戦が終わった。
わたしは嫁がなくて済んだ。
フリースラント公は港を得た。
わたしを娶らずに。
王家の面子は立った。
王国金庫が王家の格で盟約を結んだからだ。
その金庫の鍵をわたしが持っている。
わたしは二十四になった。
王の娘が二十四まで嫁がずにいる。
昔なら行き遅れと笑われた。
今は誰も笑わない。
わたしが王国金庫の鍵を持っているからだ。
王が間違えたときわたしが止められる。
王の娘は駒だった。
嫁ぐための駒。
◆
わたしはもう駒ではない。
鍵を持っているからだ。
わたしは書庫で綴りを読んでいた。
嫁ぐ支度はもうしなくていい。
わたしは数える女に戻った。
いや。
戻ったのではない。
初めて、なった。
九つの年からわたしは数えてきた。
だがそれは国のためだった。
嫁ぐことも国のためだった。
自分のために数えたことは一度もなかった。
わたしは綴りを閉じた。
閉じて王国金庫の鍵を手に取った。
あの男が渡した鍵だ。
――聞かれなくても止められます。
あの男はそう言った。
◆
わたしは十五年聞かれなかった。
あの男はその声に鍵という値をつけた。
わたしはその鍵を握った。
鍵を持つ女は駒ではない。
駒でない女は自分で動ける。
わたしは初めて自分のために何かを望んでいいのだと気づいた。
望むものは決まっていた。
九つの年からいや。
あの男が王女の前で鼻で笑った日から。
――王冠は髑髏です。割に合いません。
わたしはあの自由が欲しかった。
いや。
あの自由を持つあの男が欲しかった。
わたしはそれを認めた。
だがあの男は来ない。
◆
あの男は割に合わないことをしない。
わたしに手を伸ばすことがあの男にとって割に合うかどうか。
あの男はまだ数えている。
わたしはそれを知っている。
あの男は二人で数えろと言った。
割れない勘定を二人のものにしろと。
あれは。
あれはたぶん。
あの男の精一杯だった。
あの男は値をつける。何にでも値をつける。
だが自分の気持ちには値をつけられない。
値をつけられないものをあの男は信用しない。
だからあの男は動けない。
あの男はわたしが手を伸ばすのを待っている。
◆
待っているくせに待っているとは言わない。
言えば負けるからだ。
あの男はいつもそう言う。
――こういうときに喋る奴は負ける。
わたしは笑った。
あの男はわたしに負けたがっている。
負けたいくせに自分からは負けに行かない。
わたしに負かしてほしいのだ。
わたしは鍵を握った。
立ち上がった。
王の娘は自分から男のもとへ行かない。
行けば格が下がる。
だがわたしはもう駒ではない。
鍵を持つ女だ。
鍵を持つ女は自分で扉を開ける。
わたしは書庫の扉を開けた。
◆
廊下は長い。
絨毯が敷いてある。
あの男はこの絨毯を十一日歩いた靴で踏むのを申し訳ないと言った。
最初のときだけだ。
今は申し訳ないとも思っていない。
わたしはその絨毯を歩いた。
王国金庫へ向かって。
あの男がいる場所へ。
わたしは歩きながら数えた。
あの男とわたしの間にあるものを。
身分。王の娘と荷役上がりの商人。
立場。金庫の鍵を持つ者四人のうちの二人。
数えた。
全部割に合わないと出た。
王の娘が商人と結ばれるのは割に合わない。
わたしは笑った。
◆
あの男の口癖がうつっていた。
割に合わない。
だが。
あの男は一つだけ割に合わないことをした。
髑髏をかぶろうとした。
わたしのために。
そして破った。
髑髏をかぶれば、わたしの求めたものでなくなるからと。
あの男はわたしのために割に合わないことをしようとして。
わたしのためにそれをやめた。
二重にわたしのために動いた。
あの男の勘定で割に合わないことが一つだけある。
◆
――わたしだ。
わたしは王国金庫の扉の前に立った。
鍵を握っている。
この扉は四つの鍵がなければ開かない。
だがわたしが開けたいのは金庫ではない。
その奥の部屋にいる男だ。
わたしは扉を叩いた。
◆
――わたしから行く。
あの男が待っているなら。
待たせるのはもう十分だ。
十五年待った女が。
もう待つのはやめる。