一九二〇年
本日午前十一時頃、WILK製双発機一機が飛来。
以下の物資を投下した。
小銃弾二箱。
医薬品一箱。
軍用郵便一袋。
命令書一筒。
円筒形木樽一個。
木樽は投下時の衝撃により一部損傷したものの、内容物は使用可能だった。
側面には、以下の文言が刻まれていた。
「蓋を開けろ」
「よく混ぜろ」
「布をかけて待て」
「膨らんだら焼け」
「生では食うな」
内容物は果汁を混ぜたパン生地と推定される。
砲弾箱を改造した簡易窯で焼成し、四十二名へ配給した。
次回は二樽を希望する。
可能であればバターも願いたい。
二号機の発動機試験は、失敗した。
正確には、発動機そのものは回った。
左右とも止まらなかった。
燃料も漏れなかった。
プロペラも外れなかった。
元ドイツ帝国軍技師の基準では、そこまでは成功だった。
問題は、その振動だった。
左右の発動機が同型になった結果、一号機より滑らかに回るはずだった。
だが片方の発動機架に使われている金具が、別の機体から外した中古品だった。
回転数が特定の範囲へ入ると、主翼全体が細かく震える。
「止めろ!」
技師が叫んだ。
元白軍将校が操縦席から出力を落とす。
発動機音が低くなる。
震えが止まった。
「この程度なら飛べる」
「飛ばさない」
技師は主翼下へ潜り込む。
「共振している」
「壊れるか」
元独立運動家が尋ねた。
「すぐには壊れない」
「なら飛べる」
「すぐには、だ!」
ポーランド軍将校は、試験記録を確認した。
「交換部品は」
「ない」
「補強は」
「できる。ただし重量が増える」
元白軍将校が答える。
「太くしろ」
「お前は少し黙れ!」
実業家は、少し離れた場所に置かれた木樽を見た。
「震え方を測る方法はありませんか」
「計器があれば」
技師が答える。
「ない場合は」
「目で見る」
「人間の目では細かい違いが分かりません」
「分かる物を載せればよい」
元独立運動家が言った。
全員が彼を見る。
「牛乳缶を積んだ時、飛行後に中身が分離した」
「何の話だ」
軍将校が尋ねる。
「振動が強ければ、中身もよく混ざる」
「混ざるのか分かれるのか、どちらだ」
「物による」
「役に立たん答えだな」
独立運動家は、小屋の隅に置かれた木樽を指さした。
「これを積む」
木樽の中には、昨日の試験食料が入っていた。
小麦粉。
水。
潰した果実。
酵母。
塩。
少量の油。
元々は、飛行中の振動で生地を練れるか試すためのものだった。
誰が考えたのか。
全員が互いを見た。
「お前だろう」
軍将校が独立運動家を指さす。
「最初に果汁を入れたのは私だ」
「パン種を入れたのは?」
「白軍だ」
元白軍将校が首を振る。
「余っていた」
「なぜ余った酵母を果汁樽へ入れる」
「発酵すると思った」
「当然する!」
技師は樽へ近づき、蓋を開けた。
甘酸っぱい匂い。
中では粘りのある生地が、ゆっくり膨らみ始めている。
「食品試験は後だ」
「振動試験に使える」
実業家が言った。
「試験後も無駄になりません」
「航空試験と食品加工を同時に行うな」
「一度の飛行で二つの成果が得られます」
「だから何でも同時にやろうとするな!」
その時、軍の伝令が小屋へ飛び込んできた。
「前線から緊急要請です!」
軍将校が書類を受け取る。
読む。
顔つきが変わった。
「どこだ」
元白軍将校が尋ねる。
「北東の歩兵大隊が包囲された」
小屋の空気が、一瞬で変わった。
◇
包囲された部隊は、森と湿地に囲まれた小さな集落へ立て籠もっていた。
退路は切断。
弾薬は残り少ない。
負傷者多数。
無線機は故障。
伝令は二人出したが、一人しか戻っていない。
その一人が持ち帰った報告では、食料は二日分。
前線司令部は、空からの補給を求めていた。
「一号機は」
軍将校が尋ねる。
「南方で負傷兵輸送中」
伝令が答える。
「他の連絡機は」
「一機は発動機故障。もう一機は所在不明」
「所在不明?」
「別の司令部が使用中です」
「軍の航空機なのに所在が分からんのか!」
元白軍将校が言う。
「前線ではよくある」
「今は黙れ!」
全員の視線が、二号機へ向いた。
骨組みを覆う布は張られている。
発動機は二基とも回る。
操縦系統も動く。
大車輪も付いている。
だがまだ正式な初飛行前。
主翼には振動問題。
航法計器の一部は仮設。
貨物扉の留め具も調整途中。
「飛ばせるか」
軍将校が技師へ尋ねた。
「飛行試験なら」
「補給任務だ」
「条件が違う」
「飛べるかと聞いている」
技師は二号機を見る。
主翼。
発動機架。
燃料配管。
仮設の計器板。
黙って計算を始める。
白軍将校が先に答えた。
「飛べる」
「お前には聞いていない」
「だが飛べる」
「落ちる可能性は」
「どの機体にもある」
「二号機は高いか」
「初飛行なので分からん」
「分からんのに飛べると言うな!」
元独立運動家は、補給物資の一覧を見た。
「何を運ぶ」
「小銃弾、医薬品、命令書、軍用郵便」
「食料は」
「積載量に余裕があれば」
「余裕は」
技師が計算紙を見る。
「少ない」
独立運動家は木樽を見た。
「なら、あれを一つ」
「何を入れる気だ」
軍将校が聞く。
「パン生地」
「緊急軍事補給だぞ!」
「食料も必要だ」
「焼けていない!」
「火は向こうにある」
「窯は?」
「作るだろう」
「包囲されている部隊へ調理を要求するな!」
白軍将校が樽を蹴らずに叩いた。
「焼いたパンより場所を取らない」
元ドイツ技師も樽を見る。
「生地なら隙間が少ない。容器が壊れなければ運べる」
「お前まで認めるのか」
「補給効率の話だ」
「航空技師だろう!」
「航空機で何を運ぶかも設計条件だ」
実業家が帳簿へ何かを書き始める。
「商品化はするなよ」
軍将校が言った。
「まだ何も言っていません」
「顔が商売を考えている」
「効率を見ています」
「同じだ!」
◇
補給物資は、二号機の貨物室へ詰め込まれた。
小銃弾二箱。
医薬品一箱。
郵便袋一つ。
命令書を入れた金属筒。
そして木樽一つ。
樽の中身は、果汁入りパン生地。
「説明書が必要だ」
元独立運動家が言った。
実業家が紙を取り出す。
「書きます」
元白軍将校が首を振る。
「紙は飛ぶ」
「樽へ貼る」
「雨で剥がれる」
「箱へ入れる」
「開ける前に分からん」
元ドイツ技師が言った。
「樽へ直接刻め」
「時間がないぞ」
軍将校が言う。
独立運動家はナイフを取り出した。
「短くする」
木樽の側面へ文字を刻み始める。
蓋を開けろ。
「それは見れば分かる」
軍将校が言う。
「開け方が分からん者もいる」
「樽だぞ」
次の行。
よく混ぜろ。
「飛行中に混ざるのでは?」
実業家が尋ねる。
「念のためだ」
次。
布をかけて待て。
「待つ時間は」
技師が聞く。
「膨らむまで」
「時間を書け」
「気温で変わる」
「なら目安を」
「包囲下で時計を見ながらパンを作るか?」
「説明は正確にしろ!」
独立運動家は次の文を刻む。
膨らんだら焼け。
「何度で何分」
「現地に温度計があると思うか」
「ない可能性が高い」
「なら色を見ろ」
「書け」
樽の空いている場所へ追記。
表面が茶色くなるまで。
「焦げたら?」
「焦げたところを削れ」
「食品説明として雑すぎる!」
最後。
生では食うな。
軍将校が頷いた。
「それは必要だ」
「なぜそこだけ納得する」
「前線兵は腹が減れば食う」
元白軍将校も頷く。
「食うな」
「経験があるのか」
「聞くな」
実業家が樽の下部へ小さく追加した。
内容物:小麦粉、果汁、酵母、塩、油。
さらに、
蓋が外れた場合、泥を除いて使用せよ。
軍将校が読む。
「泥が入った時点で捨てろ」
「包囲部隊です」
「だが泥だぞ」
「焼けば多少は」
「多少で食品衛生を語るな!」
元白軍将校が言う。
「前線では泥を食わずに済めば上等だ」
「誇るな!」
◇
二号機の操縦士は、軍将校本人になった。
「また私か」
「機体の癖を知る者がいない」
技師が答える。
「私も知らん」
「一号機に近い」
「同じではない」
「だから私も乗る」
元ドイツ技師は工具箱を持って後席へ乗り込む。
元白軍将校も乗ろうとする。
「お前は残れ」
軍将校が言った。
「投下を手伝う」
「重量超過だ」
「樽を降ろせば」
「樽を守るな!」
最終的に、独立運動家が投下要員として乗ることになった。
理由は、樽の扱いを一番理解していたから。
白軍将校は不満そうだった。
「私の方が投下経験はある」
「何を落とした」
「いろいろ」
「具体的に言え」
「軍事機密だ」
「もうその軍はないだろう!」
「だから話したくない」
機体の左右発動機が始動する。
一号機とは違い、今回は同型。
音もほぼ同じ。
軍将校は少し感動した。
「左右が同じ音だ」
「当然だ」
技師が答える。
「これが普通なのか」
「普通だ!」
「一号機に慣れすぎたな」
「慣れるな!」
出力を上げる。
二号機が牧草地を走る。
大車輪が泥を跳ね上げる。
主翼が震える。
「共振域を早く抜けろ!」
技師が叫ぶ。
「速度を上げる!」
「上げすぎるな!」
「どちらだ!」
「早く、慎重に!」
「無茶を言うな!」
機体が地面を離れる。
二号機の最初の飛行は、軍の緊急補給任務になった。
またである。
◇
包囲部隊までの距離は、およそ一時間半。
前線上空を避け、森と川を目印に飛ぶ。
途中、砲煙が見えた。
地上で何かが燃えている。
軍将校は高度を上げる。
「主翼の振動は」
後席の技師が聞く。
「少しある」
「回転数を百落とせ」
「高度が下がる」
「右を少し上げろ」
「左右同型なのに別々に操作するのか!」
「個体差はある!」
「同型なら全部同じではないのか!」
「機械を何だと思っている!」
元独立運動家は貨物室で投下物資を確認する。
弾薬箱には布製の減速帯。
医薬品箱には藁を詰めた緩衝枠。
郵便袋には長い紐。
命令筒には目立つ赤布。
木樽には何もない。
「樽に減速帯は」
軍将校が尋ねる。
「付ける場所がない」
「壊れるぞ」
「丈夫な樽だ」
「誰が作った」
「酒屋」
「何を入れていた」
「リンゴ酒」
「なら丈夫か」
技師が口を挟む。
「根拠になっていない」
「酔った客が転がしても壊れなかった」
「試験条件として採用するな!」
◇
目的地が見えた。
小さな集落。
その周囲に浅い塹壕。
屋根の壊れた家。
広場。
森の向こうには敵部隊らしき動き。
地上から白い布が広げられる。
友軍の識別信号。
「一周する」
軍将校が言った。
「敵の射撃位置を確認」
技師が窓から地上を見る。
「南側の林に動きがある」
「北から入る」
独立運動家が貨物扉を開ける。
風が吹き込む。
「最初は郵便と命令書!」
軍将校が叫ぶ。
「次に医薬品!」
「弾薬は最後!」
「樽は?」
「その前だ!」
「なぜ弾薬より先なのだ!」
「重いから先に落として重心を戻す!」
「本当か!」
「半分は!」
「誰に教わった!」
機体が集落上空へ入る。
地上の兵士たちが手を振っている。
軍将校は速度を落とす。
「投下!」
命令筒が落ちる。
赤布を引きながら広場へ。
次に郵便袋。
紐が伸び、地面を滑る。
医薬品箱。
減速帯が開く。
屋根へ当たり、跳ね、庭へ落ちた。
「少しずれた!」
「箱は壊れていない!」
「次、樽!」
独立運動家が木樽を転がす。
貨物扉の縁へ。
「待て、重い!」
「もう止まらん!」
樽が機外へ落ちる。
空中で一度回転。
二度。
三度。
地面へ激突した。
大きく跳ねる。
広場を転がる。
兵士たちが逃げる。
樽は井戸の横へ衝突して止まった。
「壊れたか!」
軍将校が叫ぶ。
「蓋は付いている!」
「中身は!」
「見えん!」
「弾薬投下!」
最後に弾薬箱二つ。
一つは広場。
一つは塹壕の外側へ落ちた。
兵士たちが走って回収する。
その時、南側の林から銃撃が始まった。
小銃弾。
機関銃。
機体の周囲を弾が通る。
「上げろ!」
技師が叫ぶ。
「出力最大!」
軍将校が左右のレバーを押す。
二号機が高度を取る。
主翼が激しく震える。
「共振域だ!」
「今は抜けるしかない!」
「発動機架を見る!」
「飛行中に外へ出るな!」
機体後部へ弾が当たる。
布に穴。
木枠が削れる。
独立運動家が床へ伏せる。
「樽は無事か」
「今それを気にするな!」
◇
二号機は帰還した。
左翼に二発。
胴体後部に一発。
貨物扉の留め具が一つ破損。
主翼の発動機架には細かな亀裂。
着陸後、技師は誰より先に亀裂を見つけた。
「飛ばしてはいけなかった」
「帰ってきた」
軍将校が答える。
「結果論だ」
「補給は届いた」
「それも結果論だ」
「では、飛ばさない方がよかったか」
技師は答えなかった。
元白軍将校が機体へ近づく。
「投下は」
「成功」
「樽は」
「たぶん」
「たぶん?」
「広場へ落ちた。転がった。井戸へ当たった」
「中身は」
「分からん」
実業家は通信所へ伝令を送った。
包囲部隊からの返答が届いたのは、その日の夜だった。
短い電文。
補給受領。
命令書確認。
弾薬良好。
医薬品一部破損。使用可能。
樽、内容不明。
軍将校が電文を読む。
「内容不明?」
「説明を読んでいないのか」
独立運動家が言う。
白軍将校が答える。
「暗くて読めないのかもしれん」
技師が言う。
「文字が削れた可能性もある」
実業家が尋ねる。
「追加通信を送りますか」
「パン生地だと伝えろ」
「軍用通信で?」
「食料だ!」
通信所へ送る文面が作られた。
樽内容物はパン生地。
樽側面の説明に従い焼成されたし。
生食禁止。
軍将校は文面を見る。
「戦時電報とは思えんな」
「だが必要だ」
独立運動家が答えた。
◇
翌朝。
包囲部隊から、より長い報告が届いた。
木樽開封。
内容物は発酵済み生地。
一部果実臭あり。
樽側面の説明を確認。
砲弾箱および鉄板を用いて簡易窯を作成。
生地を分割し焼成。
約四十二名へ配給。
味は良好。
酸味あり。
次回は二樽を希望。
可能であればバターも願いたい。
小屋の中が静かになった。
軍将校が報告書を二度読んだ。
「二樽」
実業家が言う。
「注文ですね」
「注文ではない!」
「需要です」
「包囲部隊だぞ」
「だから需要があります」
元独立運動家は少し笑った。
「焼けたか」
「四十二人分だそうだ」
白軍将校が満足そうに頷く。
「効率はよい」
元ドイツ技師は、報告書の別の部分を指さした。
「医薬品一部破損」
「そこを見るのか」
「投下容器を改良する必要がある」
「樽は無事だった」
「酒樽だからだ」
「なら、次も酒樽を使う」
「食品容器だけ頑丈なのはおかしい!」
実業家は帳簿を開いた。
緊急補給飛行一回。
弾薬、医薬品、郵便、命令書を投下。
パン生地樽一、現地焼成に成功。
その下へ、
次回二樽希望。
と書く。
軍将校が見つけた。
「増産する気か」
「前線からの要請です」
「航空機会社だぞ」
「航空機で運ぶ物です」
「論理が強引だ!」
独立運動家は、空になった樽置き場を見る。
「果汁が残っている」
「小麦粉も少し」
「酵母は」
「パン屋から借りる」
実業家が言った。
「借りるのではなく買ってください」
「金は」
「軍へ請求します」
「払うか」
「後払いです」
軍将校が呻いた。
「また軍の借金が増える」
「兵士が食べます」
「なら仕方ない」
◇
二号機は、その日の午後から修理に入った。
発動機架へ補強。
主翼布の張り直し。
貨物扉の留め具交換。
投下用の荷物固定具を追加。
そして木樽用の簡易投下枠。
軍将校が図面を見る。
「正式装備にするな」
「転がすより安全だ」
技師が答える。
「今回だけだ」
「次回二樽だ」
白軍将校が言う。
「軍の正式要求ではない!」
実業家が報告書を見せる。
「文書があります」
「戦場からの感想だ!」
「利用者評価です」
「食品会社のように扱うな!」
元独立運動家が、新しい樽へ説明を刻んでいた。
蓋を開けろ。
よく混ぜろ。
布をかけて待て。
膨らんだら焼け。
表面が茶色くなるまで。
生では食うな。
その下へ、今回新しく一文を加える。
火がない場合、薄く延ばして鉄板で焼け。
白軍将校がさらに追記する。
鉄板がない場合、飯盒の蓋を使え。
軍将校が止める。
「文字が多すぎる」
「必要だ」
技師も言う。
「説明は本体へ残すべきだ。紙は失われる」
実業家が頷く。
「今後の製品にも使えますね」
「何の」
「説明書を本体へ刻む方式です」
「航空機にも刻む気か」
「重要な操作だけなら」
技師が考え込む。
「悪くない」
「そこから航空機設計思想へ発展するな!」
◇
三日後。
二号機は、再び包囲部隊へ向けて飛んだ。
弾薬。
医薬品。
郵便。
交換用無線部品。
そしてパン生地樽二つ。
一つには乾燥果実入り。
もう一つには少量の乳脂肪が混ぜられている。
「バターそのものは?」
軍将校が尋ねる。
「暑さで傷む」
独立運動家が答えた。
「だから生地へ混ぜた」
「食品開発を始めるな」
「兵士からの要望だ」
「バターが欲しいと言っただけだ!」
「溶けるから工夫した」
「その工夫を航空機へ向けろ!」
二号機は離陸した。
今回は投下枠がある。
樽は一つずつ、安定した姿勢で落ちていった。
一つは広場。
もう一つは民家の屋根を突き破った。
中に人はいなかった。
樽も壊れなかった。
翌日の報告には、
乾燥果実入り、兵士に好評。
乳脂肪入り、より柔らかい。
屋根一棟損傷。修理を希望。
と書かれていた。
軍将校は報告書を見た。
「パンで家を壊した」
実業家が答える。
「修理費は軍へ請求します」
「我々の樽だぞ」
「軍務中です」
「全部軍へ回すな!」
白軍将校が言った。
「敵に落ちなくてよかった」
「パン生地で敵を攻撃するな」
「腹が減っていれば喜ぶかもしれん」
「それは補給だ!」
◇
包囲部隊は、その後数日持ちこたえた。
弾薬があったから。
医薬品が届いたから。
命令書で撤退経路を知ったから。
そして、わずかでも温かい食事を取れたから。
救援部隊が到着した日、守備隊の兵士たちは空になった樽を捨てなかった。
一つは水桶に。
一つは小麦粉入れに。
一つは椅子に。
側面の文字は、泥と煤で汚れていた。
それでも読めた。
膨らんだら焼け。
生では食うな。
後にその樽の一つは、WILK本社へ返された。
戦勝記念品としてではない。
次の樽を作るための見本として。
実業家は返却された樽を見て言った。
「改良できます」
軍将校は聞いた。
「何を」
「蓋を開けやすくします」
「そこなのか」
「兵士の報告に、開けるのが大変だったと」
「航空機は?」
「修理中です」
「食品容器より先に直せ!」
会社設立から一年も経っていない。
WILKはまだ、航空機を二機しか持っていなかった。
だがその工房では既に、
航空機。
補給容器。
投下器具。
パン生地。
樽の説明書き。
そのすべてが、同じ机の上で設計され始めていた。
誰も、食品部門を作ろうとは考えていなかった。
ただ、次の補給で兵士が腹を空かせないようにしていただけだった。