「……死なないでください。あなたを殺すのは、私なので」
実家の借金のカタに暗殺ギルド〈夜蜘蛛〉へ売られた男爵令嬢テッサ、二十歳。
初仕事の標的は、戦争英雄の若き辺境公爵ヴァルター。
ギルドの掟は簡潔だ。
獲物は契約の手で仕留めること。事故死・病死は「仕損じ」――前金は担保ごと没収。
担保は、療養中の妹である。破棄しても同じ。つまり、逃げ道はない。
ところが侍女として潜入した先で見たものは――
執務室で三日寝ていない標的。手つかずで冷めきった粥。
煤の詰まった煙突に、頭上へ崩れかける決裁書類の山。
このままでは、私が殺す前に、この人は勝手に「事故死」する。
それは仕損じ。妹が消える。
かくして暗殺者は今夜も標的を寝かせ、食べさせ、煙突を掃除する。
「勘違いなさらないでください。あなたが過労で死ぬと、私の契約が不履行になるのです。私が殺すまで、死なないでいただきます」
なお公爵は、初日の夜に正体を見抜いている。見抜いた上で、笑って取引を持ちかけてきた。
「君は殺さない。私は死なない。――焦れた依頼主が、先に尻尾を出す」
彼女が「契約中」である限り、別口の刺客は獲物の横取りでギルドの法度に触れる。
王国最恐の暗殺者は、こうして王国最強の盾になった。
毎晩の「暗殺定例報告」でお送りする、
誰も殺さない殺し屋の侍女と、死なない努力をしない公爵の、
契約期限つき職業倫理ラブコメディ。
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