徴税請負は、二十日で終わった。
簡単な話だったからだ。
王国の税は、年に八万ターレン。
国庫の綴りに、そう書いてある。
俺は、村の綴りを開いた。
村が、いくら納めたか。
二百七十の村。三十年ぶん。
俺は、それを、足した。
——十一万ターレン。
村が、十一万納めて。
国庫に、八万入る。
三万、どこかへ行く。
俺は、その三万を、四日で見つけた。
徴税請負人は、七人いる。
いずれも、貴族だ。
村から税を集めて、国庫に納める。
その手間賃として、集めた分の一割を取る。
掟に、そう書いてある。
十一万の一割は、一万一千だ。
残りは、九万九千。
国庫に入ったのは、八万。
——一万九千、足りない。
俺は、七人を、一人ずつ、呼んだ。
王城の、小さい部屋にだ。
窓が、高い。
高い窓は、外を見せないためにある。
一人目は、笑った。
商人風情が、と言った。
俺は、頷いた。
「商人です」
俺は言った。
「荷役でした。三年前まで」
俺は、紙を出した。
「あなたの領の村は、十四あります」
「三十年で、締めて二万三千ターレン納めています」
俺は、指で押さえた。
「一割の手間賃は、二千三百」
「国庫に入るべきは、二万七百です」
俺は、二枚目を出した。
「入ったのは、一万六千八百」
「——三千九百、足りません」
この男は、笑わなくなった。
俺は、椅子に座ったまま、待った。
「……間違いだ」
彼は、言った。
「帳簿の、書き違いだ」
「三十年、同じ方向に書き違えますか」
俺は、三枚目を出した。
「三十年ぶん、全部、足りません」
「多い年も、少ない年もない。毎年、一割五分ずつ、足りない」
「書き違いは、揺れます」
俺は言った。
「揺れないものは、書き違いじゃない」
「——設計です」
七人のうち五人が返した。
二人が返さなかった。
二人は王に訴えた。
監査官が、貴族を辱めている、と。
王は俺を呼ばなかった。
宰相を呼んだ。
三日後二人の領は召し上げられた。
俺は、それを、宰相から聞いた。
「王が、お怒りになりました」
ザイツは、そう言った。
「二人に、です」
俺は、動かなかった。
「王は、数字が読めません」
ザイツは、言った。
「ですが、盗まれた、という言葉は分かります」
彼は、書付を閉じた。
「王は、二十年、この国が痩せていくのを見ておられた」
彼は、言った。
「なぜ痩せるのか、分からなかった」
彼は、俺を見た。
「分からないことは、恐ろしい」
「今日、王は、初めて、痩せた理由を一つ、知りました」
俺は、しばらく、何も言わなかった。
国庫に、二万一千ターレンが戻った。
造幣局から、五万三千二百。
軍務庁から、三万八千。
徴税請負から、二万一千。
締めて、十一万二千二百ターレン。
この国の不足は、年に一万五千だ。
——七年半、しのげる。
しのげるが、根は直っていない。
俺は、それを、宰相に言った。
「根は」
ザイツが、聞いた。
「二つです」
俺は言った。
「一つは、四つ目です」
俺は、指を折った。
「三千ターレンが、三十年で九万になりました。今も、育っています」
「二つ目は」
俺は、二本目を折った。
「戦です」
部屋は、静かだった。
窓が、小さい。
「戦費は、年に六万です」
俺は言った。
「勝てば、南の港が三つ。関税は、年に三千」
俺は、顔を上げた。
「二十年、勝ち続けて、やっと元が取れる」
「三年半前に、閣下が、そう仰いました」
「わたしが、言いました」
ザイツは、頷いた。
「あのとき、俺は、こう言いました」
「——この戦は、勝っても負けです」
「そして、閣下は、こう仰った」
「——やめると言った者が、殺されるからです」
俺は、卓に手を置いた。
「三年半、それを数えていました」
俺は言った。
「殺されるのは、なぜです」
「王の面子だ、と閣下は仰った」
俺は言った。
「負けた王は、王ではなくなる、と」
俺は、この男を見た。
「面子で、人は殺せます」
俺は言った。
「ですが、面子では、二十九年、隠せません」
「隠すには、金が要ります」
俺は、指を一本立てた。
「戦費は、年に六万」
俺は言った。
「そのうち、いくらが、前線に届いていますか」
グレゴール・ザイツは、動かなかった。
目の下が、黒い。
この男は、二十九年、それを数えてきた。
数えて、十二年前に、答えを出した。
言った。
誰も、聞かなかった。
俺は、待った。
こういうときに喋る奴は、負ける。
だが、この男は、負けても構わないと思っている。
それが、この三月で、分かった。
「四万です」
彼は、言った。
「六万出て、四万しか、届いていません」
「——二万、消えています」
「誰です」
俺は、聞いた。
ザイツは、答えなかった。
答えずに、卓の上で、手を組んだ。
「ハーゼルどの」
「わたしは、あなたを、脇へ寄せてきました」
彼は、顔を上げた。
「——もう、寄せる先が、ありません」