王国金庫がフリースラントと港の盟約を結んだ。
王家の鍵を王女が持っている。
だから王家が結ぶのと同じ格だ。
フリースラントは港の使用を得た。
塩が安く入る。海の道が開く。
公は王女を娶らずに欲しいものを得た。
王女は嫁がずに済んだ。
王家の面子は立った。
フリースラントは和議の証人に立った。
南方諸市は信じた。
戦が終わる見込みが立った。
全部勘定が合った。
合いすぎた。
俺は合いすぎる勘定を信用しない。
案の定動いた者がいた。
ヴァルター公の残党だ。
領を召し上げられた王弟にはまだ金で繋がった者がいた。
徴税請負で領を失った二人の貴族。
銀を抜いていた造幣局の古い手代たち。
俺が潰した者たちだ。
彼らは俺を潰そうとした。
最初は噂だった。
――カイ・ハーゼルは王国金庫で私腹を肥やしている。
――手形を安く買い高く売って儲けている。
――王女をたぶらかしている。
噂は半分本当だった。
俺は手形を安く買って高く売った。一万二千儲けた。
だがそれは全部街角に貼ってある。
――この紙を書いた男は手形を持っています。値が上がれば儲かる。だから疑ってください。
俺は内緒事で儲けていない。
先に明かして儲けた。
噂は効かなかった。
貼ってあるからだ。
次に彼らは王に訴えた。
――金庫をハーゼルが握っている。危険だ。
――一人の商人に国の金を任せるな。
王は俺を呼んだ。
「監査官」
「はい」
「そなたが金庫を握っていると訴える者がおる」
俺はこの王を見た。
目が赤い。
だが前より少し眠れているように見えた。
「握っていません」
俺は言った。
「金庫の鍵は四つあります。俺は一つも持っていません」
「四つの鍵は誰が持つ」
王が聞いた。
「一つは、監査官のヨナス」
俺は言った。
「一つは、宰相のザイツ」
俺は指を折った。
「一つは、ヴィント商会のアルノー・ヴィント」
「あの商人か」
王が言った。
「あの男は王国の最大の貸し手だ。そなたの敵ではないのか」
「敵です」
俺は頷いた。
「半分、敵です」
俺はこの王を見た。
「俺が潰れるといちばん儲かる男です」
「なぜ敵に鍵を渡す」
「俺が金庫で四つ目を書こうとしたら」
「あの男は止めません。俺が堕ちるのを見たいからです」
俺はこの王を見た。
「見たい男が鍵を持っていれば俺は堕ちられない」
「あの男は俺をいちばん厳しく見張ります」
俺は言った。
「敵だからです」
王はしばらく俺を見ていた。
「四つ目の鍵は」
王が聞いた。
俺は答えなかった。
王が目を細めた。
「四つ目の鍵は誰が持つ」
「王女殿下です」
王の顔が動いた。
「イレーネか」
「殿下です」
俺は頷いた。
「殿下は数字が読めます。この国でいちばん、正確に」
「王が間違えたとき」
俺は言った。
「殿下が金庫を止められます」
王は動かなかった。
目が赤い。
「わしが間違えたとき」
王は言った。
「娘が、わしを止めるのか」
「止めます」
俺は頷いた。
王は長いこと動かなかった。
それからこう言った。
「あの子は九つの年にこの国が死んでいると言った」
王は言った。
「わしは笑って頭を撫でた」
彼は俺を見なかった。
「可愛いことを言うと思った」
俺は動かなかった。
「あの子は正しかった」
王は言った。
「十五年、正しかった」
彼は玉座の肘掛けを掴んだ。
「わしは十五年、聞かなかった」
王は顔を上げた。
目が赤い。
「今度は聞く」
王は言った。
「あの子に鍵を持たせよ」
俺を潰そうとした者たちはその月消えた。
金庫の鍵が四つあることが街角に貼られたからだ。
◆
――王国金庫の鍵は四つある。
――監査官宰相ヴィント商会王女。
――一つでも欠ければ金庫は開かない。
――カイ・ハーゼルは鍵を持っていない。
俺を殺しても金庫は動かない。
俺を潰しても鍵は四つ残る。
――潰す理由がなくなった。
アルノー・ヴィントが金庫に俺を訪ねてきた。
六十五の目立たない男だ。
「ハーゼルさん」
「ヴィントさん」
「あなたは殺されなくなりましたね」
「なりました」
俺は頷いた。
「三十年前、わたしはこの街でいちばん速い新参でした」
ヴィントは言った。
「綴りを読み、値をつけ、四つ目を書いた」
彼は俺を見た。
「誰もわたしを止められなかった」
「わたしはこの街を飼いました」
彼は言った。
「三十年静かでした」
「静かすぎました」
「あなたは」
彼は言った。
「自分を止める者を四人作った」
「――わたしにはそれができなかった」
俺はこの老人を見た。
三十年前の俺だ。
「ヴィントさん」
「はい」
「あんたには俺がいます」
「あんたが四つ目を書いたら俺が数えます」
俺は言った。
「あんたが数え違えたら、俺が教えます」
俺はこの老人を見た。
「三十年誰も教えなかった。今からは俺が教えます」
アルノー・ヴィントはしばらく俺を見ていた。
それから少しだけ笑った。
「遅かった」
彼は言った。
「三十年遅い」
「遅くありません」
俺は言った。
「あんたはまだ生きてます」
俺はこの老人を見た。
「――数え違いは生きてるうちなら割れます」