怪物と英雄の狭間で 作:伝説の一般元ブロリスト
明日は休ませていただきまーす!!
つまり次の投稿は木曜日!!!お楽しみに!!!
グラントリノの元で職場体験と言う名の修行をすることとなった緑谷とブロリー。
オールマイトを鍛え上げた元担任というだけあって、その内容はひたすらにハード。オールマイトの目指せアメリカンドリームプランなんて甘いと感じるくらい、とにかくやばかった。
「ほらほらどした!こんな老人の動きも見切れんかぁ!」
(目で…追えない!体も、重すぎて動かせない…!)
「そらっ!」
「いっ!!―ぐっ…!ここ『遅い!』あぐっ!!」
緑谷は自分の体重よりも重い衣服を着ながら、高速で動き回るグラントリノの攻撃を避ける、もしくは受ける特訓。
グラントリノに加減という文字はなく、本気で緑谷の腹や頭、背中をひたすらに攻撃する。体が思うように動かない事に加え、プロのヒーローのスピードに対処しなければいけないという中々の苦行。
「――ぐぅぅ―ッ……グッ!!……ふぅ……ふぅぅ…!!」
ブロリーは別の部屋で一人、グラントリノが用意してある『過去に起きたヴィランによる悲惨な事件』のニュースの映像や、番組などで取り上げていた被害者達の声や聞き姿を見ながら、それによって湧き上がる感情を必死に抑えていた。
(ダメだ……っ、呑まれるな……! 怒るな……落ち着け……!)
ブロリーの全身の筋肉が鋼のように強張り、血管が浮き上がる。
無惨に引き裂かれた人々の痛みが、胸の奥を鋭利な刃で抉るように伝わってくる。理不尽な暴力への激しい憤り、救えなかった命への慟哭。感情が高ぶるたびに、体の奥底で眠る規格外の怪物が目を覚まそうと唸りを上げていた。
バチ……ッ!
ブロリーの体から、バチバチと不気味な緑色のスパークが爆ぜた。
無意識のうちに漏れ出しかけた翠色のオーラが、部屋の空気を一瞬で鉛のように重たくなる――その瞬間、首につけてあるサポートアイテムが作動、ブロリーはミッドナイトの煙に包まれ、ゆっくりと気持ちが静まっていく。
催眠成分が、荒れ狂いかけたブロリーの神経を優しく麻痺させ、強制的に脳の興奮を鎮静化させていく。
「ハッ……、ハァッ……、ハァ……ッ……!」
床に手をつき、ブロリーは冷や汗を顎から滴らせながら、激しく息を吐き出した。
全身の血管から赤みが引き、バチバチと鳴っていた緑のスパークが頼りなく消え去っていく。張り詰めていた空気が緩むと同時に、ブロリーの胸を襲ったのは、激しい自己嫌悪だった。
(まただ……。また、自分の力で止められなかった……発目のアイテムで、安心しきっていたけど………頼りきりは、ダメだ)
もしもの場合、サポートアイテムが壊れてしまったら、サポートアイテムの効果がついに効かなくなってしまったら……そうした場合を考えに考え、ブロリーは一刻も早く怒りをコントロールしようと必死だった。
「ブロリー、平気か?」
「おじいちゃん……一回、作動しちゃった」
「まあまだ始めて2時間くらいだ、これから徐々に耐えていきゃぁいい」
「…そう、だね」
「一つアドバイスとすりゃあな……無理やり感情を押し殺して蓋をするから、内側で圧が溜まって吹き飛ぶ。機械に頼って眠らせるのも、根本的な解決にゃなっとらん。……お前さんがやっとるのは『コントロール』じゃない、ただの『先延ばし』じゃ」
グラントリノは指先で、まだ映像が流れ続けるモニターを指し示した。
「目の前の理不尽に怒るのは当たり前じゃ。悲惨な光景に心を痛めるのも、人間として正しい。……だがな、怒りに身体を明け渡すな。怒り狂いながらでも、頭の芯だけは氷のように冷たく保ち、その暴力の行き先を己の意志で決めろ。感情を殺すんじゃない、『感情の上に座れ』」
「感情の……上に……」
「少し休憩するか?」
「――いや、もう少し…やる。緑谷も頑張ってるんだ…俺だけ休んでいられない」
緑谷も、限界を超えて戦っている。
そして保須市にいる飯田も今、自分と同じように激しい激情の檻の中でもがいているはずなのだ。
(オレが……ここで逃げてちゃ、ダメだ。誰かを守ることも……絶対にできない)
「よおし!その意気じゃブロリー……そして小僧!!ギア上げていくから、しっかり気張れよ!!」
「……はいっ!!」
それから昼を迎えるまでの間、二人はぶっ続けで修行を続けていくのだった。
「よし、んじゃあ俺は昼飯買ってくるから。その間掃除よろしく」
『は……はい』
扉を閉め去っていくグラントリノを見送った後、緑谷は後ろに倒れ、ブロリーは気が抜けたのか地面へと座り込む。
「体が……ミシミシって……だ、ダメだ、寝転がっていたら……その分、重さで潰れる…!ブロリー君は…重いの、平気なの?」
「重さは大した事じゃないし、いい負荷だと思う――でも…頭と、心の方が……パンクしそうだ…」
「大変だね…お互いに……」
緑谷は床に肘をつき、震える腕で懸命に上体を起こした。重りに引っ張られる全身の軋みに顔をしかめながらも、その瞳は相変わらず真剣な光を宿している。
「グラントリノさんに言われたんだ。『思考の偏り』があるって。僕、ワン・フォー・オールを使う時、いつも『ここぞ』って瞬間にだけ意識を集中させて、スイッチをパチンと入れる感覚で使ってたんだ。でも、それだと初動が遅れるし、一点に負荷がかかりすぎて体が壊れてしまう」
「スイッチのオンとオフ……」
ブロリーは自身の大きな掌を見つめ、静かに呟いた。
「オレは……その逆かもしれない。怒りや興奮のスイッチを、とにかく入らないように、入ったら力ずくでオフにする事ばかり考えてた。でも、おじいちゃんは『感情を殺すな、感情の上に座れ』って……」
「感情の上に、座る……」
緑谷は指先を顎に当て、特有のブツブツとした呟きを零し始めた。
「座る……つまり、感情に振り回されて下敷きになるのでもなく、無理に地面の下へ埋め戻すのでもない。湧き上がってくる怒りや悲しみを自分の足元に置いて、その高い視点から冷静に状況を見下ろす……ってことなのかな。感情を燃料として使いながら、ハンドルだけは絶対に離さないような……」
「ハンドルを……離さない……」
ブロリーの胸の奥に、その言葉がすんなりと染み込んでいく。
怒りを消し去ることはできない。目の前の理不尽に怒りを覚えるのは、自分が人間である証拠だ。ならば、その怒りを恐れて目を背けるのではなく、自分がその手綱を握る主にならなければいけないのだ。
「緑谷、ありがとう。なんだか……少し、掴めそうな気がする」
「えっ!? 僕、ただ思いついたことを並べただけだよ! むしろ僕の方こそ……ブロリー君の言葉で、ハッとしたんだ」
緑谷は立ち上がり、ぎこちない動きで箒を手に取りながら、床を掃く手を止めた。
「オンとオフじゃない。スイッチじゃなくて……常に、全身に巡らせておくもの……使う時だけ呼び出すんじゃなくて、最初から当たり前にそこにある状態……」
頭の中で何かのピースがカチリと噛み合いかける感覚に、緑谷の瞳が大きく見開かれる。
ブロリーもまた、雑巾を手に取って床を拭きながら、先ほどまであれほど恐ろしかったモニターの映像を静かに思い出していた。
悲しみも、怒りも、全部受け止める。
その上で、オレは誰を守るために拳を振るうのか――。
二人の少年の頭の中で、これまで見えなかった『壁の壊し方』が、微かな光となって輪郭を結び始めていた。
その後、買ってこられた山盛りのたい焼きと特大の肉を平らげ、一息ついた直後のことだった。
爪楊枝をくわえたグラントリノが、部屋の隅に置かれた杖をコツンと鳴らした。
「よし。腹ごなしも済んだところで――蕗利、緑谷。お前ら二人で、軽く手合わせしてみろ」
『えっ…!?』
同時に声を上げた二人に、グラントリノはニヤリと不敵な笑みを向ける。
「ワシの相手ばかりじゃ視野が狭まる。同年代の、それもまるで性質の違う力同士でぶつかってみりゃ、午前中に見えた課題の糸口も掴みやすかろうて。怪我せん程度にな」
「僕とブロリーくんが……!」
緑谷はごくりと唾を飲み込み、目の前に立つ巨漢を見上げた。体育祭の覇者であり、規格外の質量とパワーを持つ少年。だが、午前中の会話――『スイッチのオンとオフ』『当たり前にそこにある状態』という言葉が、緑谷の頭の中で激しく明滅していた。
「緑谷、いくぞ」
「…うん!」
二人は間合いを取り、向かい合って構えた。
ブロリーは腰を落とし、呼吸を整えながら、湧き上がる力を内側で静かに循環させる。午前中に意識した『感情の上に座る』感覚を反芻し、荒ぶる気配を丁寧に鎮めていた。
(スイッチじゃない……。ここぞって時だけ力を引っ張り出すんじゃない。力が巡るように……全身に、満遍なく……!)
緑谷は目を閉じ、意識を体内へと潜らせた。
いつもなら指先や右腕だけに絞り込んでいたOFAの奔流。それを血管のように、神経のように、皮膚の一枚一枚にまで均等に行き渡らせる。
逃げ場を失った熱ではなく、全身を包み込む膜のように。
(5パーセント……! 全身に、張り巡らせる……ッ!)
「――っ!?」
ブロリーが瞠目した。
緑谷の全身から、鮮やかなエメラルドグリーンのスパークが迸ったのだ。肌の表面に赤い血管のような紋様が浮かび上がり、いつもの『右腕だけが赤黒く光る』危うい状態とはまるで違う、全身が均一な力で満ち溢れた姿。
「これは……!?」
「ほう……!」
壁際で見守っていたグラントリノの目が、鋭く見開かれた。
「いくよ、ブロリーくん……名付けて……OFA・フルカウル!!」
ドガッッッ!!
床を蹴った瞬間、緑谷の身体が弾丸のように跳ね飛んだ。これまでのぎこちなさが嘘のように、流れるような高速機動。部屋の壁を三角跳びの要領で蹴り、一瞬でブロリーの死角――頭上へと躍り出る。
(さっきまでと……全然違う!)
ブロリーは驚愕しながらも、即座に反応して腕を掲げた。
頭上から振り下ろされる緑谷の踵落とし。全身のバネとスピードを乗せた一撃を、ブロリーは分厚い前腕でガッ! と正面から受け止めた。
衝撃波が部屋の障子をビリビリと震わせる。
骨が折れる鈍い音はない。緑谷の身体はどこも壊れておらず、その瞳には自らの力を制御できている確かな手応えと光が宿っていた。
「……すごいよ、緑谷。全然、体が壊れてない!」
腕にかかる確かな重みを感じながら、ブロリーは心からの感嘆を込めて顔を綻ばせた。着地した緑谷は、全身を巡る微細な稲妻をまといながら、自身の無傷な両手を見つめて震えていた。
「できた……!これなら、身体を壊さずに……戦える!!体もさっきよりも動かせている!――ごめんブロリー君!もう少しだけ、付き合って!」
「―ああ、勿論だ」
ブロリーと緑谷の軽い組み手はしばらく続き、その様子をグラントリノは見ていた。
(身につくまで随分と早かったな……大したもんだ)
OFAの正しい使い方を身につけた緑谷を見ながらその成長っぷりに感心し、同時にブロリーの方にも目を向ける。
(最初こそ戸惑っていたが……もう体が小僧の動きに対応してきている、流石の吸収速度じゃな。このままいけば……小僧のフルカウルと似たようなこともできてしまうやもしれん……そうしていつかは、自分の力を完璧にコントロールできるようになるじゃろう。――やっぱり、まだまだ死ねんなぁ)
未熟なヒヨコだと思っていた二匹が、互いの殻を突き破り、規格外の翼を広げようとしている。それ対する期待を胸に、グラントリノは彼ら二人へとまた教えを与えるのだった。
「――アイッデデデデデ‼︎……うっ」
「緑谷、口、開けれるか?」
「う、うん……ごめんねブロリー君……まさかここまでになるなんて…」
「……まだまだ、鍛え足りんということじゃな」
その日の夜、緑谷は初めてのフルカウル+重すぎる衣服を着ていると言った状態のまま長時間動きまくった反動で、体が思ったように動かず、夜飯もブロリーにあーんして貰いながら食べるしかなかったのだった。
次回・動き出す怪物軍団
お楽しみに