バッドエンドしかないゲーム世界で怪物になった俺は、死ぬはずの原作主人公と仲間をどんな手を使ってでも全員救う~喰聖の黙示録~   作:グラシアS

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第13話 ゲームの外側

 

「さて、大人しく情報を教えて貰おうか」

 

 回収した端末に表示されていた別の研究施設……そこに俺――喰聖はいた。

 目的は、遺者を人間に戻す手段……ただそれのみ。

 そのために、俺を喰聖とした組織の情報を追っているのだ。

 

「し、知るかよ」

 

 この状況で情報を吐かないのは、見下げ果てた根性だ。

 ならば脳みそに直接、聞いてやろう。

 

 情報すら満足に吐けない薄汚い口から、血液を大量に叩き込むことによってな。

 

「ちっ、碌な情報がないな」

 

 有用な記憶がないと分かった瞬間、俺は奴の体を投げ捨てた。

 奴は何も知らない……もはや用はない。

 

「随分とイラついているね。

 もうちょっと余裕があったほうがかっこいいよ」

 

「……たしかにな」

 

 強制的に遺者にされた者たちを戻すと決めてから、何の進展もない。

 俺の血で遺者の肉体を人間へ近づけることはできる。

 だが、変異の速度を変えても、最後には肉体が崩れて死に至った。

 

 まるで何かの力に妨害を受けているかのように。

 今のやり方では、何度繰り返しても同じ結果となるだろう。

 

「今回も、前回と同じ端末があったよ」

 

 イリスが端末を持って現れる。

 研究所を回る生活は、新鮮なのか、彼女は少しだけ楽しそうな様子を見せていた。

 

「分かった。

 俺の代わりに端末の情報を確認しておいてくれ」

 

 イリスの言う通り、少しばかり疲れが溜まっているようだ。

 うまくいかないからと、結論を急ぎすぎているのかも知れない。

 

 こんなことでは、いざ重要な情報が出てきたとしても見逃すだけだ。

 ここは一度、頭を休ませるべきだろう。

 

 そんなことを考えながら、研究所のベッドの上で天井を眺める。

 すると、イリスが端末の画面を見せつけてきた。

 

「次の施設情報……ないみたい」

 

「……妙だな」

 

 俺たちは、これまで施設内に残された端末の情報を辿ってきた。

 ここで途切れた以上、この施設には別の仕掛けがあるはず。

 

 そう考えた俺は、先ほど投げ捨てた遺者を見る。

 

「こいつ……体に文様が刻まれているな」

 

 その体には、これまでの個体にはなかった文様が刻まれていた。

 

「この文様……一体なんだ?」

 

 そう呟いた俺に、イリスが反応を示した。

 

「あ、これ……昔、実験で使ったことがある。

 私の体に反応する文様なんだよ」

 

 イリスは自らの眼球を抉り出した。

 いつ見ても痛そうだが、彼女がこれを躊躇ったことはない。

 曰く、普通に痛いそうなのだが、そうは見えなかった。

 

 彼女はそのまま、眼球を文様に押し付ける。

 すると文様が青く光り始め、一人の研究員らしき男の映像が浮かび上がった。

 

『久しいな、喰聖……それにイリス。

 全ては計画通りだ。

 さて、ここにたどり着いてくれたお礼に――

 

 私も名乗ろうではないか。

 王眷の一人……謀命災(レヴェリオ)だ』

 

 この声、この顔……間違いない。

 俺たちがいた実験施設において、所長を名乗っていた人物。

 

 だが、何かが変だ。

 こいつ……こんな格好つけたような話し方をしていなかったはず。

 それに、少なくとも俺が実験を受けていた時は、遺者ではなかった。

 

『動揺するのも当然と言える。

 なにせ、この姿は君たちの理解を早めるために用意した皮に過ぎない』

 

 皮ということは、あの所長の姿はこいつの本体ではない。

 姿と声を借りて、所長になり替わっていたということか。

 

 随分と気味が悪い。

 

「本当の顔すら見せるつもりがないとは、随分と陰険な奴だ」

 

 こいつが本当に王眷だったなら、俺の知識には存在しない遺者となるだろう。

 それ自体は不思議なことではない。

 俺の知識は所詮はゲームで語られたことに過ぎないのだから。

 

『さて、イリスに喰聖……君たちはあの研究所における最高傑作だ。

 ひとつ提案をしたい。

 

 私と手を組まないか?』

 

「手を組むだと……そもそもお前の目的は何だ?」

 

 あの研究所は間違いなく、遺者を殺すための研究を行っていた。

 問題は、何のために遺者を殺す研究を行っていたか。

 

『決まっているだろう。

 遺者の王、神化災(アルビテル)を殺すためだ』

 

 遺者の王を殺そうとしている……だと?

 王眷は、奴によって遺者に変えられた存在のはず。

 しかも、その大半が目的のために、自ら志願していた。

 

 そんな人間が、どうして遺者の王を殺そうとするのか。

 

『不思議か?

 教えてやってもいいが、ただで教えるのは退屈だ。

 少しだけ、ゲームをしよう』

 

「ゲームだと?」

 

『ああ、その実験施設の近くには、小さなコミュニティがいくつか存在する。

 それぞれのコミュニティの長に、パズルのピースを一つずつ渡しておいた。

 組み合わせると特定の場所を示すように作ってある』

 

「随分と悪趣味だな」

 

 ただ会うだけにも関わらず、どれだけ回りくどい手段を取らせるつもりだ。

 このゲームとやらで、今の俺からデータでも取るつもりなのか。

 相手の思惑がまるで分からない。

 

『ふふっ、そういうな。

 これから初めて、本体でお前たちと会うことになるのだからな。

 少しばかり興奮している』

 

 瞬間、端末から音が鳴る。

 どうやら何かしらのデータを受信したようだ。

 

『おそらく君たちの目的は、世界を救うことだろう?

 イリス、君は昔から夢を語っていたからね。

 だから、見せてくれ……君たちの答えを』

 

 そう言うと映像が消える。

 間違いなく罠だろう。

 だが、行かなければ情報は手に入らない。

 

 であれば、行く以外に選択肢はない。

 

「ねぇ、一つ聞かせて?

 長がパズルを持っているって話だったけど、どうやって奪うの?

 殺すの?」

 

「……いや、殺しはしない。

 収集しておいた物資との交換で手に入れる。

 彼らにとっては意味のないパズルだ。

 交渉に応じてくれる可能性は高い」

 

 俺に食事は必要ないが、イリスには必要だ。

 そのため、俺たちの拠点には、食料を含めた物資が置かれている。

 

 半分が放棄されていたもので、もう半分がシオンからの横流し。

 そういったところか。

 

「そうなんだ。

 なんていうか普通だね」

 

「……不服か?」

 

「いや、まずはそれでいいと思うよ。

 それで成立するのなら、それ以上は必要ないし」

 

 イリスは思案顔を見せた。

 何か思うことがあるようだが、彼女はそれを口にしない。

 

 これだけでは交渉が成立しない。

 イリスは、そう思っているのだろうか。

 

 だが、今の俺たちにこれ以上の交渉材料はない。

 これで、やるしかないのだ。

 

「じゃあ、さっそくいこうか。

 せっかく手に入れた手がかりだもんね」

 

 笑顔を見せるイリスを担いで、俺は走り出した。

 道中で拠点に寄り、交渉材料となる物資を担ぐ。

 

「端末に表示されているコミュニティは全てそう遠くない。

 急ぐぞ」

 

 この間にもツバキを含めた理想郷イデアの状況は動き続けるはずだ。

 時間をかけた結果、取り返しのつかない状態になりました、では話にならない。

 ここは迅速に行動するべきだ。

 

「イリス……交渉役はお前の方がいいだろう」

 

「どうして?」

 

「顔が……いや、かわいいからだ。

 俺よりもお前の方が警戒心を解きやすい」

 

 ここは素直に褒めておく。

 どんな反応をするのか、ふと見たくなったのだ。

 

 そんな俺に対して、彼女はむっとした表情を見せる。

 ……コミュニケーションを間違えたか?

 

「……確かにこういった交渉をするヒーローはダサいか。

 うん、いいよ。私が行ってくるよ」

 

 イリスは端末と繋がった小型カメラを胸元に付け、コミュニティへ向かっていく。

 これなら離れていても確認できるし、何かあれば即座に駆け付けられる。

 

 もっとも、彼女のことは何も心配していない。

 むしろ心配なのは、このコミュニティの住民の方だろう。

 

『うーん、理想郷イデアと比べると何もかもが貧相なのね』

 

 ボロボロのバリケードの前に見張りが数人。

 彼らは普通のライフルを構えて、周囲を警戒しているようだった。

 

 聖遺装(せいそう)ではない通常兵器で遺者を殺すことはできない。

 だが、それでもないよりはマシだ。

 殺せないだけで、傷を与えることはできるのだから。

 

『止まれ!!』

 

 正面から行こうとすれば、当たり前だがイリスも呼び止められることになる。

 

『コミュニティへの入所希望者か?

 ……申し訳ないが、今はお前のような子どもであっても――』

 

 その瞬間、イリスはカバンを開けて、その中身を警備に見せつけた。

 今、彼女のカバンの中には、物資が大量に入っている。

 

 警備をしていた大人は息を飲んだ。

 直後、理性を取り戻したのか、手に持っているライフルをイリスに向ける。

 

『なんの……つもりだ?』

 

『少しばかり探し物をしているの。

 それを、このコミュニティの長が持っているという情報があって来たの』

 

『探し物……だと?』

 

『うん。もしも本当に持っていて、それをくれるのなら、この食料を渡してもいい。

 おじさんたちにとっては、喉から手が出るほどに欲しいものでしょ?』

 

『……分かった。では長と会うことを認めよう』

 

 食料をメリットに感じたのか、警備の彼は銃を下ろした。

 もちろん、イリスの見た目が白いだけの人間の少女であることも大きな要因だろうが。

 

 やがてイリスは、ボロボロのソファと机が置かれた応接室へ案内された。

 ソファには、一人のご老人が座っており、鋭い眼光でイリスを睨みつけている。

 片足は木の棒と鉄で作られた義足になっており、後ろには屈強な護衛が二人ほど控えていた。

 

 戦闘能力は高くなさそうだが、それなりの修羅場はくぐってそうだ。

 まぁ、このくらいの気概がなければ、この時代……小さくともコミュニティを維持することなどできるはずもない。

 

『おやおや、かわいいご客人だ。

 あれだけの食料……保護を求めているわけでもあるまい。

 このような小さなコミュニティに何の用かな?』

 

『誰かからパズルのピースを受け取らなかった?』

 

『……はて、知りませんな』

 

 ……知らないだと?

 嘘をついているようには見えない。

 いや、そもそも嘘なんてつく必要はないはずだ。

 

 ここは物資で釣ってみるか。

 反応がどう変わるのか……。

 

「イリス……食料で揺さぶりをかけてみてくれ」

 

 俺がカメラ越しに伝えると、イリスはカバンを開いて中身を見せつけた。

 ずっと思っていたことだが、彼女は行動がいちいち大胆だな。

 

『本当に知らないの?

 もしパズルのピースがあるのなら、この食料と交換するけど?』

 

 イリスがそう言うが、老人は表情一つ変えない。

 こいつはいったい何を考えている。

 

『いやいや、その物資は置いて行ってもらいますよ』

 

 老人がそう言うと、後ろに控えていた護衛の二人が剣を抜き放ち、イリスの方に向けた。

 前言撤回だ……こいつは修羅場など潜っていない。

 平然と、最悪の選択肢を引いたのだからな。

 

『ああーそういうことか』

 

 イリスが笑顔を見せた瞬間、彼女に向かって剣が振り下ろされた。

 普通であれば彼女の体は斬れて、血しぶきをあげるだろう。

 

 だが、イリスは普通ではない。

 

『血が……でない?』

 

 剣を振り下ろした護衛が、呆然と手元を見る。

 そこに残っていたのは、途中から刀身を失った剣だけだった。

 

 困惑する彼らに向けて、イリスは掌を開いた。

 

『楽しかった?』

 

 開かれた手から、握り潰された鋼鉄が零れ落ちる。

 甲高い金属音が、静まり返った室内に響いた。

 

『この時代に、これだけの物資を交換に出せる時点で、どうにかできる相手じゃない。

 そう思わないと駄目だよ?』

 

 ダメか……既に交渉は決裂している。

 不本意だが、俺が姿を見せて脅すしかないだろう。

 

 近くに待機していた俺は、イリスがいる場所に向けて走り出した。

 高く積み上げられたバリケードを飛び越え、しっかりと出入り口から部屋に入る。

 

「まったく、素直に交渉に応じていれば俺が出張る必要はなかったんだがな?」

 

 長たちはすっかり萎縮してしまっている。

 とうに自らの力で解決できる範囲を超えていることに気づいたのだろう。

 

「パズルのピースを持っているな。

 なぜ嘘をついている?」

 

 こいつらが、実際にパズルのピースを持っているかは知らない。

 だが、俺たちをここまで誘導した奴が、嘘をつくとも思えなかった。

 であれば、パズルのピースを持っている可能性は高い。

 

「口を開かないというのであれば、俺にもやり方がある」

 

 翼から大量の血液を放出し、それを長の体へ纏わりつかせる。

 瞬間、全身を血に絡め取られた長が、音を上げた。

 

「ああ、パズルのピースは持っている!!

 持っているから……やめてくれ!!!」

 

 俺は血を引かせ、長を解放する。

 すると、彼は懐から白いピースを一つだけ取り出した。

 間違いない。端末に表示されていたピースだ。

 

 だが、腑に落ちない……どうしてこいつは、これを隠していた?

 

「ねぇ、どうして抵抗したの?」

 

 イリスが長に聞いてくれる。

 俺が聞くよりも、彼女のほうが情報を引き出しやすいか。

 ここは、翼を広げて威圧感でも出しておく。

 

 どうやらしっかりと怯えてくれているようだ。

 あとはイリスが優しくすれば、自然と飴と鞭になるだろう。

 

「あの白いピースを持っていれば、白衣を着た研究員から定期的に物資が届くのじゃ」

 

「白衣を着た研究員から?」

 

「怪しいことくらい分かっておる。

 だが、あの物資がなければ、ここにいる者たちは生きていけん!」

 

 長は白いピースを握り締めながら睨みつけてくる。

 

「これを失えば、わしらはそう遠くないうちに死ぬ。

 だから渡せん。持っていきたいなら、殺して奪うがいい!!」

 

 そうか、これが謀命災(レヴェリオ)の見ようとしている答えか。

 つまるところ、理想郷イデアとは関係ない弱者たちを切り捨てるのか?

 それに対して、どう答えを出すかを見たがっているのだ。

 

 これまで俺が救おうとしてきたのは、ゲームで悲劇を知っていた者たちだけだった。

 その外側で見捨てられている人間については、考えないことで無視してきた。

 

 だが、こうして目の前に突きつけられれば、もはや無関係ではいられない。

 

 どうしたものか……俺が悩んでいると、イリスが足をちょんちょんと突っついてきた。

 いやな予感がする。

 彼女がこのような仕草をするのは、決まって物騒な提案をするときだけだ。

 

「ねぇ、5つのコミュニティ……その全てを征服しようよ」

 

 バカな……あり得ない。

 確かに物理的には可能だろう。

 だが、それをしたところで、それだけの人間が生きていけるだけの物資を用意できるとは思えない。

 

 現にこのコミュニティも多少は自給自足しているようだが、生活の大半はピースの恩恵と、黎明教会からの物資提供に支えられている。

 

「うん、自給自足の手段を強めようにも、確かに間に合わない。

 なら答えは単純だよ。

 喰聖――

 

 あなたが、彼らを遺者に変えるの」

 

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