王都までまた十一日。
俺はもう慣れた。
ボリスも慣れた。この男は途中の宿の場所を全部覚えている。字は読めないが道は覚える。
宰相の部屋に俺は通された。
監査官ではなくなった男を宰相が通す。
門番が少し驚いた顔をした。
グレゴール・ザイツは卓に向かっていた。
目の下が黒い。
前より、黒い。
「ハーゼルどの」
「閣下」
「首になった男が王城に戻ってきましたか」
「戻りました」
俺は椅子に座った。勧められる前に。
「掟を一つ作っていただきたい」
俺は紙を出した。
三年半前に俺が願って断られた掟だ。
「王国に物を納める者は誰でも王国の古い手形で代金を受け取れる」
俺は指で押さえた。
「相殺を誰にでも」
ザイツはその紙を見た。
「三年半前に断りました」
「断られました」
「正しいが半年かかると言いました」
「言いました」
彼は俺を見た。
「王国は半年もたないと」
「今はもちます」
俺は言った。
「国庫に十一万二千二百あります」
俺は指を折った。
「俺が戻しました」
ザイツは動かなかった。
「あなたは首になりました」
「なりました」
「首になった男の願いをなぜ聞くと思うのです」
「聞かなくていいです」
俺は言った。
「これは願いじゃない」
俺は卓に手を置いた。
「取り引きです」
俺は二枚目の紙を出した。
ヴィント商会の九万の紙だ。
新しく書いた。四つ目がない。利は二分。十年払い。
「ヴィント商会が九万の取り立てをやめます」
俺は言った。
「四つ目を外します。利を一割二分から二分に下げます」
俺は指で押さえた。
「十年で九万九千。王国は返せます」
ザイツの手が止まった。
「……ヴィントが、四つ目を外すのですか」
「外します」
「あの男が」
「あの男が」
俺は頷いた。
「三十年前あの男が書いた四つ目をあの男が外します」
ザイツは長いことその紙を見ていた。
目の下が黒い。
二十九年前この男は二十歳の書記だった。
監査官アルブレヒトの解任状に副署した。
その解任は四つ目を——王国の借入の四つ目を——奏上したからだ。
「閣下」
俺は言った。
「二十九年前、アルブレヒトどのが数えた四つ目が今外れます」
ザイツは顔を上げなかった。
「あの方は三千が九万になると二十九年前に書きました」
俺は言った。
「九万になりました」
俺はこの男を見た。
「あの方の数えは正しかった」
「正しかった」
ザイツはやっと言った。
「誰も聞かなかった」
「今聞きます」
俺は言った。
「あんたが聞けばいい」
部屋は静かだった。
窓が小さい。
「相殺の掟を通せば」
ザイツは言った。
「王国の手形に値がつきます」
「つきます」
「値がつけば王国はその手形を金の代わりに使えます」
「使えます」
彼は俺を見た。
「新しく借りなくていい」
「利息が増えません」
俺は言った。
「王国は十四万借りている。だがその十四万で物が買える」
俺は指を折った。
「三年半前俺が言ったことです」
「あのときあなたは正しかった」
ザイツは言った。
「正しかったが金がなかった」
彼は卓に手を置いた。
「今はある」
「一つ伺います」
彼は俺を見た。
「あなたはこの取り引きで何を得るのです」
俺はこの男を見た。
「王国の手形を買い集めます」
俺は言った。
「二割で。相殺の掟が通れば八割になる」
俺は頷いた。
「儲けます」
ザイツの手が止まった。
「監査官が王国の内情を知って手形を買うのですか」
「監査官じゃありません」
俺は首を振った。
「首になりました。今は商人です」
俺はこの男を見た。
「そして俺が数えたものは、全部街角に貼りました。三十枚」
「王国が払えることは俺だけの内緒事じゃない」
俺は言った。
「貼ったからみんな知っている」
俺は卓に手を置いた。
「みんな知っていてまだ二割なら、それはみんなが動いていないだけです」
「俺は先に動く」
俺は言った。
「先に数えた分の駄賃を取ります」
俺はこの男を見た。
「それは盗みじゃない。先に働いた分です」
ザイツはしばらく俺を見ていた。
「ハーゼルどの」
「はい」
「あなたは監査官を首になった」
「なりました」
「首になった男が王国を立て直そうとしている」
彼は俺を見た。
「——なぜです」
俺はその問いをしばらく持っていた。
なぜか。
俺は王国が好きではない。
王は俺を首にした。弟を庇った。
この国のために命を張る義理は一つもない。
だが。
俺は答えた。
「安いからです」
「王国の手形を二割で買って八割で売る」
俺は言った。
「そのついでに王国が生き返る」
俺はこの男を見た。
「生き返らせるのに俺は一グロートも損しません。むしろ儲かる」
「安いでしょう」
グレゴール・ザイツは俺を見ていた。
目の下が黒い。
それからこの男は少しだけ笑った。
二十九年ぶりに笑ったというような笑い方だった。
「ハーゼルどの」
「はい」
「二十九年前、アルブレヒトどのは王国を正すために命を張りました」
彼は言った。
「そして落馬しました」
彼は俺を見た。
「あなたは王国を正すのに、儲けようとしている」
「あの方は正しさに値をつけなかった」
彼は言った。
「あなたは正しさに値をつけた」
彼は卓の上で手を組んだ。
「——あなたのほうが死ににくい」
ザイツは判を取った。
取って相殺の掟に署名した。
宰相の署名は王令に足りない。
王令には王の御璽が要る。
だがザイツは署名した。
署名してこう言った。
「王にはわたしが奏上します」
「二十九年前わたしはアルブレヒトどのの奏上に副署しませんでした」
彼は言った。
「解任状に副署しました」
彼は俺を見た。
「——今度は奏上のほうに副署します」