俺は王都に留まった。
留まったのはまだ数え終わっていないことがあったからだ。
国は生き返った。
国庫に金が戻った。
王の弟は落ちた。
なのに、戦は終わらない。
イレーネは嫁ぐ。
俺はそれを数え直した。
三十回数え直した。
国が生き返っても戦は終わらない。
戦を終わらせるのは金ではない。
フリースラントの八千の兵だ。
八千の兵は金では買えない。
婚姻でしか動かない。
俺はそれを認めた。
金で国は救えた。
だが戦は金では終わらない。
——俺の数えはそこまでだった。
冬の初めに宰相に呼ばれた。
グレゴール・ザイツの部屋にもう一人いた。
王だ。
ライナルト三世。
五十を越えている。目が赤い。
俺は膝をつこうとした。
「よい」
王は言った。
「そなたは膝をつく男ではない」
俺は立ったままでいた。
「監査官」
「監査官では——」
「監査官だ」
王は言った。
「今日からまた監査官だ」
俺は動かなかった。
「そなたは弟を落とした」
王は言った。
「わしの弟だ」
俺は待った。
「礼を言う」
俺はこの王を見た。
目が赤い。
眠っていない人間の目だ。
この王は二十年国が痩せるのを見てきた。
なぜ痩せるか分からなかった。
分からないことは恐ろしい。
弟が盗んでいた。
王はそれを庇った。
庇ったのは分からなかったからだ。
分かった日に庇うのをやめた。
「監査官」
「はい」
「そなたに褒美を取らせる」
王はザイツを見た。
ザイツは紙を出した。
俺はその紙を見た。
——ヴァルター公の旧領。
——これをカイ・ハーゼルに与える。
——公位をもって。
俺はその紙を三度読んだ。
公位。
荷役上がりの商人に公位。
王の弟の旧領。
俺はその紙を卓に戻した。
「割に合いません」
部屋が静かになった。
王が俺を見た。
「……なんと」
「割に合わないと申し上げました」
俺はこの王を見た。
「公位を頂けば俺は貴族になります」
俺は言った。
「貴族は領を持ちます。領を持てば守ることになる」
俺は指を折った。
「守るものができれば俺は弱くなります」
「今俺は何も持っていません」
俺は言った。
「首になっても痛くない。領を取られても痛くない。持っていないからです」
俺はこの王を見た。
「持っていない男は数えられます」
「公位を頂いた瞬間から」
俺は言った。
「俺は領を守るために数えるのをやめます」
俺はこの王を見た。
「——ヴァルター公と同じになります」
王は動かなかった。
目が赤い。
「では何が欲しい」
王は言った。
「そなたはこの国を救った。何か取らせねばならん」
俺はしばらく考えた。
三年半前ボリスが聞いた。
——何なら欲しいんだあんたは。
俺はこう答えた。
——金庫の鍵かな。
あのとき俺はそれが何か分かっていなかった。
今は分かる。
「陛下」
俺は言った。
「一つ作らせてください」
「なんだ」
「王国の金を数える場所です」
俺は言った。
「王国が金を借りるとき、その紙に値をつける場所」
俺は指を折った。
「四つ目のような罠が書いてないか確かめる場所」
「王国が手形を切るとき、その手形がいくらの値打ちか決める場所」
俺は言った。
「誰でもその値を見られる。誰でもその紙をその値で売り買いできる」
「王国はその場所を通さずに金を借りられない」
俺は言った。
「借りるときは必ず値をつけられる」
「三千ターレンが三十年で九万になる紙は」
俺は言った。
「その場所が止めます」
王は動かなかった。
「そのような場所を誰が回す」
王は言った。
「俺です」
俺は言った。
「ではそなたが王国の金を握ることになる」
王は言った。
「それは公位より大きい力だ」
「なります」
俺は頷いた。
「そなたを誰が止める」
王は言った。
「そなたがその場所で四つ目を書いたら誰が止める」
俺はこの王を見た。
いい問いだ。
三年半前俺は同じことを自分に問うた。
——俺は必ず規則を破る。
——止められるのは俺が潰れて得をする奴だけだ。
「陛下」
俺は言った。
「その場所を止めるのは俺が潰れて得をする者です」
俺は指を折った。
「一つ。その場所の帳簿は毎月街角に貼ります。誰でも読める」
二本目。
「二つ。その場所の鍵は四つ作ります。俺は持ちません」
三本目。
「三つ。鍵の一つは俺が潰れると儲かる男に渡します」
俺は手を開いた。
「俺を、王が止めるのではありません」
俺は言った。
「俺が、自分を止める仕組みを、自分で作ります」
王はしばらく俺を見ていた。
それからザイツを見た。
ザイツは頷いた。
「監査官」
王は言った。
「そなたは王冠を要らぬと言い、金庫を欲しがる」
「王冠は髑髏です」
俺は言った。
「金庫は鍵です」
「髑髏をかぶった男は殺されます」
俺は言った。
「鍵を持った男は——」
俺はそこで言葉を止めた。
鍵を俺は持たない。
四つに割って渡す。
「——鍵を作った男は殺されません」
俺は言い直した。
「殺しても鍵が四つ残るからです」