俺はヴァルター公の紙を王に出した。
監査官は王に直に上げられる。
一つ目の条項に書いてある。
王はその紙を読まなかった。
読めなかったのだ。
俺は読み上げた。
王領の北四十二の村。
麦を徴発されている。
徴発された麦をヴァルター公が受け取る。
その麦を王国が一俵六ターレンで買い戻す。
市の値は二ターレン十グロート。
年に二万一千ターレン。
俺はそこまで読んで顔を上げた。
王は玉座にいた。
ライナルト三世。
五十を越えている。
太ってはいない。
目が赤い。
眠っていない人間の目だ。
俺はその目を知っている。
書庫の女と宰相と同じ目だ。
——この王も眠っていない。
俺はその日初めてそれに気づいた。
「監査官」
王は言った。
声は低い。
「そなたは弟が盗んだと申すか」
「申しません」
俺はそう答えた。
広間が静かになった。
「俺は数えました」
俺は言った。
「盗んだかどうかは陛下がお決めになります」
俺は紙を掲げた。
「麦一俵の市の値は二ターレン十グロートです」
俺は言った。
「王国が払っているのは六ターレンです」
「その麦は王国が村から取ったものです」
「——それだけです」
王は動かなかった。
目が赤い。
俺は待った。
王は長いこと動かなかった。
それからこう言った。
「下がれ」
三日後解任状が来た。
宰相の署名がある。
王の御璽はない。
要らないのだ。
解任は宰相の署名をもって足る。
俺はそれを任命状の裏で読んだ。
読んでこう言った。
——解ける鎖は引けない鎖です。
解いた瞬間に俺は喋る。
だからあの男は俺を解けない。
そう数えた。
俺は宰相の部屋へ行った。
グレゴール・ザイツは卓に向かっていた。
目の下が黒い。
「解かれました」
俺は言った。
「解きました」
「三十日後に全部喋ります」
俺はそう言った。
「王令第二十号です」
俺は言った。
「解かれたる監査官はその数えたるところを公に告ぐることを得る」
ザイツは顔を上げた。
「喋りなさい」
俺は動かなかった。
「……」
「喋りなさい」
彼はもう一度言った。
「三十日後に街角に貼りなさい」
彼は卓の上で手を組んだ。
「何を貼るのです」
俺はその問いをしばらく持っていた。
持ってそれから上着の内に手を入れた。
紙が一枚ある。
ヴァルター公の紙だ。
俺が書いた。
俺が数えた。
——根拠は綴りにある。
俺はそこで止まった。
綴りは。
王国の帳簿庫にある。
鍵は。
俺は上着の別のところに手を入れた。
鍵がない。
解任状が来た日に返した。
俺は任命状を卓の上に出した。
七つの条項。
一つ目。帳簿を開ける。
二つ目。俸給六百。
三つ目。商いを営んではならない。
四つ目。解かれたる者は公に告ぐることを得る。
五つ目。六つ目。
七つ目。
俺はそこを指で押さえた。
——監査官は王国の綴りを庁外に持ち出してはならない。
俺はその一行を三度読んだ。
三度読んでも同じことが書いてあった。
俺はこれを読んでいる。
四年前の冬に宿の机で蝋燭を足して読んだ。
五つ目、六つ目、七つ目。
——罠はなかった。
俺はそう書いた。
俺は卓に両手をついた。
三年半前。
北の村の天幕の下で。
俺は若い手代にこう聞いた。
——四つ目は読みましたか。
——読みました。
——意味は分かりましたか。
あの男は答えられなかった。
分かっていると思っていたのに、聞かれて分からなくなった。
あの男の顔はそういう顔だった。
俺は卓の上の任命状を見ていた。
「ハーゼルどの」
ザイツが言った。
「七つ目は読まれましたか」
「読みました」
「意味は分かりましたか」
俺は答えなかった。
答えられなかった。
俺は読んだ。
読んで罠はないと書いた。
罠はなかった。
当たり前のことが書いてあっただけだ。
王国の綴りは王国のものだ。
持ち出せない。
当たり前だ。
——当たり前のことの意味を俺は数えなかった。
俺は三十日後に喋れる。
喋れるが何も見せられない。
俺が言うのは俺が数えた数字だ。
その数字は綴りにある。
綴りは王城の地下にある。
鍵は返した。
俺は卓から手を離した。
ゆっくり離した。
離さないと立っていられなかった。
「閣下」
「はい」
「これを書いたのは誰です」
俺は七つ目を指で押さえた。
グレゴール・ザイツは俺を見た。
目の下が黒い。
「三十年前です」
彼は言った。
「監査の職を置くとき条項を七つ書きました」
彼は卓の上で手を組んだ。
「書いたのは王国ではありません」
「——ヴィント商会の法務です」