髑髏の王冠   作:朝凪小夜

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第六十一話 同じ数字を別の紙に

 

 東門の市に三十枚の紙が貼ってある。

 誰も読まなくなった。

 俺はその前に七日立っていた。

 立って市を見ていた。

 紙の市だ。

 王国の徴発手形が売り買いされている。

 売っているのは農民だ。徴発された村から十日歩いてくる。

 買っているのは五六人。

 値は五割で動かない。

 俺が三年半前に釘三本で動かした値だ。

 二割が五割になった。

 それきり五割で止まっている。

 俺はその値を七日見ていた。

 八日目の朝俺は宿に戻った。

 藁の上で紙を広げた。

 書いたのは二行だ。

 ——王の弟が年に二万一千ターレン盗んでいる。

 ——王国の手形は五割で売られている。

 俺はその二行を長いこと見ていた。

 一行目を読んだ男は怒る。

 怒って帰る。

 明日麦を買う。

 それだけだ。

 二行目を読んだ男は。

 俺は藁の上で上体を起こした。

 二行目を読んだ男は数える。

 額面百ターレンの紙が五十ターレンで売られている。

 半分だ。

 王国が払えば百になる。

 払わなければゼロだ。

 払うか払わないか。

 それが五割という値の意味だ。

 ——五割というのは二つに一つという意味だ。

 俺はその一行を書いた。

 二つに一つ。

 この市の連中は王国が払う見込みを二つに一つだと思っている。

 賽を振って丁か半か。

 そういう値だ。

 俺は藁の上に座り直した。

 三年半前「三の目」の卓の上で俺は賽を二つ並べた。

 二を出す出し方は一通り。

 七を出す出し方は六通り。

 同じ十倍で払っていた。

 誰も数えなかった。

 俺はその卓でこう言った。

 ——子供が数えても分かる。まだ誰も数えなかっただけだ。

 王国が払う見込みは二つに一つか。

 俺はそれを数えた。

 王国の借金は十四万ターレン。

 国庫に戻った金は十一万二千二百。

 造幣局から五万三千二百。

 軍務庁から三万八千。

 徴税請負から二万一千。

 十一万二千二百を十四万で割る。

 ——八割。

 俺はその数字を三度数えた。

 三度数えても八割だった。

 王国の手形は今五割で売られている。

 値打ちは八割ある。

 ——三割安い。

 俺は藁の上で笑った。

 声を出して笑った。

 三十枚の紙に俺はこう書いた。

 ——王の弟が盗んでいます。

 ——造幣局長が銀を抜いていました。

 ——死んだ兵に給金が払われています。

 読んだ男は怒った。

 怒って帰った。

 何も起きなかった。

 同じ数字を。

 俺は別の紙に書けばよかった。

 ——王国の手形は五割で売られています。

 ——国庫には十一万二千二百ターレンあります。

 ——額面は十四万です。

 ——値打ちは八割です。

 ——あなたは三割損をして売っています。

 俺はその五行を宿の壁に貼った。

 貼って見ていた。

 三年半前俺は東門の市でこう書いた。

 ——あなたが二十ターレンで売った紙は百ターレンになります。五倍です。売らないでください。

 四日で値が動いた。

 あの紙には値があった。

 読んだ男が明日儲かった。

 今度の三十枚には値がなかった。

 読んだ男が明日儲からなかった。

 俺は正しさを貼った。

 正しさには値がつかない。

 ——値のつく形に書き直せばいい。

 俺は藁の上から立ち上がった。

 ボリスが扉のところにいた。

 麻袋を担いでいる。

 

「どこ行くんだ」

「メルクだ」

「歩くのか」

「歩く」

 

 俺は上着を取った。

 だが俺の五行には一つ足りないものがある。

 ——国庫には十一万二千二百ターレンあります。

 これは俺が数えた。

 俺が王国の帳簿を開いて数えた。

 だが俺はもう監査官ではない。

 鍵は返した。

 綴りは持ち出せない。

 七つ目にそう書いてある。

 俺が「十一万二千二百ある」と言っても。

 ——誰も確かめられない。

 確かめられない数字は数字ではない。

 俺はそれを二百七十軒の四つ目を売るときに覚えた。

 俺は紙に釘を打つ前にこう言った。

 ——数字は軍務庁の帳簿にあります。自分で数えてください。

 自分で数えられるから人は動いた。

 今王国の帳簿は閉じている。

 誰も開けられない。

 俺は宿の階段を降りた。

 降りながら一つ数えた。

 ——王国の帳簿を開けさせられる人間が一人だけいる。

 監査官ではない。

 王でもない。

 宰相でもない。

 金を貸している男だ。

 九万ターレン貸している男だ。

 俺は宿を出た。

 王都からメルクハーフェンまで十一日。

 馬車には乗らなかった。

 乗る金がない。

 五度目だ。

 

 

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