二千ターレン。
革袋の中に、それが入っている。
俺は、それを「三の目」の卓の上で、三度数えた。
二刻かかった。
二十口。一口、百ターレン。
俺の首が、二十に割れている。
十のうち八つ、沈む。
俺が、そう値をつけた。
ゲルトが、卓の向かいに座っていた。
「で。何に使う」
「払います」
「何を」
「ボーデさんに、千六百」
卓の周りが、静かになった。
「待て」
ゲルトが、卓を叩いた。
「二千のうち、千六百払ったら、四百しか残らねえ」
「残りません」
「四百で、何ができる」
「あまり、できません」
俺は、頷いた。
「俺たちは、あんたに商いをさせるために出したんだ」
ゲルトが、言った。
「借金を返させるために出したんじゃねえ」
俺は、麦酒を飲んだ。
飲んで、椀を置いた。
「ゲルトさん」
「なんだ」
「王国は、十四万ターレン借りています」
俺は言った。
「二十年、払っていません。払わずに、期日を延ばして、利をつけて、また借りた」
俺は、指を折った。
「なぜだと思います」
「金がねえからだろ」
「違います」
俺は、首を振った。
「払わないほうが、便利だからです」
「今日、千六百払うと、明日の商いができない」
俺は言った。
「だから、明日払う。明日になると、明後日の商いができない。だから、明後日払う」
俺は、卓を指で叩いた。
「二十年、そうやってきた国が、一つあります」
俺は、革袋に手を置いた。
「払わない金で、商いはできません」
卓の周りは、静かだった。
誰も、動かなかった。
「利息は」
俺は、頭の中で数えた。
「塩を受け取ったのが、去年の冬です」
俺は、指を折った。
「今日で、百七十五日」
「……日で数えるのか」
「日で数えます」
俺は、頷いた。
「月で数えると、端数が出ます。端数は、たいてい、貸した側に都合よく丸められる」
俺は、卓に指で書いた。
「千六百に、一割三分。一年で、二百八ターレン」
俺は、線を引いた。
「百七十五日ぶんで、百ターレン」
俺は、顔を上げた。
「締めて、千七百ターレンです」
ゲルトは、しばらく黙っていた。
それから、鼻を鳴らした。
「三百だな」
「三百です」
「四百じゃねえ」
「四百じゃありません」
俺は、笑った。
「一年前は、一ターレンでした」
◆
ボーデの店に行った。
この男は、卓に向かっていた。
俺が革袋を置くと、顔を上げた。
「千七百ターレンです」
俺は言った。
「元本が千六百。利息が百」
ボーデは、革袋を見た。
見て、動かなかった。
「……早いな」
「早いです」
「証文には、期日を書いてなかった」
「書きませんでした」
俺は、椅子に座った。
「書かなければ、いつ払ってもいい。明日でも、十年後でもいい」
俺は、この男を見た。
「書かないほうが、俺には都合がよかった」
「じゃあ、なぜ持ってきた」
「都合のいい紙を書く男が、うちの親父を殺したので」
ボーデは、革袋の紐を解いた。
解いて、銀貨を数え始めた。
太い指が、一枚ずつ、動いた。
二刻かかった。
「合っとる」
彼は、言った。
それから、この男は、銀貨を袋に戻した。
戻して、袋を、卓の上に押し返した。
「ボーデさん」
「受け取った」
彼は、言った。
「受け取ったから、次は、わしの金だ」
彼は、袋を叩いた。
「この千七百で、あんたの口を買う」
俺は、袋を見た。
「十七口です」
俺は言った。
「十のうち八つ、沈みます」
「沈むな」
「沈みます」
「わしは、沈む方に賭けたことがある」
彼は、椅子に背を預けた。
「あんたと契約して、破った。あのとき、わしはヴィントに賭けた」
彼は、俺を見なかった。
「勝った。……勝って、秘薬の商いが、丸ごと消えた」
彼は、太い指で、卓の木目をなぞった。
「今度は、こっちに賭ける」
俺は、袋を受け取らなかった。
「ボーデさん」
「なんだ」
「あんたは今、千七百ターレン持ってます」
俺は言った。
「一年前、あんたは持ってなかった」
「これを俺に渡したら、あんたはまた、ゼロになる」
俺は、卓に手を置いた。
「十のうち八つ、沈むんです。八割の目で、あんたはゼロになる」
ボーデは、俺を睨んだ。
「わしの金だ」
「あんたの金です」
「どう使おうと、わしの勝手だ」
「勝手です」
俺は、頷いた。
「だから、止めません」
俺は、袋に手を置いた。
「十七口、書きます」
俺は言った。
「ただし、一つだけ」
「塩を、四百ターレン分、残してください」
ボーデの手が、止まった。
「……なぜだ」
「あんたは、塩商です」
俺は言った。
「塩がなくなったら、あんたは商人じゃなくなる」
俺は、この男を見た。
「俺が沈んだとき、あんたが塩を持ってれば、あんたは生きてます」
「危険は、割ります」
「全部、俺に賭けないでください」
ボーデは、長いこと、動かなかった。
それから、袋から銀貨を数え出した。
四百ターレン分、抜いた。
残りを、俺のほうへ押した。
「千三百だ」
彼は、言った。
「十三口です」
俺は、紙を出した。
「条項は、五つ。四つ目に、罠はありません」
俺の手元は、千六百ターレンになった。
三百と、ボーデの千三百。
「三の目」に戻ると、ゲルトが卓を拭いていた。
「払ったか」
「払いました」
「四百残ったか」
「千六百残りました」
ゲルトは、布を止めた。
「……なんでだ」
「ボーデさんが、口を買いました」
「十のうち八つ沈むって、言ったんだろ」
「言いました」
「言って、買ったのか」
「買いました」
ゲルトは、鼻を鳴らした。
鼻を鳴らして、布を絞った。
「兄さん」
「なんです」
「あんた、値のつけ方が下手になったな」
俺は、麦酒を飲んだ。
飲みながら、それを考えた。
考えて、こう答えた。
「払う男の値は、俺には数えられません」