今回の任務は火山地帯の調査ということだったが……。向かってみるとそこには招集された同じく協専ハンターたちがおり、なかには一際覇気がないハンター、ホンボウなどもいた。
ロンドたちはこのハントを成功させることができるのか。
某日、シャネード半島にある研究センターの一室に、十数人のハンターたちが集められた。
顔ぶれはさまざまであった。自然保護を専門とするハンターもいれば、珍獣捕獲を生業とするハンターもいる。プロ、アマ混在しているが、各々経験とスキルにはそれなりの評価がついている者たちだった。
そう。それなり。
どの者も一線級とまではいかない、パッとしないメンツであった。シングルハンターもいない。
そのなかのひとり、ロンドも典型的な三流プロハンターであった。
背広スーツに身を包み、協専ハンターとして細々と活動する彼は、今回もハンター協会副会長パリストンから受けた依頼にて、この場に来ていた。
他の者もおおむね似たような経路で依頼を受けているようで、あまり顔に覇気を感じない。
ロンドは、ため息をついた。
いつも通りの仕事だな、と。
協専ハンターの仕事は、退屈なものが多い。それもそのはず、彼らは来たるべき日、暗黒大陸進出のときまで、なるべく温存しているよう、パリストンから保護されているからである。
ロンドは、プロ試験に合格してもう10数年がたっていた。
暗黒大陸踏破にロマンを感じていたロンドは、そこへ連れて行ってくれると約束してくれたパリストンの命令を淡々とこなす日々を送っている。
かつて憧れていた華々しいプロハンターとはずいぶんと乖離してしまっていた。たまに彼は不安になる。
このままでいいんだろうか、と。パリストンが約束を守ってくれる保証は本当にあるのだろうか、と。
しかし、考えても無駄なのはわかっていた。パリストンの圧倒的な知略の前では、ロンドなど蟻のような矮小な存在である。
これまでパリストンの恐怖すら感じる有能極まる仕事を見て、心を折られてきたロンドは、すっかり臆病になって挑戦する気持ちが萎えているのだ。
暗黒大陸進出を夢見ているというのに、ここまで弱気な人間になるとは、彼自身も予想外なことだった。
どうせ、今回のハントもたいした内容ではない。成功しても失敗してもどうでもいい。
そのくらいの心持ちでいたのだが……。
ロンドは、チラリと隣の男を見る。そこにいたのは、薄汚れたボロボロのスーツを着た貧相な男だった。
眠そうな顔でずっと欠伸をしており、からだに纏うオーラもプロにしては随分と少ない。念に目覚めていない一般人とほぼ遜色ないほどである。
あまりに頼りない同僚がいては、簡単なミッションだろうと命を落とすリスクが高まる。
ロンドは、自分の身を守るために、この男の素性を探ってみることとした。
「なぁ、きみ」
「はい?ボクですか?」
正面から見ると瞼も半分しか空いていなかった。ロンドは呆れて頭をかいた。
「俺はロンド。協専のプロハンターだ。ここにいるやつらもほぼ協専で、顔馴染みが多いんだが、君とははじめてだったからな。よければ名前を教えてくれないか?」
ああ、と男は目を擦ってから自己紹介をした。
「ボクはホンボウと申します。同じく協専……に最近なりました。それまではしがない賞金首ハンターをやってましてね」
「しょ、賞金首ハンター……?」
ロンドは耳を疑った。ホンボウのオーラは、戦闘経験豊富なハンターのそれとは異なり、オーラ量は少なく、流れも乱れていたからだ。
オーラの攻防に秀でたハンターではないのは確かである。
ホンボウは、胸ポケットからミントタブレットを出して、口に放り込んだ。そしてロンドにも一粒わけてくれる。
「お近づきの印にどうぞ」
「あ、ああ……」
ロンドは、一応タブレットに凝をしてから、口に入れた。直接戦闘タイプでないなら操作系能力者というのも考えられたからである。
しかし、これから一緒に仕事をする同僚を操作する意味もないか、と考え直し、ロンドはカリカリと歯でタブレットを砕いた。
そういえば、はじめてハンター試験を受けたとき、こんなふうに見知らぬ男から、飲み物を受け取って酷い目にあったことがあったな、とロンドは回想する。
そのとき、廊下を慌ただしく走る音が聞こえて、ドタン!と扉が開いた。
汗だくの白衣を着た男性が、ペコペコと頭を下げながら、早口でその場に集まったハンターたちに告げる。
「おあっお集まりいただきありがとうございます!今回はみなさまにお仕事をご依頼したく、ハンター協会を通じて紹介していただきました!」
ホンボウは、白衣の男を見てつぶやく。
「大丈夫ですかねぇ、あの依頼主」
ロンドは目を丸くする。お前が言うのか、と。
白衣の男は息を整えて、自己紹介をした。
彼は、このシャネード半島に設立されたムチャッカ火山研究センターの所長なのだという。
彼はこのセンターにて、火山活動や地層データなどを集めるのと同時に、火山帯周辺の動植物保護の活動もしていた。
彼は毎日のルーティンとして、火山をフィールドワーク調査していたところ、地面の割れ目から、「眼光」がのぞいているのを見つけたのだという。
「眼光」は、男にこう話しかけてきたのだ。
「ワレラと取引をしないか?」
ロンドは、眉を顰める。
「喋った、ということは、正体は魔獣の一種か」
眼光の主、推定魔獣は、男に取引を持ちかけてきた。
人間にとって重要な希少鉱物を継続的に渡すから、かわりにこの火山地帯からすべての人間を撤退させてくれないか、と話しかけてきたのだ。
そこで男は一旦持ち帰らせてくれ。と言いそのままハンター協会へ連絡してきたのだと言う。
ホンボウは、呑気に頷く。
「なーるほど、交渉の代行が任務ですか」
ロンドは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「いや……」
この嫌な感じ。何度も覚えがある。交渉だけならこんなにも大人数のハンターを協会が派遣するわけがない。
白衣の男は、ハンカチで汗を拭いながら、困ったような笑顔でこう続けた。
「みなさんにお願いしたいのは、魔獣の駆除と、火山内の重要鉱物の採取です。
いやぁ、我々が長年調査していた鉱物をまさか魔獣が独占していたとは恐れ入りましたよぉ」
ロンドは、ため息をついた。
人間の業とはなんと深いものなのだろう。
研究員に連れられて、十数人のハンターがゾロゾロと熱い地面のうえを歩いて行く。
「アツいな…」「さっきマグマ流れてるのみたぜ」「ったくこんなところに住むひとも魔獣も気がしれないぜ」
三流ハンターらしい雑談が、ロンドの後ろから聞こえる。しかしロンドは自嘲気味に笑う。彼もそんなものたちの一員なのだ。
協専ハンターは、一部のプロの間で「パリストンの奴隷」と呼ばれている。牙を抜かれた自分にはピッタリだ、とロンドは思っている。
ロンドの隣を歩くホンボウは、大汗をかいてヨロヨロとしていた。
見た目通り、ホンボウは虚弱なようだった。
「ひぃ〜こりゃころんで地面に手でもついたら大火傷ですねぇ」
活動中の火山は、至るところから白煙が立っており、相当な地熱を含んでいることがわかる。
「って、ロンドさん汗ひとつかいてませんね」
ホンボウが顔をあげると、涼しい顔をしたロンドと目があった。背広をきっちり着込み、ボタンを閉めているというのに、顔色ひとつ変わっていなかった。
「ん……ああまぁ、な。熱さには強い体質なんだ」
ロンドは目を逸らした。実のところ、これは彼の念能力に関わることであった。あまり他人に探られたいことではない。
ロンドが話を逸らそうかと思ったちょうどいいタイミングで、先頭を歩く白衣の男が、大声を張り上げた。
「みなさんこちらです!この亀裂です!」
男が足元を示したそこには、長さは3メートル、しかし幅は30センチほどの亀裂があった。
人間がギリギリ通れないくらいの隙間である。
「こんなところに魔獣が?」
にわかには信じられないといったふうにホンボウが呟いた。元賞金首ハンターだったという彼には、奇妙な生態を持つ魔獣は物珍しいものらしかった。
一方、ほかの自然に精通したハンターたちはすぐに現実を飲み込んでいた。幅30センチの亀裂を移動できる魔獣、そういうものもいるだろうとすぐに納得していた。
「どんな魔獣なんだろな」「なぁ、その魔獣とは一旦交渉したほうがいいのか?」
ハンターから質問を受け、白衣の男は手を振る。
「いやぁ、対話など必要ないでしょう。みなさんに任せますが、約束ではあと10分もすれば魔獣がここに現れるはずので、そのまハントするなり、鉱物の情報を聞き出すなり、好きになさってください」
思わず閉口してしまうロンド。人間とはなんと醜いことか。
もし、暗黒大陸に渡っても、現地の生物たちへ人間のエゴを押し付けるのはなるべく避けたいとロンドは考えている。
実際は、そんなことを人間が考えるのは傲慢だといえるほど暗黒大陸の環境は過酷ではあるのだが。
10分後、亀裂からサッと素早い影が飛び出した。
「おおっ……モグラ、さんですか?」
ホンボウが、不用意に影の正体に近づく。
魔獣は手に地面をかきやすそうな鋭い爪を持った、モグラ顔の長身の生物であった。
「ニンゲン、取引ドウ、する?」
魔獣はカタコトの言葉でこちらに話しかける。白衣の男はくいっと顎でハンターたちに指示をする。
珍獣ハンターのひとりが、手のひらを魔獣に向ける。
「すまんが、こちらも仕事だ」
無音のまま、その手のひらからオーラが突如飛び出した。そのオーラは「網状」をしている。変化系の念能力で、オーラを捕獲網に変化させているようだった。
「……ッ!」
しかし、魔獣は機敏な動きでそれをかわす。そして、興奮した鼻息でハンターたちを睨む。
「ヨク、ワカッタ。デハ人質ヲモラッテイク。マタ交渉シタクナッタラ、コイ」
魔獣は、近くにいたホンボウの服を、長い爪でヒョイっと引っかかると肩にかついだ。
「うわわわわっ?」
動揺するも、抵抗できないホンボウ。
魔獣は素早く、ホンボウを担いだまま亀裂の中に飛び込み、姿を消した。
一同は静まる。
いま、この場にいるものたちの脳裏には、あの狭い亀裂を、無理やり通されたホンボウは、血だらけになっている映像が浮かんでいた。
ロンドは、意を決して前に出て、亀裂を覗き込む。しかし、亀裂には血痕も血肉も残っていなかった。
ほっと胸を撫で下ろした一同は、調査を進める。亀裂は返しのようになっており、どうならこの亀裂から地中の空間に入ること自体は、人間たちでも可能そうだということだった。
安全策として、強化系のハンターたちがシャベルに「周」をして、亀裂を広げてから、地中を探索することとする。
任務は、魔獣の駆除と鉱物の採取である。ホンボウが人質に攫われたのは、本人の自己責任であり、救出は最優先事項ではない、というのは全員の見解であった。
ドライなことだが、協専のハンター同士の仲間意識などこんなものである。
探索には何人かが名乗りをあげたが、複数人で行っても地中に広がるトンネルは一本道だということだったので、全員が生き埋めになるリスクを負うより、最初に誰かひとりだけが探索調査をするのがよいのではないかという話になった。
選ばれたのは、ロンドであった。
「まぁ、俺になるよな」
ロンドはストレッチをしたあと、ネクタイを締め直し、全身を纏うオーラに気を巡らせた。
変化系能力者ロンド。
彼の発は『カエアンの聖衣 (キルラキル)』。
全身を纏うオーラの温度や湿度、硬度などを周りの環境に合わせて自動(オート)で変化させる能力である。
暗黒大陸進出のために作った能力であり、あらゆる能力の中でも応用力だけで言えば上位に来るだろうという自負が、ロンドにはある。
「では行ってきますよ」
見送られたロンドは、ひとり亀裂の中に飛び込む。ゴツゴツした岩肌が肌に触れようとするが、すべて変化したオーラがクッションの機能を果たしてくれて、ロンド自身にはかすり傷ひとつつけない。
3メートルほど、ひと一人分の幅のトンネルを進むと、やがて、広めの空間にでた。
洞窟のような空間が続いており、ここからは窮屈さには困らなそうだった。中は暗いが、オーラは発光機能も備えているので、視認性も確保できている。
ロンドは黙々と地中を探索しつづける。
普通の人間であれば、地熱により長時間の歩行は困難な環境である。しかし、彼の能力は、つねに快適な環境になるように、体を包んでくれるので、いくらでも動き回れそうだった。
ロンドは歩きながら思案する。人間たちを退去させる、魔獣の意図はなんであろうか。
研究センターはこれまで長くこの周辺で調査をしていたようだが、魔獣との遭遇はこれがはじめてだったという。
しかし、知能の高い魔獣側は、人間の存在を感知できなかったはずがない。人間が欲しがる鉱物もわかっているようだった。
知った上でいままで放置していたというのに、なぜここにきて交渉に及んだのか。
しかも交渉のせいで駆除依頼まで出されてしまった。あまり賢い選択ではなかったといえる。魔獣は賢いが、人間の悪意を軽くみすぎである。こんな危険な生き物はいないというのに。
ロンドはやりきれない思いを抱えながら歩く。遭遇したら、依頼通り駆除しかないだろうか。見逃してやることはできないだろうか。
ホンボウは……ロンドにとってはあまり関心がなかった。生きていて足手纏いにならなそうであれば連れて帰ろうくらいの心持ちである。
まるで蟻の巣のように広がるこの洞窟は、いくつかの分かれ道があったが、「凝」をすると、オーラの跡が地面に残されていたため、それを辿ってロンドは歩いていた。
ロンドは、連れ去られたホンボウが、地面にマークをつけておいたのだろうと推定している。
ホンボウが連れ去られてからすでに2時間。ここまで強くのこるオーラのマーキングを残せるあたり、ホンボウは放出系であるはずだとロンドは考えた。
しかし、ホンボウはだらしないように見えて、こういぅた救出手段を残すあたり、キッチリしているものだ、とロンドは舌を巻く。
暗黒大陸に必要なのは生存能力だと言われている。協専ハンターたちは腕っぷしや経験ではほかの一線級ハンターたちに劣ることが多いが、しぶとさでは張り合える。
やがて、洞窟もかなり奥まったところまできたところで、ロンドは件の魔獣と鉢合わせた。
魔獣は、ロンドが地上で見た時より、爛々とした目をしていた。心なしか、呼吸も荒い。
「ココマデ、オッテクルカ」
ギリギリと歯軋りをする魔獣。どうやらここから先は立ち入ってほしくない場所らしい。
まずは刺激しないように、一番気になっていないことから魔獣に尋ねてみることにするロンド。
「連れ去った人質は無事か?こんな熱い場所じゃ、長くは持たなそうだが……」
「アノオトコ 二ハ、ヤッテモラウコトアル」
「ほう?」
ランダムにその場にいた人質としてホンボウが選ばれたと思っていたロンドだったが、どうやら連れ去ったのは意図的だったらしい。
魔獣はこちらをかなり警戒している。その様子から、ひとつの推理がロンドの頭に浮かんだ。
外れても問題はない。ロンドは試しに、魔獣にカマをかけてみる。
「心配しなくても、あんたの子どもには手を出さないよ」
ロンドは、「カエアンの聖衣(キルラキル)」を解除して、オーラによる威圧感も減らす。
武器も持ってないことを手を挙げてしめす。
すると、魔獣も逆立たせていた毛並みが、ふわりと落ち着いて、スリムな顔になった。
「……ツイテコイ」
魔獣は、ロンドを奥に通した。
洞窟の最深部には、透明なドッジボールほどの卵が複数と、呑気にイビキをかくホンボウがいた。
「おい、ホンボウ。起きろ」
「ん……?ああロンドさんおはようございます。助けに来てくれたんですねぇありがとうございます」
ホンボウは、目を擦り伸びをする。
「熱くて嫌な夢を見ちゃいましたよ、はやく帰りましょ」
「そうか……」
ロンドはホンボウの言葉を受け流しながら、卵をみる。透明な袋のような玉の内部には、液が満たされており、中心には核らしきものがあった。
魔獣本人に話を聞くに、この魔獣は、洞窟の中で繁殖する生態を持っているようだった。
火山の洞窟の奥に卵を産み、そこへ人間のオスの精子をかけることで受精させる。
ここまで一直線の洞窟を通ってきたが、ここは「産道」の役目を持っているようで、幼体はここを通り、地表に出て成長していくらしい。
出産は30年に一度、火山の地熱が出産に適温の状態になった時に行うのだという。
これまで研究センターの人間たちと接触がなかったのは、単に個体がこの母親魔獣しかおらず、出産期以外は隠れて生活していたからだという。
デリケートな時期であるため、火山調査にくる人間を遠ざけて、安全な出産環境を整えようとしていた、というのが今回の真相だったのだ。
さて、ロンドは腕を組んで考える。
依頼としては、魔獣の駆除と鉱石の採取だが、現場の実態を把握すれば、人間に不利益になることはなさそうである。
魔獣の幼体たちも、成体になっても基本的に人間に害意のあるものには育たないのは、母親個体が30年間無害であったことからも証明されている。
となれば、依頼主に事情を説明して、人間と交渉することにより依頼を取り下げてもらい、たとえば鉱石をもらうかわりにこの出産道周辺には人間は近づかないとルールを作ればよい。
ロンドは、地上に出たあとのいくつかのパターンを思い浮かべる。
腕っぷしや知略で一線級に劣るとは言え、腐ってもロンドはプロのハンターである。このくらいの意見は通す自信があった。
「なぁ、魔獣さんよ。俺が話を通すからなんとかなるかもしれんぞ」
「ホントウ、カ。ソレハ タスカル」
久しぶりにいい仕事ができそうだ、と満足感に浸っていると、ホンボウが急に手を挙げた。
「あのーすいません。話進んでる?とこすいませんけど、ボクもしかしてこの卵に向かって精子かけるんですか?」
「……ああ。頼んだ。シャケみたいな生態だよな」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよー!無理ですってぇ!」
「……ここは、なんとかしろ」
ポリポリと頬をかくロンド。この問題が残っているのは失念していた。
魔獣も、頭を下げた。
「タノンダ ニンゲン」
「えぇ〜……しょうがないなぁ……こうなったら」
ホンボウは観念したように立ち上がり、卵を前にした。
ロンドは、それに背を向ける。さすがにそれを直視するのは、彼も耐えられなかった。
「………よし、いくか」
ホンボウが覚悟を決めたような声を出す。
その瞬間。
とんでもない爆音が洞窟に鳴り響き、土埃が辺りに舞う。
「なんだ!?」
ロンドはからだに降り注ぐ岩の破片を、「カエアンの聖衣」を発動することで、衝撃を吸収して、しのぐ。
しばらく状況が飲み込めないまま、ロンドは身を潜めることを選択する。なにがイレギュラーを呼び込んだのか。彼には見当がつかなかった。
やがて、煙が晴れると、天井に巨大な穴が空き、そこから強烈な光が降り注いでいることに、ロンドは気づいた。
今の衝撃とともに、「なにかが空から降り ってきて」、地上からこの洞窟まで一直線に穴が通った。
状況から、ロンドはそう推察した。
こんなことを誰がやったのか。犯人は決まっている。この洞窟における念能力者は、ロンドの他にただひとりである。
「ホンボウ……お前は」
ホンボウは全身に土を被りながら、にへらと笑って立っていた。
「ダメですよロンドさん。プロなら依頼はこなさなくちゃ。パリストンさまに怒られちゃいますよ」
卵は全て破裂しており、魔獣も原型を止めない肉塊とかしていた。
ホンボウは、なんてことないようにスッと指を天井に示して行った。
「じゃ、帰りましょうか。ここは熱くて敵いません」
「…………」
ロンドは、その光景を前にただ立ち尽くすことしかできなかった。
白衣の男は、魔獣駆除の報告を受けて大層喜んでいた。
鉱物のありかは、今回見つかった洞窟を探索していればすぐに見つかるだろうと後日の調査に回されることとなり、招集されたハンターたちは解散することとなった。
この件で、ロンドは協専ハンターとしての歯痒さを実感して、また退屈な日常に戻るのであった。
賞金首ハンター ホンボウの念能力。
放出系念能力『無知がもたらす予期せぬ奇跡(バードマン)』。
ホンボウは、オーラの総量を増やす練の修行を24時間行い、常に精孔を開いた状態で過ごしている。
しかし、体外に排出されたオーラはそのまま身に纏うことはなく、天空へと転送される。
ホンボウの頭上の天空には、鳥の形を形どったオーラが浮遊しており、ホンボウから供給されたオーラを蓄え続ける。
そしてホンボウの指示や、オートで彼に危機が迫った時、この鳥は蓄えたすべてのオーラをもって、標的へ向かって急降下して攻撃を行う。
蓄えられたとてつもない質量のオーラは、最大の攻撃力を持って敵を粉砕する。
これにより、ホンボウは常に一般人とさほど変わらないオーラを纏って生活することになるデメリットを持つことになる。
しかし、賞金首ハンターとして活動していた彼は、無防備な自身を囮として、標的をおびき寄せて、一瞬のうちに相手を制圧(ハント)するカウンター型の念としての運用をしていた。
パリストンにスカウトされてからは、彼の盲目的な信者となって、活動するようになる。
そして、パリストンへの忠誠心が揺らいでいる協専ハンターの元におもむき、規律を正す手駒となっているのだった。
ムチャッカ半島は、いまでは温泉も発掘されて一大観光地となっている。
パンフレットによると、半島の奥地に所在するが、魔獣は一切発見されていない安全な土地だとされていた。