戦費は年に六万ターレン。
前線に届いているのは四万。
二万消えている。
俺は兵站の綴りを開いた。
王国は兵糧と武器と馬を買う。
買う相手は請負人だ。
請負人は三人いる。
一人はヴィント商会。
一人は王都の商会。
もう一人の名を俺は綴りの三頁目で見た。
——ヴァルター公。
王の弟だ。
俺はその名を頭の中に置いた。
置いて、二十日数えた。
ヴィント商会が納めた分。
鉄、麻、塩、麦。
値は市の値と同じだった。
俺は三度数え直した。
三度数えても同じだった。
——一グロートも上乗せしていない。
あの男は王国から盗んでいない。
三年半前、俺はそれを東門の市で言った。
——王国は損をしていません。損をしたのは二割で売った奴らです。
王都の商会も同じだった。
市の値。上乗せなし。
ヴァルター公は。
俺はその頁を燭台に近づけた。
兵糧。麦。
一俵、六ターレン。
俺はその数字を三度読んだ。
市の値は二ターレン十グロートだ。
俺はそれを十二の年から知っている。
うちの親父が扱っていた。
——二倍半。
ヴァルター公が納めた麦は年に六千俵。
市の値なら一万五千ターレン。
公が受け取ったのは三万六千。
——二万一千、多い。
俺は燭台を卓に置いた。
消えた二万はここにあった。
俺は書庫の椅子に座り直した。
この国は年に一万五千足りない。
王の弟が年に二万一千取っている。
——この男が麦を市の値で納めればこの国は黒字になる。
俺はその一行を紙に書いた。
書いてしばらく見ていた。
簡単すぎる。
俺は簡単すぎる答えを信用しない。
俺はもう一度綴りを開いた。
ヴァルター公の麦はどこから来るのか。
書いてあった。
——王領の北。
俺はその村を数えた。
四十二の村。
俺はその四十二の村の徴発の綴りを引いた。
三日かかった。
三日目に俺は数え終わった。
四十二の村は麦を徴発されている。
徴発だ。
取られて紙を渡される。
王国はその紙を払わない。
俺は燭台を握った。
ヴァルター公は麦をただで手に入れている。
徴発した麦を。
そして王国に一俵六ターレンで売っている。
王国が村から取った麦を。
王国が六ターレンで買い戻している。
俺は椅子から立ち上がった。
書庫は暗い。
二百年ぶんの綴りが床から積んである。
俺はそこでしばらく動かなかった。
三年半前。
北の四つの村から王国が麦を取った。
六百俵。
村に残ったのは紙一枚だ。
額面千五百ターレン。
俺はそれを六百ターレンで買った。
ゲルトが四割で買えと言った。
——あんたが払わせると俺は思ってる。
俺は払わせた。
八百四十ターレンを村に返した。
村長は俺の手を掴んだ。
俺はあのときこう思った。
——王国は金がないから払えないのだ。
俺は燭台を卓に置いた。
置いてこう言った。
「——違った」
王国は金がないから村に払えないのではない。
村から取った麦を王の弟から二倍半で買い戻している。
だから金がない。
だから村に払えない。
俺は書庫の壁に手をついた。
三年半俺はこの国を貧しい国だと思っていた。
違う。
——盗まれている国だ。
俺は紙を書いた。
——ヴァルター公。
——兵糧の麦年六千俵。
——市の値二ターレン十グロート。納入の値六ターレン。
——差二万一千ターレン。
——麦の出所王領北部四十二村。徴発。
——徴発の手形未払い。
——王国は自ら徴発せる麦を王弟より二倍半にて買い戻せり。
俺はその紙を三度読み直した。
三度読んでも同じことが書いてあった。
俺はその紙を持って宰相の部屋へ行った。
グレゴール・ザイツは卓に向かっていた。
俺が入るとこの男は顔を上げなかった。
顔を上げずにこう言った。
「——ヴァルターですね」
俺は動かなかった。
「十二年前に数えました」
彼は言った。
「王に奏上しました」
彼は顔を上げた。
目の下が黒い。
「弟だと仰いました」
俺は卓に紙を置いた。
「閣下」
「はい」
「王は数字が読めません」
俺は言った。
「ですが盗まれたという言葉は分かります」
「閣下がそう、仰った」
ザイツは俺を見た。
「徴税請負の二人は領を召し上げられました」
俺は言った。
「王がお怒りになった」
「弟です」
ザイツは言った。
「盗んだのは弟です」
「知っています」
俺は頷いた。
「だから閣下では駄目でした」
俺は卓の紙を指で押さえた。
「閣下は宰相です」
俺は言った。
「宰相が弟を訴えれば、それは政です」
「王は政だと思った」
俺は言った。
「だから弟だと仰った」
俺は顔を上げた。
「俺は宰相じゃない」
「俺は監査官です」
「——俺は数えるだけです」