わたしは九つの年に国の死を数えた。
父の机に紙が積んであった。
借入の綴りと税の見込み。
並べれば答えが出た。
この国は死んでいる。
わたしはそれを父に言った。
父は笑って頭を撫でた。
可愛いことを言うと。
誰も聞かなかった。
わたしはそれから十五年数え続けた。
毎晩寝床の影を数えた。
毎朝毒味された飯を食べた。
王の娘は狙われる。
嫁ぐための駒だからだ。
わたしは自分の値を知っていた。
王の娘の値は婚姻で決まる。
どこへ嫁ぐか。いくらの支度金がつくか。何人の兵が動くか。
◆
わたしは自分を数えられる女だった。
だから自分に値をつけた。
フリースラント公が一万を出すと言った。
わたしは一万五千と言った。
この国の一年ぶんの不足だ。
わたしが嫁げば一年この国が生きる。
兵が八千南に向く。戦が終わる。
安い買い物だとわたしは思った。
王の娘一人で国が一年生きて戦が終わる。
安い。
わたしはその勘定に満足していた。
あの男が来るまでは。
カイ・ハーゼル。
井戸の水を味で見分けた男だ。
王女の前で鼻で笑った男だ。
――王冠は髑髏です。かぶれば死ぬ日を数えて生きることになる。割に合いません。
◆
わたしはその言葉を、生まれた日から予定に組み込んで生きてきた。
誰もそれを言葉にしなかった。
あの男が初めて言葉にした。
わたしはあのときあの男にもう一度言ってくれと頼んだ。
二度聞いても足りなかった。
あの男は王座を蹴った。
公位を蹴った。
髑髏をかぶらなかった。
あの男は何も持っていない。
持っていないから数えられる。
わたしは王の娘だ。
王家を持っている。
だから自分を売るしかない。
あの男は自由だ。
わたしは自由でない。
わたしはあの自由が欲しかった。
◆
それが恋だと気づいたのは。
あの男がこう言ったときだ。
――嫁がなくて済みます。
あの男の声は少し高かった。
値をつける男の声は高くならない。
四年あの男を見てきた。
一度も高くならなかった。
あのときだけ高かった。
わたしはそれを勘定に入れた。
そして遅いと言った。
盟約は結ばれていた。
破ればフリースラントは敵に回る。
金の話ではなくなっていた。
わたしは正しかった。
正しかったが。
あの男はそれから戦を終わらせようとしている。
金では兵は買えない。
あの男はそれを認めた。
◆
認めて別の道を数え始めた。
南方諸市が先に和議を望んだという報せが来た。
交易の相殺で両方の村が痩せなくなった。
議会が数えた。面子より四万が重いと。
わたしはその報せを三度読んだ。
三度読んで気づいた。
◆
――あの男は、わたしの婚姻を要らなくしようとしている。
南方諸市が自分から和議を望めば。
フリースラントの八千の兵は要らない。
兵が要らなければ婚姻は要らない。
わたしは売られなくて済む。
あの男は金ではわたしを買い戻せなかった。
だから戦のほうを消しにかかった。
わたしを売る理由のほうを。
わたしはその勘定を長いこと見ていた。
あの男は一グロートも損しない。
交易が戻れば王国金庫がその相殺を預かる。あの男が回す。
戦が終われば戦費六万が浮く。国が生き返る。
◆
そのついでに。
わたしが売られなくて済む。
安いとあの男は言うだろう。
わたしを助けるのにあの男は一グロートも損しない。むしろ儲かる。
安いと。
わたしはその勘定が。
嫌いではなかった。
あの男はわたしを施しで助けない。
施しで助けられたら、わたしはあの男に頭が上がらなくなる。
頭の上がらない相手とは対等になれない。
あの男はそれを知っている。
だから儲けながらわたしを助ける。
◆
――割に合う形でわたしを助けようとしている。
わたしは書庫の窓から外を見た。
王都の空は灰色だった。
だが街灯に油が戻っていた。
戦費が前線に届くようになったからだ。
あの男が幽霊兵の給金を止めさせたからだ。
王都に灯りが戻っていた。
わたしはその灯りを数えた。
◆
――十五年数えて初めて増える数を数えた。
わたしは王国金庫の鍵を手に取った。
あの男が渡した鍵だ。
――聞かれなくても、止められます。
あの男はそう言った。
わたしは十五年聞かれなかった。
あの男はその声に値をつけた。
鍵という値を。
わたしは鍵を握った。
握ってこう思った。
――あの男の隣ならわたしは髑髏をかぶらなくて済む。