髑髏の王冠   作:朝凪小夜

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第五十六話 二人目

 

 徴税請負は、二十日で終わった。

 簡単な話だったからだ。

 王国の税は、年に八万ターレン。

 国庫の綴りに、そう書いてある。

 俺は、村の綴りを開いた。

 村が、いくら納めたか。

 二百七十の村。三十年ぶん。

 俺は、それを、足した。

 ——十一万ターレン。

 村が、十一万納めて。

 国庫に、八万入る。

 三万、どこかへ行く。

 俺は、その三万を、四日で見つけた。

 徴税請負人は、七人いる。

 いずれも、貴族だ。

 村から税を集めて、国庫に納める。

 その手間賃として、集めた分の一割を取る。

 掟に、そう書いてある。

 十一万の一割は、一万一千だ。

 残りは、九万九千。

 国庫に入ったのは、八万。

 ——一万九千、足りない。

 俺は、七人を、一人ずつ、呼んだ。

 王城の、小さい部屋にだ。

 窓が、高い。

 高い窓は、外を見せないためにある。

 一人目は、笑った。

 商人風情が、と言った。

 俺は、頷いた。

 

「商人です」

 

 俺は言った。

 

「荷役でした。三年前まで」

 

 俺は、紙を出した。

 

「あなたの領の村は、十四あります」

 

「三十年で、締めて二万三千ターレン納めています」

 

 俺は、指で押さえた。

 

「一割の手間賃は、二千三百」

 

「国庫に入るべきは、二万七百です」

 

 俺は、二枚目を出した。

 

「入ったのは、一万六千八百」

 

「——三千九百、足りません」

 

 この男は、笑わなくなった。

 俺は、椅子に座ったまま、待った。

 

「……間違いだ」

 

 彼は、言った。

 

「帳簿の、書き違いだ」

 

「三十年、同じ方向に書き違えますか」

 

 俺は、三枚目を出した。

 

「三十年ぶん、全部、足りません」

 

「多い年も、少ない年もない。毎年、一割五分ずつ、足りない」

 

「書き違いは、揺れます」

 

 俺は言った。

 

「揺れないものは、書き違いじゃない」

 

「——設計です」

 

 七人のうち五人が返した。

 二人が返さなかった。

 二人は王に訴えた。

 監査官が、貴族を辱めている、と。

 王は俺を呼ばなかった。

 宰相を呼んだ。

 三日後二人の領は召し上げられた。

 俺は、それを、宰相から聞いた。

 

「王が、お怒りになりました」

 

 ザイツは、そう言った。

 

「二人に、です」

 

 俺は、動かなかった。

 

「王は、数字が読めません」

 

 ザイツは、言った。

 

「ですが、盗まれた、という言葉は分かります」

 

 彼は、書付を閉じた。

 

「王は、二十年、この国が痩せていくのを見ておられた」

 

 彼は、言った。

 

「なぜ痩せるのか、分からなかった」

 

 彼は、俺を見た。

 

「分からないことは、恐ろしい」

 

「今日、王は、初めて、痩せた理由を一つ、知りました」

 

 俺は、しばらく、何も言わなかった。

 国庫に、二万一千ターレンが戻った。

 造幣局から、五万三千二百。

 軍務庁から、三万八千。

 徴税請負から、二万一千。

 締めて、十一万二千二百ターレン。

 この国の不足は、年に一万五千だ。

 ——七年半、しのげる。

 しのげるが、根は直っていない。

 俺は、それを、宰相に言った。

 

「根は」

 

 ザイツが、聞いた。

 

「二つです」

 

 俺は言った。

 

「一つは、四つ目です」

 

 俺は、指を折った。

 

「三千ターレンが、三十年で九万になりました。今も、育っています」

「二つ目は」

 

 俺は、二本目を折った。

 

「戦です」

 

 部屋は、静かだった。

 窓が、小さい。

 

「戦費は、年に六万です」

 

 俺は言った。

 

「勝てば、南の港が三つ。関税は、年に三千」

 

 俺は、顔を上げた。

 

「二十年、勝ち続けて、やっと元が取れる」

「三年半前に、閣下が、そう仰いました」

「わたしが、言いました」

 

 ザイツは、頷いた。

 

「あのとき、俺は、こう言いました」

 

 

「——この戦は、勝っても負けです」

 

「そして、閣下は、こう仰った」

 

「——やめると言った者が、殺されるからです」

 

 俺は、卓に手を置いた。

 

「三年半、それを数えていました」

 

 俺は言った。

 

「殺されるのは、なぜです」

「王の面子だ、と閣下は仰った」

 

 俺は言った。

 

「負けた王は、王ではなくなる、と」

 

 俺は、この男を見た。

 

「面子で、人は殺せます」

 

 俺は言った。

 

「ですが、面子では、二十九年、隠せません」

「隠すには、金が要ります」

 

 俺は、指を一本立てた。

 

「戦費は、年に六万」

 

 俺は言った。

 

「そのうち、いくらが、前線に届いていますか」

 

 グレゴール・ザイツは、動かなかった。

 目の下が、黒い。

 この男は、二十九年、それを数えてきた。

 数えて、十二年前に、答えを出した。

 言った。

 誰も、聞かなかった。

 俺は、待った。

 こういうときに喋る奴は、負ける。

 だが、この男は、負けても構わないと思っている。

 それが、この三月で、分かった。

 

「四万です」

 

 彼は、言った。

 

「六万出て、四万しか、届いていません」

 

「——二万、消えています」

「誰です」

 

 俺は、聞いた。

 ザイツは、答えなかった。

 答えずに、卓の上で、手を組んだ。

 

「ハーゼルどの」

「わたしは、あなたを、脇へ寄せてきました」

 

 彼は、顔を上げた。

 

「——もう、寄せる先が、ありません」

 

 

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