締め方が上手い。
三日で、俺はそれを認めた。
マイヤーが金を出さない。これは一つ目だ。
二つ目は、倉だった。港の倉は八つあって、そのうち五つはヴィント商会のものだ。残り三つも、借り主が急に、今月は空きがない、と言い出した。空いていることは知っている。俺は毎朝そこを歩いている。
三つ目が、一番効いた。
二十人のうち、二人が「三の目」に来なくなった。
俺はその二人を、家まで訪ねた。
一人は荷役で、名をペーターという。倉の前で、俺の顔を見て、目を逸らした。
「口は、返す」
彼は言った。
「金は要らねえ。ただ、名前を、その紙から消してくれ」
「親方に言われたか」
彼は答えなかった。
答えないのが、答えだ。
この男には子どもが三人いる。上が七つで、下がまだ歩かない。荷役を切られたら、その日から食えない。
俺は懐から銀貨を出した。十枚。
「買い戻す。十ターレンだ」
「九ターレンでいい。あんたが前に言った値だ」
「あれは封鎖のときの値だ。今の航路に封鎖はない。十ターレンで、ちょうどいい」
俺は銀貨を彼の手に押しつけた。
「ペーターさん」
「なんだ」
「食い扶持が先だ。当たり前だろう」
彼は、しばらく銀貨を見ていた。
それから、俺の顔を見ずに頷いた。
◆
もう一人も同じだった。十ターレン返して、名前を消した。
二十口が、十八口になった。
残った十八人は、何も言わなかった。ゲルトが卓の上で銭を数えていて、ボリスが俺の隣で酒を飲んでいた。
「二人抜けたな」
「抜けた」
「怒らねえのか」
「なんで怒るんだ」
俺は麦酒を口に運んだ。
「あの二人は、俺が組んだ賭けに乗ってくれた最初の二十人だ。乗ってくれた奴を、降りたからって恨むのか」
ボリスは笑った。
この男は、俺の言うことの半分も分かっていない。だが笑うところだけは、いつも間違えない。
◆
次の航海は三隻ぶんだ。六百ターレン要る。
手元にあるのは、百八十ターレン。
足りない。四百二十ターレン、足りない。
俺は宿の机に紙を広げて、その六百ターレンが、いったい何なのかを書き出した。
水夫の賃金、二百四十ターレン。
塩漬け肉と、水と、麦。百五十ターレン。
麻縄と、帆布と、修繕。百二十ターレン。
港の使用料、六十ターレン。
予備、三十ターレン。
締めて、六百。
俺はその紙を、長いこと見ていた。
六百ターレンというものは、この世に存在しない。
存在するのは、麻縄と、塩漬け肉と、水夫の腕だ。
銀貨は、それを買うための紙切れにすぎない。ただ、みんながその紙切れを信じているから、銀貨で買える。
なら。
俺の紙で買えばいい。
◆
船具屋のトーマは、頑固な男だ。
麻縄と帆布を扱っていて、この街で三代続いている。ヴィント商会にも売っているが、ヴィントの言いなりではない。言いなりになったら、値を叩かれると知っているからだ。
「現金だ」
俺が入るなり、彼は言った。
「あんたには、掛け売りはしねえ。ヴィントに睨まれる」
「現金は持ってきてない」
「じゃあ帰れ」
「これを持ってきた」
俺は卓の上に、紙を一枚置いた。
紙には、こう書いてある。
——この紙を持つ者は、三隻の航海の荷の権利、一口分を有する。三隻が帰港すれば十五ターレンを支払う。すべて沈めば支払わない。荷が欠ければ、欠けた分だけ払いを減らす。この紙は、誰に譲ってもよい。
条項は、五つ。全部読める。隠れた四つ目はない。
「麻縄と帆布で、百二十ターレン。十二口ぶんの紙を渡す」
トーマは紙を見た。
見て、鼻で笑った。
「紙切れじゃねえか」
「銀貨も紙みたいなもんですよ」
◆
「トーマさん。銀貨ってのは、なんです」
「銀だろうが」
「銀の塊なら、量って使えばいい。だがあんたは量らない。王の顔が刻んであるから、量らずに受け取る」
俺は懐から一ターレン出して、卓に置いた。
「なぜ量らないんです」
「……そりゃ、王が」
「王が保証してるから、でしょう。中身の銀が減ってても、あんたは受け取る。信じてるからだ」
俺はその銀貨を指で回した。
「銀貨は、信用でできてる。銀でできてるんじゃない」
トーマは、口を開いて、閉じた。
「この紙も同じです。中身は、メーヴェの荷だ。十のうち九、帰ってくる。俺の名前が書いてある。俺は前の航海で、数え違いを見つけて、頼まれもしないのに二十ターレン返した。この街の誰が、そんな馬鹿をやりました?」
俺は紙を、彼の方へ押した。
「信用ってのはね、トーマさん。数え直して、払った回数のことだ」
◆
トーマは、長いこと黙っていた。
この男は算術を知らない。だが、三代続いた店の主だ。誰が払う男で、誰が払わない男かを、匂いで嗅ぎ分ける。それは算術より難しい仕事で、そして、この街では算術より役に立つ。
「……十二口だな」
「十二口です」
「沈んだら、俺は麻縄をタダで渡したことになるぞ」
「なります」
「帰ってきたら、百八十ターレンだ」
「なります」
トーマは、紙を掴んだ。
「六十ターレン儲かるってことか」
「その代わり、十のうち一つで、丸損だ」
彼は紙を懐に入れた。
「三代目だぞ、俺は。博打を打ったことがねえ」
「初めてですか」
「初めてだ」
彼は、少しだけ笑った。
◆
同じことを、食料屋にやった。塩漬け肉と水と麦で百五十ターレン。十五口ぶんの紙。
水夫の賃金は二百四十ターレンだが、これは半分が前渡しで、残りは帰ってから払う。この街の決まりだ。だから前渡しの百二十ターレンを、十二口ぶんの紙で払った。
水夫が紙を受け取ると、何が起きるか。
こいつらは、自分の乗る船の荷を持つことになる。
沈めば、賃金の半分が消える。
だから、沈まないように船を動かす。
これは俺の思いつきではない。ドールスが言ったのだ。水夫は賃金で動くが、賃金は沈んでも出る、と。老人はそれを、四十年、当たり前だと思っていた。
◆
港の使用料だけは、銀貨で払った。
市庁舎は紙を受け取らない。当たり前だ。市庁舎が受け取ったら、それはもう金だ。
六十ターレン。それと予備の三十ターレン。
締めて九十ターレン。
俺の手元には、百八十ターレンあった。
九十ターレン、余った。
紙で払ったのは、締めて三百九十ターレン。一口十ターレンで、三十九口。
三十九枚の紙が、この街に出た。
三隻が出た日、フォーゲルが桟橋に立っていた。
商会の番頭が、朝の桟橋に立つ理由はない。
「ハーゼルさん」
「フォーゲルさん」
「金は、どこから」
「使ってません」
彼の指が、袖の中で動いた。
「あんたは俺の金を止めた。倉も止めた。荷役も止めた。上手いもんです。三日で、俺は詰んだ」
俺は帆を見ていた。三枚とも、風を掴んでいた。
「——だが、俺は金を使ってない」
◆
「船を出すのに要るのは、金じゃない。麻縄と、塩漬け肉と、水夫の腕だ」
俺は指を折った。
「金ってのは、それを買うための紙です。みんなが信じてるから、紙が縄になる」
俺はフォーゲルを見た。
「なら、俺の紙で買えばいい。信じてもらえれば」
風が来た。
「あんたは俺の金を止めた。だが、あんたには、俺の信用は止められない」
フォーゲルは、動かなかった。
この男は、俺が何をしたのかを、完全に理解していた。この街で、たぶん、俺以外で唯一。
だから彼は、笑わなかった。
「ハーゼルさん」
「はい」
「あなたは、危険を割った。それは、まだ商売の話でした」
彼の声は、静かだった。
「今日、あなたがやったのは、商売の話ではありません」
俺は、彼を見た。
「金を作りましたね」
◆
帰り道、ボリスが聞いてきた。
「なあ。あんた、今日、何やったんだ」
俺は少し考えた。
「金を作った」
「なんだそりゃ」
「さあ」
自分でもよく分かっていなかったので、そう答えた。
三日後、俺の紙が、酒場で使われていた。
水夫が麦酒の代金に紙を出して、酒場の親父が受け取った。
俺は、それを卓の隅から見ていた。
誰も俺のところへは来ていない。俺の知らないところで、俺の紙が、麦酒に化けた。
——これは、まずいな。
と、思った。
思ったが、悪くない気分だった。