自身の機能によって限界以上に拡張し、もはや原型を失ったデカグラマトン7番目の預言者にして「鋼鉄大陸」の二つ名を持つ要塞と化したネツァクの深部にある一つの空間にて、二人の少女ソフとオウルが言い争っている
「やっぱり、宣戦布告はするべきだよ!」
「何を言ってるのですか、宣戦布告だなんて、人間の悪癖を真似する必要はないではないですか。」
オウルは呆れたように息を吐いた。
「目的を伝える必要なんてありません、わざわざこちらの目的を相手に教えてしまったら、対策などをされるかもしれませんよ?」
「でも・・・!!」
「大体ソフは───」
オウルがソフに対して正論を並べていく、これから目的の邪魔になるかもしれない相手に、その目的を教えて何になるのか。それに加えて、ソフの人間の技術や文化を調べる趣味を弄る。
「〜〜っ!!もう、うるさいっ!」
ゴンッ。
鈍い音が部屋に響いた。
ソフの拳が、オウルの頭へ見事に直撃していた。
「ひ、ひぃん・・・。」
その光景を見ていたアインは、すっかり固まっていた。
二人の喧嘩に割って入る勇気など、彼女にはなかった。
「とりあえず、宣戦布告するので決まりね!」
「暴力・・・反対・・・。」
そんな言い争いが終わり、布告の準備をしているところへ、重い駆動音が近づいてきた。
ゴウン……。
空間の入口が開き、マルクトが姿を現す。
その後ろに一機のナインボールが姿を現す。
「あなた達、ラナさんから、ある提案があるそうです。」
「ラナから?」
「提案、ですか・・・?」
「なんでしょうか?」
マルクトの後ろからナインボールが前へ出て、
三人の視線が、一斉にラナへ集まる
重量のある脚部が床を踏みしめるたび、低い駆動音が空間へ響いた。
『現在、氷河の拠点にいるシャーレの先生、および特異現象捜査部は、我々の目的を達成する上で障害となる可能性が高い。』
ラナは淡々と続ける。
『今後、交戦を避けられない可能性もある。そのため、事前に彼女らの戦力を再確認しておきたい。』
「・・・戦力を?」
アインが口を挟む。
「戦力なら、前にゲブラちゃんとコクマーちゃんが交戦した時に、おおよそ分かっていますが・・・。」
『それと同時に、完成したナインボールの実戦テストも行う。』
その言葉に、三人の視線がナインボールへ向けられる。
「つまり・・・戦力の再確認はあくまでついでの目的で、主目的はナインボールの実戦テストってこと・・・ですか?」
『そうだ。』
ナインボールの頭部センサーが、ゆっくりと三人を見渡す。
『実戦テストの主目的は撃破ではない。敵の戦力、戦術、対応速度――そして、こちらの機体が実戦環境でどこまで機能するかを確認する。』
『交戦によって得られるデータを収集することが目的だ。』
「なるほど……。」
ソフが腕を組む。
「それなら・・・話を戻しますがソフ、宣戦布告をする必要もないのでは?」
「えっ。」
ソフが振り返る。
「だって、ラナさんの目的は戦争じゃなくて、あくまで実戦テストなんでしょう?」
「・・・。」
ソフが言い返せず少し考え込む。
アインも同調するように言う。
「確かに・・・人間のように、わざわざ宣戦布告する必要は・・・ないですね。」
「でも!」
「ひ、ひぃん・・・!!」
ソフが声を上げ、アインは驚いたように悲鳴を上げる。
「せっかくなら、堂々と宣戦布告してから戦ったほうが・・・ほら・・・格好いい・・・じゃない!」
「それは人間の悪癖では?」
「悪癖って言わないでよ!」
再び二人が言い争い始める。
『・・・。』
ラナはしばらく二人を見つめる。
そして、
『・・・移動手段はどうする。』
話を強引に本題へ戻した。
「え?」
「えっと・・・。」
マルクトが少しだけ笑う。
ここでアインが恐る恐る口を挟む。
「わ、私が・・・移動手段を用意します。ヘリでの輸送で・・・いいですか?」
『構わない。』
「とりあえず・・・私達も、準備の手伝い・・・する?」
ソフの問いかけに、オウルも頷く。
「・・・そうしましょう。」
三人はそれぞれ準備へと散っていく。
今回の目的はあくまで実戦テスト。
それでも、初めて実戦へ送り出す機体を前にして、三人の表情には僅かな緊張が浮かんでいた
ヘリ型輸送機のローターが回転を始める。
強烈な風圧が格納庫内を吹き抜け、ナインボールの装甲表面に積もっていた埃が舞い上がった。
「ハブちゃんのローターの回転数、異常なし、振動も、油圧もエンジン温度も・・・システムオールグリーン。」
ナインボールは静かに待機していた。
これまで幾度となく整備され、調整されてきた機体。
装甲、駆動系、火器管制、姿勢制御――すべての数値は、ラナの想定した基準値を満たしている。
しかし、シミュレーションと実戦は違う。
──ようやく、実戦で確認できる──
ナインボールの頭部センサーが淡く光った。
アインが搭載前のチェックを終える。
機体側面のハッチが開く。
「搭載を開始します。」
ナインボールが一歩踏み出す。
巨体を支える脚部が格納庫の床を踏み、機体を固定するためのロック機構が次々と展開されていく。
輸送機の内部へ、紅黒の機体がゆっくりと収まっていく。アインの他にソフ、オウルが輸送前のチェックを行う。
「固定器具、ロック確認。搭載位置、問題なし。・・・その他異常も見当たらないよ。ハッチ閉めるね。」
「わかりました、アイン、チェックが終了しました。いつでも行けます。」
その時、少し離れたところから足音が聞こえてきた。
「あの・・・!」
三人が振り返る。
そこには、少し速足でこちらへ向かってくるマルクトがいた。
「何か我にもできることは・・・もう終わってしまいましたか・・・。」
マルクトは輸送機と三人を交互に見ながら、少し寂しそうに呟く。
それを見たアイン、ソフ、オウルが、すぐにマルクトのもとへ駆け寄った。
「お、お姉さま……!! 大丈夫です、これは私たちの仕事なので・・・!!」
「そうです、お姉さま・・・!! あまり気にしないで大丈夫ですから・・・!!」
「そうですか・・・。」
マルクトは三人の言葉に小さく頷く。
しかし、すぐに輸送機へ視線を戻した。
「・・・でも、行かれる前に少し。」
マルクトが閉まりかけていたハッチの前へ歩み出る。
「ラナさん。」
『・・・なんだ。』
「あまり・・・無理をしないで、帰ってきてくださいね。」
『・・・わかった。』
短い返答。
それだけだった。
だが、マルクトは少しだけ安心したように微笑んだ。
ハッチが完全に閉じる。
固定機構が作動し、ローターの回転数が徐々に上昇していく。
やがて輸送機は格納庫を離れ、氷河へ向けて飛び立っていった。
三人とマルクトはその姿を見送る。
「さてと・・・私たちも準備しよっか。」
ソフが振り返る。
「本当にするつもりですか? はぁ・・・もういいです。そこまでしたいなら手伝いますよ。」
「まあまあ・・・。」
オウルが二人を眺め、それからマルクトへ視線を向ける。
「・・・お姉さま? どうしたのですか?」
マルクトは答えない。
ただ、輸送機が飛び去った空を静かに見つめていた。
「・・・。」
やがて、マルクトは小さく首を振る。
「・・・いや、なんでもありません、アイン。」
「・・・そうですか?」
「はい。」
マルクトはそう答えた。
しかし――その視線は、しばらくの間、輸送機が消えていった方向から離れることはなかった。
エイミがヒマリにある事を伝える
「部長、正体不明の通信が割り込んできたよ。」
そうエイミがヒマリに伝えた後、突然、室内に設置された通信機が起動した、誰も操作していないにもかかわらず、通信回線が強制的に開かれていき、スピーカーから聞き覚えのある声が響いた。
「おやおや。どこで何をしているのかと思ったら、そこにいたんですか。」
「・・・!」
先生が音の元に振り返ると、ある通信機のスピーカーからオウルの声が聞こえてきたことがわかる、彼女らは少し話した後、ある事を伝える。
「──そう、私たちは・・・。あんたたちに!宣戦布告をしにきたの!」
ソフからの声が響く。
その言葉とともに、彼女たちはこれまで隠し続けていたネツァクの真実を明かした。名もなき神々による[禁じられた力]によって触れた物質を金属へと変換し、その変換された領域をさらに広げていく、巨大な鋼鉄の大地。これまで彼女たちは、ネツァクが鋼鉄大陸となるまで悟られぬよう沈黙を守っていた。しかし、もはや隠す必要はなかった。ネツァクはすでに巨大な鋼鉄大陸と化しており、触れた大地を、建造物を、あらゆるものを金属へと変えながら、その領域を急速に広げていたのだ。
そして――その変換がキヴォトス全域へ到達するまで、残された時間は僅か三日。
「──あと三日で、鋼鉄大陸に変わるのだから。」
通信が切れた。
誰も、すぐには言葉を発しなかった。
「……三日。」
先生がぽつりと呟く。
「本気なのかな。」
「分かりません。」
ヒマリが端末を操作しながら答える。
「普段であれば、ただの誇大妄想だと放って置くのですが・・・デカグラマトンのエンジニアが言うのであれば、聞き流すわけにはいきません。」
「ネツァクが本当に、そんな規模になってるの?」
「それを確認する必要があります。」
エイミが画面を見つめる。
「でも・・・もし本当なら、三日って短すぎない?」
「うん。」
先生は通信機を見つめた。
「・・・放っておくわけにはいかないね。」
「・・・でも、具体的にどうするの?鋼鉄大陸に近づいたら一部になっちゃうんだよね?」
「それに、元に戻すのは不可能だとも言っていましたね。」
エイミとトキの質問にまた拠点は沈黙に包まれるが、今度はケイが沈黙を破る。
「おそらく、あなた達は大丈夫です。鋼鉄大陸になるのは、無機物だけでしょうから。」
物陰から、アリスと共にケイがそのアバンギャルドな姿を現す。
「ケイ!」
先生の顔が少し晴れる。
そこにヒマリが質問する。
「どこに行っていたのですか?」
「・・・あれに見つかったら色々と面倒なことになりそうだったので。それにしても・・・本当に、馬鹿げた話ですね。」
「・・・どういう意味ですか?」
アリスの質問にケイが答えようとした時、エイミが口を挟む。
「部長、また正体不明の通信だよ。」
「また?何か伝え忘れたのかしら?」
「……そんなわけないでしょう。」
ヒマリが端末を操作する。
「こちらからの操作を一切受け付けず、通信回線だけを強制的に開いています。」
「つまり、また向こうから?」
「ええ。しかも――」
ヒマリが歯噛みする。
「この天才美少女ハッカーである私のシステムを、まるで自分の端末のように扱っています。」
また通信機から声が聞こえてくる、ソフのようだ。
「後一つ、伝え忘れてたけど。」
「なんですか、この天才美少女ハッカーのシステムと時間を──」
ヒマリのことを無視して、あることを告げる。
「あんた達には、実戦テストに付き合ってもらうから。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
「・・・は?」
ヒマリの声が低くなる。
「ちょっと待ちなさい!!」
通信は切れた。
「・・・。」
「逃げた。」
エイミが呟く。
「逃げましたね。」
トキも呟く。
「逃げましたね、じゃありません!!」
ヒマリが机を叩く。
「人のシステムに勝手に侵入しておいて、一方的に宣戦布告して、挙句の果てに実戦テストですか!?」
「・・・まあまあ、ヒマリ。」
先生が宥める。
「でも、今、あの子達が何をするつもりなのかは分かった。」
「先生・・・?」
「私たちを排除することが目的じゃない。」
先生が通信機を見る。
「・・・私たちを使って、何かを試そうとしてる。」
――そして。
「・・・いいかしら。」
リオの声が割り込んだ。
「この拠点の北東に展開させていたAMASの信号が――」
一つ。
また一つ。
端末上から消えていく。
「・・・次々に途絶えているわ。」
その報告に拠点内には緊張が走る。
「敵襲・・・デカグラマトンのエンジニアが言っていた実戦テストのことでしょうか・・・先生、迎撃しましょう。」
先生は一度だけ、外を見た。
吹雪の向こう。
何かがこちらへ近づいている。
「……うん。」
先生は頷いた。
「迎え撃とう。」
「でも、無理に追いかける必要はない。」
「向こうが何を試そうとしているのか、まず見極める。」
先生がヒマリにそう伝えると、先生は振り返りこの場にいるみんなに伝える。
「みんな!!すぐに準備して!!敵襲よ!」
「え!なになに?!敵襲?」
「そうだよお姉ちゃん!すぐ準備して!」
「うぅ・・・。」
「アリスの出番です!いきましょう!ケイ!」
「無理をしないでくださいね、アリス・・・。」
「迅速に出発しましょう。」
「部長は私が運ぶよ。」
各々が急いで装備を整えていく。
そして、先生が皆を見る。
「みんな、一つ伝えたいことがある。」
「絶対に無茶はしないで。」
「これは相手にとってはただの実戦テストかもしれない。でも、私たちにとってはおそらく未知の敵との戦いだ。」
「それに、私たちには、まだやらなきゃ行けないこともあるし、帰りを待っている子達もいる。」
「だから、絶対に全員で帰ろう。」
「「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」」
やがて、準備を終えた者たちが次々と外へ集まり、
北東への移動を開始した。