髑髏の王冠   作:朝凪小夜

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第五十三話 抜いた銀は、どこにあります

 

 銀貨は、痩せている。

 俺は、それを、三年前に、参事会の卓の上で証明した。

 二十年前のターレンは、銀の目方で十匁。

 今年のターレンは、八匁。

 二割、痩せている。

 王都のターレンは、七匁だ。

 改鋳するのは、王都だからだ。

 ——近くにいるほど、盗まれてる。

 俺は、それを、三年前、両替商の店先で覚えた。

 覚えて、そのまま、置いていた。

 置いていたのは、掟がなかったからだ。

 今は、ある。

 造幣局は、王城の北にある。

 俺は、鍵を見せた。

 門番は、動かなかった。

 

「監査官です」

 

 俺は言った。

 

「王の名において、帳簿を開きます」

「聞いておりません」

「聞かなくていい」

 

 俺は、任命状を出した。

 

「一つ目に、書いてあります。参事会も、商会も、拒めない」

 

 俺は、門を指した。

 

「造幣局も、拒めません」

 

 門番は、俺を見た。

 俺の後ろに、ボリスがいた。

 麻袋を、担いでいる。

 中身は、書き物だ。

 だが、この男の腕は、俺の腿より太い。

 門が、開いた。

 造幣局長は、ケーニヒといった。

 五十がらみで、太っている。

 指に、指輪が三つ。

 この街で、指輪を三つはめている男を、俺は初めて見た。

 

「監査官どの」

 

 彼は、笑った。

 上手い笑い方ではない。

 

「二十年、誰も来られませんでしたが」

「二十年、来なかっただけです」

 

 俺は、椅子に座った。

 

「来られなかったんじゃない」

 

 俺は、卓に紙を置いた。

 

「改鋳の綴りを」

 

 三日で、数え終わった。

 簡単な話だったからだ。

 王国が、二十年で鋳た銀貨は、締めて五十万ターレン。

 銀貨の目方は、十匁から、七匁に落ちた。

 三割だ。

 五十万ターレン分の銀貨から、三割の銀を抜いた。

 抜いた銀は、十五万ターレン分。

 俺は、その数字を、三度数えた。

 十五万。

 王国の借金より、多い。

 俺は、国庫の綴りを開いた。

 改鋳の差益として、国庫に入った額。

 二十年で、九万ターレン。

 俺は、その数字を、三度数えた。

 抜いた銀が、十五万。

 国庫に入ったのが、九万。

 ——六万、足りない。

 俺は、ケーニヒの部屋に行った。

 この男は、まだ笑っていた。

 

「ケーニヒさん」

「はい」

「銀貨は、痩せますね」

「痩せます」

 

 彼は、頷いた。

 

「王のお決めになることです」

「そうです」

 

 俺は、頷いた。

 

「痩せた分の銀は、どこへ行きます」

「国庫です」

「入りました」

 

 俺は、紙を出した。

 

「九万ターレン」

 

 俺は、二枚目を出した。

 

「抜いた銀は、十五万ターレン分です」

 

 ケーニヒの笑いが、止まった。

 

「——抜いた銀は、どこにあります」

 

 部屋が、静かになった。

 俺は、待った。

 こういうときに喋る奴は、負ける。

 

「……目減りです」

 

 彼は、やっと言った。

 

「鋳る間に、銀は減ります。溶かして、流して、削る。減ります」

「減ります」

 

 俺は、頷いた。

「どれくらい」

「……一割ほど」

「二十年ぶんの綴りに、書いてあります」

 

 俺は、三枚目を出した。

 

「鋳造の目減りは、四分です。あなたの局が、毎年、そう書いて出しています」

 

 俺は、指で押さえた。

 

「十五万の四分は、六千ターレンです」

 

 俺は言った。

 

「九万と、六千を足すと、九万六千」

 

 俺は、顔を上げた。

 

「——五万四千、足りません」

 

 ケーニヒは、動かなかった。

 指輪が、三つ。

 俺は、それを見ていた。

 

「ケーニヒさん」

「……」

「この国の不足は、年に一万五千です」

 

 俺は言った。

 

「税が六万八千。戦費が六万。利息が二万三千」

 

 俺は、指を折った。

 

「毎年、一万五千、足りない」

 

 俺は、手を開いた。

 

「あなたは、五万四千、抜きました」

「三年半ぶんです」

 

 ケーニヒは、椅子から立ち上がろうとして、立ち上がれなかった。

 

「王都の物乞いを、数えたことがありますか」

 

 俺は、聞いた。

 

「大通りに、四十一人います」

 

 俺は言った。

 

「そのうち、十九人が、片腕か片脚がありません」

「戦です」

 

 俺は言った。

「戦費が払えないから、給金が遅れる。給金が遅れるから、兵が薄い装備で出る。薄い装備で出るから、腕が飛ぶ」

 

 俺は、椅子から立った。

 

「あなたの指輪は、三つです」

 

 俺は、扉のほうへ歩いた。

 

「ケーニヒさん」

「返してください」

 

 この男は、俺を見上げた。

 

「……返せば」

 

 彼は、言った。

 

「返せば、許されますか」

「許しません」

 

 俺は、扉に手をかけた。

 

「あなたの首は、俺の決めるものではありません。王が決めます」

 

 俺は、この男を見た。

 

「俺は、数えるだけです」

「ただ」

 

 俺は、扉を押した。

 

「返した男と、返さなかった男は、違う数字になります」

 

 三日後、ケーニヒは、四万八千ターレンを国庫に返した。

 残りは、屋敷と、船と、指輪になっていた。

 売って、五千二百ターレンになった。

 締めて、五万三千二百。

 八百ターレン、足りなかった。

 俺は、その八百を、帳簿に「未収」と書いた。

 書いて、宰相に上げた。

 グレゴール・ザイツは、その紙を、長いこと見ていた。

 

「五万三千二百」

 

 彼は、言った。

 

「三年半ぶんの不足です」

 

「三年半、しのげます」

 

 俺は言った。

 

「根は、直っていません」

 

 ザイツは、顔を上げた。

 目の下が、黒い。

 

「ハーゼルどの」

「はい」

 

「もう一人、いますよ」

 

 

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