ始まったのかは、今でもよくわかりません。
気がついたら、グループ内で無視されることが増えてきました。最初は気のせいだと思っていましたが、時間が経つにつれてそのいじめは陰湿で、辛いものになっていきました。
嫌な絡まれ方が増えてきました。あえて私の知らない話をしたり、私がいなかった時の話を私の前で話したり。
ありもしない噂を流されました。お陰で、私の周りからは他の生徒さん達がいなくなってしまいました
お弁当を床に撒き散らされたこともあります。
その張本人は『手が滑ってしまいました〜』と言って、笑っていました。
先生に報告してもはぐらかされて、親にも相談できませんでした。……迷惑を、かけたくなかったんです。
必死に働いて私をトリニティに通わせてくれたのに、そんなこと言えませんでした。
さらに言うなら私は寮通いなので両親と会うこと自体難しかったんです。
彼女達は私を、自分たちの手は汚さずに着実に追い詰めていきました。
そしてあの日、いじめの中心人物だった子が、私に向かってこんなことを言ってきたんです
「ブラックマーケットに素晴らしい宝石があるらしいから持ってきてほしい。そうすれば、また仲間に入れてあげる」──と。
それが嘘だということは、最初から分かっていました。その時の私はブラックマーケットの存在すらよく分かっていませんでしたが、彼女の嫌ったらしい表情で何となく察することができました。周りの子たちも、同じような目で私を見ていました。
いじめの中心人物だったその子は、トリニティでも有数の企業のご令嬢なんです。私たちには最初から、彼女に逆らう権利なんてありませんでした。
ブラックマーケットへの地図だけを渡されて、学校から追い出されました。
今思うと不思議ですね。その時の私は『これしかない』って本気で思っていたんです。万が一でもあの子のお眼鏡に叶う宝石を見つけられれば、もういじめられなくなる……そう信じていたんです。
私はふらつく足をなんとか動かして、ブラックマーケットへ向かいました。
「──という経緯なのですが、お二人もご存知のように水も食料も持っていなかったため、ついに倒れてしまったんです。本当に、スリーさんが近くにいてくれて幸運でした」
一通りの経緯を語り終えたナコは、酷く冷静に見えた。まるで他人事のように、自分が経験した出来事を淡々と話していた。
「そんなことが……」
ウーヌスは顔を少し青くさせている。酷いいじめを受けていた当事者から直接話を聞く機会なんて、今までなかったのだろう。次にどんな言葉を発すればいいのか分からないといった様子だ。
ふとナコに視線を向けると、汚れや破れでめくれた制服の袖口から、腕のあたりが目に入った。
そこには、複数の切り傷が刻まれていた。
治りかけている古い痕。そして、比較的新しい生々しい傷。様々な痕跡が散見される。
俺はそれが、一体誰によってつけられたものなのか分からなかった。
「す、すみません。私の話で空気を悪くしちゃって……」
「いや、いい。俺たちが勝手に聞いたことだ」
俺がそう答えても、ナコはなおも申し訳なさそうな表情を浮かべていた。 すると、ウーヌスが意を決したような表情でナコへ語りかけた。
「なあ、ナコ。辛い話をしてもらった後で申し訳ないんだけど……一つだけ聞いていいか?」
ナコがコクリと首を縦に振ったのを確認し、ウーヌスは慎重に口を開いた。
「トリニティには、帰るのか?」
ナコは少しの間考え込むと、自分の足元を見つめながら答えた。
「どうなんですかね⋯⋯私自身、これからどうしたいのか分かりません。これまではただ、今日を生きるだけで必死でしたから」
公園に、再び重い沈黙が流れた。 俺とウーヌスはそっと視線を合わせ、この少女のこれからの生き道に思いを巡らせることしかできなかった。
「──で、どうすんだよ」
場所を移し、俺たちはいつもの廃墟拠点で話をしていた。 話題はもちろん、彼女──朝霧ナコについてだ。
あの後、俺たちは重苦しい空気を一新するため、一旦あの公園を離れることにした。
ただ、ここはブラックマーケット。キヴォトスでも屈指の治安の悪さを誇る無法地帯だ。安心して腹を割って話せる場所などそうそう存在しない。結局のところ、いつものアジトへ戻るのが一番確実という結論に至ったのだ。
ナコには今、別の部屋で席を外してもらっている。
これからの彼女の扱いについて、ウーヌスと擦り合わせを行うためだ。
「アタシとしては……やっぱ放っておけないっていうか、なんというか……」
ウーヌスは何とも言い難い表情を浮かべ、言葉を濁しながら逡巡していた。
まあ、彼女が何を言いたいのかは大体想像がつく。
「彼女をCODEで預かる、といったところか?」
「……っ! ああそうだよ! 何か文句でもあんのか!?」
今にも俺へ飛びかからんとするウーヌスを手で制し、静かに口の前に人差し指を立てる。 ウーヌスは「しまった」という顔をして慌てて口を塞いだ。
俺は壁の向こう側にいるナコに会話を拾われないよう、極めて小さな声で告げた。
「正直に言って難しい。現実的な選択肢ではない」
「なんでだよ……!アタシの時はすんなり引き入れたくせに!」
「あの時とは状況が違う。特に……彼女はお前と違って、明確な所属がある」
そう、最大の問題は彼女が『トリニティ総合学園』の生徒であるということだ。
無所属だったウーヌスとは違い、彼女には籍を置く学校がある。休校期間などを上手く使えば無理ではないかもしれないが、エージェントと生徒としての生活を両立させるのは、機密保持の観点からもリスクが高すぎる。
「それに、今のCODEに
「なんだよ、あの子を見捨てるってのか……!?」
ウーヌスが怒りを露わにし、俺の胸元へ詰め寄ってくる。 ナコへ配慮して絞り出された小声ではあったが、その声には今までにない強い圧がこもっていた。
「……もしナコを見捨てるってんなら、アタシはCODEを辞めるぞ」
「それは困るな。お前のように優秀なエージェントは、そうそう代わりが見つからない」
それだけ言い残すと、俺はナコが待機している部屋へと歩みを進めた。
「おい、待てよ! 結局どうするつもりなんだよ!?」
「言ったはずだ。怪我人を引き入れる余裕はないと。あとお前は来るな。これは俺と彼女、二人だけで話す」
何か言いたげに言葉を詰まらせるウーヌスをその場に残し、俺は扉を開けてナコの元へと向かった。
「入るぞ」
壁をコンコンとノックし、奥から「どうぞ」という静かな声が返ってきたのを確認して部屋に入る。
部屋──と呼べるかも怪しい場所ではあった。そもそもこの廃墟自体、まともな個室など存在せず、崩れかけた壁で緩く仕切られているだけに過ぎない。防音性など皆無に等しいのだ。
俺が入ると、ナコは俺が持ってきたパイプ椅子に腰掛けていた。動いた形跡はない。俺が戻ってくるまで、ずっとここで座っていたのだろう。
「聞こえていたか?」
「ええ、少し……」
ナコはパイプ椅子に座ったまま、膝の上でぎゅっと両手を握りしめていた。
「気に病む必要はない。あいつが少し感情的になっていただけだ」
「そう、ですか……」
歯切れの悪い返事のあと、部屋に重苦しい静寂が流れた。
(大体の事情や自分を巡る会話を察しているみたいだし、このまま本題に入っても大丈夫そうだな)
そう思い、俺は口を開く。
「なら、早速本題に入るぞ。知っての通り、現在のCODEにそこまでの余裕はない。ウーヌスは君を引き入れるべきだと主張していたが、怪我人を引き入れるなんて、今のCODEでは不可能だ」
俺がそう告げると、ナコは視線を落とし、暫くの間固まったように黙り込んでいた。やがて、絞り出すように言葉を紡ぎ始める。
「……本当に、ありがとうございます。見ず知らずの私をこんなに気にかけてくださって。私のことは……どうぞ忘れてください」
「CODEのことは、絶対に誰にも言いませんので」と付け加え、ナコは小さく笑った。
力のない、哀しい笑みだったが、彼女が必死で平気を装い、取り繕おうとしているは分かった。
「何か勘違いをしていないか?」
「え……?」
ナコが鳩が豆鉄砲を喰らったような顔でポカンとする。気にせず俺は言葉を重ねた。
「CODEが受け入れることができないのは
「もし君が望むのなら、俺は君にミッションを与える」
ナコは息を呑み、少しの間を置いてから、探るようにゆっくりと口を開いた。
「ひとつだけ……お聞きしてもいいですか」
少女の声は、かすかに震えていた。
「なんだ」
「CODEの正義とは、なんでしょうか」
(CODEの正義⋯⋯)
その問いに、俺は思わず答えあぐねた。
定義づけられていないわけではない。だが、その答えが今この場に即しているものとは到底思えなかったからだ。
それでも、このキヴォトスで生き残り、何よりスリーとしてのロールプレイを完遂するためには、この基本指針を譲るわけにはいかなかった。
「CODEの目指す正義は、人類全体が秩序を遵守し、平和を保つことだ。……そのためには、多少の犠牲すら厭わない」
「そう、ですか……」
ナコの表情が一層暗く沈み込む。
当然だろう。理不尽に虐げられ、切り捨てられてきた彼女にとって、そんな冷徹な指針に納得できるはずがない。
「不満か?」
「すみません……勝手に聞いて、勝手に落胆して。でも、やっぱり私──」
「不満なら、君がエージェントになればいい」
今までより一段階大きな声を張り上げ、ナコの言葉を遮る。 ナコは驚いたように肩を跳ねさせたが、俺は構わず言葉を重ねた。
「君が取り残される者に後ろ髪を引かれるなら、構わずその手を差し伸べればいい。それがCODEに不利益をもたらさない限り、俺がそれを咎めることはない」
原作のスリーは最終手段である『コード:ソムニア』を起動させ、全人類を自分の管理下に置いた。実際にナイトメアを根絶する手段はそれしかなかったし、確かに人類の平和と秩序は守られたのかもしれない。
──だけど、俺コード:ソムニア持ってないし。
結局原作スリーも、ノクスミッドナイトシャドウに負けちゃったし。
なら、少しくらい融通を効かせたって問題ないはずだ。
「で、でも……私は……」
「過去がどうあれ、俺が君を必要としているという現実は変わらない。……俺は君のその情情しさを、弱さとは思わない」
最後にそう一言を付け加え、俺はナコへ静かに視線を向けた。
これで俺の言いたいことは大体伝えきったはずなのだが……うん、反応がない? ナコはなんかぼーっと空を見つめたまま固まっている。あれ? 俺なんか選択ミスったか?
「ま、まあ……すぐに決める必要はない。ウーヌスの時も──」
「やります」
「え」
「やります」
ナコはそう断言すると、静かにパイプ椅子から立ち上がり、ゆっくりと背筋を伸ばした。 その姿は、今まで見たどの彼女の表情よりも、晴れやかで力強く見えた。
「──で、めでたくCODEの一員になれたわけか。いやー、良かった良かった!」
「はい。これからはコードナンバー:トワイとして、お二人の力になりたいと思っております!」
その日の夜。二人の少女は夜のブラックマーケットにいた。場所は昼間と同じ、あの公園だ。
「せっかくなら、スリーさんも一緒に来られれば良かったのですが……」
「あー……いや、あいつ睡眠時間の確保だけは絶対なんだよ。毎晩10時までには絶対に眠ってる」
「えっ……!?それであの目のクマなんですか……!?」
「不思議だよなー。あんなにちゃんと寝てるのに」
二人の少女は楽しそうに言葉を交わしていた。 その無邪気な姿を見て、彼女たちが極秘防衛機関のエージェントだと見抜ける者など誰もいないだろう。その瞬間、彼女たちは間違いなく年相応の普通の女の子だった。
「で、CODEに入るのはいいけどよ、学校の方は大丈夫なのか? 流石にここからトリニティへ通うのは大変だろ」
「はい、ですのでリモートで授業を受けることにしたんです。両親や先生方にも既に説明済みですので」
「ほえー。そっか、その手があったか。アタシの学校じゃそんな制度なかったからなー」
ウーヌスはベンチで身体を後ろに倒し、夜空を見上げた。
そして少しの間のあと、ウーヌスはトワイに対して語りかけた。
「なあ……なんでトワイは、CODEに入ろうと思ったんだ? アタシとは状況もだいぶ違うだろ」
「そうですね……」
少し考え込む仕草を見せたあと、トワイはゆっくりと口を開いた。
「私……実は以前、正義実現委員会というところに所属していたんです」
「それって確か、トリニティの治安維持組織の……?」
「はい。私はそこで、自分なりの正義に従っているつもりで活動していました。……いじめが始まってからは、辞めてしまったんですけど」
トワイがどこか気まずそうに目を伏せる。
ウーヌスがどう返すべきか迷い、一瞬だけ重い空気が流れたが、トワイはそのまま言葉を続けた。
「その時、思ったんです。『ああ、私の正義って、こんなにも脆いものだったんだ』って」
「その当時は私よりもすごい先輩や仲間がたくさんいて、私はただ背中を追いかけることしかできませんでした。そこにいじめも重なって、色々と参ってしまいまして……すみません、暗い話になっちゃって」
「ううん、いいよ。嫌なら無理に話さなくても──」
「いえ、このまま話させてください。……どこからでしたっけ。そう、いじめが始まって何も分からなくなって、挙句の果てにブラックマーケットまで逃げてきて」
「そこで、スリーと出会ったと」
「はい。不思議な方ですよね、スリーさんは。見た目は誰よりも悪そうなのに、誰よりも子どもっぽくて、誰よりも本気な人。私は彼に……いえ、これは違いますね」
トワイは夜空を仰ぎ見ると、何かを思い出すように微笑んだ。
「──見てみたくなったんです。彼が創り出す、未来の景色を」
「ふふっ……笑えますよね。今日出会ったばかりの人なのに」
自嘲するように微笑むトワイ。
そんな彼女に対し、ウーヌスは間髪入れずに笑って答えた。
「そっか!じゃあ、アタシと同じだな!」
少女たちの鈴を転がすような笑い声が、夜の街に響き渡る。
その朗らかな声は、いまの彼女たちを表すのに十分すぎるものだった。
「……じゃあ、スリーさんとは仲直りしないといけませんね♪」
「うぅ、はい……」
ちなみにその帰り道、ウーヌスは安眠グッズを買って帰ったという。
トワイ、ゴート語で2を意味する言葉です
(ゴート語:古代〜中世の東ヨーロッパで使われていた、今は亡きゲルマン系の言語)
FSスリーがかっこよすぎた
よう本編の末路からこんな所に着地できたな
あとスリーが本当に平和を願っていて良かった(手段はアレだけど)
これで安心して小説を書ける