一九三四年
陸軍航空部から発注されたBizon改良型十二機について、以下の生産方式を検討した。
第一案。
十二機を同時に起工し、同一工程を一括して実施する。
利点。
資材切断および治具使用をまとめられる。
作業指示が単純になる。
同一部品の品質を揃えやすい。
完成時期を統一できる。
欠点。
一つの設計変更が十二機すべてを停止させる。
一つの部品不足が十二機すべてを停止させる。
一つの治具不良が十二機すべてへ複製される。
格納場所が足りない。
作業員も足りない。
第二案。
三機ずつ四群に分け、工程をずらして製造する。
利点。
先行機で判明した不具合を後続機へ反映できる。
治具、作業場所および検査員を共有できる。
部品不足時も全機停止を避けられる。
欠点。
陸軍航空部から、
「十二機を一度に並べられない」
との苦情が出た。
WILK社は、
「飛行機は並べるために作っていない」
と回答した。
航空部は、
「式典も運用の一部である」
と再回答した。
生産部は回答を保留した。
十二機分の材料を置く場所がなかった。
木材。
鋼管。
アルミニウム板。
防火壁用板材。
脚柱。
車輪。
発動機架。
座席。
配管。
計器。
無線機。
銃架。
まだ届いていない物まで含めれば、置き場所はさらに必要になる。
ポーランド軍将校は、格納庫中央へ広げられた生産計画図を見下ろした。
「ここへ十二機分を並べる」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「人が歩けなくなる」
「上へ積め」
「翼を?」
「材料だ!」
「板材を上へ積めば、下の板が取り出せん」
「棚を作れ」
「棚を作る材料が要る」
「買え」
ユダヤ人実業家が帳簿から顔を上げた。
「軍の前金が入ってからです」
ポーランド軍将校が咳払いする。
「手続き中だ」
「材料価格は手続きを待ちません」
元独立運動家は格納庫の隅を指した。
「食品倉庫を使う」
ユダヤ人実業家が即座に答える。
「使いません」
「半分空いている」
「来月の粉乳が入ります」
「外へ置く」
「粉乳を?」
「航空機材料を」
元ドイツ軍技術者が首を振った。
「湿る」
「屋根を付ける」
「工場を建てる話になっているぞ」
元白軍将校が格納庫の扉を見た。
「飛行機を外へ出せ」
全員が彼を見る。
「既存機をか」
「飛べる物を中へ置いて、飛べない材料を外へ置く理由がない」
ポーランド軍将校が言った。
「軍用機を野ざらしにする気か」
「軍では野外運用する」
「今は工場だ」
「なら屋根を作れ」
元ドイツ軍技術者がため息をついた。
「結局、工場を建てるのか」
ユダヤ人実業家は帳簿へ一行書いた。
仮設格納庫建設費。
ポーランド軍将校が覗き込む。
「仮設でよいのか」
「恒久施設を建てる金はありません」
元独立運動家が言った。
「仮設として作り、あとで壁を足せばよい」
元ドイツ軍技術者が振り向く。
「最初から恒久施設ではないか」
「最初は仮設だ」
「壁を足す前提だろう」
「必要になれば足す」
ユダヤ人実業家は、さらに書き加えた。
将来拡張可能な仮設格納庫。
ポーランド軍将校が頭を抱えた。
「言葉だけで高くなったぞ」
生産会議へ、各部門の責任者が呼ばれた。
脚部門。
板金部門。
木工部門。
配管部門。
電装部門。
食品部門。
染色部門。
印刷部門。
馬具工房。
ポーランド軍将校は出席者の列を見た。
「最後の四つはなぜいる」
ユダヤ人実業家が答えた。
「座席帯、医療袋、工具袋、識別札、手順書、食料搭載箱を作ります」
「飛行機の生産会議だぞ」
元独立運動家が言った。
「飛行機へ載せる物の会議でもある」
「食品部門まで必要か」
食品部門責任者が手を挙げた。
「長距離飛行用の保存食について、陸軍から照会があります」
ポーランド軍将校の顔が変わった。
「聞いていない」
「昨日届きました」
ユダヤ人実業家が書類を渡す。
「なぜ私を通さない!」
「軍の糧食部から直接です」
「航空部を通せ!」
「向こうは食品会社だと思っています」
「航空機会社だ!」
食品部門責任者が小さな声で言った。
「パンも作っています」
ポーランド軍将校が机を叩いた。
「知っている!」
元ドイツ軍技術者は出席者名簿を見た。
「人数が多すぎる。工程ごとに分けろ」
ユダヤ人実業家が答える。
「分けると同じ説明を何度もします」
「全員で聞けば、関係ない説明まで聞く」
元白軍将校が椅子へ座った。
「軍の会議と同じだな」
ポーランド軍将校が睨む。
「軍は必要な者だけを呼ぶ」
元白軍将校は出席者の列を見た。
「ではなぜ、私は毎回いる」
「お前が勝手に来るからだ!」
最初の問題は脚だった。
改良型Bizon十二機。
一機につき主脚二組。
予備脚。
試験用。
補修部品。
合計数を黒板へ書く。
脚部門責任者が言った。
「二十八組必要です」
ポーランド軍将校が尋ねる。
「十二機なら二十四ではないか」
「予備二組」
「残り二組は」
「破壊試験」
「壊すために作るのか」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「壊れる場所を知るためだ」
「既に試験しただろう」
「新発動機で重量が増えた」
「少しだ」
「少し増えた重量を、着陸時には脚が何倍にもして受ける」
ポーランド軍将校は納得していない顔をした。
元白軍将校が言う。
「壊さずに戦場へ出して、最初の着陸で試すか」
「破壊試験を認める」
即答だった。
脚部門責任者が続ける。
「ただし、車輪が足りません」
ユダヤ人実業家が帳簿を見る。
「納入予定は」
「来月六本。翌月十本。その後は不明」
「二十八組分には」
「五十六本です」
部屋が静かになった。
ポーランド軍将校が言う。
「軍の在庫を出す」
「寸法が違います」
「合わせろ」
元ドイツ軍技術者が顔を上げる。
「車輪を?」
「脚を」
「設計を変えれば、収納部も変わる」
「ではタイヤだけ使え」
「幅が違う」
「削れ」
「タイヤを削るな!」
車輪不足の原因は、軍需ではなかった。
農業用トラクター。
貨物車。
バス。
救急車。
各国で車両生産が増え、低圧タイヤの注文が集中している。
不況中に縮小した工場は、急な注文へ対応できなかった。
ユダヤ人実業家は供給表を見た。
「タイヤ工場を増やしますか」
ポーランド軍将校が顔を上げた。
「航空機会社が?」
「既に脚部門があります」
「それは脚だ」
「車輪も脚の一部です」
「ゴム工場まで持つ気か」
元独立運動家が言った。
「工場を持たず、設備を貸す」
「誰へ」
「閉鎖しかけているゴム製品工場」
ユダヤ人実業家が資料を探す。
「南部に一社あります。靴底、ホース、荷車用タイヤを製造。設備は古いですが、加硫槽は残っています」
元ドイツ軍技術者が尋ねた。
「航空用タイヤを作った経験は」
「ありません」
「却下だ」
「試作から始めます」
「十二機の納期へ間に合わない」
「次の注文には間に合います」
ポーランド軍将校が反応した。
「次があると決まっていない」
四人が彼を見る。
ユダヤ人実業家が言った。
「軍は十二機で終わりますか」
ポーランド軍将校は答えなかった。
元白軍将校が笑う。
「終わる顔ではない」
板金部門には別の問題があった。
同じ形の外板を十二機分まとめて切れば効率がよい。
だが、先行三機で形状変更が出れば、残り九機分が無駄になる。
板金部門責任者が提案した。
「六機分だけ切ります」
元ドイツ軍技術者が首を振る。
「三機分」
「切断機の段取りが増えます」
「先行三機で確認する」
「残りは待つのですか」
「骨組みを進めろ」
「骨組みも変更されたら」
「変更が出る前提で作るな」
「今まで何度出ました」
元ドイツ軍技術者は黙った。
板金部門責任者が数え始める。
「Turで七回。初期Bizonで十一回。改良試験機で」
「数えるな」
「記録にあります」
ポーランド軍将校が言った。
「今回は軍の仕様が確定している」
元独立運動家が要求書の束を持ち上げた。
「昨日、防弾板が二枚増えた」
「それは確定後の追加だ」
元ドイツ軍技術者が答える。
「それを仕様変更と言う」
ユダヤ人実業家は契約書の該当条項を開いた。
「追加費用です」
ポーランド軍将校が言った。
「まだ軍へ請求するな」
「いつなら」
「正式承認後」
「材料は先に買います」
「だから手続きを」
ユダヤ人実業家は帳簿を閉じた。
「承認されるまで板を切りません」
「納期が遅れる!」
「承認を急いでください」
ポーランド軍将校は立ち上がった。
「航空部へ行ってくる!」
元白軍将校が声を掛ける。
「走れば早く着くぞ」
「車で行く!」
工場では、班の再編が始まった。
不況中に短期雇用から入った者。
木箱を作っていた者。
牛乳缶を加工していた者。
台車を組んでいた者。
農具を修理していた者。
彼らの一部が、航空機部門へ移される。
いきなり機体を作らせるわけではない。
穴あけ。
縁の処理。
部品洗浄。
番号打刻。
治具への固定。
経験者が確認する。
年配の旋盤工は、小さな班を任された。
三年前まで、門前で登録札を握っていた男だった。
若い工員が彼へ尋ねる。
「班長と呼べばいいですか」
「呼ぶな」
「では何と」
「今までどおりでいい」
「指示を出すのは」
「俺だ」
「なら班長では」
年配の旋盤工は嫌そうな顔をした。
「賃金は」
「少し増えました」
「なら班長だな」
若い工員たちが笑う。
彼は図面を机へ広げた。
「笑う前に穴位置を確認しろ」
一人が部品を持ち上げる。
「この穴は何です」
「配管留め」
「隣にもあります」
「予備」
「両方開けるのですか」
「図面では」
年配の旋盤工は止まった。
図面を見る。
旧型。
改良型。
訂正紙。
赤線。
青線。
手書き。
「待て」
若い工員が不安そうに尋ねる。
「間違えましたか」
「まだ開けていない」
「では」
「間違える前に止まった」
彼は元ドイツ軍技術者を呼んだ。
元ドイツ軍技術者は図面を見て、顔をしかめる。
「訂正前の図面だ」
「配られたばかりです」
「印刷室へ戻せ」
「全部ですか」
「全部だ」
印刷室では、旧版と新版が同じ棚へ入っていた。
表紙の番号は違う。
中の一枚だけ差し替え忘れ。
十二機分の部品へ穴を開ける前に見つかった。
元ドイツ軍技術者は、年配の旋盤工へ言った。
「よく止めた」
「穴が多すぎた」
「違和感を記録しろ」
「間違いではなく?」
「間違いと分かる前の違和感だ」
若い工員が尋ねる。
「そんなものまで書くのですか」
年配の旋盤工が答えた。
「書かなければ、次は開ける」
印刷部門では、図面管理方式が変えられた。
旧版。
新版。
試験用。
量産用。
現場修正版。
軍承認待ち。
紙の色を変える案が出た。
元独立運動家が言った。
「赤は廃止図面」
染色部門責任者が首を振る。
「赤は医療袋に使っています」
「紙と袋は違う」
「夜間照明では似る」
元ドイツ軍技術者が言う。
「色だけに頼るな」
「角を切る」
「図面の角を?」
「廃止図面は一つ。試験用は二つ」
印刷部門責任者が反対する。
「綴じた時に揃いません」
「揃える必要があるか」
「棚で引っ掛かります」
ユダヤ人実業家が提案した。
「大きな穴を開ける」
「紙が裂ける」
「印を押す」
「油で消える」
ポーランド軍将校が戻ってきた。
「何の会議だ」
全員が答えた。
「図面です」
「飛行機はどうした!」
元ドイツ軍技術者が言った。
「図面がなければ作れん」
ポーランド軍将校は机へ軍の承認書を置いた。
「防弾板追加、正式承認だ」
ユダヤ人実業家が受け取る。
「費用も?」
「承認された」
「入金日は」
「聞くな!」
馬具工房では、射手用腰帯の量産が始まった。
十二機分。
予備。
訓練用。
交換用。
合計二十本。
以前、店先へ、
当工房はWILK専属ではありません。
と貼った工房だった。
札はまだ残っている。
だがその下に、新しい札が増えた。
職人見習い募集。
馬具職人は、若者二人へ縫い方を教えていた。
「ここは二重」
「なぜ」
「一重で切れた」
「試験で?」
「人がぶら下がった」
「飛行機で?」
「工房で」
若者が首を傾げる。
「誰が」
馬具職人は答えなかった。
元独立運動家が試験で帯を巻き、元ドイツ軍技術者に引き倒された件は、説明が長くなる。
「金具は向きを揃えろ」
「逆だと」
「片手で外れない」
「両手なら」
「射手の片手は銃にある」
「なら銃を離せば」
馬具職人は若者を見る。
「火が出た機内で、その相談をするか」
若者は金具の向きを直した。
工房の外。
以前の常連客が荷車用の革帯を持ってきた。
WILKの仕事をしているなら別の店へ行くと言った農家だった。
「直せるか」
馬具職人が受け取る。
「三日」
「明日だ」
「なら自分でやれ」
「軍の仕事で忙しいのか」
「馬の仕事もある」
農家は工房の奥を見る。
若者が二人。
新しい作業台。
積まれた革。
「儲かっているな」
「仕事があるだけだ」
農家は少し黙った。
「息子を雇わんか」
馬具職人も黙った。
「革は扱えるか」
「馬には蹴られたことがある」
「それは経験ではない」
「丈夫だ」
「明日連れてこい」
農家は頷いた。
店を出る前に、古い札を見た。
当工房はWILK専属ではありません。
「まだ貼っているのか」
馬具職人は答えた。
「剥がす理由もない」
仮設格納庫の建設は、三日で始まった。
元独立運動家が中古の鉄骨を見つけた。
閉鎖された市場倉庫。
屋根材は鉄道会社の余剰。
側壁は木工部門の板。
床は全面舗装しない。
機体の通る線だけ砕石と板で補強。
元ドイツ軍技術者が図面を見る。
「風で飛ぶ」
「杭を増やす」
「雪で潰れる」
「梁を足す」
「排水がない」
「溝を掘る」
「もう仮設ではない」
元独立運動家は平然と答えた。
「移設できる」
「どこへ」
「必要な場所へ」
ユダヤ人実業家が見積書を見る。
「解体して国外支社へ送れますね」
ポーランド軍将校が警戒する。
「何を考えている」
「仮設格納庫の商品化です」
「今作っている途中だぞ」
「だから原価が分かります」
元ドイツ軍技術者が言った。
「まだ風で飛ぶ」
「杭を増やします」
「商品名を付ける前に完成させろ!」
元白軍将校は建設現場を歩いた。
「壁を全部付けるな」
「なぜ」
「空襲時に吹き飛ぶ」
ポーランド軍将校が怒鳴る。
「今は空襲の話をするな!」
「火災時でもよい」
元ドイツ軍技術者が考える。
「上部に外れる板を付ける」
「爆風逃がしか」
「換気にもなる」
ユダヤ人実業家が書き留める。
「価格が上がりますね」
「商品にするな!」
先行第一群、三機分の骨組みが治具へ載せられた。
一号機。
二号機。
三号機。
同時ではない。
一号機が一日先。
二号機が二日後。
三号機がさらに二日後。
陸軍の監督官が不満を示した。
「なぜ揃えない」
生産主任が答える。
「一号機で問題が出た場合、二号機へ反映します」
「問題が出ないように作れ」
元ドイツ軍技術者が横から言った。
「問題が出ないと決めるな」
「試験機は飛んだ」
「量産機は試験機と作る者が違う」
「図面は同じだ」
「材料の癖も、工具の摩耗も、人の手も違う」
監督官は骨組みを見た。
「軍の工廠なら同時に作る」
元白軍将校が言った。
「軍の工廠は同時に止まる」
監督官が振り向く。
「何だと」
ポーランド軍将校が二人の間へ入った。
「WILKの方式だ」
「納期は守れるのか」
ユダヤ人実業家が答える。
「仕様変更がなければ」
監督官が言った。
「追加の無線機が検討されている」
全員が彼を見る。
「いつから」
ポーランド軍将校が尋ねた。
「今朝だ」
元ドイツ軍技術者が工具を置いた。
「検討が終わるまで持ってくるな」
「搭載場所だけ確保してほしい」
「機器の寸法は」
「未定」
「重量は」
「未定」
「電力消費は」
「未定」
「では何を確保する」
監督官は少し考えた。
「余裕を」
元ドイツ軍技術者の顔が引きつった。
ポーランド軍将校が監督官の肩を掴む。
「外へ出よう」
「なぜ」
「今なら歩いて帰れる」
一号機の骨組みから、最初の不具合が見つかった。
新型発動機用の防火壁補強材。
図面上では配管と干渉しない。
実物では、締結金具の頭が油管へ近すぎた。
振動すれば擦れる。
元ドイツ軍技術者が隙間を測る。
「四粍」
若い整備員が言った。
「規定は六粍です」
「金具の向きを変える」
「工具が入りません」
「頭を低くする」
「特殊品になります」
「補強材を削る」
「強度が落ちます」
年配の旋盤工が横から見た。
「留め位置を一つ外へ出せませんか」
元ドイツ軍技術者が図面を見る。
荷重線。
配管。
点検口。
「できる」
「二号機はまだ穴を開けていません」
「一号機は」
「開けました」
「埋める」
「補修痕が残ります」
ポーランド軍将校が近づいた。
「新品だぞ」
元ドイツ軍技術者が答える。
「新品でも直す」
「軍が嫌がる」
「隠す方が嫌だ」
年配の旋盤工が言った。
「一号機だけ旧位置を残して、新位置も開けます。旧穴は蓋をして、検査用に印を付ける」
元独立運動家が笑った。
「一号機が教材になる」
ポーランド軍将校は嫌そうな顔をした。
「納入機だぞ」
元白軍将校が答える。
「最初の機体はいつも教材だ」
「軍へ教材を売るな」
ユダヤ人実業家が言った。
「教材機として追加料金を」
「取るな!」
一号機の変更は、その日のうちに二号機へ反映された。
三号機はまだ補強材を取り付けていない。
第四群の図面も修正。
印刷室では、新版の角へ三つの丸穴を開けた。
色だけではない。
触れば分かる。
旧版は回収。
回収枚数を数える。
一枚足りない。
工場全体を探す。
板金部門。
木工部門。
脚部門。
食堂。
最後に見つかったのは、仮設格納庫の現場だった。
折り畳まれ、柱の高さ調整へ使われていた。
元ドイツ軍技術者が紙を取り上げる。
「図面を敷物にするな!」
建設工が答えた。
「廃止と書いてあった」
「廃止でも図面だ」
「油が付いています」
「だから回収する!」
元独立運動家が言った。
「廃止図面専用の紙屑箱を作る」
「焼却箱だ」
元白軍将校が口を挟む。
「すぐ燃やすな。何が変わったか残せ」
ユダヤ人実業家が頷いた。
「一部を保管。残りを裁断」
ポーランド軍将校が尋ねる。
「なぜ廃止図面まで残す」
元ドイツ軍技術者が答えた。
「事故が起きた時、どの図面で作ったか確認する」
「事故が起きる前提か」
五人が同時に彼を見る。
ポーランド軍将校は、自分で気付いた。
「もういい」
夕方。
三機の骨組みが、時間をずらして治具へ並んでいた。
一号機には補修痕。
二号機には新しい穴位置。
三号機には、最初から修正された補強材。
同じ機体。
少しずつ違う。
軍の監督官が三機を見比べた。
「外から見れば同じだ」
元ドイツ軍技術者が答える。
「外から違えば困る」
「内部は違う」
「改善した」
「部隊で部品が合わなくならないか」
「取付位置だけだ。部品は共通」
「記録は」
印刷部門責任者が三冊の製造記録を差し出した。
一号機。
二号機。
三号機。
材料番号。
作業者。
変更箇所。
検査者。
補修。
監督官は厚さを見た。
「もうこんなにあるのか」
ユダヤ人実業家が答える。
「まだ骨組みです」
「完成時には」
「増えます」
「飛行機より重くならないか」
元白軍将校が言った。
「書類は地上に置け」
工場の終業鐘が鳴った。
以前より多くの者が門から出る。
新採用。
再雇用。
短期契約。
下請け工房の職人。
仮設格納庫の建設工。
食料配送。
タイヤ工場の調査員。
仕事が増えていた。
門前に並ぶ登録者は、まだいる。
だが列は以前より短い。
年配の旋盤工は、若い班員たちと門を出た。
以前、彼の隣へ座らなくなった若い工員も同じ班にいる。
二人はまだ親しくない。
だが作業中は話す。
穴位置。
工具。
図面。
必要なことだけ。
門外で若い工員が言った。
「明日は二号機ですか」
年配の旋盤工が答える。
「一号機の確認からだ」
「もう直したのでは」
「直したから確認する」
「三号機は」
「二号機を見てから」
若い工員は三機の並ぶ格納庫を振り返った。
「十二機、間に合いますかね」
年配の旋盤工も見る。
「十二機を見れば間に合わん」
「では」
「明日の一機を見ろ」
二人は同じ道を歩いた。
少し離れて。
だが以前よりは近く。
夜。
ユダヤ人実業家は生産表を確認した。
十二機。
三機ずつ四群。
脚。
車輪。
発動機。
外板。
無線。
武装。
座席帯。
工具。
赤い袋。
黄色い袋。
緑の袋。
一つの機体を作るため、工場の外まで仕事が広がっている。
ゴム工場。
染色工房。
馬具工房。
印刷所。
食品工場。
製材所。
鉄道。
商店。
不況で止まっていた歯車が、再び噛み合い始めていた。
金が出る。
賃金になる。
店へ流れる。
材料代になる。
別の工場が動く。
数字は良かった。
彼は、十二機の生産表の隣へ置かれた国外支社からの照会を見る。
フランス。
発動機部品の増産可否。
英国。
冷蔵倉庫と航空機整備設備の追加。
ドイツの協力工場。
工作機械の更新と夜間操業計画。
スウェーデン。
長期保存食の軍向け見積り。
別々の注文だった。
まだ、同じ方向へ向かっているとは言い切れない。
ユダヤ人実業家は照会書を一枚ずつ閉じた。
最後に、WILK本社の十二機生産表へ戻る。
一号機。
二号機。
三号機。
まだ骨組み。
だが工場は動いている。
仕事がある。
明日も人が来る。
今夜は、それでよかった。
彼は帳簿の余白へ書いた。
十二機を同じ日に作らないこと。
少し考え、その下へ付け加えた。
十二機を同じ日に失わないため。
格納庫では、夜勤の工員が一号機の補修箇所を照らしていた。
隣では二号機の穴位置を測っている。
三号機の部品は、まだ切られていない。
WILKの黄金期は、
十二機を一度に作ることからではなく、
一機ずつ間違える余地を残すことから始まった。