銀貨は、痩せている。
俺は、それを、三年前に、参事会の卓の上で証明した。
二十年前のターレンは、銀の目方で十匁。
今年のターレンは、八匁。
二割、痩せている。
王都のターレンは、七匁だ。
改鋳するのは、王都だからだ。
——近くにいるほど、盗まれてる。
俺は、それを、三年前、両替商の店先で覚えた。
覚えて、そのまま、置いていた。
置いていたのは、掟がなかったからだ。
今は、ある。
造幣局は、王城の北にある。
俺は、鍵を見せた。
門番は、動かなかった。
「監査官です」
俺は言った。
「王の名において、帳簿を開きます」
「聞いておりません」
「聞かなくていい」
俺は、任命状を出した。
「一つ目に、書いてあります。参事会も、商会も、拒めない」
俺は、門を指した。
「造幣局も、拒めません」
門番は、俺を見た。
俺の後ろに、ボリスがいた。
麻袋を、担いでいる。
中身は、書き物だ。
だが、この男の腕は、俺の腿より太い。
門が、開いた。
造幣局長は、ケーニヒといった。
五十がらみで、太っている。
指に、指輪が三つ。
この街で、指輪を三つはめている男を、俺は初めて見た。
「監査官どの」
彼は、笑った。
上手い笑い方ではない。
「二十年、誰も来られませんでしたが」
「二十年、来なかっただけです」
俺は、椅子に座った。
「来られなかったんじゃない」
俺は、卓に紙を置いた。
「改鋳の綴りを」
三日で、数え終わった。
簡単な話だったからだ。
王国が、二十年で鋳た銀貨は、締めて五十万ターレン。
銀貨の目方は、十匁から、七匁に落ちた。
三割だ。
五十万ターレン分の銀貨から、三割の銀を抜いた。
抜いた銀は、十五万ターレン分。
俺は、その数字を、三度数えた。
十五万。
王国の借金より、多い。
俺は、国庫の綴りを開いた。
改鋳の差益として、国庫に入った額。
二十年で、九万ターレン。
俺は、その数字を、三度数えた。
抜いた銀が、十五万。
国庫に入ったのが、九万。
——六万、足りない。
俺は、ケーニヒの部屋に行った。
この男は、まだ笑っていた。
「ケーニヒさん」
「はい」
「銀貨は、痩せますね」
「痩せます」
彼は、頷いた。
「王のお決めになることです」
「そうです」
俺は、頷いた。
「痩せた分の銀は、どこへ行きます」
「国庫です」
「入りました」
俺は、紙を出した。
「九万ターレン」
俺は、二枚目を出した。
「抜いた銀は、十五万ターレン分です」
ケーニヒの笑いが、止まった。
「——抜いた銀は、どこにあります」
部屋が、静かになった。
俺は、待った。
こういうときに喋る奴は、負ける。
「……目減りです」
彼は、やっと言った。
「鋳る間に、銀は減ります。溶かして、流して、削る。減ります」
「減ります」
俺は、頷いた。
「どれくらい」
「……一割ほど」
「二十年ぶんの綴りに、書いてあります」
俺は、三枚目を出した。
「鋳造の目減りは、四分です。あなたの局が、毎年、そう書いて出しています」
俺は、指で押さえた。
「十五万の四分は、六千ターレンです」
俺は言った。
「九万と、六千を足すと、九万六千」
俺は、顔を上げた。
「——五万四千、足りません」
ケーニヒは、動かなかった。
指輪が、三つ。
俺は、それを見ていた。
「ケーニヒさん」
「……」
「この国の不足は、年に一万五千です」
俺は言った。
「税が六万八千。戦費が六万。利息が二万三千」
俺は、指を折った。
「毎年、一万五千、足りない」
俺は、手を開いた。
「あなたは、五万四千、抜きました」
「三年半ぶんです」
ケーニヒは、椅子から立ち上がろうとして、立ち上がれなかった。
「王都の物乞いを、数えたことがありますか」
俺は、聞いた。
「大通りに、四十一人います」
俺は言った。
「そのうち、十九人が、片腕か片脚がありません」
「戦です」
俺は言った。
「戦費が払えないから、給金が遅れる。給金が遅れるから、兵が薄い装備で出る。薄い装備で出るから、腕が飛ぶ」
俺は、椅子から立った。
「あなたの指輪は、三つです」
俺は、扉のほうへ歩いた。
「ケーニヒさん」
「返してください」
この男は、俺を見上げた。
「……返せば」
彼は、言った。
「返せば、許されますか」
「許しません」
俺は、扉に手をかけた。
「あなたの首は、俺の決めるものではありません。王が決めます」
俺は、この男を見た。
「俺は、数えるだけです」
「ただ」
俺は、扉を押した。
「返した男と、返さなかった男は、違う数字になります」
三日後、ケーニヒは、四万八千ターレンを国庫に返した。
残りは、屋敷と、船と、指輪になっていた。
売って、五千二百ターレンになった。
締めて、五万三千二百。
八百ターレン、足りなかった。
俺は、その八百を、帳簿に「未収」と書いた。
書いて、宰相に上げた。
グレゴール・ザイツは、その紙を、長いこと見ていた。
「五万三千二百」
彼は、言った。
「三年半ぶんの不足です」
「三年半、しのげます」
俺は言った。
「根は、直っていません」
ザイツは、顔を上げた。
目の下が、黒い。
「ハーゼルどの」
「はい」
「もう一人、いますよ」