次は戦を止めてこい。
俺はその一行を三十日机に置いていた。
戦を止める。
俺にはできない。
俺はそれを認めている。
戦を終わらせるのは金ではない。
フリースラントの八千の兵だ。
その兵は婚姻でしか動かない。
俺は金では兵を買えない。
それは正しい。
だが正しすぎる。
俺は正しすぎる答えを信用しない。
俺はもう一度戦を数えた。
なぜ戦をしているのか。
四年前宰相がこう言った。
——勝てば、南の港が三つ。関税は年に三千。
——戦費は年に六万。
——二十年勝ち続けてやっと元が取れる。
俺はそれを聞いてこう言った。
——この戦は、勝っても負けです。
勝っても負ける戦を、なぜやめないのか。
——やめると言った者が殺されるから。
王の面子だ。
負けた王は王でなくなる。
俺はそれを四年数えてきた。
面子は値がつかない。
正しさと同じだ。
面子で人は動かない。
だから王はやめられない。
やめる理由に値がつかないからだ。
俺は机の上でこう書いた。
——王がやめて得をするようにすればいい。
俺は南の綴りを開いた。
監査官のとき、俺は南方諸市との交易の綴りを数えた。
戦の前アルヴェントは南方諸市と交易していた。
北の岩塩を南に売る。
南の秘薬を北が買う。
南の魚を北が食う。
北の鉄を南が買う。
その交易の額は年に四万ターレン。
戦でそれが止まった。
港が閉じた。塩が入らない。魚が腐る。秘薬が北へ出ない。
俺はそれをサルヴァで見た。
オルデ村で見た。
両方の村が痩せていた。
同じ痩せ方だった。
——敵は同じ形をしてる。
俺は四年前桟橋でボリスにそう言った。
戦をやめれば交易が戻る。
年に四万ターレン。
港が三つ手に入って、関税が三千。
交易が戻って、四万。
——戦をやめたほうが勝つより儲かる。
俺はその一行を三度読んだ。
三度読んでも同じことが書いてあった。
だがまだ足りない。
交易が戻って四万儲かると言っても、それは正しさだ。
値がつかない。
王がその四万を次の朝手に取れなければ動かない。
俺はそれを東門の壁で学んだ。
正しさに値をつける。
交易の四万を王が明日手に取れる形にする。
俺は宰相の部屋へ行った。
グレゴール・ザイツは卓に向かっていた。
目の下が黒い。
だが前より少し薄くなっていた。
「閣下」
「ハーゼルどの」
「戦をやめさせます」
ザイツは顔を上げた。
「王はやめません」
「やめます」
俺は椅子に座った。
「やめて得をするなら」
俺は紙を出した。
「戦の前南方諸市との交易は年に四万ターレンでした」
俺は言った。
「戦で止まっています」
俺は指で押さえた。
「やめれば四万戻ります」
「勝っても関税は三千です」
「やめれば四万」
俺はこの男を見た。
「十三倍です」
「知っています」
ザイツは言った。
「わたしも数えました。十二年前に」
彼は俺を見た。
「王に奏上しました」
「面子だと仰いました」
「そうです」
俺は頷いた。
「面子には値がつきません」
俺は卓に手を置いた。
「だから面子で話をしません」
「四万で話をします」
ザイツは動かなかった。
「王が面子で戦をやめれば負けた王になります」
俺は言った。
「王が四万のために戦をやめれば、賢い王になります」
俺はこの男を見た。
「同じことを別の紙に書くだけです」
「戦をやめるとは書きません」
俺は言った。
「南方諸市と交易を再び開く。そう書きます」
俺は指を折った。
「交易を開くには港が要る。港を開くには戦を止める」
「戦をやめるんじゃない」
「交易を開くんです」
ザイツはしばらく俺を見ていた。
目の下が黒い。
「ハーゼルどの」
「はい」
「王はそれでも頷かないかもしれません」
「頷かないかもしれません」
俺は頷いた。
「そのときは南方諸市に先に頷かせます」
「南方諸市が交易を望んでいると王が知れば」
俺は言った。
「王は負けたのではなく、南が折れたのだと思えます」
俺はこの男を見た。
「面子が立ちます」
「南方諸市をどうやって頷かせるのです」
ザイツが聞いた。
俺は椅子から立った。
「サルヴァに知り合いがいます」
俺は言った。
「港務の頭です。塩を四倍で買った男だ」
俺は扉のほうへ歩いた。
「オルデ村に村長がいます」
「息子を二人戦にやった女です」
俺は言った。
「片方は脚がない」
俺は扉に手をかけた。
「あの女は戦を止めて来いと言いました」
「閣下」
俺は振り返った。
「四年前南のオルデ村であの村長が俺に聞きました」
俺は言った。
「——戦をしとるのは誰だ」
「俺はこう答えました」
「——王と議会です。あんたと俺はしてません」
俺は扉を押した。
「してない者同士で先に勘定を合わせます」
俺は言った。
「王と王が、あとから追いつく」