手紙は、一枚だった。
封蝋を割って、開いた。
字は、細い。硬い。
書いた人間の背筋が、そのまま出ている字だった。
書いてあったのは、数字だけだ。
——税、八万。
——戦費、六万。
——利息、二万一千。
——不足、千。
その下に、一行。
——三年、変わりません。
俺は、その紙を、机に置いた。
置いて、しばらく、動かなかった。
三年前、王城の書庫で、この女は同じ数字を言った。
指を折らなかった。折る必要がなかった。
何千回も数えた数字だ。
三年、変わっていない。
変わっていないのは、この女が数えた数字だ。
国が変わっていない、という意味ではない。
俺は、蝋燭を足した。
紙を、一枚出した。
税、八万ターレン。
俺は、その数字を、三度見た。
三度見て、それから、こう書いた。
——税とは、何か。
俺は、四つの村を知っている。
あの村から、王国は麦を持っていった。
六百俵。値にして、千二百ターレン。
代わりに、紙を置いていった。
徴発手形。額面、千五百ターレン。
あれは、税か。
税は、取る。返さない。
徴発は、取る。返すと書いてある。
返すと書いてある紙は、借金だ。
俺は、軍務庁のブラントに、手紙を書いた。
返事は、二十日で来た。
インクの染みが、紙にも移っていた。
——徴発により受領せし麦・鉄・馬・布の、直近一年の総額。
——一万二千ターレン。
俺は、その数字を、三度読んだ。
一万二千。
この一万二千は、「税」として数えられている。
王国の帳簿に、そう書いてある。
なぜなら、物が入ってきたからだ。
物が入れば、収入だ。
二百年、そう数えてきた。
だが、その物には、手形が付いている。
王国は、一万二千ターレン分の物を受け取り、
一万二千ターレン分の借金を作った。
——それは、収入ではない。
俺は、机の上で、数えた。
税、八万。
うち、徴発が一万二千。
本当の税は、六万八千。
戦費、六万。
利息、二万一千。
六万八千から、八万一千を引く。
——一万三千、足りない。
俺は、まだ、終わっていない。
徴発手形は、額面が実物より大きい。
俺は、四つの村で、それを見た。
千二百ターレン分の麦に、千五百ターレンの手形。
——二割五分、多い。
一万二千の物に対して、一万五千の手形が切られている。
その手形に、年一割五分の利がつく。
一年で、二千二百五十。
利息、二万一千に、二千二百五十を足す。
二万三千二百五十。
六万八千から、六万を引き、二万三千二百五十を引く。
——一万五千二百五十、足りない。
俺は、蝋燭を見ていた。
蝋燭が、一本、短くなった。
この女は、九つの年に数えた。
誰も、聞かなかった。
三年前、王城の書庫で、こう言った。
——千ターレン、足りません。
千ではない。
——一万五千です。
俺は、返事を書いた。
書いて、破った。
もう一度書いて、また破った。
三度目に、こう書いた。
——殿下。
——税は、八万ではありません。
——徴発は、税ではない。手形を切っているだけです。
——本当の税は、六万八千。
——手形は、実物より二割五分、多く切られています。
——利は、二万三千二百五十。
——足りないのは、千ではありません。
——一万五千二百五十です。
俺は、そこで、筆を止めた。
止めて、しばらく、考えた。
この女は、九つの年から、この国が死んでいることを知っている。
毎晩、寝床の影を数えている。
毎朝、毒味された飯を食っている。
その女に、俺は、こう書こうとしている。
——あんたも、数え違えた。
書かなければ、この女は、千ターレンだと思ったまま生きる。
書けば。
俺は、蝋燭を見た。
十二の俺は、父に言った。
これは、読んだほうがいい、と。
父は、笑って、頭を撫でた。
俺は、それきり、誰にも言わなかった。
言っても、聞かれないからだ。
この女は、聞く。
俺は、筆を取った。
——数え違いは、割れません。
——一人のものです。
——払ってください。
——カイ・ハーゼル
俺は、封をした。
封をして、ヴェルナーに渡した。
返事は、要らないと言われていた。
俺は、返事を書いた。
二十日後、返事の返事が来た。
封蝋を割った。
中には、紙が一枚。
字は、細い。硬い。
だが、少し、乱れていた。
書いてあったのは、一行だけだ。
——三度、数え直しました。
その下に、もう一行。
——あなたが、正しい。
俺は、その紙を、しばらく見ていた。
紙の下の、端のほうに。
小さく。
——十五年、間違えていました。
俺は、その一行を、三度読んだ。
三度読んで、それから、机に伏せた。
ボリスが、部屋に入ってきた。
「どうした」
「なんでもない」
「顔が、変だぞ」
「変じゃない」
俺は、顔を上げた。
上げて、笑った。
笑えたと思う。
ボリスは、俺の顔を、しばらく見ていた。
見て、それから、何も聞かずに、出ていった。
こいつは、俺の言うことの半分も分かっていない。
だが、聞かないところだけは、いつも間違えない。