扉が叩かれた。
俺は王国金庫の奥の部屋で綴りを数えていた。
この部屋に来る者は少ない。
鍵を持つ四人だけだ。
ヨナスは叩かない。監査官はいつでも入れる。
ザイツも叩かない。宰相は断らない。
ヴィントは叩く。だがあの男は来る前に必ず報せる。
報せが来ていなかった。
俺は扉を開けた。
イレーネ・ヴァル・アルヴェントが立っていた。
頭巾は被っていなかった。
髪は黒い。
目は灰色だ。
乾いていた目が今日は乾いていなかった。
「殿下」
「ハーゼル」
「報せが来ていませんでした」
「報せずに来ました」
彼女は言った。
俺は動かなかった。
王の娘が報せずに荷役上がりの商人を訪ねる。
この城でそれが何を意味するかは知らない。
知らないがいい話だろう。
俺は扉を大きく開けた。
「どうぞ」
「入りません」
彼女は首を振った。
「用はここで済みます」
俺は扉のところに立っていた。
「殿下」
「はい」
「金庫の鍵のことですか」
「違います」
「和議のことですか」
「違います」
「では」
イレーネは俺を見ていた。
灰色の目だ。
乾いていない。
「四年前」
彼女は言った。
「あなたはわたしにこう言いました」
「――割に合わんと」
俺は動かなかった。
「王の娘を売って一年をしのぐ国のことを」
彼女は言った。
「あなたは割に合わないと言った」
彼女は俺を見た。
「わたしのことを言ったのだと思いました」
「違いました」
彼女は言った。
「あなたは国のことを言っていた」
俺は答えなかった。
「ですが」
彼女は言った。
「今なら分かります」
「あなたはわたしのことも言っていた」
俺は動かなかった。
「あなたの勘定で」
彼女は言った。
「割に合わないものが一つあります」
彼女は俺を見た。
「わたしです」
俺は答えなかった。
答えると負ける。
「あなたは髑髏をかぶろうとした」
彼女は言った。
「わたしのために。そして破った」
彼女は俺を見た。
「わたしの求めたものでなくなるからと」
「あなたはわたしのために割に合わないことをしようとして」
彼女は言った。
「わたしのためにそれをやめた」
「二重にわたしのために動いた」
俺は動かなかった。
「なぜそれを俺が認めると思うんです」
俺はやっと言った。
「認めなくていいです」
彼女は言った。
「あなたは値をつける男です」
彼女は言った。
「何にでも値をつける」
彼女は俺を見た。
「ですが、自分の気持ちには値をつけられない」
「値をつけられないものを、あなたは信用しない」
彼女は言った。
「だからあなたは動けない」
「あなたはわたしが手を伸ばすのを待っている」
俺は動かなかった。
「待っているくせに」
「待っているとは言わない」
彼女は俺を見た。
「言えば、負けるからです」
俺はこの女を見た。
この女は俺が四年口に出さなかったことを。
全部数え終えている。
書庫で初めて会った日と同じだ。
この女はいつも答えを先に持っている。
「殿下」
「はい」
「あなたは王の娘です」
「でした」
彼女は言った。
「今は鍵を持つ女です」
「鍵を持つ女は」
彼女は言った。
「自分で扉を開けます」
イレーネは手を伸ばした。
俺の手を取った。
王の娘の手は冷たかった。
九つの年から寝床の影を数えてきた女の手だ。
「ハーゼル」
「はい」
「わたしはあなたが欲しい」
俺はその手を握り返そうとして。
止まった。
「殿下」
「はい」
「俺は荷役上がりの商人です」
「知っています」
「王の娘と商人が結ばれるのは」
「割に合わない」
彼女は言った。
「わたしが数えました」
彼女は言った。
「全部割に合わないと出ました」
彼女は俺を見た。
「あなたの勘定で割に合わないものがわたしです」
「わたしの勘定で割に合わないものが」
彼女は言った。
「あなたです」
「二人とも割に合わない」
彼女は俺の手を握った。
「――だから割れません」
俺は動かなかった。
「割に合わないもの同士は」
彼女は言った。
「足しても割に合わない」
彼女は俺を見た。
「ですが割れないものは一人のものです」
「あなたが言いました」
「割れないものは二人のものにすればいいと」
俺はこの女を見た。
灰色の目だ。
乾いていない。
俺は握られた手を握り返した。
握り返してこう言った。
「殿下」
「はい」
「――割に合いません」
イレーネの灰色の目が動いた。
「ですが」
俺は言った。
「割に合わないものを一つだけ持つことにしました」
「王冠は割に合わない。だから蹴った」
「公位は割に合わない。だから蹴った」
「あなたは割に合わない」
「――だから蹴りません」
イレーネが笑った。
四年で二度目に見る笑い方だった。
いや。
こんなふうに笑うのは初めてだった。