髑髏の王冠   作:朝凪小夜

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第五十九話 七つ目

 

 俺はヴァルター公の紙を王に出した。

 監査官は王に直に上げられる。

 一つ目の条項に書いてある。

 王はその紙を読まなかった。

 読めなかったのだ。

 俺は読み上げた。

 王領の北四十二の村。

 麦を徴発されている。

 徴発された麦をヴァルター公が受け取る。

 その麦を王国が一俵六ターレンで買い戻す。

 市の値は二ターレン十グロート。

 年に二万一千ターレン。

 俺はそこまで読んで顔を上げた。

 王は玉座にいた。

 ライナルト三世。

 五十を越えている。

 太ってはいない。

 目が赤い。

 眠っていない人間の目だ。

 俺はその目を知っている。

 書庫の女と宰相と同じ目だ。

 ——この王も眠っていない。

 俺はその日初めてそれに気づいた。

 

「監査官」

 

 王は言った。

 声は低い。

 

「そなたは弟が盗んだと申すか」

「申しません」

 

 俺はそう答えた。

 広間が静かになった。

 

「俺は数えました」

 

 俺は言った。

 

「盗んだかどうかは陛下がお決めになります」

 

 俺は紙を掲げた。

 

「麦一俵の市の値は二ターレン十グロートです」

 

 俺は言った。

 

「王国が払っているのは六ターレンです」

 

「その麦は王国が村から取ったものです」

 

「——それだけです」

 

 王は動かなかった。

 目が赤い。

 俺は待った。

 王は長いこと動かなかった。

 それからこう言った。

 

「下がれ」

 

 三日後解任状が来た。

 宰相の署名がある。

 王の御璽はない。

 要らないのだ。

 解任は宰相の署名をもって足る。

 俺はそれを任命状の裏で読んだ。

 読んでこう言った。

 ——解ける鎖は引けない鎖です。

 解いた瞬間に俺は喋る。

 だからあの男は俺を解けない。

 そう数えた。

 俺は宰相の部屋へ行った。

 グレゴール・ザイツは卓に向かっていた。

 目の下が黒い。

 

「解かれました」

 

 俺は言った。

 

「解きました」

「三十日後に全部喋ります」

 

 俺はそう言った。

 

「王令第二十号です」

 

 俺は言った。

 

「解かれたる監査官はその数えたるところを公に告ぐることを得る」

 

 ザイツは顔を上げた。

 

「喋りなさい」

 

 俺は動かなかった。

 

「……」

「喋りなさい」

 

 彼はもう一度言った。

 

「三十日後に街角に貼りなさい」

 

 彼は卓の上で手を組んだ。

 

「何を貼るのです」

 

 俺はその問いをしばらく持っていた。

 持ってそれから上着の内に手を入れた。

 紙が一枚ある。

 ヴァルター公の紙だ。

 俺が書いた。

 俺が数えた。

 ——根拠は綴りにある。

 俺はそこで止まった。

 綴りは。

 王国の帳簿庫にある。

 鍵は。

 俺は上着の別のところに手を入れた。

 鍵がない。

 解任状が来た日に返した。

 俺は任命状を卓の上に出した。

 七つの条項。

 一つ目。帳簿を開ける。

 二つ目。俸給六百。

 三つ目。商いを営んではならない。

 四つ目。解かれたる者は公に告ぐることを得る。

 五つ目。六つ目。

 七つ目。

 俺はそこを指で押さえた。

 ——監査官は王国の綴りを庁外に持ち出してはならない。

 俺はその一行を三度読んだ。

 三度読んでも同じことが書いてあった。

 俺はこれを読んでいる。

 四年前の冬に宿の机で蝋燭を足して読んだ。

 五つ目、六つ目、七つ目。

 ——罠はなかった。

 俺はそう書いた。

 俺は卓に両手をついた。

 三年半前。

 北の村の天幕の下で。

 俺は若い手代にこう聞いた。

 ——四つ目は読みましたか。

 ——読みました。

 ——意味は分かりましたか。

 あの男は答えられなかった。

 分かっていると思っていたのに、聞かれて分からなくなった。

 あの男の顔はそういう顔だった。

 俺は卓の上の任命状を見ていた。

 

「ハーゼルどの」

 

 ザイツが言った。

 

「七つ目は読まれましたか」

「読みました」

「意味は分かりましたか」

 

 俺は答えなかった。

 答えられなかった。

 俺は読んだ。

 読んで罠はないと書いた。

 罠はなかった。

 当たり前のことが書いてあっただけだ。

 王国の綴りは王国のものだ。

 持ち出せない。

 当たり前だ。

 ——当たり前のことの意味を俺は数えなかった。

 俺は三十日後に喋れる。

 喋れるが何も見せられない。

 俺が言うのは俺が数えた数字だ。

 その数字は綴りにある。

 綴りは王城の地下にある。

 鍵は返した。

 俺は卓から手を離した。

 ゆっくり離した。

 離さないと立っていられなかった。

 

「閣下」

「はい」

「これを書いたのは誰です」

 

 俺は七つ目を指で押さえた。

 グレゴール・ザイツは俺を見た。

 目の下が黒い。

 

「三十年前です」

 

 彼は言った。

 

「監査の職を置くとき条項を七つ書きました」

 

 彼は卓の上で手を組んだ。

 

「書いたのは王国ではありません」

 

「——ヴィント商会の法務です」

 

 

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