もしもヒシミラクルがオーバーワークに手を出したら?そんな投稿でございます

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ネットでよく見かけますよね。ヒシミラクルがトレーナー又はヤエノムテキやバンブーメモリー辺りに、食べ過ぎてプールへ叩き込まれる奴。では、そんなミラ子がもしこのような事をしたらどうなるか?

もし皆さんなら、ミラ子をどうしますか?というか、そのトレーナーはミラ子を止めると思いますか?


奇跡のあとの、ひっくり返し方

初めは、唐突だった。ヒシミラクルは大のプール嫌いでカナヅチな事で有名だった。よくサボる事もあり、食べ過ぎてプールトレーニングへ連れ込まれるのもしょっちゅうだ。そんな中、ヤエノムテキやバンブーメモリーにも引き留められる事もあり、学園でも有名だ。

 

とはいえ、彼女も生きているのだ。当然ストレスは予期せぬ形で溜まっていく。

 

G1を勝った事による『期待』からくる無言の圧力、夜遅くまで自分の為にデータを揃えるトレーナーを見たこと、同年代や後輩との差。周囲(ファンや記者)が「次もミラクルを見せてくれ!」「君はもう普通じゃない、選ばれし者なんだ!」と期待を向ける度に、ミラ子の心は次第にストレスで壊れていった。もう大好きな事すら熱中出来なくなり、大好きな漫画やゲーム、アニメすらも観るのが面倒になる程に。

 

そんな彼女はある日、突然壊れ始めた。初めは、プールトレーニングだった。

 

いつもならミラ子は嫌がって入ろうとせず、トレーナー達の手でプールへ引きずり込まれるのだが、今回は違った。

 

終了のホイッスルが鳴る。休憩のホイッスルが鳴って他のウマ娘が上がっていく中で、唯一ミラ子だけは泳ぎ続けた。

 

ミラ子「まだ………まだ………まだ………!」

 

ホイッスルが聴こえてないのか、それとも聴こえてないフリなのか、ミラ子は泳ぐのを止めない。

 

バンブー「ミラ子さん?何してるんスか?もう休憩時間っす!」

 

ヤエノ「ミラ子さん?」

 

二人の言葉も届いてないのか、ミラ子は止まらない。

 

ミラ子「ダメ………止まったら………あがぼぼっ!?」

 

ミラ子は突然溺れ始めた。ただでさえプールは水の中である上に動きもキツくなりやすい。其処へ無茶なトレーニングに加えてカナヅチなミラ子が無理して泳げば、当然そうなる。

 

ヤエノ「ミラ子さん!」

 

バンブー「まずい!!」

 

二人はミラ子を引き上げた。

 

ミラ子「ゲホッ!ゲホッ!」

 

ミラ子は咳き込むが、プールへ戻ろうとした。

 

バンブー「ミラ子さん!何故あんな無茶を!?」

 

バンブーがミラ子の肩を掴んで止める。

 

ヤエノ「あのまま溺れてしまったら、トレーニングどころではありません!何故あんな自殺紛いな行動をしたんですか!?」

 

ミラ子は二人の剣幕に、怯えながらもプールへ向かおうとする。

 

ミラ子「ごめんなさい………ごめんなさい………私がミラクルを起こせなかったから………また頑張ります……頑張ります……」

 

ミラ子はプールへ向かおうとするが、其処へミラ子の友人達がやって来た。

 

ナリタトップロード「ミラ子ちゃん……いつものミラ子ちゃんらしくありません……!どうしてあんな無茶な事をしたんですか!?」

 

タニノギムレット「ミラ子………それは美しくないな。己を研磨するのと、己を削り捨てるのは別物だ」

 

ファインモーション「ミラ子ちゃん……大丈夫!?溺れかけたって聞いたよ?」

 

シンボリクリスエス「………効率を無視した暴走。停止を推奨する」

 

タップダンスシチー「おいしっかりしろよ!いつものお前らしくないぜ?」

 

皆が心配して集まるが、ミラ子はただ怯えるだけだ。

 

ミラ子「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!私頑張りますから!もうサボらないから!休まないから!」

 

ミラ子は泣きながらその場で土下座し、その後プールへ自ら飛び込もうとした。

 

バンブー「ダメっす!!これ以上はやらせないっすよ!」

 

ヤエノ「正気ですか!?今は休んでください!!それは精進ではなく、ただの自傷行為です!!」

 

ミラ子「離してよ!!続けさせてよ!!プールで泳いでほしいんてしょ!?ミラクル起こしてくるから!!」

 

ミラ子は暴れた。周りの友達も止めに来るが、ミラ子は泳ごうとする。

 

其処へトレーナーもやって来た事で、事態は一時的に収まった。ミラ子が暴れた理由を知った上で、こう宣言した。

 

トレーナー「ミラ子。今日のプールは中止だ。これ以上危険行為を繰り返す君にトレーニングはさせられない」

 

トレーナーはそう指示したが、ミラ子からの反応は意外なものだった。

 

ミラ子「………分かりました。じゃあ………勉強なら良いですよね?」

 

ミラ子はそのまま歩いて去って行く。周りが心配する中で、ミラ子はトボトボと立ち去って行く。

 

しかし、奇跡の崩壊は既に、始まっていた事をこの時にもっと重く受け止めて、此処で止めていれば、この後の未来は回避出来たかもしれない。

 

――――――――――――――――――――――

 

ミラ子の寮は栗東寮だ。寮長のフジキセキが出入り口で心配の表情で待っており、ミラ子は「大丈夫です」と中へ入って行く。

 

ミラ子は寮の部屋に戻ると、本来苦手な筈だった勉強道具を取り出して、ベッドの上で勉強を始めた。

 

ダンツ「ただいま………ってミラ子先輩。今日は珍しく頑張ってますね」

 

ミラ子「まあね」

 

ミラ子は英語の教科書や数学、国語に科学等の教科書や参考書、辞書や図鑑だけでなく、スマホを活用してノートへの執筆を走らせていく。

 

お風呂の時間になっても、ミラ子は未だに勉強を続けていた。夕食の時間にも現れなかった為に、ダンツがココアを持ってやって来た。

 

ダンツ「が、頑張り過ぎでは?少し休みましょう?」

 

ダンツはココアを入れて来るが、ミラ子の机に置かれたココアに目もくれない。机で未だにノートへの執筆を走らせ続けるだけだ。

 

ミラ子「大丈夫だよ」

 

ミラ子は止まらない。エナジードリンクやカロリーメイト等の栄養素の塊を食べたり飲んだりするだけだ。

 

深夜の23時。寮長のフジキセキがやって来た。ミラ子がまだ勉強しているのを見たフジは、ミラ子へ優しく話しかける。

 

フジ「ミラ子、そろそろ寝る時間だよ」

 

ミラ子「………分かりました」

 

フジ「無理は良くないよ。休むのが取り柄な君が珍しいね」

 

ミラ子は勉強の手を止めて、そのままベッドで横になり始める。漸く止まった事に、ダンツは安心した。

 

それが、一時の安心だと思わなかった。

 

―――――――――――――――――――――――

 

あの日から1週間。ミラ子のオーバーワークは止まらなかった。

 

プールはこの前の一件もあって自粛させたものの、走りのトレーニングでは無理な走りを繰り返した。タイヤの量も増やし、身体には限界を越えた重りを身に着ける。また、ウサギ跳びや瓦割りも度を越し始める。ウサギ跳びでは規定以上の周を跳び回り、瓦ではなく煉瓦、いや鋼鉄の壁を殴って凹ませていくようになる。

 

そんな無茶なトレーニングを繰り返すせいで、ミラ子のトレーナーはミラ子に対してトレーニングの自粛を呼びかけた。

 

しかし、そんな事でミラ子は止まらなかった。

 

ある日の深夜の寮室。ダンツは寝る為に消灯したが、隣でぼんやりと机の明かりのみが部屋をほんの少し照らす。

 

ダンツ「………み、ミラ子先輩。もう止めにしませんか?」

 

隣でガリガリガリガリと聴こえてくる、ボールペンやシャープペン、鉛筆の書く音。消しゴムで紙の上を擦る音、ノートを捲ったり開いたり閉じたりする音もしていく。ミラ子の周りには、使い古されたノートや参考書、東大にすら入れそうな程の教材や偉人に関する本が並んでいた。

 

ミラ子「……………ブツブツブツブツブツ」

 

ミラ子はダンツの呼び掛けに答えず、一心不乱にノートへ書き記していく。学びの手を止めない。使い古されたノートが床に落ちて、ミラ子の周りだけ足場が散らばったノートや参考書で埋め尽くされていた。

 

それだけでなく、ミラ子の為に用意したスイーツや差し入れ、そして衣類や新作コスメも、ノートの山に埋もれて潰れていた。スイーツが潰れて新作衣類も台無しになるが、ミラ子は気にする様子が無い。

 

ダンツ「もう、床とかノートが散らばってます!片付けないと!それに、もう充分ですから!もうやめてください!」

 

ダンツが手を伸ばすが、ミラ子がその手を叩く。

 

ミラ子「邪魔しないで………まだ学ばないと………」

 

ミラ子は勉強を止めない。すると、寮長のフジキセキが入ってきて、部屋の惨状を見て愕然とする。

 

フジ「これは………ミラ子!もう今日はおしまい!これ以上は認められないよ!」

 

ミラ子「……なんでですか?頑張るのは良い事でしょう?」

 

フジ「君のそれは頑張ってないよ。それはサボってるのと変わらない。いいから休みなさい」

 

ミラ子「…………はい」

 

ミラ子は手を止めて休む。漸く休んだ…………かに思われた。

 

ダンツは寝ようと横になると、ふとミラ子のベッドを見た。そこで見た光景に、戦慄する。

 

ミラ子は、スマホのみを使ってノートへの執筆を止めなかった。狂気的な勉学は、止まることが無かったのだ。

 

しかし、そんなミラ子の狂気的な努力の成果は、思わぬ結果となる。

 

――――――――――――――――――――――

 

凱旋門賞、ブリーダーズカップ、ドバイ。ミラ子の活躍は海外にも及び、春の三冠、秋の三冠、更には苦手だった筈の短距離G1やマイルG1まで勝つようになった。全てが順調だった。

 

勝てば更に期待され、その度に努力を重ねる。努力を重ねれば勝てる。そして期待。無限に続くと思われたループ。

 

それは、ある日を境に崩れ去った。

 

アナウンサー『ヒシミラクル!!いったいどうしたのか!?安田記念、ヒシミラクルはスタート位置から動かず!!』

 

ある日、レースに出たミラ子は、勝てなくなった。ゲートが開いた瞬間、自分だけが泥の中にいるような感覚。必死に脚を動かしているのに、景色が後ろに流れない。

 

アナウンサー『なんとまたまた大敗!!宝塚記念にて、今度はゲート開いても進まない!!』

 

かつての「末脚」は影も潜め、掲示板からも外れ、ついには「大差での最下位」が定位置になってしまう。

 

ウイニングライブでも異変が訪れる。振り付けが頭に入っているのに、体が勝手にふらつく。隣のウマ娘にぶつかり、「……あ、すいません」と謝るその声も、観客の声援にかき消されて届かない。かつてあんなに輝いていたステージが、今はただの「晒し台」のように感じられる。

 

そして控室で、ミラ子は皆に謝る。

 

ミラ子「ごめんなさい……次はちゃんとします。努力します」

 

周りのライバルたちも、そんなミラ子の様子に不信感を感じる。

 

あのヒシミラクルが壊れたのか?振り付け間違えた?

 

するとその中の一人が、『ヒシミラクルさんライブ前も、ずっと踊ってたよね?』と言った。本来休む必要があるのに、それでも休まなかった。その結果、ライブでは振り付け通りのダンスも出来なくなって、周りとぶつかるケースも増えてしまった。

 

そして、ミラ子の栄光からの転落はまだ止まらない。

 

それは、学園成績にも表れ始めた。授業で当てられても、おかしな文字の羅列を黒板に書き記すだけになってしまい、テストの成績も下がり始めていた。

 

ミラ子「なんで!?なんで…………寝ないで頑張ったのに、泳いで、走って、勉強したのに…………なんでだよ!!」

 

ミラ子は答案を机に叩き付け、両手で頭を強く掻きむしる。髪が乱れ、頭皮が傷つき、目は充血している。周りから見てもミラ子は壊れていた。

 

担任教師「ヒシミラクルさん………この後補習ね」

 

ミラ子「っ!!それをやれば挽回出来る!!お願いします!!挽回します!!もうなんでもします!!」

 

ミラ子は立ち上がり、担任教師の手を握る。息が荒く、涎が垂れて、目も充血している。

 

担任教師(ヒシミラクルさん……どうしちゃったの?)

 

担任教師は生徒の事を第一に考えられる女性教師だ。そんな彼女は、ミラ子の様子のおかしさに気付いた。

 

そして、補修の時間でミラ子はその片鱗を見せた。

 

渡された算数のプリントの余白に、びっしりと微積分や、全く関係のない物理の公式、果ては歴代のウマ娘のコース取りや走法、料理の知識なども書き殴り始める。「これも覚えないと、次も0点になっちゃうから……」と呟きながら書き続けるミラ子は見るだけでも壊れているのが丸分かりだ。 シャープペンの芯が何度も折れ、指にはタコができ、血が滲んでも、彼女は書くことを止めない。知識を吸収しているのではなく、「ペンを動かしているという事実」だけで自分を支えている。

 

ミラ子「もっと………もっと……もっと……もっと………もっと………もっと………もっと………」

 

目を大きく開き、飛び出しそうな程にプリントを凝視し、必要ない勉強までしてしまっているのを、担任教師は戦慄して見ていた。

 

鼻血が垂れており、プリントに掛かってそれを拭うミラ子。益々プリントが汚れていくのを、ミラ子は気にせず続けようとする。

 

担任教師「ヒシミラクルさん?今日はここまでにしましょう?」

 

その時、教室内が凍りつく。雰囲気が悪化している。

 

ミラ子は顔を上げて、プリントを回収しようとする担任教師を、ミラ子は掴んで止めた。

 

ミラ子「な、なんでですか?私はまだ頑張れますよ?これまでゼロ点とか成績とか下がっちゃいましたから………皆に遅れてるんですよ?今から頑張りますから……もっとさせてください………」

 

足元がふらついており、瞳も蠢いて焦点が合ってない。拒食と過活動のせいか、骨が浮き出るほどに皮膚が弱っている。制服がブカブカになり、掴みかかる指先は驚くほど細く、冷たい。

 

ミラ子「先生、なんで邪魔するんですか? 私を普通に戻そうとしてるんですか? 普通なんて、もう死んだんですよ!」

 

教師の腕を、爪が食い込みそうな程に強く掴む。教師が痛みに顔をゆがめても、今の彼女にはそれが「自分を止める敵」にしか見えていない。

 

ミラ子「あはは、分かった。もっとやればいいんですよね? 全部、全部やれば、誰も文句言わないんですよね?」

 

赤く染まった涙を流しながら笑っているミラ子。それは最早、嘗てのミラ子からは大きく遠ざかっていた。

 

ミラ子「よこしてください!もっと続けさせてください………!」

 

ミラ子は担任教師の肩を、もう片方の手で掴む。

 

トップロード「ミラ子ちゃん!?なにしてるんですか!?」

 

ハートリーレター「ミラ子!もう止めようよ!!帰ろうよミラ子!」

 

ビロンギングス「ミラ子!落ち着いてよ!今のミラ子、普通じゃないよ!!」

 

ファイン「そうだよ!担任教師に暴力なんて、ミラ子ちゃんらしくないよ!!」

 

ダンツ「ミラ子先輩!!もうやめてください!!ミラ子先輩はミラ子先輩のままでいてください!」

 

ミラ子の友人達が教室に入り、ミラ子を押さえ込む。騒ぎを聞いたダンツはたまたまその場を通っており、その理由はミラ子の心配だった。

 

ミラ子「離してよ!!離して!!補修がまだ終わってない!!皆に追い付かないと期待を裏切っちゃう!!お願いだから続けさせてよ!!」

 

ミラ子は全員に取り押さえられても暴れ続けた。担任教師が優しく諭す。

 

担任教師「ヒシミラクルさん………今の貴女、普通じゃないわ。今回の件は流石に報告は入れさせてもらうわ。でも………私は大丈夫よ………だからお願い………休んで頂戴」

 

すると、落ち着きを取り戻したミラ子が周りを見た。虚ろになり、痩せ細った身体を駆使して周りを見る。

 

ミラ子「あれぇ……みんな………?なんでここに?」

 

ダンツ「私達がまだ分かるんですね………」

 

ミラ子「………ごめんね………まだ頑張らなくちゃだよね?」

 

ミラ子は机に寄りかかり、起き上がろうとすると身体もふらついていた。

 

トップロード「トレーナーさんからも聞いてましたけど………何も食べてないって本当ですか?」

 

ミラ子「……三日前にカフェテリアでご飯食べたよぉ。沢山、食べていたようなぁ?」

 

それを聞いたダンツが、大粒の涙を流しながら否定した。

 

ダンツ「嘘です!!だってミラ子先輩、私が用意したお菓子もご飯も、食べると受け取ってベッド下や机の中に仕舞い込んでそのままじゃないですか!!ミラ子先輩を先に行かせた後、調べて分かりました!!もう6日間も碌な食事をしてませんよ!!」

 

それを聞いた周りは顔を青ざめていた。ミラ子はフラつきながら壁に寄りかかり、「そうだっけ?」と首を傾げるだけだ。

 

ミラ子「せんせぇ〜………せんせぇ〜?せんせぇ〜……まだ補修したいですよぉ〜……」

 

ミラ子は立ち上がるが、最早身体は限界だった。

 

ミラ子「あ……れ………前が………あれ?暗くなって………」

 

その瞬間、ミラ子はその場に倒れた。周りがミラ子の元へ集まり、頬を叩いたりして意識があるか確認し、必死に呼び掛けていく。

 

ミラ子はこの後、救急車によって病院へ搬送された。

 

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ミラ子の診断結果は、かなり深刻なものだった。

 

長期の栄養失調による内臓機能の低下。

 

慢性的な睡眠不足による自律神経の完全な崩壊。

 

過度な入水による低体温症と、筋肉の微細な断裂の放置。

 

精神的ダメージとして、「心因性反応性抑うつ」も起きていた。期待に応えようとする強迫観念が、脳の防衛本能を破壊し、感情の起伏を凍結させてしまった状態。

 

医者の言葉は、更に残酷なものだった。

 

医者「……肉体の回復には時間がかかります。ですが、それ以上に深刻なのは『拒絶反応』です。彼女の脳は今、自分を追い詰める原因となった『ウマ娘としての活動』すべてを拒絶しようとしています。次に目が覚めた時、彼女が自分の名前すら思い出せるかどうか……それほどまでに、彼女は自分を壊してしまったのです」

 

それを聞いたトレーナーやダンツ、トップロード達が何を意味するかを理解していた。

 

ヒシミラクルはもう、レースで活動する事は出来なくなったのだ。

 

この事は担任教師から報告を受け、トレーナーからも報告を受けたたづなさんも深刻に受け止め、秋川理事長はヒシミラクルの引退を正式に発表する事を宣言した。

 

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ヒシミラクルの引退は、世間を賑わせた。G1を勝ったウマ娘の引退発表は、本人からではなく秋川理事長からの正式な発表から始まった。

 

記者会見にて、数多くのフラッシュの中で理事長は語る。

 

秋川理事長「告知…………本日を以って、ヒシミラクルが極度の肉体的及び精神的症状により、レース続行不可能である為、本人の確認はまだだが、引退を表明する」

 

たづな「彼女の体調は、もはやアスリートとしての限界を遥かに超えています。極度の栄養失調、睡眠障害、そして自己破壊的なオーバーワーク……彼女は、皆様の『期待』に応えようとするあまり、自分という存在を消し去ろうとしていました。ベッドの下に隠された、封も開けられていない数日分の食事。それが、彼女が戦っていた孤独の正体です」

 

樫本理事長代理「我々の『監理不足』でした………私は彼女の数値を追っていましたが、彼女の『心』が0に向かって加速していることを見落としてしまいました。勝利という結果が、彼女の悲鳴をかき消していたのです。彼女をここまで追い詰めたのは、学園であり、指導者であり……そして、彼女に『次なる奇跡』を求めた、この社会全体です」

 

秋川理事長「彼女は普通である事を望んでいた。それを壊したのは、他ならぬ我々だ。もう彼女には無理強いを行えない……我々がやるべき事は、彼女が今からでもより平穏な日常を送れるように支援する事である」

 

この記者会見後、秋川理事長は学園に新たなルールを作ると発表した。

 

それは、簡潔に述べるならば、オーバーワークを罰する校則である。規定以上のトレーニングや勉強を続けた生徒に対して、強制的な休暇期間を設ける事だった。

 

具体的な内容は伏せるが、率先してオーバーワークを繰り返すようになれば、ウマ娘であってもいずれ身体は壊れてしまう。

 

担当トレーナーは止められなかった責任として、一定期間の停職処分が下った。本人もその罰を甘んじて受け入れた。

 

そして、一チームにつき走りを鍛えるプロのトレーナーが兼任してきた仕事も、役割分担としてメンタルケア担当のトレーナーも就く事になった。睡眠時間、食事摂取量、精神状態を専門に管理。この担当には、「技術担当が提示したメニューを拒否(ストップ)する権限」が与えられ、それぞれのチームのサブトレーナーとは別のケアトレーナーが就く事になる。

 

また、授業も変わり始めた。塗り絵、昼寝、散歩、ただの雑談など、「結果が出ないこと」をあえて行う授業がリハビリとして組み込まれまるようになった。これはオーバーワークを続け過ぎたミラ子のように、勉強すら「自分を追い込む武器」にしてしまう生徒への対策として組み込まれ、これ以上の悪化を防ぐ為に取り入れられた。

 

変わりゆく学園とは別に、ミラ子は特別な療養施設で静かに過ごしていた。

 

――――――――――――――――――――――

 

ミラ子は何もない病室で、ずっと天井を眺めていた。ここへ運び込まれ、目を覚ました頃に自分の変わり果てた姿を見た時、其処で自分はもう終わったのだと理解した。

 

もう何もしたくなかった。勉強も禁止された上に、走る事ももう出来ないのは自分でも理解出来る。

 

ミラ子にあるのは、ただテレビもスマホも、タブレットさえもない病室で、天井を眺めることだけだった。

 

ミラ子「………わたし………なんで………」

 

言葉が出てこない。体も上手く動かせない。

 

身体を動かそうとするが、上手く力が入らない。

 

ミラ子(でも………なんだか………悪くないかも………)

 

ミラ子はそう思うと、眠気に襲われてそのまま眠りに入った。

 

それから暫く、ミラ子は寝ては起きたりを繰り返すだけだ。

 

彼女は次第に身体を動かせるようになり、歩行器が無くても杖さえ使えば問題なく歩けるようになった。しかし、脳のダメージにより、杖無しではバランスすら取れなくなる。

 

ミラ子は退院後、杖を突きながら歩行を行った。

 

―――――――――――――――――――――――

 

ミラ子は退院後、学園に戻った後に皆からお祝いとして沢山の料理をご馳走してもらった。退院日は偶然にもミラ子の誕生日だった為に、皆がミラ子の大好物を沢山作ってきてくれたのだ。

 

ミラ子「皆………あり、がと………」

 

ミラ子は覚束ない口調で感謝を告げた。料理を食べていくミラ子は、味覚が完全でない為に味がやはり分からなかった。しかし、皆が用意してくれたお好み焼きやたこ焼き、焼きそば等も沢山食べていく。

 

これまで食べてこなかった分だけ食べた。味が分からないけど食べた。

 

すると、次第にミラ子は涙を流し始めた。

 

泣きながらも食べ続けたミラ子は、皆から「もう大丈夫」と励まされ、それ以上の励ましは無くても皆からの祝福を心から受け入れた。

 

7月頃。皆は夏合宿に向かった為にミラ子も夏合宿に向かおうとしたのだが、学園から下されたのは、なんと授業出席とトレーニングの強制停止だった。つまり、夏合宿も参加は免除された。

 

ミラ子「な、なんでですか?」

 

担任教師「ごめんねヒシミラクルさん。でも、今の貴女はまた授業とかに出たら、再び壊れてしまうような勉強やトレーニングをしてしまうかもしれない。其処でヒシミラクルさんには、学園が定めた期間中は好きに過ごしてもらって大丈夫よ。学園の外に出るなら、トレーナーや教師、友達を必ず同行させること。そして行き先でもしスタッフに学校はどうしたとか尋ねられたら、今渡した許可証を見せるといいわ。同行人にも持たせてあげるから」

 

ミラ子「は、はぁ…………」

 

担任教師「取り敢えず、先ずはゆっくりと過ごしてみなさい。期間中は、一切の授業出席やトレーニングの参加を禁止します」

 

ミラ子「でも……補習とか単位とかは………」

 

担任教師「補習は大丈夫よ。それに、期間中は出席扱いとします。それでも不安なら、これ」

 

担任教師が渡してきたのは、あの時書いていたプリントだった。其処には大きな花丸が描かれていた。

 

担任教師「これであの日の取り残しは帳消しとします。補習はもう心配しなくていいわ」

 

ミラ子「は、はい………」

 

担任教師「それと、あの時の成績は教師全員との職員会議で、『病気による絶不調時に行った為に不問』とするそうよ。療養期間が明けたら、改めて再試験とします。今は、ゆっくり身体を休めて」

 

こうして、ミラ子は授業とトレーニングを禁止され、1年間の自由時間が与えられた。留年はすることになるが、それでもミラ子に与えられた期間中は、成績が下げるような事はしないと担任教師は言った。

 

しかし、休み方を忘れたミラ子。勿論初めこそ、木漏れ日のベンチで休むしかしなかった。

 

ミラ子「………………………………」

 

ミラ子はベンチで座って、身を預けるように寄りかかる。何もしないのに、悪いと思えなかった。

 

ミラ子「………私、なんで努力してたんだっけ?」

 

ミラ子はベンチで横になり、陽光を浴びながらゆったりした。陽光の温かさに身を任せた。

 

そして、療養期間中は兎に角自由に過ごす事にした。

 

ミラ子「トレーナーさん………たこ焼き食べに行きますか?」

 

トレーナー「ああっ、良いぞ」

 

この日はたこ焼きを食べに向かった。ミラ子はたこ焼きを食べていくが、トレーナーは今度は止めなかった。

 

そしてある日、ミラ子は北海道へ旅行に来た。友人達はトップロードとダンツ、ハートリーレターにビロンギングスと共に北海道へ来て、名物料理を堪能したり、北海道の自然を見に行く観光に向かう。

 

ある日は青木ヶ原樹海へオカルト観光に向かう。ある時はUSJに遊びに向かったりした。そして、沖縄へ来て海や名所を巡ったりした。

 

その旅費は沢山のレースで得た賞金に加えて、学園からも旅費が出た。

 

ミラ子は旅行に行き、各地の名所を巡り、美味しい物を食べる内に、次第に心に余裕が生まれ始めた。

 

ミラ子「私、休んでも良かったんだ………」

 

こうして2ヶ月目の辺りで、ミラ子は授業やトレーニングに出る事なく、学園の中庭にある木漏れ日で昼寝をするようになった。

 

もうトレーニングしなくて良くなり、ミラ子は本来のだらけきった自分が戻り始めていた。

 

ミラ子「ふぅ〜……日差しが気持ちいい……」

 

スカイ「あれ?ヒシミラクルさんじゃないですかー」

 

其処に来たのは、サボりで有名なセイウンスカイだった。

 

ミラ子「セイウンスカイちゃんだっけ?今日も休みに?」

 

スカイ「まあそうですよ。この木陰で休むのがセイちゃん大好きなんです〜。でも今日、フラワーも来る予定なんで、一緒に昼寝しようって思ってます」

 

スカイがそう言った後、フラワーが「スカイさん!見つけましたよ!」と頬を膨らませながらやって来た。

 

スカイ「フラワー♡昼寝しようよー♡」

 

フラワー「ダメです!今日はレースに向けてトレーニングがあるんです!トレーナーさんからお迎えを頼まれたんですよ!」

 

スカイ「えーめんどくさいなぁ〜」

 

ミラ子はそんな光景を見た時、微笑ましくなった。

 

ミラ子(もうレースに出なくていいから、こんな光景も最後になるかな)

 

ミラ子「仲がいいね〜。まるで夫婦みたい」

 

フラワー「はぃ!?ななな、ナンテことを言うんですか!?」

 

スカイ「もー、からかわないでください。でも、フラワーがお嫁さんだったら良いかな〜、なんて」

 

フラワー「えええええっ!?//////」

 

ミラ子「そうだね。2人とも似合うよきっと」

 

フラワーが赤面し、スカイも頭を掻く光景を見ながら、ミラ子は再び昼寝に入る。

 

そして、寮の生活も改善していた。

 

ミラ子「こんなに、溜め込んでたんだね…………」

 

フジ「これだけのノートの山…………ページも血が滲んでる………ポニーちゃんにはもう必要無いかな」

 

ミラ子「はい。もう良いんです。私はホントにやりたい事を見つけられましたから」

 

ダンツ「ミラ子先輩と一緒に片付けたかったので。一緒に片付けましょう!」

 

散らばったノートの山を、紐で括り付けた後に業者へ出して回収させた。ミラ子やダンツ、フジさんに加えて沢山の友人が力を貸してくれた。ノートの山は埃が溜まっており、衛生観念にも影響があるので、処分する事にしたのだ。

 

参考書や必要の無い教材はBOOKOFFに売り、そのお金で見たかった漫画やゲーム、アニメのCDやDVDも購入した。

 

また、放映終了した映画やディスクになって販売された映画も、クリスエスの伝手で入れるようになったルームシアターで楽しみ、ポップコーンやコーラ、ポテト等を食べながら楽しんだ。

 

そんな片付けの最中に、ある物を見つけたミラ子。

 

ミラ子「あっ……」

 

それは、ダンツが持ってきた差し入れ。埃を被り、所々カビ臭く、ノートの山に潰れてる物もある。食べ物に限らず、新作コスメや新しい衣類もあり、中には期間限定又は季節限定品もあるし、これを買うのにかなりお金も出したのだろう。

 

更にはチラシもある。どれも去年の物で、限定品やミラ子が元々興味あった品物もある。期限を遥かに過ぎていて、ミラ子はそれだけでも時が過ぎていたのだと実感した。

 

そんなルームメイトの親切を、ミラ子は不意にした。

 

ミラ子「粗末にした食べ物……もう戻って来ないよね。コスメも」

 

それを見ていたフジが、ミラ子の頭を撫でる。

 

フジ「失った物は戻らないよ。コスメ、それなりに値は張ってたからね。台無しにしちゃったのはしょうがないよ」

 

ダンツ「そうですよ。それに、あの時の先輩は受け取れる状態じゃありませんでした」

 

ミラ子「………食べたかったな」

 

それを聞いた途端、フジやクリスエス達が声を上げた。

 

フジ「もしかしたらさ、なんとか出来るかもしれないよ?」

 

クリスエス「可能な限り、再現してみせる」

 

すると、それを聞いたサトノダイヤモンドとメジロマックイーンも、通りすがりでミラ子の言葉を聞き、名乗りを上げた。

 

ダイヤ「それでしたら、お手伝いさせてください!」

 

マックイーン「わたくしも、スイーツには詳しいので、可能な限り取り揃えてみせますわ!」

 

こうして、皆がそれぞれ奮闘してくれた。期間限定品というものは、流石に同じものを完璧に再現するのは難しい。しかし、当時のコスメを持ってる者から証言を取り、香りや品質が限りなく近い物を紹介してもらったり、新しい物を使ってて要らないからと使ってた品物を提供してもらい、其処に書かれている成分や原料も調べて、当時に限りなく近い物を作らせた。また、衣類も中々見つからなかったと思いきや、中古で安く売られていた衣類があり、クリスエスがタップダンスシチーの人手も使って取り揃えた。

 

更に、マックイーンやダイヤは限定品の食べ物について調べて回り、当時の製作に携わってた人達から証言を取り、全てが同じにするのは難しくても、限りなく近い物を作成する為にレシピを調べたりもした。

 

そして後日、ミラ子の元に改めて、過去の差し入れを含めた多数の品物が、全員から贈られた。当時販売されていた商品と同じ、もしくは近い菓子から始まった。後続商品のコスメの中には、1から作り上げた化粧品もある。似たデザイン若しくは中古で売られてた衣類。そして、マックイーンやダイヤが協力して作らせた季節限定だった品物の復刻版や類似品。それが、ミラ子の部屋のテーブルに纏めて置かれた。

 

ミラ子「こんなに………皆ありがとう……」

 

フジ「全部は無理だったけど、可能な限り取り揃えたよ。さあ、食べてみて」

 

ミラ子はスプーンを手にして、本来なら冬に食べる筈だった物を食べ始めた。口に運び、久々のスイーツの味を、去年に食べる事なく放棄した味を、今この瞬間に味わった。

 

ミラ子「美味しい……」

 

ダンツ「ああ……良かった………」

 

ダンツは涙を流す。ミラ子が漸く食べてくれた。それだけでも、ダンツにとっては嬉しかったのだ。

 

普通に遊ぶ女の子として1年の時を過ごし、学園生活に戻ってからも、ミラ子は無理のないように授業に取り組んだ。

 

とはいえ、これまでの勉強は決して無駄ではなく、好成績を維持出来るようになったのは、言うまでもなかった。4ヶ月もの休みの末に、ミラ子は心や精神に余裕が生まれ、これまでの勉強の成果が出るようになったのだ。

 

そしてミラ子は、卒業までの間もゆったりとした学園生活を送るようにした。

 

―――――――――――――――――――――――

 

トレセン学園卒業から数年後。

 

ミラ子は元々行きつけだったお店で働き、お店の看板娘になっていた。

 

お客「ミラ子ちゃーん!豚玉一つー!」

 

ミラ子「はーい、注文承りましたー!」

 

その店は決して大きくなく、地元で来る人が来る小さなお好み焼き店だった。しかし味は美味しく、地元でも中高生や親子連れ、高齢者もよく通う店なのだ。

 

忙しい時もあるが、店長の夫婦が営むお好み焼き店は暇な時が多く、ミラ子にはうってつけな職場だった。

 

店主夫「お疲れ様ミラ子ちゃん。賄い食べるかい?」

 

店主妻「特大でいいかねぇ?」

 

ミラ子「はい!ありがとうございます!」

 

もうミラ子は、かつてのようにオーバーワークに囚われていない。

 

その笑顔は、働きつつも途切れる事のない幸せに満ちた笑顔だった。


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