つよつよブサイク 作:嶺南派師弟
あなたは、唐門を聞いたことあるか?
天下第一の暗器の名門、四川蜀中に鎮座し、江湖に名を馳せること数十年。
懐には金銭鏢、袖には袖矢、髪には牛毛針、壺には鶴頂紅。
唐門の者は、全身どこもかしこも凶器である。
「は?」
「どこもかしこも凶器である。」
頭でっかちの三師兄に連れられて、街まで門弟の確保に来たけれども、あの口上でただの一般人を勧誘するのは無理だろう。
そのまま様子を眺めていたら、三師兄は勧誘相手に言い負かされて、麺代まで払わされていた。
「は、はは…師弟に恥ずかしい所を見せたね」
「見てましたよ、仕方ないです。三師兄もお疲れ様でした。」
しかし無理もない。何故なら唐門は世間一般からの評価が非常に良くないのだ。以前までの唐門ならば、掌門の圧倒的な武勇と義侠心、そして苛烈さから武林に名声を馳せていた。
しかし掌門が病に倒れると、その苛烈さゆえに、方々から恨みを買っていた唐門は、次々と仇敵に攻められるようになった。
手練れの多くが殺され、多くの弟子が蜘蛛の子を散らすように逃げだした。結果、唐門に残ったのは多額の借金と悪評だけである。
「師弟、君の成果はどうだった?」
「俺の方は、……道端の人に声をかけたところ逆に脅されましてね。それで路地裏に連れ込まれたから、ぶん殴って有金を巻き上げて来ましたよ。」
「それはよくやった師弟。して、奴らの顔は覚えているか?」
「ははは…飛石幫に手を出してタダで済むと思うなよ!なんて捨て台詞を吐いていましたよ。」
「あぁ……大師兄が問題を起こしたせいでよく嫌がらせをしてくるところか……。まて、飛石幫とは確か掌門から接触を禁じられていた筈では?」
「知ったこっちゃありませんよ、三師兄。こっちは被害者だ。迷惑料でも貰っとかないと割に合わない……掌門には黙っていてくださいね。」
「しょうがないな、今月の江湖速報で手を打とうじゃないか」
「そうこなくっちゃ三師兄、ついでに小師妹に折り紙でも買っていきましょうか。」
買い物を終え、唐門に帰って来た時にはもう既に日は落ちていた。
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「師弟、おい、師弟、おい!おい!師弟!」
朝の雑用が終わり、一息ついていると、めんどくさい奴が来た。
「師弟、おい、師弟、おい!おい!師弟!」
「2度も言わんでよろしい。なんだよ、大師兄。休ませてくれよ。」
「じゃあ2度も言わせんなよ。暇だから俺と遊べよ。」
こっこいつ……成人してる筈なのにガキみたいな事言いやがる。腕だけは唐門屈指だからタチが悪い。
「それで?何して遊ぶんです?」
「お前飛石幫に喧嘩売られたらしいな、ちょうど良いからぶん殴りに行くぞ。」
「何が丁度いいんだよ。……?何故、大師兄がその事を知っている?」
おかしいな。この話をしたのは三師兄だけなんだが……。
「街の連中の噂になってるぞ。唐門の服を着たとんでもないブサイクが飛石幫に路地裏へ連れてかれたって。」
あちゃー見られてたか……そりゃそうだよな。道端で勧誘してたんだもの。
あらぬ嫌疑を、三師兄にかける所だった。
「あんなごろつきどもが身の程知らずにも、唐門に喧嘩を売ったんだ。唐門の大弟子として黙って見過ごすわけにはいかん。」
「いや、お前が飛石幫の幫主の夫人を口説いたのが、唐門と飛石幫の揉め事の発端だろうが。」
そう、飛石幫と唐門がこんなにも険悪になったのは、目の前のこの淫獣が幫主夫人を攫っちまったからなのだ。
飛石幫は近年四川で拡大して来た幫派で、肉体労働を必要とする現場に人材を派遣する仕事を生業としている。
幫主は石公遠と言い、粗暴で凶悪な人相をしているが、善悪の区別がつき、部下にも悪事をさせないなど、好漢である。
ある時、幫主と幫主夫人が夫婦喧嘩をし、涙を流しながら夫人が走り去った。その様子を見ていた大師兄が言葉巧みに傷心の夫人を攫った。
本人曰く、清い友人関係であり、住居を用意しただけだと宣っている。誰がどう見てもこの男、黒である。
「それで殴るって言ったってどうするんだ?まさか幫主の元へ乗り込みに行くのか?」
「そのまさかさ。……と言いたい所だけど石公遠の奴は今暇してないらしい。だからお前、適当に街をぶらついて飛石幫の奴らを釣ってこい。」
こいつ滅茶苦茶言ってやがる。
「釣るって言ったって連中もそうバカじゃないし、こちらからあからさまに喧嘩売るのも掌門に知られたらえらい事になるぞ。」
「大丈夫さ、師弟……お前は顔は酷いが頭はすこぶるキレて弁も立つ。あんな猿どもチョチョイのチョイさ。」
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「全く、大師兄は強引なんだから。」
飛石幫の分舵近くにある酒場に顔を出す。
「いらっしゃい。」
「店主、酒と何かつまむものを。」
さて……店内をそれとなく見渡すか。
うん……いるな。飛石幫の幫眾が最低でも8人は。
「へい、酒です。お客さん見ない顔だね。それにその服あんた唐門のもんかい?」
「あぁ。そうなんだよ。この前臨時収入が入ってね。下山して豪遊しようと思った次第さ。」
そして店主に向けて複数の銭入れをひらひらさせる。
「あらま、そんなに何個も何処で手に入れたんです。」
「アホなゴロつきどもが、喧嘩売って来たんだ。そいつらをコテンパンにのして授業料を頂いた次第さ。」
そのまま運ばれて来た酒を一息に煽る。
「くぅー勝利の味は格段に美味いな。」
「いよ!大款!もう一杯どうだい?」
「あぁ、そうさせてもらうよ。」
店主が酒を取りに行くのと入れ替わりに、数人の男たちが俺を囲む。
店内にいた飛石幫の幫眾たちだ。どうやら上手く釣れたみたいだ。
「おい、面かせよ。」
「店主、勘定ここに置いておくよ。」
囲まれたまま酒屋を出る。
さて、作戦の第一段階は完了した。大師兄と事前に決めた作戦はこうだ。
その1.俺が飛石幫の分舵近くにある酒場に行き、幫眾を挑発する。
その2.俺が飛石幫に連行され、袋叩きにあう。
その3.俺の合図と共に大師兄が他の唐門の弟子と一緒に助けに入る。
その4.有金を全て頂く。
作戦というにはあまりにお粗末だが今のところ上手い具合にいっている。
そのまま人気のないところまで連れてこられた。それになんだか頭数が増えている。
これ……50人は居ないか?
「お前、わざわざ俺たちの分舵近くにある酒場でよくもまあ見せびらかしてくれたな。」
喧嘩をわざと売った事がバレている。確実に知能は大師兄より上だ。
だが腰の入ってない蹴りだな。こいつらあまり荒事に慣れてないのか?
まあいいか、さっさと終わらせよう。
「大師兄〜!!!」
いきなり大声を上げた俺に周りがざわつく。
当たり前だ。これから大師兄が俺を助けに弟子たちを率いてやってくるのだからな。
少し時間が経つ。ざわめきが収まってくる。
おかしいな、聞こえなかったのかな?それではもう一度。
「大師兄〜!!!」
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「あははははははは、まったく、師弟。お前は最高だ。」
あれから趙活は大師兄と3度大声を出した後、何事も起こらなかった為、必死に50人の幫眾たちと戦っている。
非常に愉快だ。笑かしてくれる。
「殺すぞ〜〜!!!!!唐布衣〜〜〜!!!!!」
「あはははははははは。」
俺ほどでは無いものの非常に卓越した軽功で四方から飛んでくる石礫を避け続け、内功を練り上げ、拳を振るう。
どうやらまた腕を上げたようだ。四師兄が師弟のために新しい秘笈をくすねて来たに違いない。
「師弟が裏山で独り修練を積んでいることは知っている。薪拾いの際に、他の武人に襲われ、返り討ちにした後、見逃してやってる事も知っている。」
「だけど、それだけじゃ経験が足りない筈だ。ある程度腕のある相手と戦う経験、または今回みたいな大多数との状況も経験させるべきだ。」
掌門が趙活を内弟子にしない理由は知っている。でもあれだけ才があり大きな夢を持つ努力家が埋もれていくなんてあんまりではないか。
それが同じ唐門の弟子ならば尚更だ。
本当に不味くなったら助けよう……そう思いながら下の喧騒を眺めていると、どうやら50人全員を1人で倒したみたいだ。
幾ら相手が飛石幫に入って間も無いとはいえ、大したものだ。
「悪い悪い師弟、二日酔いが酷くてな。」
「殺す……。」
経験した事もないだろう大人数との闘いだ。疲労困憊した師弟を見ながら満足げに笑う。
「お前1人でもなんとかなると信じてたよ。」
お……おお……やったわ……ハーメルンに活俠傳の二次小説を広げる事に成功したわ。超気持ちいい!!
責任を取らなくてもいい!これが言葉の力よ!