WILK ―忘れずの故郷―   作:ヒツジ(ラム肉

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――ポーランド陸軍航空部・双発機部隊要員養成能力調査
一九三五年

調査対象。

現役双発機搭乗員。
操縦訓練生。
観測員訓練生。
無線員。
整備員。
教官。
転換訓練可能人数。
年間修了可能人数。

調査目的。

一九三九年末までに必要となる双発機部隊の運用人員を算定する。

備考。

必要人数を先に設定した場合、現行教育課程では教官数、訓練機、発動機使用時間、整備能力の不足が発生する。

教育課程を短縮した場合、年間修了者数は増加する。

ただし、

「修了した者」と「十分に訓練された者」は同義ではない。

航空部教育課は、この一文の削除を要求した。

調査担当者は削除しなかった。


第115話 どのくらい必要か

 

「で、何人要る」

 

ポーランド軍将校が聞いた。

 

元ドイツ軍技術者は答えなかった。

 

机の上には、人員表が並んでいる。

 

操縦士。

副操縦士。

観測員。

無線員。

整備員。

教官。

 

現役。

 

訓練中。

 

今年修了予定。

 

来年。

 

その次。

 

「聞いている」

 

「何人飛ばす」

 

「だから、それを聞いている」

 

「機体は」

 

「増える」

 

「何機」

 

「まだ確定していない」

 

「なら人数も確定しない」

 

軍将校が額を押さえた。

 

「大体でいい」

 

「大体で訓練時間を削るのか」

 

「削るとは言っていない」

 

「削らなければ足りない」

 

軍将校が止まった。

 

元ドイツ軍技術者は表を一枚渡した。

 

現行教育制度。

 

年間修了者。

 

増加可能人数。

 

必要教官。

 

必要訓練機。

 

必要飛行時間。

 

軍将校は数字を追う。

 

「増やせるではないか」

 

「少し」

 

「なら増やせ」

 

「教官をどこから取る」

 

「現役から」

 

「部隊が減る」

 

「一時的にだ」

 

「何年」

 

軍将校は黙った。

 

元ドイツ軍技術者が言う。

 

「一人教官へ回せば、今日使える操縦士が一人減る」

 

「だが生徒を育てられる」

 

「そうだ」

 

「ならやれ」

 

「全員教官へ回すか」

 

「そんなことは言っていない」

 

「何人ならよい」

 

また同じ問いへ戻った。

 

ポーランド軍将校は椅子へ深く座る。

 

「だから、それを決めたいんだ」

 

元ドイツ軍技術者は黒板へ書いた。

 

現在。

 

一九三五。

 

次に、

 

一九三六。

一九三七。

一九三八。

一九三九。

 

「四年」

 

「ある」

 

「しかない」

 

軍将校が顔を上げる。

 

「四年もある」

 

「人を作るには短い」

 

---

 

問題は、操縦士だけではなかった。

 

双発機。

 

操縦士。

 

副操縦士。

 

観測員。

 

無線員。

 

さらに整備員。

 

一機を飛ばす人数。

 

一機を飛ばし続ける人数。

 

一人の訓練生を卒業させるための教官。

 

その教官が使う訓練機。

 

その訓練機を直す整備員。

 

その整備員を教える者。

 

元独立運動家が資料を見た。

 

「人間を増やすと、人間を教える人間が要る」

 

「そうだ」

 

「教える人間を増やすには」

 

「さらに教官が要る」

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「鼠算だな」

 

元ドイツ軍技術者が首を振った。

 

「鼠なら勝手に増える」

 

「嫌な訂正をするな」

 

ユダヤ人実業家が帳簿へ書いている。

 

「訓練機は何機必要ですか」

 

「まだ出している」

 

「発動機使用時間は」

 

「それも」

 

「燃料は」

 

「後だ」

 

「整備部品は」

 

「後だ」

 

「宿舎は」

 

元独立運動家が加えた。

 

ポーランド軍将校が手を上げる。

 

「待て」

 

五人が見る。

 

「今は人員の話だ」

 

元独立運動家が言った。

 

「人員は寝る」

 

「知っている」

 

「食べる」

 

「知っている!」

 

「家族もいる」

 

「それは後だ!」

 

ユダヤ人実業家が帳簿を閉じた。

 

「後にすると高くなります」

 

「お前は黙っていろ」

 

---

 

元ドイツ軍技術者は訓練時間を書き出した。

 

基礎飛行。

 

計器。

 

夜間。

 

悪天候。

 

双発転換。

 

片発操作。

 

発動機火災。

 

航法。

 

編隊。

 

通信。

 

武装。

 

爆撃。

 

偵察。

 

緊急着陸。

 

整備員との共同訓練。

 

軍将校が見る。

 

「全部必要か」

 

技術者は顔を上げた。

 

「どれを要らないと言う」

 

「そういう意味ではない」

 

「短縮するなら、何かを削る」

 

「効率化できるだろう」

 

「できる」

 

軍将校が少し明るくなる。

 

「なら」

 

「無駄を削った後の話をしている」

 

軍将校の顔が戻った。

 

「まだあるのか」

 

「ある」

 

元ドイツ軍技術者は一枚の古い紙を取り出した。

 

新しい資料ではなかった。

 

古びている。

 

折り目。

 

端が擦れている。

 

ドイツ語。

 

元白軍将校が紙を見る。

 

「昔のか」

 

「そうだ」

 

軍将校が尋ねる。

 

「何の」

 

元ドイツ軍技術者はしばらく答えなかった。

 

「訓練記録」

 

「いつ」

 

「前の戦争」

 

第一次世界大戦。

 

まだドイツ帝国があった頃。

 

彼が今より若かった頃。

 

工場では発動機を作った。

 

飛行機を作った。

 

部品を作った。

 

注文が増えた。

 

最初は機械が足りなかった。

 

次に材料が足りなくなった。

 

次に工員。

 

次に整備員。

 

そして乗員。

 

「昔も、ここまでは同じだった」

 

誰も口を挟まなかった。

 

元ドイツ軍技術者は黒板を見る。

 

一九三五。

 

一九三六。

 

一九三七。

 

一九三八。

 

一九三九。

 

「何が」

 

ポーランド軍将校が尋ねた。

 

「足りなくなった順番だ」

 

「順番?」

 

「機体の注文が増える」

 

技術者は黒板へ書く。

 

機体。

 

「次に乗る者が足りなくなる」

 

乗員。

 

「教官を増やす」

 

教官。

 

「現役部隊から抜く」

 

現役減少。

 

「前線が足りなくなる」

 

「前線?」

 

軍将校が聞き返した。

 

元ドイツ軍技術者は言い直す。

 

「当時の話だ」

 

一瞬だけ、会議室が静かになる。

 

「教官を前線へ戻す」

 

「すると訓練が」

 

「短くなる」

 

訓練短縮。

 

「訓練機を増やす」

 

「作ればよい」

 

「発動機が足りなくなる」

 

「中古を」

 

「壊れる」

 

「部品を」

 

「足りない」

 

「整備員を」

 

「足りない」

 

軍将校の声が小さくなる。

 

「最後は」

 

元ドイツ軍技術者は古い紙を机へ置いた。

 

「飛べる者を送れ、になる」

 

誰も笑わなかった。

 

「最後に足りなくなるのは機体ではない」

 

技術者は言った。

 

「時間だ」

 

---

 

元白軍将校が椅子の背から体を起こした。

 

「俺も見た」

 

ポーランド軍将校が見る。

 

「何を」

 

「足りないまま送られた者」

 

ロシア帝国。

 

革命。

 

内戦。

 

白軍。

 

崩壊。

 

元白軍将校は、戦場の名前を言わなかった。

 

ただ人間の話をした。

 

「馬には乗れる」

 

「騎兵か」

 

「だった」

 

「射撃は」

 

「できる」

 

「なら」

 

「隊形を知らない」

 

別の男。

 

銃は撃てる。

 

地図が読めない。

 

別の男。

 

地図は読める。

 

夜に部隊を動かしたことがない。

 

別の男。

 

命令は理解できる。

 

撤退の訓練を受けていない。

 

別の男。

 

勇敢。

 

それだけ。

 

「使えなかったのか」

 

ポーランド軍将校が尋ねた。

 

元白軍将校は首を振る。

 

「使えた」

 

「なら」

 

「未熟でも使える」

 

彼は机に指を置いた。

 

「だが、未熟だと知っている者が使え」

 

軍将校が黙る。

 

「何ができるか。何ができないか。それを知っていれば、任務を選べる」

 

「知らなければ」

 

「できるつもりで使う」

 

元白軍将校は短く息を吐いた。

 

「死ぬ」

 

元独立運動家が聞いた。

 

「本人が悪いのか」

 

元白軍将校はすぐに答えた。

 

「あいつらが悪かったのではない」

 

「では誰が」

 

「足りないまま、足りていることにした側だ」

 

元ドイツ軍技術者が頷いた。

 

黒板へ新しい欄を作る。

 

通常課程。

 

短縮課程。

 

限定資格。

 

副操縦士。

 

教官補助。

 

機種転換。

 

ポーランド軍将校が見た。

 

「資格を分けるのか」

 

「分ける」

 

「軍人が増えるぞ」

 

「人数は増えない」

 

「書類が増える」

 

「増える」

 

「またか」

 

「分からないよりよい」

 

元ドイツ軍技術者は書いた。

 

短縮課程修了。

 

その横。

 

省略項目。

 

「これを書く」

 

軍将校が眉を寄せる。

 

「省略した訓練を?」

 

「そうだ」

 

「本人の評価が下がらないか」

 

「下げるためではない」

 

「なら」

 

「使う側へ知らせる」

 

夜間経験不足。

 

悪天候経験不足。

 

片発訓練限定。

 

編隊経験少。

 

実戦射撃未実施。

 

「短縮するなら、削った物を書け」

 

元白軍将校が笑った。

 

「親切だな」

 

「機械でも同じだ」

 

「人間を機械扱いするな」

 

「機械なら欠陥票を付ける」

 

元独立運動家が言った。

 

「人間には?」

 

元ドイツ軍技術者は少し考えた。

 

「欠陥ではない」

 

黒板の言葉を消す。

 

資格。

 

その下へ、

 

経験。

 

と書いた。

 

「足りない経験を書け」

 

---

 

数日後。

 

計算はさらに大きくなった。

 

必要搭乗員数。

 

そこから年間養成人数。

 

必要訓練時間。

 

必要訓練機。

 

必要発動機時間。

 

必要発動機交換回数。

 

必要プロペラ。

 

必要タイヤ。

 

必要主脚部品。

 

必要点火装置。

 

必要油。

 

必要燃料。

 

必要工具。

 

必要測定器。

 

必要整備員。

 

必要教官。

 

必要教材。

 

必要模擬発動機。

 

必要教室。

 

必要宿舎。

 

必要食堂。

 

ポーランド軍将校は黒板を見た。

 

「飛行機の話だったな」

 

「そうだ」

 

「なぜ食堂まで来た」

 

元独立運動家が答える。

 

「人が増えた」

 

「知っている」

 

「食べる」

 

「もう聞いた!」

 

ユダヤ人実業家は数字を拾っていく。

 

「宿舎は新築ですか」

 

元独立運動家。

 

「全部ではない。空き家を借りる」

 

「学校は」

 

「既存校を増築。必要なら夜間教室」

 

「食堂」

 

「工場食堂と共同利用できる場所もある」

 

「輸送」

 

「鉄道とバス」

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「お前たち、もう航空部の話をしていないだろう」

 

ユダヤ人実業家が答える。

 

「航空部の人間が生活する話です」

 

「だから航空部予算で全部出すな!」

 

「ではどこが」

 

軍将校が止まった。

 

地方行政。

 

陸軍。

 

航空部。

 

企業。

 

学校。

 

鉄道。

 

住宅。

 

どこか一つでは足りない。

 

「分ける」

 

軍将校が言った。

 

ユダヤ人実業家が微笑んだ。

 

「ようやくWILKらしくなりました」

 

「嬉しくない」

 

---

 

問題は、人数の数え方にもあった。

 

軍の表。

 

操縦士。

 

何人。

 

観測員。

 

何人。

 

整備員。

 

何人。

 

元ドイツ軍技術者は横へ欄を増やした。

 

訓練中。

 

実働可能。

 

昼間のみ。

 

夜間可能。

 

機種限定。

 

教官可能。

 

教官補助。

 

転換中。

 

療養。

 

予備役。

 

「細かすぎる」

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「人数を一つにするな」

 

「百人は百人だ」

 

「百人全員が同じことをできるか」

 

「できない」

 

「なら百人とだけ書くな」

 

軍将校は表を見る。

 

確かに。

 

操縦士百人。

 

その一行では分からない。

 

Bizonを飛ばせる者。

 

Turだけ。

 

単発のみ。

 

夜間経験。

 

計器経験。

 

教官資格。

 

怪我から復帰したばかり。

 

「軍の人事表が巨大になる」

 

「戦争より小さい」

 

「比較がおかしい」

 

「時間を失うより安い」

 

最近、この男は何でも時間で測る。

 

ポーランド軍将校はそう思った。

 

機械。

 

工員。

 

教官。

 

訓練。

 

工場。

 

全部。

 

時間。

 

---

 

最終試算。

 

一九三五年。

 

現行制度。

 

一九三六年。

 

教官増員。

 

訓練機追加。

 

一九三七年。

 

教育能力拡張。

 

地方訓練拠点。

 

一九三八年。

 

機種転換枠増加。

 

整備教育分散。

 

一九三九年。

 

必要人数。

 

現行制度をそのまま続けた場合。

 

届かない。

 

ポーランド軍将校が表を見る。

 

「不足するな」

 

「する」

 

「短縮すれば」

 

元ドイツ軍技術者は別の線を引いた。

 

修了者数。

 

増える。

 

軍将校が言った。

 

「届く」

 

「紙の上では」

 

「では使える」

 

「何を削った」

 

軍将校は表を見る。

 

夜間。

 

悪天候。

 

片発。

 

編隊。

 

射撃。

 

機種転換。

 

少しずつ。

 

全部を少しずつ。

 

「これくらいなら」

 

「一項目ずつ見ればな」

 

「合計すると」

 

「別の人間になる」

 

元白軍将校が短縮課程表を見る。

 

「使える」

 

軍将校が驚いて見る。

 

「お前は賛成か」

 

「使えると言った」

 

「なら」

 

「何に使えるかを決めろ」

 

元白軍将校は通常課程と短縮課程を指した。

 

「同じ札を付けるな」

 

元ドイツ軍技術者が頷く。

 

通常課程。

 

短縮課程。

 

限定。

 

副操縦士。

 

教官補助。

 

転換。

 

「戦争が来なければ」

 

ポーランド軍将校が言った。

 

元独立運動家が答えた。

 

「訓練された人間が残る」

 

「金は使う」

 

ユダヤ人実業家。

 

「設備も残ります」

 

「戦争が来たら」

 

元白軍将校。

 

「足りない」

 

軍将校が彼を見る。

 

「これだけやっても?」

 

「足りない時に備える話をしている」

 

会議室が静かになる。

 

元ドイツ軍技術者は黒板の四年間を見る。

 

一九三五。

 

一九三六。

 

一九三七。

 

一九三八。

 

一九三九。

 

ポーランド軍将校が言った。

 

「四年ある」

 

「なら」

 

元ドイツ軍技術者はチョークを置いた。

 

「今日始めればよい」

 

---

 

会議が終わった。

 

ポーランド軍将校は航空部へ戻る。

 

元白軍将校は訓練課程の分類を持っていく。

 

元独立運動家は宿舎と学校の調査。

 

元ドイツ軍技術者は訓練機と発動機使用時間の計算へ戻った。

 

部屋に一人。

 

ユダヤ人実業家だけが残った。

 

机の上には、今日増えた紙。

 

訓練機。

発動機。

プロペラ。

タイヤ。

主脚。

点火線。

油。

燃料。

工具。

測定器。

模擬発動機。

教材。

宿舎。

食堂。

学校。

輸送。

 

彼は一枚ずつ取り、余白へ書き始めた。

 

国内調達。

 

国外調達。

 

中古可。

 

代替可。

 

長期契約。

 

備蓄不可。

 

現地生産。

 

複数供給元。

 

そして、

 

使用権。

 

全部を買う必要はない。

 

全部を今持つ必要もない。

 

だが、必要になった時に使えるようにしておく必要がある。

 

最後の紙を取る。

 

表題。

 

一九三五年度以降・航空拡張関連調達計画。

 

ユダヤ人実業家は少し考え、

 

その下へ一行だけ書いた。

 

四年間。

 

そして計算を始めた。

 

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