WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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――WILK産業協力部・航空発動機増産支援計画
一九三四年

国内航空発動機工場の生産能力拡張について、以下の案が提出された。

第一案。

工場建屋を拡張し、新規労働者を直接雇用する。

利点。

雇用人数が明確である。
増産政策として説明しやすい。
式典で多数の労働者を並べられる。

欠点。

航空発動機の製造経験者は増えない。
熟練工が新人教育へ割かれる。
検査工程が詰まる。
工作機械の台数が不足する。
材料が届かなければ、増えた労働者全員が待機する。

第二案。

発動機工場周辺の企業へ工程の一部を分散し、発動機工場では精密加工、最終組立および検査へ人員を集中する。

対象工程。

木箱製作。
部品洗浄。
防錆包装。
簡易金具。
ゴム管。
電線被覆。
作業服。
帳票印刷。
材料運搬。
廃材選別。
食堂および洗濯。

陸軍航空部は、

「発動機を増産する計画に、なぜ洗濯が含まれるのか」

と質問した。

WILK社は、

「油まみれの作業服を洗う者がいなければ、熟練工が自分で洗うことになる」

と回答した。

陸軍航空部は、

「家で洗えばよい」

と再回答した。

WILK社は、その回答を工員の家族へ転送する案を検討したが、ポーランド軍将校が止めた。


第107話 発動機工場へ人を詰め込むな

発動機工場の正門前には、再び人が並んでいた。

 

以前とは違う列だった。

 

発動機を買いに来た者ではない。

 

仕事を求める者。

 

元鉄道工。

 

農機具工場の旋盤工。

 

縫製工場を解雇された女工。

 

倉庫番。

 

大工。

 

炭鉱を離れた男。

 

学校を出たばかりの若者。

 

工場側は門へ紙を貼っていた。

 

経験者優先。

精密機械加工経験者。

航空発動機組立経験者。

検査器具取扱経験者。

 

列に並ぶ者の大半は、どれにも当てはまらなかった。

 

ポーランド軍将校は列を見た。

 

「これだけ人がいる」

 

ユダヤ人実業家が答えた。

 

「いますね」

 

「雇えばよい」

 

元ドイツ軍技術者は工場の窓を見る。

 

中では旋盤が回っている。

 

研削盤。

 

歯切盤。

 

測定室。

 

組立台。

 

「何をさせる」

 

「訓練すればよい」

 

「誰が訓練する」

 

「熟練工だ」

 

「その間、誰が発動機を作る」

 

ポーランド軍将校が止まった。

 

元独立運動家が列の端へ行った。

 

「木箱を作れる者」

 

何人かが手を挙げた。

 

「縫える者」

 

女たちのほか、革職人が一人。

 

「荷車を直せる者」

 

多い。

 

「油の付いた部品を洗ったことがある者」

 

全員が困った顔をした。

 

元白軍将校が言った。

 

「洗うだけならできるだろう」

 

元ドイツ軍技術者が即座に答えた。

 

「洗剤を間違えれば表面処理を落とす」

 

「では教えろ」

 

「だから誰が」

 

また最初へ戻った。

 

発動機工場の会議室には、工場長と各部門責任者が集まった。

 

精密加工。

 

熱処理。

 

鋳造。

 

組立。

 

検査。

 

資材。

 

労務。

 

ポーランド軍将校は増員計画を机へ広げた。

 

「国は増産を求めている」

 

工場長が答えた。

 

「知っています」

 

「WILKも十二機分を必要としている」

 

「知っています」

 

「なら雇え」

 

工場長は窓の外の列を見た。

 

「誰を」

 

ポーランド軍将校も見る。

 

「全員ではない」

 

「何人」

 

「まず百人」

 

工場長が各部門責任者を見る。

 

精密加工責任者が言った。

 

「旋盤工なら十人」

 

熱処理。

 

「炉の経験者を二人」

 

組立。

 

「機械組立経験者を十五人」

 

検査。

 

「測定器を使える者を五人」

 

労務責任者が紙へ書く。

 

合計三十二人。

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「残り六十八人は」

 

誰も答えなかった。

 

元独立運動家が尋ねる。

 

「今、熟練工が自分でやっている仕事は」

 

工場長の顔が曇る。

 

「発動機を作っています」

 

「発動機以外で」

 

「そんなものはない」

 

ユダヤ人実業家が資材責任者を見る。

 

「部品は誰が運びます」

 

「工員です」

 

「洗浄は」

 

「加工班」

 

「木箱は」

 

「木工班」

 

「木工班は発動機工場の所属ですか」

 

「そうです」

 

「作業服の補修は」

 

労務責任者が答えた。

 

「各自です」

 

「帳票の印刷は」

 

「事務員が謄写します」

 

「不合格品の分類は」

 

検査責任者。

 

「検査工です」

 

「切粉の回収は」

 

精密加工責任者。

 

「見習いが」

 

元ドイツ軍技術者が一つずつ黒板へ書いた。

 

運搬。

 

洗浄。

 

箱。

 

補修。

 

印刷。

 

選別。

 

切粉。

 

工具整理。

 

油の補充。

 

測定器の清掃。

 

「これだけある」

 

工場長が言った。

 

「発動機工場の仕事です」

 

「発動機を作る者でなければできないか」

 

「品質へ関わる」

 

「全部が?」

 

「間違えれば関わる」

 

元ドイツ軍技術者は頷いた。

 

「なら、間違えないよう工程を作る」

 

最初に切り出されたのは、輸送箱だった。

 

発動機本体用。

 

シリンダー用。

 

点火装置用。

 

工具用。

 

予備部品用。

 

これまでは工場内の木工班が、必要になるたび作っていた。

 

だが航空機用部品の増産で、箱の数も増えている。

 

木工班は七人。

 

うち二人は熟練。

 

一人は発動機架の木型も作る。

 

三人は梱包。

 

一人は釘を抜いて再利用する係になっていた。

 

元独立運動家が言った。

 

「外へ出す」

 

工場長が反対した。

 

「寸法を間違える」

 

「見本を渡す」

 

「湿った木を使う」

 

「水分を測る」

 

「測れない工場が多い」

 

ユダヤ人実業家が資料を出した。

 

「近郊に閉鎖寸前の家具工場があります」

 

「家具と発動機箱は違う」

 

「木を切り、組み、乾かす点は同じです」

 

元ドイツ軍技術者が尋ねた。

 

「乾燥室は」

 

「あります」

 

「測定器は」

 

「ありません」

 

「買う」

 

ポーランド軍将校が反応する。

 

「箱のために測定器を買うのか」

 

「濡れた箱で発動機を腐らせるより安い」

 

「木箱で発動機は腐らん」

 

元ドイツ軍技術者が彼を見る。

 

「港で一週間雨に当てるか」

 

「当てない」

 

ユダヤ人実業家が静かに言った。

 

「当たることがあります」

 

誰も否定できなかった。

 

家具工場へ、乾燥計と規格寸法表が送られた。

 

最初の注文は二十箱。

 

家具工場主は図面を見て言った。

 

「椅子より簡単だ」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「椅子は落としても座れる」

 

「箱も落とさない」

 

「船員へ言え」

 

次は部品洗浄。

 

加工後の金属部品には、切削油、研磨粉、切粉が残る。

 

洗浄が甘ければ組立時に異物となる。

 

洗剤が強すぎれば表面を傷める。

 

水分が残れば腐食する。

 

これまでは加工した班が、自分たちで洗っていた。

 

精密加工責任者が言う。

 

「外へ出せない」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「工場内に独立洗浄班を作る」

 

「未経験者へ任せるのか」

 

「部品ごとに手順を分ける」

 

「判断が要る」

 

「判断が要る部品だけ熟練工へ戻す」

 

洗浄台が三つ作られた。

 

白札。

 

通常洗浄。

 

青札。

 

油路あり。

 

黒札。

 

特殊処理。経験者のみ。

 

色だけではなく、容器の形も変えた。

 

通常は角形。

 

油路ありは丸形。

 

特殊処理は蓋付き。

 

元独立運動家が言った。

 

「暗くても分かる」

 

ポーランド軍将校が尋ねる。

 

「洗浄室が暗くなることがあるのか」

 

元白軍将校が答えた。

 

「停電する」

 

「今その話をするな」

 

「停電は話を待たん」

 

採用された新人は十二人。

 

最初の三日は、廃品を洗った。

 

わざと油を詰めた管。

 

穴の奥へ研磨粉を入れた金具。

 

錆びたボルト。

 

表面処理済みの板。

 

元ドイツ軍技術者は、一つずつ切って確認した。

 

洗い残し。

 

傷。

 

水分。

 

洗剤残り。

 

新人の一人が尋ねた。

 

「合格品を洗わせてもらえるのは、いつです」

 

「失敗を見分けられるようになってから」

 

「何日かかります」

 

「人による」

 

「早い者は」

 

「早いと危ない」

 

「遅い者は」

 

「遅すぎても危ない」

 

新人は困った。

 

元白軍将校が横から言った。

 

「止まるべき時に止まれればよい」

 

元ドイツ軍技術者が頷く。

 

「それだ」

 

新人はさらに困った。

 

作業服の補修は、工場外へ出された。

 

近郊の縫製所。

 

不況で軍服注文が途切れ、半分の機械が止まっていた。

 

工場から油まみれの上着とズボンが運び込まれる。

 

縫製所の女工たちは顔をしかめた。

 

「洗ってから持ってきて」

 

労務担当者が答えた。

 

「洗濯所はまだありません」

 

「では縫えません」

 

「穴だけ」

 

「油で針が滑る」

 

元独立運動家が言った。

 

「洗濯所も作る」

 

ポーランド軍将校が怒鳴った。

 

「発動機を増やす話だぞ!」

 

ユダヤ人実業家は縫製所の隣に、使われていない公衆浴場跡があると確認した。

 

給水。

 

排水。

 

蒸気配管。

 

ボイラーは故障。

 

建物は残る。

 

工業洗濯所改修案。

 

帳簿へ新しい項目が増えた。

 

「洗濯で何人雇える」

 

ポーランド軍将校が皮肉で尋ねた。

 

「二十人ほどです」

 

ユダヤ人実業家は普通に答えた。

 

「そんなに?」

 

「洗濯、乾燥、仕分け、補修、配送です」

 

「発動機工場へ二十人入れれば」

 

元ドイツ軍技術者が言った。

 

「旋盤は二十台増えん」

 

「洗濯機もないだろう」

 

元独立運動家が浴場跡を見る。

 

「槽はある」

 

「人の風呂だぞ」

 

「服も浸かる」

 

「一緒にするな!」

 

発動機工場の外へ仕事が出るたび、新しい問題が出た。

 

木箱の寸法が一分違う。

 

洗浄済み部品の袋へ番号がない。

 

作業服の釦が金属製で、機械へ落ちる恐れがある。

 

防錆紙が不足。

 

納品車が遅れる。

 

印刷所が旧版の検査票を増刷した。

 

工場長は言った。

 

「やはり工場内でやるべきだった」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「工場内でも起きていた」

 

「外へ出したから増えた」

 

「見えるようになっただけだ」

 

「見える問題は増えている」

 

「見えない問題よりよい」

 

ポーランド軍将校は、二人の間で書類を見た。

 

「対策は」

 

元独立運動家が答える。

 

「外注先ごとに連絡員を置く」

 

「また人が要る」

 

「未経験者を使える」

 

「何をさせる」

 

「品物と紙が同じか見る」

 

「読み書きが必要だ」

 

「学校を出た若者が並んでいた」

 

ユダヤ人実業家は採用名簿を開いた。

 

「十二人候補がいます」

 

工場長が尋ねる。

 

「発動機を知らない」

 

「箱の数は読めます」

 

「図面は」

 

「教えます」

 

「誰が」

 

全員が黙った。

 

また最初へ戻った。

 

そこで、教育を工程から切り離した。

 

工場内の倉庫を一つ空ける。

 

古い机。

 

黒板。

 

測定器。

 

不合格品。

 

切断した部品。

 

模擬発動機。

 

廃止図面。

 

正しい箱。

 

間違った箱。

 

洗浄済みと洗浄不足の部品。

 

釦の取れやすい作業服。

 

防錆紙の種類。

 

簡単な訓練室ができた。

 

元ドイツ軍技術者は、熟練工を交代で一時間ずつ出す案を作った。

 

工場長が反対する。

 

「一時間でも生産が落ちる」

 

「十人へ教えれば、翌週から十人分の雑務が減る」

 

「教えられるとは限らない」

 

「教える訓練もする」

 

熟練工たちが嫌な顔をした。

 

旋盤工が言った。

 

「私は教師ではない」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「知っていることを話せ」

 

「感覚でやっている」

 

「感覚を分けろ」

 

「音を聞けば分かる」

 

「どう違う」

 

旋盤工は機械の回転音を真似した。

 

低い唸り。

 

少し高い振動。

 

不規則な音。

 

新人たちは笑いを堪えた。

 

旋盤工が睨む。

 

「笑った奴、聞き分けろ」

 

機械を回す。

 

正常。

 

刃先摩耗。

 

材料固定不良。

 

三つの音。

 

一人だけ当てた。

 

元白軍将校が言った。

 

「教師になったな」

 

旋盤工は機嫌を悪くした。

 

だが翌日も来た。

 

訓練室には、番号ではなく段階が付けられた。

 

第一段階。

 

運搬、整理、番号確認。

 

第二段階。

 

洗浄、包装、単純加工。

 

第三段階。

 

機械補助、中間測定。

 

第四段階。

 

単独加工。

 

第五段階。

 

最終仕上げ、検査、教育。

 

昇格は勤続年数ではなく、作業試験。

 

落ちても賃金を下げない。

 

ただし上位工程へは進めない。

 

ポーランド軍将校が規定を読んだ。

 

「失敗しても罰がないのか」

 

ユダヤ人実業家が答えた。

 

「試験で失敗した者を罰すると、次は失敗を隠します」

 

「何度も落ちる者は」

 

「向いた工程へ残します」

 

「昇進できない」

 

「全員を検査工にする必要はありません」

 

元独立運動家が言った。

 

「箱を正しく作る者も必要だ」

 

ポーランド軍将校は少し考えた。

 

「軍では階級が上がる」

 

元白軍将校が答える。

 

「全員を将軍にするのか」

 

「そういう意味ではない!」

 

中古工作機械の一覧が届いたのは、その頃だった。

 

英国。

 

閉鎖された自動車部品工場の円筒研削盤。

 

フランス。

 

縮小された航空部品工場の旋盤。

 

ベルギー。

 

歯車工場の歯切盤。

 

ドイツ。

 

債権整理中の工場から出た測定器と工具研削盤。

 

チェコスロヴァキア。

 

更新で不要になったボール盤。

 

一九二〇年代末から一九三〇年代初頭の機械。

 

新品ではない。

 

だが国内工場の一部より新しい。

 

ユダヤ人実業家は価格表を並べた。

 

「安い」

 

元ドイツ軍技術者が状態表を見る。

 

「安い理由がある」

 

「不況です」

 

「主軸摩耗。制御盤欠品。専用工具なし」

 

「直せますか」

 

「見なければ分からん」

 

「見に行きますか」

 

「全部へ?」

 

「買う候補だけ」

 

ポーランド軍将校が資料の厚さを見る。

 

「何台ある」

 

「候補は六十三台」

 

「買うのは」

 

「状態がよければ二十台ほど」

 

「どこへ置く」

 

ユダヤ人実業家は発動機工場を指した。

 

工場長が首を振る。

 

「床がない」

 

「周辺工場へ置きます」

 

「発動機用機械を外へ?」

 

元ドイツ軍技術者が言った。

 

「荒加工ならよい」

 

「精度が出ない」

 

「最終仕上げを本工場でやる」

 

工場長は嫌そうな顔をした。

 

「半完成品が増える」

 

「熟練工が荒削りから全部やるよりよい」

 

「材料管理は」

 

「共通番号を付ける」

 

「輸送中の傷は」

 

「専用箱を作る」

 

家具工場主が呼ばれた。

 

「また箱か」

 

「今度は部品用です」

 

「椅子より簡単か」

 

元ドイツ軍技術者が答えた。

 

「椅子より面倒だ」

 

家具工場主はため息をついた。

 

「先に言うようになったな」

 

工作機械の買付けには、ユダヤ人実業家の既存商流が使われた。

 

英国の機械商。

 

ベルギーの港湾倉庫。

 

フランスの保険代理店。

 

ドイツの別名義会社。

 

チェコスロヴァキアの共同出資先。

 

ポーランド軍将校は契約一覧を見た。

 

「全部、お前の会社か」

 

「違います」

 

「では何だ」

 

「取引先です」

 

「持分があると書いてある」

 

「一部です」

 

「この会社は親族経営」

 

「そうです」

 

「こちらは融資先」

 

「ええ」

 

「この倉庫は管理契約」

 

「はい」

 

「結局、どこまでがお前のものだ」

 

ユダヤ人実業家は少し考えた。

 

「輸送中の事故が起きた場合ですか」

 

「所有の話だ!」

 

「所有と責任は一致しないことがあります」

 

ポーランド軍将校は頭を抱えた。

 

元白軍将校が契約書を一枚取る。

 

「機械は届くのか」

 

「届かせます」

 

「ならよい」

 

「よくない!」

 

最初に届いた中古旋盤は、木箱だけは立派だった。

 

箱を開ける。

 

本体。

 

付属工具。

 

予備歯車。

 

説明書。

 

ただし電動機がない。

 

ポーランド軍将校が叫ぶ。

 

「また中身が足りない!」

 

資材担当者が答える。

 

「電動機別売と契約書に」

 

「なぜ買った」

 

ユダヤ人実業家が答える。

 

「国内製を付ける予定です」

 

元ドイツ軍技術者は主軸を回す。

 

抵抗。

 

異音。

 

測る。

 

「軸受交換」

 

「使えないのか」

 

「直せば使える」

 

「いくらかかる」

 

ユダヤ人実業家が計算する。

 

「新品の半額以下です」

 

「時間は」

 

「二週間」

 

「新品なら」

 

「納期八か月」

 

ポーランド軍将校は黙った。

 

元独立運動家が台座を見る。

 

「車輪を付ける」

 

元ドイツ軍技術者が振り向く。

 

「付けるな」

 

「移動できる」

 

「旋盤は動かすな」

 

「設置するまで」

 

「運搬台へ載せろ」

 

「だから車輪を」

 

「旋盤本体へ付けるな!」

 

工場の外では、再生作業場の建設が始まった。

 

中古工作機械を受け入れ、分解し、洗浄し、測定し、部品を作り直す。

 

発動機工場の隣ではない。

 

鉄道引込線のある、閉鎖された農機具工場。

 

そこへ元農機具工、電気工、鉄道修理工が雇われた。

 

また新しい工場が動き始めた。

 

資源の共同調達も始まった。

 

特殊鋼。

 

アルミ合金。

 

銅。

 

耐熱材。

 

軸受鋼。

 

天然ゴム。

 

絶縁材。

 

発動機工場だけでは注文量が小さい。

 

WILKの航空機。

 

南部ゴム工場。

 

冷蔵設備。

 

台車。

 

工具。

 

電装。

 

複数企業の必要量をまとめる。

 

ユダヤ人実業家が一枚の購入表へ集約した。

 

ポーランド軍将校が驚く。

 

「こんなに鋼を使うのか」

 

「種類があります」

 

元ドイツ軍技術者が言った。

 

「一緒にするな」

 

「倉庫は同じでよいだろう」

 

「棚を分けろ」

 

「場所が足りない」

 

「建てろ」

 

ユダヤ人実業家が帳簿へ書く。

 

共同材料倉庫。

 

ポーランド軍将校が叫ぶ。

 

「また工場が増える!」

 

「倉庫です」

 

「同じだ!」

 

元独立運動家が言った。

 

「検査室も要る」

 

「なぜ」

 

「届いた材料が注文どおりか確かめる」

 

「証明書がある」

 

元ドイツ軍技術者が鋼材の束を叩く。

 

「証明書は材料にならん」

 

新しい共同倉庫へ、最初の鋼材が届いた。

 

同じような棒材。

 

色も似ている。

 

表面に油。

 

端へ番号。

 

一束だけ番号札が外れていた。

 

倉庫員が言った。

 

「重さと寸法で分かります」

 

元ドイツ軍技術者が怒鳴った。

 

「分からん!」

 

「見た目は同じです」

 

「だから分からん!」

 

「発動機用か、台車用かくらいは」

 

「逆に使ったらどうする」

 

「発動機用を台車へ使うなら丈夫になります」

 

「台車用を発動機へ使った時に死ぬ!」

 

番号不明材は隔離。

 

切断試料。

 

硬さ。

 

火花。

 

組成確認。

 

結果が出るまで使用禁止。

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「一本の札が外れただけで全部止めるのか」

 

元ドイツ軍技術者が答える。

 

「一本だけなら、その一本を止める」

 

元白軍将校が頷いた。

 

「全部を止めないためだ」

 

札は二重化された。

 

紙札。

 

金属打刻。

 

さらに束の端へ塗装。

 

色だけに頼らない。

 

文字だけにも頼らない。

 

位置も決める。

 

倉庫員は規則表を見て言った。

 

「材料を置くだけで、この量か」

 

元独立運動家が答えた。

 

「間違って置かないためだ」

 

一か月後。

 

発動機工場の直接雇用は、当初案の百人には届かなかった。

 

新規採用は四十一人。

 

精密加工。

 

組立補助。

 

検査補助。

 

洗浄。

 

運搬。

 

一方、周辺企業では、

 

家具工場、三十八人。

 

工業洗濯所、二十四人。

 

縫製所、十七人。

 

印刷所、九人。

 

材料倉庫、二十一人。

 

工作機械再生工場、五十三人。

 

運送会社、十三人。

 

小規模金物工場、二十九人。

 

ゴム管工房、十二人。

 

合計は、発動機工場へ百人詰め込む案を大きく上回った。

 

ポーランド軍将校は報告書を見た。

 

「発動機工場の雇用計画ではなかったのか」

 

ユダヤ人実業家が答える。

 

「発動機を増産するための雇用計画です」

 

「半分以上が発動機へ触れていない」

 

元ドイツ軍技術者が言った。

 

「触らせる必要がない」

 

「それで生産量は」

 

工場長が別の表を出した。

 

加工待ち時間。

 

減少。

 

部品運搬による機械停止。

 

減少。

 

熟練工の洗浄時間。

 

大幅減。

 

箱待ち。

 

減少。

 

検査待ち。

 

まだ増加。

 

ポーランド軍将校がそこを指した。

 

「詰まっているではないか」

 

検査責任者が答えた。

 

「作れる部品が増えたためです」

 

「悪化したのか」

 

「前より多く来るようになりました」

 

元ドイツ軍技術者が黒板へ書く。

 

次のボトルネック。

 

検査工。

 

測定器。

 

試運転台。

 

「増産すると、詰まる場所が移る」

 

ポーランド軍将校が顔をしかめた。

 

「永遠に終わらんのか」

 

ユダヤ人実業家が答えた。

 

「生産は終わらない方がよいでしょう」

 

「そういう意味ではない!」

 

訓練室の第一期修了者が出た。

 

運搬から洗浄へ。

 

洗浄から機械補助へ。

 

機械補助から中間測定へ。

 

全員が上がったわけではない。

 

洗浄に残った者。

 

梱包へ移った者。

 

木箱検査が向いていた者。

 

数字を読むのが苦手で、色と形による仕分けを担当する者。

 

若い女工の一人は、中間測定試験で最も良い成績を出した。

 

精密加工責任者が言った。

 

「旋盤経験は」

 

「ありません」

 

「測定器は」

 

「ここで初めて」

 

「なぜ分かる」

 

「布を裁つ時と同じです」

 

「同じではない」

 

「ずれたら合わないのは同じです」

 

元ドイツ軍技術者が測定結果を確認した。

 

再測定。

 

一致。

 

「次の段階へ」

 

精密加工責任者は不満そうだったが、反対はしなかった。

 

別の若者は、加工は遅いが異音をよく聞き分けた。

 

旋盤工が自分の補助に取った。

 

「手は遅い」

 

「すみません」

 

「耳はよい」

 

「ありがとうございます」

 

「礼を言うな。音が変わったら止めろ」

 

少しずつ、専門技術が増えていく。

 

急には増えない。

 

だが減らさない。

 

熟練工の仕事を薄めず、周囲を厚くする。

 

夜。

 

発動機工場の煙突から、以前より太い煙が出ていた。

 

周辺の家具工場にも灯り。

 

洗濯所から蒸気。

 

再生工場では、中古研削盤の試運転。

 

材料倉庫へ貨車。

 

印刷所では翌週分の工程票。

 

町の食堂には客が戻る。

 

貸し部屋が埋まる。

 

パン屋が焼く量を増やす。

 

靴修理屋に仕事が来る。

 

発動機工場の門へ並ぶ列は短くなった。

 

全員が中へ入れたわけではない。

 

だが工場の外で、別の入口が増えていた。

 

ユダヤ人実業家は、各企業の雇用表と生産表を机へ並べた。

 

発動機工場。

 

木工。

 

縫製。

 

洗濯。

 

運送。

 

倉庫。

 

再生工作機械。

 

一つずつの会社は小さい。

 

どれかが止まっても、発動機工場全体はすぐには止まらない。

 

だが全部が動けば、発動機工場の月産は上がる。

 

元白軍将校が表を見る。

 

「工場が増えたな」

 

「会社は以前からありました」

 

「では何を増やした」

 

「仕事です」

 

ポーランド軍将校が遅れて部屋へ入った。

 

「航空部が視察へ来る」

 

ユダヤ人実業家が顔を上げる。

 

「発動機工場へ?」

 

「雇用増加と増産成果を見る」

 

元独立運動家が言った。

 

「家具工場も見せる」

 

「なぜ」

 

「箱がなければ出荷できない」

 

「洗濯所も?」

 

「作業服がなければ働けない」

 

「食堂もか」

 

元白軍将校が答えた。

 

「腹が減れば働けない」

 

ポーランド軍将校は五人を見た。

 

「視察団を町中へ歩かせる気か」

 

ユダヤ人実業家は生産表を閉じた。

 

「発動機工場だけを見ても、増産した理由は分かりません」

 

「では、どこまでが工場だ」

 

彼は窓の外を見た。

 

煙突。

 

倉庫。

 

洗濯所。

 

灯りのついた小さな作業場。

 

線路を走る貨車。

 

仕事を終えて家へ帰る人々。

 

「工場を大きくしたのではありません」

 

ポーランド軍将校が尋ねた。

 

「では何をした」

 

ユダヤ人実業家は答えた。

 

「工場の外を、工場の一部にしました」

 

後年、発動機工場の増産記録には、新設された工作機械と採用された熟練工の数が大きく記載された。

 

家具工場が何箱作ったか。

 

洗濯所が何着洗ったか。

 

食堂が何食出したか。

 

運送会社が何往復したか。

 

それらは小さくしか記録されなかった。

 

だが、発動機は小さな仕事の上に組み上がった。

 

精密な軸。

 

磨かれた歯車。

 

調整された点火装置。

 

そして、

 

乾いた箱。

 

洗われた部品。

 

破れていない作業服。

 

間違っていない番号札。

 

温かい食事。

 

華やかな時代は、精密機械だけで作られたのではなかった。

 

見えない仕事へ人を置き、

 

見える機械を止めないことで作られた。

 

その夜も工場は回っていた。

 

金が回り、

 

仕事が増え、

 

発動機が作られていた。

 

それが何を載せ、

 

どこへ飛んでいくのかを、

 

まだ誰も口にはしなかった。

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