(やってしまった……もう、完全にやってしまった)
俺はテーブルに並べた手持ちのカプセムを眺めながら盛大な溜息と共に突っ伏した。
他人の鞭を棚に上げて、その情報を得ていないからこその選択にケチをつけるなんてエージェント以前に人としてやってはならないことだったろうに、俺はそれを最悪の形で突き付けてしまった。
(遅かれ早かれ必要なことではあったが、あんな形でやるべきではなかった)
今更ながらイレイスカプセムで記憶を消してやるべきだろうか?
心の傷はリカバリーやバリアーでどうにかなるだろうか?
なんて無駄な現実逃避をしつつ、俺は自分で作って送ったミッション記録を見返す。
(ミッションとして優先うべきは、キュウべぇの得ている利益の把握。
それから魔法少女たちとの関係の再構築……できるか?)
学校に向かう足取りが重い。
だがいかないわけにも、鹿目たちに会わないわけにもいかなかった。
「あ、小鷹君……」
「あんた、よくこれたね」
「……昨晩はすまなかった」
俺が頭を下げると、美樹が俺の肩に手を当て頭を上げさせた。
「それはいいよ。半分助けてもらったようなもんだし。
でもこれだけは正直に教えて。どうしてマミさんを倒したの?」
「俺の目の前で魔女に変質して、他の魔女と同じように人を襲おうとしたから倒した」
美樹の肩に置いた手を取り、俺はガンカプセムを渡した。
「お前が持っていてくれ」
「……わかった。
でももしアンタの今の言葉が嘘だってわかったら、アンタを倒すから。
まどか!行こう!」
「あ、うん!またね、小鷹君」
小走りで学校に向かう二人を見送る。
俺は背後にいるのに気付いていた彼女に声をかけた。
「お前は何の用だ?」
「……あなたの組織は兎も角、あなた自身の目的は何なの?」
出てきた彼女、暁美ほむらは不機嫌さと警戒心を隠さない。
俺も別にこの女を信用してはいなかった。
どうにも魔女と魔法少女の関係を知っていて言ってなかったようだしな。
「この世の悪を撲滅し世界の平和を守ることだ」
「じゃあ昨晩の八つ当たりのような真似はなにかしら?
あれがどう正義につながるというの?」
「俺のやることが気に入らないなら素直にそう言え。
お前が何を目的にグリーフシードの絡繰りを黙っていたか知らないが、都合の悪い真実を秘匿し何かを叶えようとしたお前を慮る理由を俺は持たない」
そんな行いはキュウべぇと変わらないだろう。
だから、俺はこの女を信用する気がない。
「俺のミッションを妨害するならお前を排除する」
「……そう、なら私もあなたに容赦しないわ」
そう言って彼女は俺より先に学校に向かった。
俺も遅刻ギリギリで学校に到着した。
-----
「ここか」
放課後、風見野で『佐倉』と姓の付く家を探し回り、俺はとうとうある廃協会を見つけた。
法的には相続人全員が行方不明で放置されている場所なので見つけるのに時間がかかったが、佐倉杏子に接触できる可能性がある場所の当てはここしかない。
「おい、不法侵入だぞ」
礼拝堂だった場所まで進むと、想像通りのパーカーの少女が槍を後ろに現れた。
首筋に刃を当てられる。
「ここは今法的には誰の物でもない。
不法侵入はお互い様だ」
「……なんの様だよ?」
無駄な煽りあいはしない構えを見せた佐倉に俺は祭壇にナイトインヴォーカーを置いてから振り返った。
「この建物が、お前の願いの理由だな?」
「半分正解。どこまで調べた?」
「新興宗教、焼身自殺。長女の遺体は見つからない。
昨日夜なべしてネットから古い新聞記事まで当たって線で結べそうな点を洗い出した」
「はっ、優秀なエージェント様だな」
佐倉は俺を追い越し祭壇の前に立ち、ナイトインヴォーカーを手にしながら言った。
「あたしも、ソウルジェムが無事なら大抵のケガはどうにかなるぐらいのことは察しがついてた。
でもまさか、あんな仕様があったとはね。
なあ、マミの玉っころはまだ持ってるのか?」
「美樹に渡した」
「そうかい」
佐倉はこっちを振り返って見の上を語り始めた。
と言っても、大体俺が推測していた通りだった。
元居た組織を抜けて新しく宗派を起こした佐倉の父は、結局誰からも見向きもされず、生活は困窮していき佐倉が魔法少女の願いを使って人々に耳を傾けさせた。
最初はそれでうまく言っていたし、佐倉も巴先輩に弟子入りして魔法少女としても軌道に乗っていた。
だが、コトの真相を知った佐倉の父は魔法少女になった娘以外の家族全員で焼身自殺。
そんな経験から、佐倉は誰かのために戦うのを辞めた。
「そして今では立派な不良聖女の出来上がりか」
「誰がそんな酔狂なことするかよ。
ま、お前は好き好んで騎士なんてやってるけどな」
俺は投げ返されたナイトインヴォーカーを受け取る。
「お前は何を代償にエージェントになったんだ?」
「払ったのは俺じゃない。
何処かの世界で俺の両親の元に生まれた娘が魔法少女になって願った。
『キュウべぇと出会えなかった自分も夢を叶えられるように』と」
「マジかよ……魔法少女の願いって、そんなことまでできるのか?」
「なるほど。まさかそんな事情があったとはね」
声のした方にブレイカムバスターを向けると、例の白い魔獣がいた。
「キュウべぇ……」
「ノクスナイト、君が魔法少女になれないのが残念だよ。
君が魔法少女、ひいては魔女になってくれれば僕らは大分楽を出来る」
「やはりソウルジェムとグリーフシードの絡繰りの中で何かしらの利益を受け取っていたか」
「どうゆうことだよ?」
「お前らがこいつらと結んだのは契約だ。
お前らが叶えた願いに釣り合うかそれ以上の利益がこいつらになきゃおかしい」
「てっきりあたしはそれがグリーフシードだと思ってたんだけど、違うのか?」
「杏子の考え方も間違いじゃない。
僕らは君たちが倒した魔女やソウルジェムの穢れから感情エネルギーを受け取っている」
「まるで牛を育て、肉を熟成させて食むようにか?」
「良い例えだね。
僕らの場合、自分たちで食べているわけではないけどその捉え方で概ね間違いない」
「……だそうだが、何か心境の変化はあったか?」
「ねえよ。あたしは今更誰かのために戦う気にはなれない。
けどそうだん。ハイエナみたいな真似も、八つ当たりも、ちょっとダサいとは思ってきたよ」
そう言って佐倉は俺より早く廃教会を出て行った。
「そういえば、お前は俺のミッションを止めないのか?」
「僕に直接戦闘能力はないよ。
それに君は杏子やフェリシアにやったように取引の上とは言えソウルジェムを渡す気があるんだろう?
ならば僕としては貯めこみすぎなければこちらから何かする気はないよ」
俺はキュウべぇのその言葉を一応信じることにして見滝原に戻った。
See you next mission.