「私の能力は、"秘密"よ(他人に知られたくないという意味)」
「えっ、マジ!? 俺も!(ただのバカ)」

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(バトルは)無いです


異能バトルもので能力名が「秘密」なやつ

 

 

 「運命」という言葉はその意味とは裏腹に、現実で用いられる場面では過去を指す事が多い。

 自身にとって重要な巡り合わせや決断に対してあれは「運命の出会い」「運命の選択」だったと語ったり、やるせない出来事が起きた後に「運命で決まっていたようなものだ」と慰めのように使われる。

 

 自分の選択が運命を変えたかどうか確かめる術は無い。

 だからこそ、ほとんどの人は自分の行動によって未来は変わるものだと考えていて、「運命」の存在を信じていない。

 

 むしろ本気で信じているとすれば、それはとんでもなく悲観的な人物か、はたまた信心深すぎる狂人か。

 

 ──もしくは私くらいのものだ。

 

 

 

 未来予知というものは大抵のフィクションにおいて、重要な能力として扱われる。

 どんなに不都合な未来も、予め知っていれば変えられる。……そう思われているからだろう。

 

 しかし実際に"持っている"者からすれば、未来予知など百害あって一利なしと断言できる。

 まあ、私の「特色」がそうというだけで、人々が思い描くような力を持っている人もこの世に存在するのかもしれないけれど、少なくとも私にとってはずっとこうだった。

 

 ──小学1年生の時、食べたアイスから当たり棒が出ると予見した。

 翌日、買ってもらったアイスからは見た通り当たりが出た。

 既に知っていた私に新鮮な喜びは訪れなかった。

 

 ──小学5年生の時、校外学習の日に体調を崩して休むと予見した。

 それから毎日マスクで予防し、手洗いうがいを徹底して、早寝早起きを心掛けた。

 そして校外学習当日の朝、私はお腹を壊した。

 原因は多分、前日寝る前に飲んだ牛乳の消費期限が近かったからかもしれない。

 飲むように勧めた母が何度もごめんねと謝っていたが、私は全く責める気になれなかった。

 

 ──中学2年生の時、自分の部活が廃部になると予見した。

 確かに人数の少ない文化部だった私の部は、勧誘に力を入れ3年生に上がった時にはなんとか下限の人数を超える新入部員を確保した。

 その直後に顧問の先生が不祥事で退職して部は同好会となった。

 私はその先生を責める気に……少しはなったが、その頃にはもう諦観の方が大きくなっていた。

 

 

 運命は存在する。

 それは、決して覆すことの出来ない確定事項。

 

 私が予見するのは運命の交差点、どんな道を歩もうとも必ず通過することになる硬い結び目。

 自分の人生の先行上映されて、それを追体験する事を強いられる。

 

 未来を予知できたとしても、それに干渉することができなければ何の意味があるというのか。

 

 

 

 私の「特色」を人に話すと、大抵最初は好奇の目が向けられる。

 そして、仔細を聞かされると期待して損したと去っていく。

 私自身もこの力に失望しているというのに、なぜ他者の失望まで私が受け止めなければならないのだろう。

 

 ──高校入学時の自己紹介で、クラス中から好奇の目に晒されると予見した。

 

 またか、という感情しか無かった。もはやクラス替えの度に起きる恒例行事だ。

 例え特色について意図的に隠したり、入学式自体に行かなかったとしても、別の意味で好奇の目が集まるだけだろう。

 

 しかしこうした諦観を抱いていても、少しでも抗おうとするのは染み付いた癖のようなもので、その時口にしたのも運命へのささやかな抵抗のつもりだった。

 

 

「河井サキです。趣味は絵を描く事で、特色は……秘密です」

 

 

 

 

 

「──えっ、マジ!? 俺も"秘密"なんだよね! 奇遇〜!」

 

 

 好奇の目は確かに集まった。

 

 ……私ではなく、彼に。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 ──特色診断。

 

 5歳と15歳で2回実施が義務付けられている、国民の「特色」の有無と概要を把握するために実施される診断。

 

 基本的に5歳の時に行われる1回目が本命であり、病院で専門の特色を持った査定員と機器による精密検査が行われる。

 検査によって特色を有していると発覚した者は、翌年からカリキュラムに特色の制御が含まれる指定の小学校へと通うことになる。

 カリキュラムは義務教育の段階で一旦終了するが、特色のさらなる成長と社会での積極的な使用を望む者は特色養成校へ進学する事ができる。

 

 一方15歳で行われる2回目は、中学校の健康診断での一項目という扱いである。

 内容も簡易的な遺伝子検査キットと生徒の自主性に委ねられたアンケートというもので、主な目的は特色を有している者の経過観察であり、この段階で新たに特色を有していた事が判明する事例は滅多にない。

 仮に判明した場合も、発揮される場面が非常に限定的な特色である事がほとんどである。

 

 しかし例外というものは往々にして存在する。

 15歳の特色診断で社会的に大きな影響を与えうる特色を有している事が発覚した者は、中学卒業まで定期的なカウンセリングと応急的な指導を受け、翌年から特色養成校へと編入する事となる。

 

 

 

 ……で、そんな例外が俺だったってわけ。

 

 俺の特色「秘密」の影響で、1回目の診断の時は特色を持っていないと判断されていたらしい。

 じゃあなんで2回目で見つかったかといえば、俺が自分に特色があって欲しいと願っていたからじゃないか、とカウンセリングの人に言われた。

 まあ確かに中3上がりたての時期だったし、自分が特別だと思いたい気持ちは当然持っていたが、厨二心を図星で言い当てられて恥ずかしくなった。

 

 とはいえ今日から俺が通うことになる国立第二特色養成高等学校では、俺だけが特別なわけじゃない。

 むしろ俺自身、俺の特色に対しての理解は浅いので、幼い時から慣れている人達と比べれば遅れているとも言える。

 

 だから入学式が終わり、振り分けられたCクラスで自己紹介をしていた時、とある女子が俺と同じ特色を持っていると聞いた時は思わずテンションが上がってしまったんだが……

 

 

「あなた、何者?」

 

 

 放課後、その女子──河井サキから問い詰められていた。

 

 

「えーっと、さっき自己紹介したんだけど……まあ確かに全員の名前ってすぐには頭に入らないよな」

 

「そうじゃなくて、私は貴方に見覚えがないんだけど?」

 

 

 彼女が目を細めて言い放った言葉は、めっちゃ美人だなこの人という思考にリソースを割かれていたのもあったが、俺には理解が出来なかった。

 

 

「そりゃ今日が初対面だし」

 

「クラスメイトの顔と名前なんてもう全員把握してるの。でも、貴方については全く記憶にない」

 

 

 え? 俺めっちゃ嫌われてる?

 いや、でもそれなら今こうやってわざわざ話しかけられている意味が分からない。

 あ、もしかして俺が編入してきたから知らないだけで、俺以外のみんなは中学が同じとかなのか?

 

 

「俺は朝霧ナズナ。趣味はゲームと──」

 

「そんな事どうでもいい。貴方の特色は何なの?」

 

「だから、"秘密"だって。河井と同じだ」

 

 

 そう答えると河井は押し黙り、その視線は当て所無く彷徨った。

 

 

「……ごめん。私が無神経だった」

 

「いや、別に全然気にしてないけど」

 

 

 なんか急にしおらしくなったが、多少語気が強かった程度で謝られるような事を言われた覚えはない。

 まあ、同じ特色持ちって聞いて勝手に親近感抱いてたのに、俺の自己紹介がマジで印象に残ってなかったのは若干ショックだったが。

 

 

「とにかく、気を取り直して今日からよろしく……ってことで」

 

「今日から……ええ、そうね。よろしく、朝霧君」

 

 

 噛みしめるようにそう答えた河井は、穏やかな微笑を浮かべる。

 その表情を見た俺は、しばらく彼女から目を離せなかった。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

「そういえば」

 

 

 ──1週間後の放課後。

 隣を歩いていた河井が思い出したように言った。

 

 

「朝霧君は小中で特色教育を受けてないんだったわね」

 

「ああ。明日から特色の授業も始まるらしいけど、どんなことやるか全然知らないんだよな」

 

 

 俺は上を向きながらそう返す。

 あれから何故か毎日、河井は放課後に俺についてくるようになった。

 理由を訊くと「見慣れない景色が新鮮だから」と言っていたが、別に俺は下校ルートを毎日変えている訳じゃない。

 

 

「……やっぱり、言っておくべきね」

 

「どうした急に?」

 

 

 何かを決心した様子の河井に、俺が問いかける。

 

 

「私達の特色が秘密でいられるのは今日までなの」

 

「それはどういう……? え、河井も?」

 

 

 特色の授業が始まったら、俺達の特色が変わってしまうとでもいうのか。そして、彼女の口ぶりからして俺と河井以外のクラスメイトは「私達」に含まれない?

 

 

「そう。だから貴方には先に知っておいて欲しかった」

 

「特色の授業の事をか?」

 

「……私の特色が"予見"であるという事よ」

 

 

 双瞼を閉じてそう言った河井は、恐る恐るといった様子で片目を開きながら俺を見てくる。

 それに対して俺の口をついて出た言葉は──

 

 

「俺とお揃いじゃなかったの!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……つまり、朝霧君は隠していた訳じゃなく、"秘密"という特色で、その秘匿する事に長けた力で私の"予見"に現れなかったと」

 

「そういう事……みたいだな」

 

 

 通学路の道中にある公園のベンチで、俺は隣に座る河井サキの分析に同意した。

 

 

「運命に──世界に干渉できるほど強力な特色だから、隠しているのだとばかり……」

 

「すまん。俺も自分の特色についてよく知らないから、無意識にそんな事になってたなんて知らなかった」

 

 

 河井の"予見"で見た未来は、今まで一度も変わったことが無かったらしい。そんな中で一度も出てきてなかった奴が急に教室にいたら、そりゃ警戒するわ。

 ……という事は、俺の特色は生まれてからずっと河井に影響を与え続けていたんだろうか? だから何か特別な事ができるという訳では無いが、そういう意味では確かに河井の言う強力な特色とも言えるのかもしれない。

 

 

「私が勝手に勘違いしただけよ。あの場で先に紛らわしい事を言ったのは私だったし」

 

「そんな事言うなよ。河井は特色のせいで大変なわけだし」

 

 

 "予見"についてはさっき河井から説明されたが、少し聞いただけでも面倒が多そうだなと感じた。

 

 

「貴方は、この力をそう思うの?」

 

「だって人生のネタバレされんだろ? しかも変えられないってストレスヤバいじゃん絶対」

 

 

 俺が正直に言うと、河井は一瞬目を丸くして呆けた。

 そしてその直後、手で口元を押さえつつ「ネタバレって……」と言いながらくぐもった笑い声をあげる。

 

 

「そんな面白い事言ってないだろ」

 

「いや、なんか……私の特色について他人にこんなざっくばらんな表現されると思ってなくって」

 

 

 俺の感想が謎にツボに入ったらしい河井が落ち着くまで、それからしばらくかかった。

 

 

 

 

「……それにしても、そんな特色を持っているとよく判明したわね」

 

 

 落ち着いた河井が今度は俺の特色について聞いてきた。

 

 

「俺も条件がよく分かってないんだが、一応俺の意思で制御はできるっぽいんだよな」

 

 

 幼い頃というのは漠然と病院というものに対しての忌避感が誰しもあったと思うが、そういったものが5歳の時に特色の発覚を防いでいたのかもしれないし、単にまだ未覚醒だっただけかもしれない。

 ただハッキリ言えるのは、去年の俺が「俺に特色があって欲しい」と強く願っていた事だ。それによって「特色を探される」事に対して、俺の"秘密"は作用しなかったのだろう。

 

 

「多分だけど、河井の"予見"に俺が現れるようにも出来ると思う」

 

 

 俺自身が河井に俺の未来を知られてもいいと念じていれば、彼女には俺の存在を含めた未来の"予見"が……

 

 

「やめて」

 

 

 河井の鋭い一言が俺の思考を中断する。

 確かに俺にできる事は少ないが、聞く限り"予見"が当たらない方が今の河井には良い事なのだろうと思い直す。

 

 

「あー……すまん、河井」

 

「大丈夫。でも、もうしないで」

 

 

 改めて隣を見ると彼女は僅かに俯いており、その横顔は僅かに震えている。

 その様子から、俺の中に1つの仮説が浮かび上がる。

 

 

「もしかして、何か"見えた"?」

 

「見てない。何も」

 

 

 問いかけられた河井は瞬時に背筋を伸ばし、無表情で俺を見ながらそう言った。

 

 

「いや絶対なんか──」

 

「見てない」

 

 

 どう考えてもさっきの一瞬でこれまでとは違う未来を"予見"したという反応。しかし本人が強く否定するので、それ以上追及は出来なかった。

 

 俺と河井はしばしの間沈黙に包まれ、遠くから公園で遊ぶ子供の声だけが聞こえてくる。

 

 

「……えっと、じゃあまた明日な。今日は色々教えてくれてありがとう」

 

 

 若干気まずくなった俺はそう告げ、ベンチから立ち上がる。

 

 

「うん。またね、ナズナ」

 

 

 自然な別れの挨拶。しかし、それはあまりにも自然すぎた。

 

 

 

 

「え?」

 

 

「……え?」

 

 

 俺が思わず上げた疑問の声に、河井が一歩遅れて反応する。

 

 

「なんで、名前(ナズナ)呼び?」

 

「あっ! 私、用事思い出した! さよなら、朝霧君!」

 

 

 もはや古典の域とも言える去り文句を口にしながら、河井は俺の横を走り抜けていく。

 

 髪の隙間から覗く彼女の耳は微かに赤らんでいるように見えた。

 


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