髑髏の王冠   作:朝凪小夜

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第六十三話 二人目を作る

 

 ヴィントは笑い終えてからこう聞いた。

 

「一つ分かりません」

「どうぞ」

「あなたは王国の手形に値をつけたい」

 

 彼は卓の上で手を組んだ。

 

「王国の手形は今二割です。あなたは八割だと言う」

 

 彼は俺を見た。

 

「わたしが九万を額面で受け取れば王国は払える国だとみなが知ります。手形の値は上がります」

 

 彼は指を組み直した。

 

「——ですがそれは、わたしの首を絞めます」

 

 俺は頷いた。

 

「絞めます」

「王国の手形が二割なのは買える奴が一人しかいないからです」

 

 俺は言った。

 

「相殺できるのがあんただけだからだ」

 

 俺は指を折った。

 

「あんたが九万を受け取ればあんたはもう王国に物を納めない。相殺しない」

 

 俺はこの男を見た。

 

「相殺できる奴が一人もいなくなります」

「では手形は紙屑になります」

 

 ヴィントは言った。

 

「二割どころかゼロです」

「なりません」

 

 俺は首を振った。

 

「一人が二人になれば値がつきます」

 

 俺は言った。

「一人がゼロになったら値はつかない」

 

 俺は卓に手を置いた。

 

「だから二人目を作ります」

「誰です」

 

 俺は三枚目の紙を出した。

 

「王国に相殺の掟を作らせます」

 

 俺は言った。

 

「王国に物を納める者は、誰でも王国の古い手形で代金を受け取れる」

 

 俺は指で押さえた。

 

「今はあんただけができる。これを誰にでもできるようにします」

 

 ヴィントはその紙を見た。

 

「三年半前あなたはそれを宰相に願いました」

「願いました」

「断られた」

「断られました」

 

 俺は頷いた。

 

「あのとき宰相はこう言った。——正しいが半年かかる。王国は半年もたない」

 

「今は」

 

 俺は言った。

 

「国庫に十一万二千二百あります。半年もちます」

 

 俺はこの男を見た。

 

「あのときは金がなかった。今はある」

 

「誰にでも相殺できれば」

 

 俺は言った。

 

「王国の手形は誰でも受け取ります。物を納めて手形で払ってもらえるからです」

 

 俺は指を折った。

 

「手形に値がつく。八割の値打ちが八割の値になる」

 

「二割で持っている者は」

「四倍になります」

 

 俺は頷いた。

 

「東門の市で農民が二割で売った紙が八割になる」

 

 俺はこの男を見た。

 

「四割で買った俺の紙も二倍になります」

 

 ヴィントの眉が動いた。

 

「あなたも儲かるのですか」

「儲かります」

 

 俺は即答した。

 

「三年半前俺は四つの村の徴発手形を六百ターレンで買いました。額面千五百です」

 

 俺は頷いた。

 

「あのとき村に返しました。俺は一グロートも取らなかった」

「今度は」

 

 俺は言った。

 

「取ります」

 

 ヴィントは俺を見た。

 

「取るのですか」

「取ります」

 

 俺は頷いた。

 

「これは監査官の仕事じゃない。商人の仕事です」

 

 俺はこの男を見た。

 

「俺は首になりました。今は商人です」

 

「王国の手形を買い集めます」

 

 俺は言った。

 

「二割で。今のうちに」

 

 俺は指を折った。

 

「それから相殺の掟を通させる」

 

 二本目。

 

「手形が八割になる」

 

 三本目。

 

「四倍で売ります」

 

 俺は手を開いた。

 

「善いことをやると儲かる。俺がそう書き直しました」

 

 ヴィントはしばらく俺を見ていた。

 

「ハーゼルさん」

「はい」

「それはあなたが王国の内情を知っているからできることです」

 

 彼は俺を見た。

 

「あなたは監査官でした。王国が本当は払えることを知っている」

 

 彼は卓を撫でた。

 

「——それは内緒事で儲けるということです」

 

 俺は動かなかった。

 この男の言う通りだ。

 俺は監査官として王国の帳簿を数えた。

 国庫に金があることを知っている。

 その知識で手形を買う。

 値が上がったら売る。

 ——それは盗みとどう違う。

 俺はしばらく答えなかった。

 答えられなかったのではない。

 答えを正確に言いたかったからだ。

 

「ヴィントさん」

 

 俺は言った。

 

「三年半前俺は東門の市に二枚目の紙を貼りました」

 

「一枚目は王国の手形は八割だと書いた」

 

「二枚目はこう書いた」

 

「——この紙を書いた男はその手形を持っています。値が上がれば儲かる。だから疑ってください」

 

 ヴィントの手が止まった。

 

「内緒事で儲けるのは盗みです」

 

 俺は言った。

 

「だけど、内緒事を先に明かして儲けるのは、商いです」

 

「俺は王国の帳簿を数えました」

 

 俺は言った。

 

「数えたものを全部街角に貼りました。三十枚。誰でも読めます」

 

 俺はこの男を見た。

 

「王国が払えることを俺だけが知っているんじゃない。貼ったからみんな知っている」

 

「みんな知っていて、誰も二割で買わないなら」

 

 俺は言った。

 

「それはみんながまだ動いていないだけです」

 

「俺は先に動く」

 

 俺は言った。

 

「先に動いて二割で買う。相殺の掟を通す。八割で売る」

 

 俺はこの男を見た。

 

「あとから動く奴も同じことができます」

 

「先に動いた分だけ俺が儲かる。それは盗みじゃない」

 

 俺は言った。

 

「——先に数えた分の駄賃です」

 アルノー・ヴィントは俺を見ていた。

 六十五の目立たない男だ。

 この男は卓の上の紙を指で押さえた。

 

「一つ条件があります」

「どうぞ」

「わたしも混ぜてください」

 

 俺はこの男を見た。

 

「あなたが手形を買い集めるならわたしも買います」

 

 彼は言った。

 

「わたしは王国の手形をいちばん多く持っている。九万を額面で受け取ればその金でまだ買えます」

 

 彼は俺を見た。

 

「二人で市を作りましょう」

 

「一人が二人になれば値がつく」

 

 彼は俺の言葉を返した。

 

「——あなたがそう言った」

 

 俺は笑った。

 

「ヴィントさん」

「はい」

「あんたと組むと俺の紙の値が上がりすぎる」

 

 俺は言った。

 

「あんたが買うと知れたらみんな手形を手放さない」

「ではどうします」

「先に明かします」

 

 俺は言った。

 

「——ヴィント商会も買いますと市の壁に貼ります」

 

 ヴィントは笑った。

 

「わたしの手の内を街角に貼るのですか」

「貼ります」

 

 俺は頷いた。

「あんたが買うと知ればみんなが買う。値が速く上がります」

 

 俺はこの男を見た。

 

「隠すより明かしたほうが儲かる」

 

「——あんたが三十年やらなかったことです」

 

 

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