三年目の冬が来た。
二百七十通の値付けが、終わった。
一年半かかった。
ヨナスと二人で、二百年ぶんの綴りを数えた。
紙は、二百七十枚できた。
一枚に、一軒。
俺は、まだ、それを誰にも見せていない。
◆
値をつけただけでは、何も動かない。
値がついたものを、買う奴が要る。
買える奴が一人しかいなければ、それは値段ではない。
言い値だ。
俺は、それを東門の市で覚えた。
俺は、二人目になる。
そのために、金が要る。
二百七十軒の四つ目を買うには、いくら要るのか。
——一万八千ターレン。
俺の手元には、四千ある。
氷室が一つ。麦が三千俵。秘薬の商いが一つ。
全部売っても、七千。
一万一千、足りない。
俺は、その冬、それを数えていた。
数えても、増えない。
増えないと分かっていて、数えた。
その朝が、来た。
ヴィント商会の応接間で、俺はフォーゲルと向かい合った。
樽三つ。言い値の倍。
俺は、帳面を出さなかった。
術師の数と、腐る量と、南から来る荷を、順に並べた。
どれも、あの商会自身の帳簿に載っている数字だ。
誰も、並べて見なかっただけの話である。
樽三つは、八掛けで俺のものになった。
あの朝のことを、俺は、あとで何度も思い出した。
思い出すたびに、同じところで、引っかかる。
——フォーゲルは、なぜ、あの値を出したのか。
あの男は、俺が氷室を持っていることを知っていた。
術師の数も、腐る量も、南の荷も、知っていた。
三十年、あの商会の紙を清書してきた男だ。
俺より正確に、あの三つの数字を知っている。
知っていて、言い値の倍を出した。
——負けるために、出した。
俺は、あの朝、それに気づかなかった。
気づいたのは、ずっと後だ。
玄関で、あの男は、俺を見送った。
番頭が、わざわざそこまでする相手ではない。
——うちの主が、あなたに会いたがっています。
——光栄、で済ませないほうがいい。
俺は、笑って、手を振って帰った。
そういうやり方が、俺のやり方だ。
港の酒場で、ボリスが二杯目を空けていた。
三杯目が来て、四杯目が来た。
——あんた、博打の王様だな。
俺は、鼻で笑った。
髑髏の話をした。
ボリスは、難しいことを言う、と笑った。
いつも通りだ。
——じゃあ何なら欲しいんだよ、あんたは。
俺は、少し考えた。
考えるふりをしたのではない。
本当に、その時まで、考えたことがなかった。
——金庫の鍵、かな。
——なんだそりゃ。
——さあ。
自分でも分かっていなかったので、そう答えた。
部屋に戻ったのは、鐘が二つ鳴った後だった。
机の引き出しを開けた。
紙が一枚だけ入っている。
十二年前の日付。父の判。
条項は七つ。四つ目に、罠がある。
俺は、この紙を、十二年、読み返してきた。
十二の年は、憎むために読んだ。
十八の年は、覚えるために読んだ。
二十一の年は、自分の紙を書くために読んだ。
◆
二十四の冬に。
俺は、この紙を、初めて値付けの対象として見た。
豊作の年は返済を待つ。
待った分は元本に足される。
三年続けば、山は倍になる。
二百年で、四度。
五十に、一つ。
五十に一つの目には、値がつく。
——この紙も、二百七十通の一枚だ。
俺は、その夜、初めて、それに気づいた。
十二年、憎んできた紙が。
二百七十分の、一になった。
俺は、笑わなかった。
笑うようなことでは、なかった。
俺は紙を戻して、引き出しを閉めた。
翌朝、宿の下女が手紙を持ってきた。
封蝋に、鷲が天秤を掴んでいる。
開けもせずに、俺は上着を取った。
中身は分かっている。
会いたがっている、とフォーゲルが言っていた。
会いたいのなら、会えばいい。
ただ、その前に、一つだけ。
俺は、引き出しをもう一度開けた。
父の紙を、上着の内側に入れた。
持っていく理由を、俺は、三つ数えた。
一つ。この紙を書いた男に、この紙を見せる。
二つ。この紙は、二百七十通の一枚だ。あの男は、それを知っている。
三つ。
三つ目を、俺は、うまく言葉にできなかった。
言葉にできないものを、俺は信用しない。
信用しないが、持っていくことにした。
あとになって、分かった。
三つ目は、こうだ。
——俺は、あの男に、親父を見せに行った。
秤を、必ず客に見せた男だ。
一俵、量るたびに、見せた。
面倒だから、みんなやめろと言った。
あの人は、やめなかった。
そういう男が、判を押した。
俺は、上着の襟を直した。
——三年前、俺は無一文だった。