東門の市に三十枚の紙が貼ってある。
誰も読まなくなった。
俺はその前に七日立っていた。
立って市を見ていた。
紙の市だ。
王国の徴発手形が売り買いされている。
売っているのは農民だ。徴発された村から十日歩いてくる。
買っているのは五六人。
値は五割で動かない。
俺が三年半前に釘三本で動かした値だ。
二割が五割になった。
それきり五割で止まっている。
俺はその値を七日見ていた。
八日目の朝俺は宿に戻った。
藁の上で紙を広げた。
書いたのは二行だ。
——王の弟が年に二万一千ターレン盗んでいる。
——王国の手形は五割で売られている。
俺はその二行を長いこと見ていた。
一行目を読んだ男は怒る。
怒って帰る。
明日麦を買う。
それだけだ。
二行目を読んだ男は。
俺は藁の上で上体を起こした。
二行目を読んだ男は数える。
額面百ターレンの紙が五十ターレンで売られている。
半分だ。
王国が払えば百になる。
払わなければゼロだ。
払うか払わないか。
それが五割という値の意味だ。
——五割というのは二つに一つという意味だ。
俺はその一行を書いた。
二つに一つ。
この市の連中は王国が払う見込みを二つに一つだと思っている。
賽を振って丁か半か。
そういう値だ。
俺は藁の上に座り直した。
三年半前「三の目」の卓の上で俺は賽を二つ並べた。
二を出す出し方は一通り。
七を出す出し方は六通り。
同じ十倍で払っていた。
誰も数えなかった。
俺はその卓でこう言った。
——子供が数えても分かる。まだ誰も数えなかっただけだ。
王国が払う見込みは二つに一つか。
俺はそれを数えた。
王国の借金は十四万ターレン。
国庫に戻った金は十一万二千二百。
造幣局から五万三千二百。
軍務庁から三万八千。
徴税請負から二万一千。
十一万二千二百を十四万で割る。
——八割。
俺はその数字を三度数えた。
三度数えても八割だった。
王国の手形は今五割で売られている。
値打ちは八割ある。
——三割安い。
俺は藁の上で笑った。
声を出して笑った。
三十枚の紙に俺はこう書いた。
——王の弟が盗んでいます。
——造幣局長が銀を抜いていました。
——死んだ兵に給金が払われています。
読んだ男は怒った。
怒って帰った。
何も起きなかった。
同じ数字を。
俺は別の紙に書けばよかった。
——王国の手形は五割で売られています。
——国庫には十一万二千二百ターレンあります。
——額面は十四万です。
——値打ちは八割です。
——あなたは三割損をして売っています。
俺はその五行を宿の壁に貼った。
貼って見ていた。
三年半前俺は東門の市でこう書いた。
——あなたが二十ターレンで売った紙は百ターレンになります。五倍です。売らないでください。
四日で値が動いた。
あの紙には値があった。
読んだ男が明日儲かった。
今度の三十枚には値がなかった。
読んだ男が明日儲からなかった。
俺は正しさを貼った。
正しさには値がつかない。
——値のつく形に書き直せばいい。
俺は藁の上から立ち上がった。
ボリスが扉のところにいた。
麻袋を担いでいる。
「どこ行くんだ」
「メルクだ」
「歩くのか」
「歩く」
俺は上着を取った。
だが俺の五行には一つ足りないものがある。
——国庫には十一万二千二百ターレンあります。
これは俺が数えた。
俺が王国の帳簿を開いて数えた。
だが俺はもう監査官ではない。
鍵は返した。
綴りは持ち出せない。
七つ目にそう書いてある。
俺が「十一万二千二百ある」と言っても。
——誰も確かめられない。
確かめられない数字は数字ではない。
俺はそれを二百七十軒の四つ目を売るときに覚えた。
俺は紙に釘を打つ前にこう言った。
——数字は軍務庁の帳簿にあります。自分で数えてください。
自分で数えられるから人は動いた。
今王国の帳簿は閉じている。
誰も開けられない。
俺は宿の階段を降りた。
降りながら一つ数えた。
——王国の帳簿を開けさせられる人間が一人だけいる。
監査官ではない。
王でもない。
宰相でもない。
金を貸している男だ。
九万ターレン貸している男だ。
俺は宿を出た。
王都からメルクハーフェンまで十一日。
馬車には乗らなかった。
乗る金がない。
五度目だ。